医療ニュース
2025年8月31日 日曜日
2025年8月31日 インフルエンザワクチンで認知症を予防する
本サイトでは2025年4月の医療ニュース「認知症予防目的に帯状疱疹ワクチン」で取り上げた「帯状疱疹ワクチンが認知症のリスクを下げる」という話は過去数か月でいろんなところで取り上げられている気がします。
なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかについて、HSV(単純ヘルペスウイルス1型)が関与しているのではないかという話は、「はやりの病気」第262回(2025年6月)「 アルツハイマー病への理解は完全に間違っていたのかもしれない(後編)」ですでに述べました。
今回、改めて検討したいのは「インフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げる」とした研究です。3つの論文を紹介しましょう。
1つはすでに、「はやりの病気」第258回(2025年2月)「認知症のリスクを下げる薬」で紹介済です。2022年6月に医学誌「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載された論文「インフルエンザワクチン接種後のアルツハイマー病発症リスク:傾向スコアマッチングを用いたクレームベースコホート研究(Risk of Alzheimer’s Disease Following Influenza Vaccination: A Claims-Based Cohort Study Using Propensity Score Matching)」です。この研究ではインフルエンザのワクチン接種で認知症発症リスクが、なんと40%も低減するとされています。研究の対象者は米国の65歳以上。インフルエンザワクチンを接種した935,887人と、未接種の同じ人数が比較されました。平均年齢73.7歳、追跡期間は46ヶ月です。この間にワクチン接種者では5.1%(47,889人)が、未接種者では8.5%(79,630人)が認知症を発症しました。この研究では「匿名化された保険請求データ」が用いられました。
メタアナリシス(これまで発表された質の高い研究をまとめなおして総合的に解析する方法)もあります。医学誌「Ageing Research Reviews」に2022年1月に掲載された「インフルエンザワクチン接種は認知症リスクを低下させる:システマティックレビューとメタアナリシス(Influenza vaccination reduces dementia risk: A systematic review and meta-analysis)」です。評価された論文は273件で、ベースライン時点で認知症のない高齢者292,157人(平均年齢75.5歳、女性46.8%)が対象とされました。平均9年間の追跡調査で、インフルエンザワクチン接種は認知症の相対リスクを29%低下させました。
そして、インフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げるとした3つ目の論文は医学誌「Age and Aging」2025年7月号に掲載された「インフルエンザワクチン接種と認知症リスク:系統的レビューとメタアナリシス(Influenza vaccination and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis)」で、こちらもメタアナリシスです。8件の質の高い研究がピックアップされ、対象者の合計は9,938,696人です。結果、対象者を「全人口」とすると、インフルエンザワクチンと認知症との間に関連性は認められなかったものの、認知症に「高リスク患者」に限定すると、インフルエンザワクチンが認知症リスクを低減することが分かりました。
興味深いことに、2~3回接種ではリスクが16%低下するのに対し、4回以上の接種では57%も下がるという結果がでています。
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では、なぜインフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げるのか。これについてはどの論文も触れていません。
ならば自分で推測するしかありません。
おそらく、インフルエンザがもたらす、高熱、頭痛、倦怠感などで各臓器に炎症が生じ、結果、炎症性サイトカインが分泌されます。これらサイトカインが脳に作用をもたらし、結果として認知機能を損なうのでしょう。そして、(これは私の仮説に過ぎませんが)脳が炎症を起こしたときにHSVが関与して、その結果、アミロイドβやタウ蛋白が異常蓄積するのではないかと私は考えています。
上述のコラム「アルツハイマー病への理解は完全に間違っていたのかもしれない(後編)」でも述べたように、脳の外傷で認知症が起こるときにもHSVが絡んでいることが指摘されています。
ということは、認知症予防の目的で「脳のHSVを大人しくさせておく」、そのためには「あらゆる炎症を防ぐ」、さらに「感染症はできる限り防ぐ」が重要となります。
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|2025年8月28日 木曜日
2025年8月28日 悪玉コレステロール(LDL)を上昇させる真犯人
卵を食べるとコレステロールが上がるから控えるように言われています……。
谷口医院をオープンしてから、何人の患者さんにこのセリフを言われたか、たぶん千回は超えているでしょう。その度に私は「そんな必要ありません」と答えてきました。なぜか。私のそれまでの臨床経験から判断して「たしかに卵をたくさん食べてLDLコレステロールが上昇する人がいるが、上がらない人もいる。むしろ他の”犯人”が重要」だからです。
この私の考えに自信ができたのは2015年の米国のガイドラインでした。食事性コレステロールが「懸念される栄養素」から削除されたのです。このガイドラインにははっきりと「卵を食べてもいい」とは書かれていませんが、「食事性コレステロール」の代表が卵です。つまり、このガイドラインは「卵には健康上有害性がない」と断言したのです。
しかしながら、一方では、卵が血中コレステロールを上昇させ心血管系疾患のリスクになることを示唆する研究もあります。いったい、どちらが正しいのか。その答えは「個人差が大きく試してみるまで分からない」となります。ただし、私の個人的な臨床経験で言えば「卵を制限する必要はほとんどない」です。
医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」の2025年7月号に掲載された論文「卵と飽和脂肪酸由来の食事性コレステロールがLDLコレステロール値に与える影響:ランダム化クロスオーバー研究(Impact of dietary cholesterol from eggs and saturated fat on LDL cholesterol levels: a randomized cross-over study)」によると、飽和脂肪酸の摂取量を減らせば、むしろ卵を2個食べた方が卵を食べないときよりもLDLコレステロールが低下することが分かりました。
では、いったい何がLDLコレステロールを上昇させるのか。その「答え」はこの論文に書かれているように「飽和脂肪酸」です。当院の経験でいえば、飽和脂肪酸を多く含む食品のなかでも最もLDLコレステロールが上昇しやすいのは次の3つです。
・ポテトチップスを代表とするスナック菓子
・ケーキやシュークリーム
・揚げ物(フライドポテトやから揚げなど)
上記論文にも述べられているように、卵は「食物コレステロールは豊富で飽和脂肪が少ないユニークな食品」です。卵も極端に大量に食べればLDLが上昇するかもしれませんが、論文では「1日2個の摂取でLDLコレステロールが低下する」としているわけです。そして、卵は良質な蛋白質やアミノ酸がたくさん摂れます。一方、飽和脂肪酸は”諸悪の根源”なのです。
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診察室で患者さんから話を聞いていると、「卵を控えてこれまでの人生、随分損をしてきましたね」と言いたくなることがあります。もしも今も控えている人がいるなら、そんなルールは直ちに撤廃して卵料理を楽しみましょう。
しかし、なかには卵を増やして上昇する人がいるのは事実です。たとえば、卵が入ったお菓子を増やせばLDLコレステロールは上昇します。私の場合、夜中に大量の脂っこい料理の外食を続けた結果、LDLコレステロールが一気に上昇したことがあります(参考:はやりの病気第65回(2009年1月)「突然やってきた脂質異常症」)。
また、どのように食事を変更しても一向にLDLコレステロールが改善しない人もなかにはいます。卵をどのように増やしていけばいいのか、現在の食事内容に問題はないのか、などについて疑問がある人はかかりつけ医に相談しましょう。
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