医療ニュース

2013年11月30日 土曜日

2013年11月30日 バイリンガルは認知症になりにくい可能性

 多くの人が「最もかかりたくない病気」にあげるのがアルツハイマー病などの認知症ですが、現在のところ特効薬は存在しません。たしかに数種類の薬が発売されていますが、使い出すタイミングが遅ければ効果はあまり期待できません。

 であるならば、なんとかして予防を心がけたいところですが、例えば、COPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコを吸わなければ発症しない、というようなレベルでの決定的な予防法があるわけではありません。

 喫煙が認知症のリスクになることはよく言われますが、ではタバコをやめれば認知症を完全に防げるのかと問われればそのようなわけではありません。タバコ以外には、運動や食事(特に地中海ダイエットが有効という報告が多いようです)が予防になる、ということが指摘されますが、どれも”極めて有効”とまでは言えないと思います。

 バイリンガルは1ヶ国語しか話せない人に比べると、アルツハイマー病を含めた3種類の認知症を発症するのが4年以上も遅い・・

 これは、インドのハイダラーバード(ハイダラーバード県はインド中南部のアーンドラ・プラデーシュ州にあります)の研究所のSuvarna Alladi氏らによる研究結果で、医学誌『Neurology』2013年11月6日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 今回の研究では、認知症の診断がついたインド人648人が研究の対象とされています。対象者のうち391人が2ヶ国語以上を話すバイリンガルです。アルツハイマー病患者は240人で、その他の認知症として、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、混合型認知症などの診断がついています。被験者の14%は識字能力がないようです。分析の結果、2ヶ国語を話す人は、1ヶ国語しか話さない人に比べ、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症の発症が有意に遅いことが判ったそうです。

 興味深いことにこの傾向は識字能力のない人にも認められています。また、3ヶ国語以上を話せても、2ヶ国語の人と有意な差はなかったようです。

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 バイリンガルは日頃から脳をよく使う仕事をしているから認知症になりにくいのでは?、という疑問がでてきますが、この研究では、対象者の教育、職業などの因子は取り除いて考察されています。

 バイリンガルが認知症を遅らせるとする研究は過去にもあるのですが、幼少児から2ヶ国語を自然に学ぶことがいいのか、中学生くらいになってから、あるいは中年になってから語学を勉強しても認知症を遅らせる効果があるのか、そのあたりに触れている研究は私の知る限りありません。

 語学の勉強はたいへんですが楽しいものでもありますから、たとえ認知症の予防にならなかったとしても引退後(あるいはいつからでも!)語学を勉強しましょう、というのが私の個人的な考えです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Bilingualism delays age at onset of dementia, independent of education and immigration status」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/81/22/1938.short?sid=beb1e2d5-62d4-48e4-a782-be8301fb4d5a

参考:
はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2013年11月29日 金曜日

2013年11月29日 輸血でHIV感染

 すでに各マスコミで大きく報道されていますが、HIV感の可能性があった40代男性が献血をし、その血液を輸血された60代男性がHIVに感染した、という事件がありました。現時点で判った情報をまとめておきたいと思います。

・40代男性は危険な性行為が約2週間前にあったのにもかかわらず2013年2月に献血をおこなった。

・献血されたすべての血液はHIVの検査をおこなうが、感染して間もない時期のウイルス量が少ない場合は検査をすり抜けてしまうことがあり今回はすり抜けてしまった。

・その40代の男性は11月上旬に再び献血をおこない、このときにHIV感染が発覚した。

・この男性の2月の献血で輸血を受けた患者は2名いることが判明し、うち1人の60代男性はHIVに感染していたことが発覚した。(注:あとの1人(80代女性)については感染していなかったことが2013年11月30日に報道されました)

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 2003年にも同様の事件(事故)があったのですが、世論の注目度は今回の方が高いように見受けられます。ここ2~3年はHIVに対する世間の関心が低下しており、2003年の頃の方がずっとHIVの注目度が高かったように私は思うのですが、今回の方が議論が加熱しているのはおそらくインターネットが当時より普及しているからでしょう。

 これから起こりうる問題は2つある、と私はみています。1つは「輸血に対する警戒心」です。ある程度大きな手術になれば、術前に輸血の同意書を書くことになりますが、ここで同意に躊躇する人が出てくるのではないかと思われます。となると、医療側としては手術がおこなえず、結果として手術のタイミングを逃してしまうようなことが起こらないかを危惧します。

 もうひとつは、危険な性交渉がありながら献血をした者へのバッシングです。この男性がHIVの検査目的で献血をしたのなら許されることではありませんが、本人としては「それほどリスクのある行為ではない」と感じていて、純粋な善意から献血をしたのであればこの男性だけに責任を押しつけるのは問題です。太融寺町谷口医院のHIVの患者さんのなかにも、「そんなことくらいでまさかHIVに感染するとは思わなかった」という人は少なくありません。この男性に対するバッシングが度を超えないか、私はそれを懸念しています。

(谷口恭)

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2013年11月11日 月曜日

2013年11月11日 自殺のリスクが低くなる食事とは

  自殺のリスクが低くなる食事のパターンについて、日本人を対象とした研究が報告されたので紹介しておきます。

 国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine)のAkiko Nanri氏らのグループによるJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)というものがあり、この研究により得られたデータを分析することによって食事と自殺のリスクとの関係が調べられています。研究結果は医学誌『British Journal of Psychiatry』2013年10月10日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象者は日本人男性40,752人、日本人女性48,285人です。食物摂取頻度調査票を用いて合計134種類の食品と飲料の消費量が調べられています(この調査は1995年から1998年に実施されています)。自殺をしたかどうかは2005年12月までが調べられています。

