医療ニュース

2018年5月28日 月曜日

2018年5月29日 スタチンは認知症の予防になるか

 スタチンと言えば世界中で最も使われている悪玉コレステロール(LDL)を下げる薬ですが、コレステロール以外にも様々な効用があるのではないかと言われています。一方、糖尿病のリスクを上げることも指摘されています。

 今回お伝えしたいのは、「スタチンが認知症のリスクを下げる」とする研究です。医学誌『Scientific reports』2018年4月11日号に掲載されています(注1)。この研究は、新たに対象者を探したのではなく、既存の研究25個を総合的に分析しなおす、いわゆる「メタアナリシス」でおこなわれています。結果は下記の通りです。

 すべての認知症:相対リスク0.849(認知症のリスクを15%下げる)
 アルツハイマー型認知症:相対リスク0.719(28%下げる)
 軽度認知障害:相対リスク0.737(26%下げる)
 脳血管性認知症:相対リスクは認められず

 さらに本研究ではスタチンの種類でリスク低下が検討されています。スタチンは水溶性(hydrophilic statin)と脂溶性(lipophilic statin)に分類することができます(注2)。認知症リスク低下について次のような結果となりました。

 水溶性スタチン:すべての認知症のリスクを下げる(相対リスク0.877)、
         アルツハイマー型認知症のリスクを下げる(相対リスク:0.619)

 脂溶性スタチン:すべての認知症のリスクを下げない
         アルツハイマー型認知症のリスクを下げる(相対リスク:0.639)

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 今回の研究はメタアナリシスですからエビデンスレベルは高いと考えていいと思います。しかし、一方ではエビデンスに基づいた検証をおこなうCochrane Libraryでは否定的な見解が示されています(注3)。

 過剰な期待は禁物ですが、特にアルツハイマー型認知症のリスクのある人には可能なら脂溶性よりも水溶性スタチンを選択する方がいいかもしれません。この論文を意識しているわけではありませんが、現在(医)太融寺町谷口医院で処方しているスタチンの95%以上が水溶性のものです。

注1:この論文のタイトルは「Use of statins and the risk of dementia and mild cognitive impairment: A systematic review and meta-analysis」で、下記URLで全文を読むことができます。

https://www.nature.com/articles/s41598-018-24248-8

注2:水溶性スタチンは「プラバスタチン」(先発品はメバロチン)と「ロスバスタチン」(クレストール)で、残りのスタチン(シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン)は脂溶性です。

注3:Cochrane Libraryのウェブサイトを参照ください。タイトルは「Statins for the prevention of dementia」です。下記のURLで閲覧することができます。

http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003160.pub3/full

参考:メディカルエッセイ
第133回(2014年2月)「スタチンの功罪とリンゴのことわざ」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2018年5月28日 月曜日

2018年5月28日 避妊用ピルは自殺のリスクを上昇させるのか?

 避妊用ピル(以下「ピル」)が自殺のリスクになるとする意見は昔からあったものの、それを検証したエビデンスの高いデータはなく、また、その逆にピルを使用することでイライラや不安感などが解消されることが多いことから、ピルは精神状態を安定させると言われています。

 ところが、「ピルは自殺のリスクを上げる」という大規模調査が報告されました。

 医学誌『The American Journal of Psychiatry』2017年11月17日に掲載された論文(注1)を紹介します。

 研究の対象者はデンマークの女性約50万人で平均年齢は21歳。調査期間の1996年から2013年の間に15歳となった女性がその後自殺を試みたかどうかが調べられています。追跡期間は平均8.3年です。

 全女性の初回の自殺未遂(注2)が6,999例、自殺既遂(注2)が71例です。ピルを含む避妊用薬剤の自殺のリスクは、すべてのピルを合わせて推計すると、自殺未遂が1.97倍、自殺既遂はなんと3.08倍に上昇していました。ピルの種類ごとの自殺未遂のリスクは次のようになります。

 通常のピル:1.91倍 
 プロゲスチン単独ピル(注3):2.29倍
 避妊リング(ホルモン剤が膣内に放出されるタイプ):2.58倍
 避妊パッチ(注4): 3.28倍

 興味深いデータがもうひとつあります。自殺未遂が最も増えるのはピルを開始して2カ月の時点であることが分かったというのです。

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 衝撃的な結果だと思います。私がこの論文を目にしたのは公表されてから5カ月以上たってからだったので、きっと(日本では無関心でも)世界中で話題になっているに違いないと思ってネット検索してみたのですが、意外なことに世界のメディアもあまり取り上げていません。

 この研究は「前向き研究」であり、対象者が50万人と大規模ですからエビデンスレベルは高いと言えます。さらに興味深いのは、通常のピルよりも「安全」と考えられている他の3種のホルモン剤の方が、リスクが上昇していることです。

 私自身の実感としては、冒頭で述べたように、ピルを用いることで精神状態が安定するケースを数多く診てきていますから俄かには信じがたい結果です。ですが、これからは処方前に自殺のリスクがないかどうか検討すべきだと考えています。そして、少なくとも内服開始2カ月は注意を払わなければなりません。

注1:この論文のタイトルは「Association of Hormonal Contraception With Suicide Attempts and Suicides」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://ajp.psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.2017.17060616

注2:原文のsuicide attemptを「自殺未遂」、suicideを「自殺既遂」と訳しています。自殺未遂は何らかのアクションを起こしたものの結果的に死に至らなかったケース、自殺既遂は死亡した例です。

