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2025年1月30日 木曜日

2025年1月30日 コーヒーは頭頚部がんのリスクを減らし紅茶は喉頭がんのリスクを上げる

 首から頭部にかけての複数の臓器のがんをまとめて「頭頚部がん」と呼ぶことがあります。具体的には、口腔がん、咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)、喉頭がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、唾液腺がんなどです。GLOBOCANというデータベースによると、このなかで最も多いのが口腔がん、次いで喉頭がん、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、唾液腺がんと続きます。世界全体では毎年約89万人に頭頚部がんが見つかり、毎年約45万人が死亡しています。頭頚部がんによる死亡者はがん全体の死亡者の約4.5%を占めています。

 頭頚部がんについてまとめられた2023年の論文によると、頭頚部がんは「世界で7番目に多いがん」とされています。発症因子はかなりはっきりとしていて、タバコ、アルコール、ビンロウ(台湾の路上で見かける血を吐いたような唾液が出る実です)、HPV感染です。先進国ではすでにHPV関連の頭頚部がんがタバコやアルコールによるがんを上回っています。

 今回紹介したいのは「リスク」でなく「リスクを下げる因子」で、それがコーヒーと1日1杯未満の紅茶です。医学誌「Cancer」2024年12月23日号に掲載された論文「コーヒーと紅茶の摂取と頭頸部がんのリスク:国際頭頸部がん疫学コンソーシアムにおける最新の統合分析(Coffee and tea consumption and the risk of head and neck cancer: An updated pooled analysis in the International Head and Neck Cancer Epidemiology Consortium)」から引用します。この研究は、これまでに公表されている14件の研究から9,548 件の頭頸部がんの症例と15,783件の対照例を元に分析したものです。結果は次のようになります。

・カフェイン入りコーヒーを1日4杯以上飲む人は、まったく飲まない人と比較して、頭頚部がんのリスクが17%低い。口腔がんのリスクは30%、中咽頭がんのリスクは22%低い

・カフェイン入りコーヒーを1日3~4杯飲む人は、下咽頭がんのリスクが41%低い

・カフェイン抜きのコーヒーを飲むか1日1杯未満のカフェイン入りコーヒーを飲む人は、口腔がんのリスクが25%低い

・紅茶を飲む人は、下咽頭がんのリスクが29%低い

・紅茶を1日0~1杯飲む人は、頭頚部がんのリスクが9%、下咽頭がんのリスクは27%低い

・紅茶を1日1杯以上飲む人は喉頭がんのリスクが38%高い

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 カフェイン抜きのコーヒーでもリスク低下がみられたのはおそらくコーヒーに含まれるポリフェノールの影響でしょう。

 コーヒー好きの人はいいとして紅茶派の人たちはこの結果に戸惑うのではないでしょうか。「1杯以下ならOKで、1杯以上は喉頭がんのリスクを上げる」というのですから。なぜ、咽頭がんのリスクは下がるのに喉頭がんは上がるのでしょう。咽頭は熱に強くて喉頭は弱いということなのでしょうか。だとすると、紅茶はコーヒーに比べて熱い温度で飲んでしまうのでしょうか。

 いずれにしても頭頚部がん予防のためにコーヒーや紅茶を飲むのは筋違いだと思います。リスクを下げたいなら、禁煙、禁酒/節酒、台湾(だけではないですが、私は台湾でしか見たことがありません)渡航時にはビンローを買わない、そしてHPVワクチン接種を検討する、ということになるでしょう。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2025年1月9日 木曜日

2025年1月9日 じんましんを放っておけば死亡リスクが2倍に

 2021年5月から開始したメルマガ「谷口恭の『その質問にホンネで答えます』」は、はや3年半を超え、この間様々な質問をいただいています。もともと谷口医院は2007年の開院以来メールでの質問を常に受け付けているので、以前から全国から(ときには海外からも)多くの相談が寄せられていたのですが、最近はさらに質問の幅が広がっています。メルマガで読者の質問に回答すると、さらに相談が増えることがあります。最近、メルマガ公開後に質問が増えているのが「じんましん(以下、蕁麻疹)」についてです。そのメルマガで紹介した研究についてここで取り上げたいと思います。

 この研究の対象者は米国の慢性蕁麻疹の患者264,680人(及び同数の対象者)です。蕁麻疹があれば、調査開始から3ヵ月後、1年後、5年後の全死因死亡率が、なんと2.09倍、1.77倍、1.69倍にもなるというのです。特に目立つのが若年者(18~40歳)で、死亡リスクは2.14倍にもなります。

 死因としては自殺が多く、自殺念慮/自殺企図は蕁麻疹がない人に比べて3.14倍にもなります。がん(悪性腫瘍)に罹患するリスクも2.09倍とされています。脳血管疾患は2.27倍、糖尿病は2.05倍です。

 興味深いことに、この研究は「治療でリスクが下がる」ことを示しています。まとめると下記のようになります。

 (内服)ステロイドで治療 → リスクは低下せず
 抗ヒスタミン薬で治療 → リスクは低下する
 抗ヒスタミン薬+オマリズマブ(ゾレア)で治療 → リスクはさらに低下

 対象者の薬の使用もとても興味深いものとなっています。

 (内服)ステロイド使用:117,372人
 抗ヒスタミン薬使用:113,334人
 (抗ヒスタミン薬+)オマリズマブ使用:1,414人
 シクロスポリン使用:356人

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 この研究、蕁麻疹が(特に若年者の)死亡リスクになるということにかなり驚かされるのですが、それと同じくらいに衝撃的なのは米国ではこんなにもステロイドが使われているのか、ということです。

 内服(または点滴の)ステロイドは確かに蕁麻疹には”劇的に”効きます。ですから(例えば薬の副作用などで起こる)急性の蕁麻疹には使うことがあります。しかし、慢性蕁麻疹には原則としてステロイドは使うべきでありません。そんなことをすれば取り返しのつかない副作用が生じることは必至だからです。にもかかわらず抗ヒスタミン薬よりも多く使われていることに驚かされます。”雑な治療”と言われても仕方がないでしょう。

 オマリズマブ(ゾレア)は副作用もほとんどなく極めて優れた薬だと言えます。費用が高くつくのが欠点ではありますが、蕁麻疹の死亡リスクがこれだけ高いのならば比較的早い段階から積極的に使用してもいいかもしれません。

 尚、冒頭で触れたメルマガでの相談は「ザイザルを1日2回飲んでも治らない」というものでした。重症例であっても、たいていは、ステロイドでない安全な飲み薬を4~5種類組み合わせれば症状は消えます。その後少しずつ減らしていけば完全に治すことができます。4~5種の内服薬を使っても完全に消えないときにはゾレアを検討することになります。

参考:湿疹・かぶれ・じんましん

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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