医療ニュース

2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 殺虫剤や蚊取り線香が子供の行動障害を起こす可能性

 殺虫剤が健康上有害かどうかというテーマはもう何十年も議論が続いています。DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は大変効果的な殺虫剤であり、かつては日本でも幅広く使われていました。八重山諸島のマラリア対策にも使われ、DDTのおかげで日本はマラリアを根治できたのです。ですが、有害性のために現在日本での使用は禁止されています。

 現在、日本製の殺虫剤及び蚊取り線香で最も一般的に使われているのが「ピレスロイド」と呼ばれる物質です。ピレスロイドが有害か否かという問題も何十年にわたり議論されていて、現在では「よほど大量摂取しなければ人体に有害はない」とされています。日本中毒センターは、蚊取り線香に対しては「ひとかけら程度の誤食では中毒症状は出現しない」とし、家庭用のピレスロイド系殺虫剤スプレーでも「通常、大量でない限り重篤な中毒は起こりにくい」と案内しています(注1)。

 私のように東南アジアによく行く者にとっては、蚊取り線香は必需品です。特に安宿に泊まるときはデング熱やチクングニア熱対策に蚊取り線香は絶対に必要なものであり、地域によってはマラリア対策もせねばなりません。

 妊婦や小児がピレスロイドに曝露されると行動障害のリスクが増加する…

 医学誌『Occupational & Environmental Medicine』2017年3月1日号(オンライン版)でこのような報告がおこなわれました(注2)。研究は仏国Rennes大学病院によりおこなわれています。

 対象者はフランスの母親287人。妊娠中、及び子供は6歳のときの尿中ピレスロイド代謝物の濃度が測定され、行動障害との関連が分析されています。

 結果、異常または境界線の社会行動障害のリスクがピレスロイド曝露により2.93倍も上昇することが判りました。興味深いことに社会行動障害の種類が、ピレスロイドの曝露が妊婦か子供かによって異なります。妊娠中の母親が曝露された場合は、小児の内在性困難(internalising difficulties)のリスクが上昇しました。内在性困難とは、例えば、うつ状態や不安のことです。一方、6歳の子どものピレスロイド濃度が高い場合は、外在性困難(externalising difficulties)のリスク上昇がみられます。これは、他人への攻撃や破壊的な行動のことです。

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 この研究だけでピレスロイドの危険性を過剰に流布するのは間違いだとは思いますが、妊婦さんや小さな子供がいる場合は、殺虫剤も蚊取り線香も最小限の使用にすべきかもしれません。となると、蚊帳や蠅とり紙の出番でしょうか。少なくとも21世紀の日本で私はこれらを見たことがありませんが…。

注1:日本中毒センターの情報は下記を参照ください。

・蚊取り線香について
http://www.j-poison-ic.or.jp/tebiki20121001.nsf/SchHyodai/C0D48C45ED65D05F492567DE002B895B/$FILE/M70049_0100_2.pdf

・殺虫剤について
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70219_0100_2.pdf

注2:この論文のタイトルは「Behavioural disorders in 6-year-old children and pyrethroid insecticide exposure: the PELAGIE mother-child cohort」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://oem.bmj.com/content/74/4/275

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 成人女性のニキビの発生因子とは?

 アダパレン(ディフェリン)、過酸化ベンゾイル(BPO、ベピオゲル)などが日本でも使えるようになり、一昔前に比べるとニキビの治療は随分とおこないやすくなりました。ですが、ニキビは慢性疾患ですから、他の慢性疾患と同様、日ごろの生活習慣の改善が大切です。

 医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2016年12月号(オンライン版)に興味深い論文(注1)が掲載されました。成人女性のニキビの発生因子が検討されています。

 研究の対象者はイタリア国内の12の都市の外来を受診した25歳以上の女性278人。対照グループはニキビ以外で受診した270人の女性です。結果は以下の通りです。それぞれの項目でニキビの発症リスクが何倍になるかが調べられています。

・親にニキビがある(あった) → 3.02倍
・兄弟姉妹にニキビがある(あった)→ 2.40倍
・自身が思春期にニキビがあった → 5.44倍
・妊娠の経験がない → 1.71倍
・多毛症がある → 3.50倍
・オフィスワークをしている(無職または専業主婦と比べて) → 2.24倍
・精神的なストレスがある → 2.95倍
・野菜・果物の摂取量が少ない → 2.33倍
・新鮮な魚の摂取量が少ない → 2.76倍

 両親や兄弟、過去のことは変えられませんが、食生活やストレスなどについては改善の余地があるかもしれません。

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 冒頭で述べたように、日本でも世界標準の薬が使えるようになったことでニキビの治療は随分とおこないやすくなりましたが、それだけで解決するわけではないようです。この研究結果を単純に解釈すれば、オフィスワークをしていてストレスがあって、妊娠の経験がなく、野菜・果物と新鮮な魚をあまり食べていないのであればリスクが何十倍にもなってしまいます。このような女性はいくらでもいるでしょうから、さすがに何十倍にまではならないでしょうが、他の多くの慢性疾患と同様、ストレスコントロールと健康的な食生活が重要であることは間違いないでしょう。

参考:はやりの病気第140回(2015年4月)「古くて新しいニキビの治療」

注1:この論文のタイトルは「Adult female acne and associated risk factors: Results of a multicenter case-control study in Italy」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.eblue.org/article/S0190-9622(16)30480-7/fulltext