注3:海外ではPOP(Progestin-only Pill)と呼ばれているもので、日本では「ミニピル」と言われることがありますが、認可されていません。

注4:ホルモン剤の貼付薬です。海外では使用者が増えていますが日本では未認可です。

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2018年5月25日 金曜日

2018年5月25日 日焼け止めが禁止されてもサプリメントはNG

 南の島は心も身体も癒してくれますが、紫外線には注意しなければなりません。したがって南のリゾート地に行くときにはサンスクリーン(日焼け止め)(と虫よけ)は忘れてはいけません。

 ですが、ハワイのビーチではサンスクリーンの使用が禁止されるかもしれません。

 2018年5月3日の「The New York Times」によれば、5月1日、ハワイ州は一部のサンスクリーンの販売を禁止することを決めました。

 サンスクリーンに含まれる化学物質オキシベンゾン(oxybenzone)とオクティノクセイト(Octinoxate)がサンゴを漂白するというのが禁止にする理由で、この規則が実行されるのは2021年1月1日の予定です。

 「The New York Times」によれば、世界中で毎年14,000トンのサンスクリーンが海洋に蓄積され、ハワイやカリブ海のサンゴ礁を傷つけています。2015年に非営利組織のHaereticus Environmental Laboratoryが調査したところ、毎日平均2,600人が訪れるオアフ島のハナウマ・ベイではサンゴ礁に毎日平均412ポンド(187キログラム)のサンスクリーンが沈着していたそうです。

 こうなると、サンスクリーン以外に紫外線をカットする方法はないのかと考えたくなり、一部のサプリメントはそれを謳っています。しかし、2018年5月22日、米FDAはこういった製品に対して「警告」を発しました。

 FDAは、はっきりと「サンスクリーンに置き換わる錠剤やカプセルはない」(There’s no pill or capsule that can replace your sunscreen.)と断言し、消費者に誤った情報を与え、効果のないサプリメントを売りつけている業者に警告文(warning letters)を発送しました。該当する製品名は、「Advanced Skin Brightening Formula」、「Sunsafe Rx」、「Solaricare」、「Sunergetic」などです。

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 皮膚がんの発症率が高い米国では紫外線カットやサンスクリーンの話がよく取り上げられます。日本では皮膚がんがさほど多くないことと、ビタミンDの体内合成に紫外線が必要なことから、むしろ日光浴が推奨されることもあります。ですが、ビタミンDは魚介類やきのこなどから摂れますから極端なベジタリアン(ヴィーガンと呼ばれる人たち)以外はあまり心配する必要はありません。

 さて、これからの紫外線対策を考えましょう。ハワイで法案が可決されたことは大きな意味を持ちます。ハワイに行かないという人は関係ないとも言い切れず、他のリゾート地が追随する可能性もあります。法が実行される2021年までに「使えるサンスクリーン」を探しておく必要があります。

 しかし、日本人はあまり心配ないかもしれません。太融寺町谷口医院でサンスクリーンの相談をされる人はたいてい敏感肌で、そういった人たちには紫外線吸収剤が含まれていないもの(紫外線散乱剤だけでできているもの)を勧めています。禁止されるオキシベンゾンもオクティノクセイトも共に紫外線吸収剤ですから、心配不要というわけです。

参考:
アトピー性皮膚炎 塗り薬の使い方Q&A
Q7:サンスクリーン(日焼け止め)はどのようなものを選べばいいのでしょうか。

はやりの病気第15回(2005年8月) 日焼け -日光皮膚炎-

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2018年5月14日 月曜日

2018年5月14日 PPI使用で脳梗塞のリスク認められず

 これまで安全で有効と考えられていた胃薬PPI(プロトンポンプインヒビター)が最近になり副作用の報告が相次いでいるということをこれまで何度かお伝えしてきました(下記「医療ニュース」参照)。

 今回お伝えしたい研究はその”逆”で、「PPIは脳梗塞のリスクにならない」とするものです。

 医学誌『Gastroenterology』2018年4月号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。研究の対象は、「Nurses’ Health Study」と呼ばれるデータベースに登録された女性68,514人(平均年齢65歳)と「Health Professionals Follow-up Study」というデータベースに登録された男性28,989例(平均年齢69歳)です。

 調査期間の12年間で合計2,599例(女性2,037例、男性562例)が脳卒中を発症(初発)しています。脳卒中の危険因子を考慮して、PPIと脳梗塞との関係を調べるとリスクが18%上昇していることが判りました。

 しかし、PPI使用の「適応」、具体的には、消化性潰瘍、胃食道逆流症、消化管出血の既往歴、H2ブロッカーの使用歴などを考慮して再度、関係を算出するとリスクは8%の上昇のみで、これは統計学的に有意にはならなかったということです。

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 この結果は少しわかりにくいです。PPIの「適応」(原文は「potential indications for PPI use」)を考慮した結果(原文は「after accounting for indications」)、リスク増加に有意差はなかった、ということです。

 ということは、「適応」(そもそもこれがこの論文では分かりにくい)を考慮しなければ、脳卒中の危険因子だけを考えて比較すると、有意差をもってPPIは脳梗塞のリスクになるということですから、やはりPPIは可能な限り避けるべき、ということになります。

 現在PPIは世界中で物議を醸しています。太融寺町谷口医院でも処方していますが、症状が改善すればH2ブロッカーなど他の薬剤に積極的に変更するようにしています。ですが、どうしてもPPIが必要という人もいます。PPIは、脳梗塞だけでなく認知症や骨粗しょう症のリスクも指摘されているわけですから、今後のさらなる研究結果を待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「No Significant Association Between Proton Pump Inhibitor Use and Risk of Stroke After Adjustment for Lifestyle Factors and Indication」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(17)36710-0/fulltext

参考:医療ニュース
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに
2017年1月25日 胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる
2016年8月29日 胃薬PPIが血管の老化を早める可能性
2017年1月23日 胃薬PPIは精子の数を減らす

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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