 これらを分析したところ、男女とも、野菜、果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻、魚介類の摂取量が高ければ、自殺のリスクが低いという結果が出たそうです。

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 食事とうつ病や自殺を調べた調査は過去にもあり、例えばω3系の不飽和脂肪酸を積極的に摂取するのがいいとされるものが有名です。

 今回の研究では、結局のところ、日本人が古来から食べている馴染みのあるものをバランスよく食べるのがいい、という結果であり、論文のなかでも、”prudent”な食事パターンがすすめられる、と述べられています。”prudent”とは「常識的な」とか「良識のある」という意味で、伝統的な食事に勝るものはないということを意味しています。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Dietary patterns and suicide in Japanese adults: health centre-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://bjp.rcpsych.org/content/early/2013/09/27/bjp.bp.112.114793.abstract?sid=4041be03-3108-4950-a0f5-e569225da988

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2013年11月2日 土曜日

2013年11月2日 糖尿病予防になるフルーツは?ジュースは逆効果?

  果物は身体によくて糖尿病の予防にもなる・・・。いや、果物には果糖が多く含まれておりGI値(グリセミック指数)が高いから糖尿病にはよくないはずだ・・・。

 このように、果物と糖尿病の関係は以前から良いとするもの悪いとするものの双方があり、医学会のなかでも統一した見解がありません。

 糖尿病の予防にいいのは、1位はブルーベリー、2位ブドウ、3位リンゴ、ジュースは逆に糖尿病を悪化させる・・・。

 これは米国ハーバード大学公衆衛生学教室による疫学調査の結果で医学誌『British Medical Journal』2013年8月30日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。この論文は日本の新聞や雑誌にも紹介されましたのですでに有名になっているかもしれませんが、ここでも確認しておきたいと思います。

 この研究は、米国の医療者を対象とした3つの大規模調査を再解析し、フルーツの摂取量・種類と糖尿病(2型糖尿病)のリスクについての関連性を調べています。対象者は合計で187,382人になり、このうち12,198人が糖尿病を発症しています。

 まず総論で言えば、フルーツの総摂取量が多いほど糖尿病のリスクは低下しています。各フルーツでの分析結果をみてみると、ブルーベリー、ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ類、グレープフルーツで有意なリスク低下が認められています。

 興味深いのはここからです。リンゴ、オレンジ、グレープフルーツなどのフルーツジュースについて分析してみると、摂取量が増えるごとに糖尿病のリスクが上昇するというのです。

 さらに興味深い分析が続きます。フルーツジュースを同じ量のフルーツに置き換えたとすると、全体でみれば糖尿病のリスクは7%低下するとの結果がでています。それぞれのフルーツでみてみると、ブルーベリーによるリスク低下は33%でこれが最大です。ブドウ・レーズン類、リンゴ・洋ナシ、グレープフルーツでは12~14%低下していたそうです。一方、イチゴとカンタループ(メロン)では明らかなリスク低下は認められなかったそうです。

 この論文には最近の流行の「糖質制限」の観点からの考察もあります。糖質制限の考え方からすればGI値(グリセミック指数)が高ければ糖尿病のリスクが高く、GI値が低ければリスクが低下するはずです。しかし、今回の研究での結果は、高GI値のフルーツでリスク上昇がなく、低GI値でリスク低下がなく、中等度のGI値で有意なリスク低下が認められたそうです。

 これらをまとめると、次のようになると思います。

・全フルーツ(原文ではwhole fruits、要するにいろんなフルーツをまんべんなく食べることと考えていいと思います)をジュースにせずにそのままのかたちで摂取するのが糖尿病のリスク低下につながる。

・フルーツジュースが健康全般に悪いとは言えないが、摂り過ぎは糖尿病のリスクになる可能性がある。

・糖尿病のリスク低下となるフルーツを個別に検討すると、1位ブルーベリー、2位ブドウ・レーズン、3位リンゴとなる。

・GI値が高いほどリスクが高いとは言えない。

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 フルーツをまんべんなく摂取するのが糖尿病を含めて生活習慣病のリスク低下につながるということはイメージしやすいと思います。しかし、新鮮なフルーツをそのままのかたちで幅広く摂る、などというのは、高級ホテルに毎日泊まる、とか、毎日買い物にそれなりの時間を割く、とかいったことができなければ現実的にはむつかしいでしょう。

 ですから簡単に果物を摂れる(と考えられている)ジュースに頼りたくなる(というか、ジュースはそもそも美味しいものです)のは誰もが同じでしょう。この論文を受けて、ジュースは一切やめにして毎日違った果物をそのままのかたちで・・・、とまでは思わなくてもいいと思います。

 食事は美味しく楽しく摂らなければ意味がありませんから(少なくとも私はそう考えています)、①フルーツジュースは摂りすぎない、②可能な範囲で果物をそのままのかたちでまんべんなく摂る、③血糖値が高い人は定期的な検査をおこなう、という3つに気をつけていればいいのではないかと思います。

 私がこの論文を読んで疑問に思ったのは、あの酸っぱいブルーベリーをアメリカ人はどうやって食べているのだろう?ということです。ブルーベリーはジャムにすれば美味しいですが、そうすると大量の砂糖を同時に摂取することになりますから糖尿病のリスクは上がるはずです。また、日本人がよく食べるミカンやスイカはどうなるのでしょう。米国のオレンジと日本のミカンは別のものと考えた方がいいのではないかと思うのですが・・・。

谷口恭

注1:この論文のタイトルは、「Fruit consumption and risk of type 2 diabetes: results from three prospective longitudinal cohort studies」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f5001

参考:医療ニュース2009年3月17日「肝癌予防には野菜はよくて果物はNG」

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