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年3月31日 金曜日

2017年3月31日 大通り沿いに住むことが認知症のリスク

 大通りや幹線道路沿いに住めば認知症を発症しやすい・・・

 これは一流の医学誌『Lancet』2017年1月4日号(オンライン版)に掲載された報告です(注1)。

 研究はカナダでおこなわれたものです。対象者はオンタリオ州に居住の20~50歳の約440万人、及び55~85歳の約220万人です。大通りから住居までの距離と認知症の発症との関係が分析されています。観察期間は2001年から2012年です。

 調査期間中に合計243,611人が認知症を発症しました。大通りから居住地の距離との関係は、大通りから300メートル以上離れたところに住んでいる人に比べ、50メートル未満の人では1.07倍認知症を発症しやすいことがわかりました。50~100メートルでは1.04倍、101~200メートルは1.02倍、201~300メートルなら1.00倍です。

 大通りに近づけば近づくほど認知症のリスクが上昇するという”きれいな”結果となっています。尚、認知症と同じ脳疾患であるパーキンソン病と多発性硬化症でも同じ分析がおこなわれていますが、これら2疾患の発症と大通りからの距離との関連性はありませんでした。

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 私的なことになりますが、私が幹線道路沿いに初めて住んだのは20歳の頃で、医学部入学時に引っ越ししたワンルームマンションも幹線通り沿いに位置していました。医学部卒業後は研修先の病院の寮に入ることになりその寮は幹線道路から大きく離れていました。そのときは、研修医ということもありほとんど寮に帰れない生活でした。その後、幹線道路か否かにこだわったわけではないのですが、たまたま幹線道路から離れたところに住み始めました。

 すると、まったく予想していなかったことが起こりました。よく眠れるのです! 今考えれば、当たり前といえばそうなのですが、静かな環境というのがこんなにも大事なのかと驚きました。

 その後私は、国内でも海外でもホテルを予約するときには、幹線道路から離れたところという条件で探すようにしています。尚、日本では心配不要ですが、海外でホテルを探すとき、私は他に2つの条件を求めます。ひとつはホットシャワーが出ること(40歳を過ぎてから冷たい水はキツイのです)、もうひとつは「窓があること」です。アジアでは、ボロボロのゲストハウスでなくとも、例えば2,500円くらいするような中堅のホテルでも、窓がないということがあります。このような研究は見たことがありませんが、窓のない部屋で生活すると間違いなく健康を害する、と私は考えています。

 ですが、窓があるかどうかを事前に調べることが困難であり、これが私の悩みです。Agoda、Tripadviser, Expediaのいずれのホテル検索サイトも「窓あり」で検索できません。他の人はどうしているのでしょうか…。

注1:この論文のタイトルは「Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson’s disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study」であり、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32399-6/fulltext

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2017年3月6日 月曜日

2017年3月6日 ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク

 アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツが脳にダメージを与え、将来認知症や人格変貌、さらに自殺をも招くことがある、ということはここ数年注目されており、このサイトでも何度か取り上げました(注1)。この脳にダメージをおこす疾患のことを「慢性外傷性脳症」(以下「CTE」)と呼びます。コンタクトスポーツと言えばサッカーを思い浮かべる人も多いでしょう。では、サッカーのヘディングはどうなのでしょうか。

 ヘディングをよく行う選手は、あまり行わない選手に比べて脳震盪を起こす可能性が3倍以上…。

 医学誌『Neurology』2017年2月1日号(オンライン版)にこのような研究が報告されました(注2)。

 研究の対象者は、ニューヨーク市のアマチュアサッカークラブの成人男女の選手222人。調査はオンライン上でおこなわれました。調査期間の2週間でヘディングを行った回数は、男性平均44回、女性は27回でした。また、「偶発的な頭部への衝撃」が男性の37%、女性の43%にありました。そして、ヘディングや偶発的な衝撃により20%の選手に何らかの症状が認められています。

 これらを分析した結果、ヘディングをよく行う選手は、あまり行わない選手に比べ脳振盪を起こすリスクが3倍以上、偶発的な衝撃を2回以上受けた選手は、受けていないい選手と比較し6倍以上となっていました。

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 この論文では、ヘディングが脳振盪を起こしやすいとは言っていますが、CTEのリスクとなるかどうかについては検討されていません。しかし一般紙がこれに言及しています。英国の新聞「The Telegraph」はこの記事を取り上げ、ヘディングとCTEのリスクについて、イングランドの元ストライカーJeff Astle氏を取り上げてコメントしています(注3)。Astle氏は若くして認知症を発症し2002年に59歳の若さで他界しています。

 Astle氏の若すぎる死とサッカーの関係についてはBBCも取り上げています(注4)。BBCは、氏の娘のDawnさんがラジオ番組でコメントした次の言葉を紹介しています。

「サッカーが原因で認知症が起こったことを示す証拠は以前からありました。にもかかわらず真剣に検討されなかったのは”許されないこと”かつ”不可解”なことです」

注1:下記を参照ください。
はやりの病気
第137回(2015年1月) 脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~
医療ニュース
2016年10月14日 コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症
2015年5月9日 脳振盪に対するNFLの和解額が10億ドルに 

注2:この論文のタイトルは「Symptoms from repeated intentional and unintentional head impact in soccer players」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.neurology.org/content/88/9/901.short?sid=2346c46a-d26b-49a8-942b-bd585e28f60e

注3:この記事のタイトルは「Demand for new study of heading and concussion(ヘディングと脳振盪の新たな研究が望まれる)」です。下記URLを参照ください。

http://www.telegraph.co.uk/football/2017/02/01/demand-new-study-heading-concussion/

注4:この記事のタイトルは「Jeff Astle’s daughter: Dad’s job killed him(Jeff Astle氏の娘が語る~父の仕事が父を殺した~)」です、下記URLを参照ください。

http://www.bbc.com/news/uk-38979607

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