医療ニュース

2016年2月27日 土曜日

2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険

「座りっぱなし」が糖尿病や生活習慣病のリスクになるということをこのサイトでは2013年頃から繰り返し伝えています。世界中で様々な研究がおこなわれ論文が発表され、いまや「座りっぱなし」は生活習慣病の最もホットなトピックスのひとつといってもいいと思います。

「座りっぱなし」のリスクが注目に値するのは、「運動してもリスクは軽減しない」と考えられているからです。これに反対する研究、つまり運動や歩行を適度におこなうことでリスクは軽減すると結論づけた論文(下記注参照)もありますが、最近、新たに発表された論文では、やはり運動とは関係なく「座りっぱなし」そのものがリスクとされています。

 1日あたりの座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の発症リスクが22%、メタボリックシンドロームのリスクが39%上昇する・・・

 これは医学誌『Diabetologia』2016年2月2日(オンライン版)に掲載された論文(注1)の研究結果です。

 研究の対象者はオランダ在住の成人男女約2,497人(平均60歳)です。対象者に加速度計(accelerometer)を24時間、8日間装着してもらい、座って過ごした時間の長さ、立ち上がった回数などを計測し、血糖値が測定されています。

 対象者の55.9%が血糖値正常で、15.5%は耐糖能異常(糖尿病予備群)を示し、残りの28.6%が2型糖尿病でした。採血データと加速度計の計測結果を分析した結果、立ち上がった回数や座っていなかった時間の長さと糖尿病との間に関連性は認められませんでしたが、座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクがそれぞれ22%、39%上昇していたことが判ったそうです。

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 研究者は、さらなる研究が必要とコメントしていますが、やはりこの結果は注目に値します。運動してもリスクが減らない「座りっぱなし」。今後新たな知見が発表されることになるかもしれませんが、現在のところ、運動で帳消しできないほどハイリスクと認識しておくべきでしょう。

 ところで、私が「座りっぱなし」と訳しているのは「sedentary」という単語です。この言葉、私は数年前まで使ったことがなく、また今も日本人からはほとんど聞いたことがないのですが、最近外国人から日常会話のなかでよく聞きます。どうやら医学的な用語ではなく一般的な単語になっているようです。

注1:この論文のタイトルは「Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s00125-015-3861-8

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2016年2月8日 月曜日

2016年2月8日 ジカウイルスでギラン・バレー症候群

 2015年12月25日の「医療ニュース」で、ブラジルでジカ熱がアウトブレイクしていること、ジカウイルスに妊娠中の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんが「小頭症」といって成長障害や知的障害を伴う状態になる可能性があることをお伝えしました。

 今回はその続編です。2016年2月1日、WHO(世界保健機関)は、ジカウイルス感染症に対し、いわゆる「緊急事態宣言」を発表しました。日本政府も、この発表を受けてなのか、2月5日、ジカ熱を感染症法の「4類感染症」に指定することを決めました。医師がジカウイルスに感染している患者を診察すれば、保健所に届け出ることが義務付けられます。

 ジカ熱自体は、発症してもたいした症状がでずに、日頃健康な人であれば何もしなくても自然に治ることがほとんどです。問題はジカウイルスに感染したときに生じるかもしれない「小頭症」、そして現在もうひとつ指摘されているのが「ギラン・バレー症候群」です。

 ギランバレー症候群は、「はやりの病気第73回(2009年9月)」で紹介しましたから、ここでは詳しく取り上げませんが、女優の大原麗子さんが長年患っていた全身の神経が障害される死亡することもある疾患です。

 現時点では、小頭症もギランバレー症候群も100%ジカウイルスが原因と断定されたわけではありません。しかし、その可能性は極めて強く、リオデジャネイロ五輪観戦を楽しみにしている人は注意が必要です。

 ワクチンも予防薬も治療薬もありません。蚊対策(注1)が唯一の対策です。

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 ジカ熱及びジカウイルス感染症については、毎日新聞ウェブサイト版「医療プレミア」の私が書いているコラムでも取り上げます。2月10日11日に公開予定です。

注1:下記を参照ください。

トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
→3) その他蚊対策など

参考:
医療ニュース2015年12月25日「ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク」
はやりの病気第73回(2009年9月)「ギラン・バレー症候群」

 

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2016年2月5日 金曜日

2016年2月5日 受動喫煙も不妊や早期閉経の原因

 自らの喫煙が不妊や早期閉経の原因になることは以前から指摘されていましたが、他人のタバコ、いわゆる「受動喫煙」がこれらのリスクになるのかどうかの大規模研究は(私の知る限り)ありませんでした。しかし、ついに疫学的な研究が発表されました。

・タバコを吸わない女性に比べると、現在の喫煙者または元喫煙者は不妊のリスクが14%上昇し、早期閉経のリスクは26%も上がる。

・タバコを吸わない女性のうち受動喫煙がある人(同居人が喫煙者など)は、不妊のリスク、早期閉経のリスクが共に18%上昇する。

 これらは医学誌『Tobacco Control』2015年12月14日(オンライン版)に掲載された論文(注1)で紹介されています。

 この研究の対象は50~79歳の閉経後の女性93,676人。1993年から1998年にWHI(the Women’s Health Initiative Observational Study)という研究に参加したアメリカ人女性です。

 早期閉経はリスクのパーセント表示だけでなく、期間でも示されています。喫煙経験者は、喫煙も受動喫煙もない人に比べると、閉経が22ヶ月早くなり、受動喫煙があった人はない人にくらべて13ヶ月閉経が早かったそうです。

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 この研究は「後ろ向き研究」と呼ばれるもので、すでに閉経した人から聞き取り調査をしたものです。研究の信憑性がより高いのは、まだ閉経が来ていない人を対象とし、喫煙者、受動喫煙者、非喫煙で受動喫煙もない者の3つのグループにわけて追跡する調査で、これを「前向き研究」と呼びます。

 ただし、そんなに厳密な研究をしなくても、この研究が示していることは明らかです。喫煙する人はタバコの影響をよく考えるべきでしょう。

注:この論文のタイトルは「Associations between lifetime tobacco exposure with infertility and age at natural menopause: the Women’s Health Initiative Observational Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://tobaccocontrol.bmj.com/content/early/2015/11/19/tobaccocontrol-2015-052510.abstract?sid=5e425fd7-02c6-4406-aa82-171c7fe3af84

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