医療ニュース

2014年6月30日 月曜日

2014年6月30日 今からでも語学を勉強すれば老化の予防に

  以前バイリンガルは認知症になりにくい、というインドの研究を紹介しました(下記参照)。また、決定的なエビデンス(科学的確証)があるとまではいえないものの、語学の習得がアルツハイマーなどの認知症のリスクを下げるとした研究は他にもあります。今回新たに、語学の勉強で脳の老化を防げるという研究が発表されましたので報告したいと思います。

 2つ以上の語学が話せれば高齢になったときに脳の老化が予防できる。そして語学の習得は成人になってからでもかまわない・・・。

 これは医学誌『Annals of Neurology』2014年6月2日(オンライン版)に掲載された研究です(注1)。

 この研究の対象者は1936年にスコットランドで誕生した英語を母国語とする合計853人です。対象者が70代になった2008年から2010年に面談がおこなわれ、語学の習得度と脳の老化との関連性が検討されています。

 対象者のうち262人は英語以外に少なくとも1つ以上の言語を話すことができ、そのうち195人は18歳以前に(うち19人は11歳以前に)2つめの(英語以外の)語学を習得していたそうです。残りの65人(注2)は18歳以降の習得だそうです。160人は2ヶ国語、61人は3ヶ国語、16人は4ヶ国語、8人は5ヶ国後を話す、とされています。170人は日常生活では英語だけを話し、残りの90人は専門分野などで2番目の言語を用いているようです。

 2つ以上の言語を話す人は、70代になってから受けたメンタルスキルテストの結果が良かったようです。そして、興味深いことに、この傾向は幼少期に語学を習得したグループと成人してから習得したグループで差がなかったようです。

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 今回の研究結果は、なんで幼少時期に習字とそろばんをさせられて英語を習わせてくれなかったんだ・・・、と英語が苦手なことを親のせいにしているような人には朗報ではないでしょうか。

 たしかにリスニングとスピーキングについては、幼少時期から始めた方が有利かもしれませんが、読み書きは必ずしもそうではありませんし、今から初めても老化防止になるなら、やはり勉強した方がいいでしょう。

 ただし、論文には、2番目の外国語ができるという表現を「to a degree allowing them to communicate」としています。つまり読み書きだけではダメだということです。なんとか他人とコミュニケーションをとれるレベルにまで持っていく必要がありそうです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Does bilingualism influence cognitive aging?」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24158/abstract

注2:母国語(英語)以外の語学ができる人が262人、そのうち18歳未満でできるようになった人が195人ですから、それ以降にできるようになった人は262-195=67人になるはずですが、なぜか原文では65人になっています。この差の理由は不明です。また何ヶ国後を話すかの合計人数も262人になりませんがこの理由もわかりません。

参考:
医療ニュース2013年11月30日「バイリンガルは認知症になりにくい可能性」
はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2014年6月30日 月曜日

2014年6月30日 コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少

  コーヒーは大変身体にいいもので、生活習慣病や多くのガンのリスクを減少させてくれる、という話はこのサイトで何度もしています。

 何度もそういうことを述べているからなのか、一部の患者さんから「あたし、コーヒー飲めないんですけど、やっぱりマズイですかね~」などと質問されることがときどきあります。コーヒーが健康にいいことを言い過ぎると、飲めない人は傷ついてしまう・・・、ということがあるのかもしれません。しかし、コーヒーがすべてというわけではもちろんなく、他に健康を維持する方法、というよりコーヒーなどより重要なことはたくさんあるわけで、コーヒーが飲めない人はこのような話は軽く聞き流してください。

 さて、今回お伝えしたいのは、皮膚ガンの1種である「基底細胞癌」のリスクがコーヒーを飲むことで43%も減少する、という研究です。医学誌『European Journal Cancer Prevention』2014年5月16日号(オンライン版)に紹介されています(注1)。

 この研究の対象となったのは、米国コネチカット州在住の40歳未満の非ヒスパニック系白人767人です。この研究は前向き研究(これから何人が発症するかをみる研究)ではなく、後ろ向き研究です。つまり、767人のうち、基底細胞癌をすでに発症している377人と、その対照(コントロール)として良性の皮膚疾患を発症している390人を、聞き取りによりコーヒーなどをどれくらい飲んでいたかを調べているのです。

 その結果、最もカフェインをたくさん摂取していたグループでは、まったく摂取していなかったグループに比べて、基底細胞癌発症のリスクが43%も低かったそうです。

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 この研究はコーヒーだけでなく紅茶(論文ではteaとなっていますが、英語でteaと言えば日本茶や緑茶でなく紅茶のことをいいます)も合わせて検討されています。つまり、コーヒーでも紅茶でもいいからカフェインを多く摂っている人は基底細胞癌のリスクが減少していた、というのが結論です。ですから、今回の研究に関していえば、コーヒーが飲めない人は紅茶を飲めばそれでいい、ということになります。

 ところで基底細胞癌というのは、長年の紫外線暴露が最大のリスク要因であり、日本では、例えば農作業に従事していた高齢者などに多いという特徴があります。私がこの論文を読んでまず感じたのは、白人では基底細胞癌を発症する40歳未満がそんなにも多いのか、ということです。私はこれまで40歳未満どころか、50代の基底細胞癌も診たことがありません。

 そういう意味ではこの研究は日本人には縁のない話かもしれません。日本人が基底細胞癌のリスクを減らすのに重要なことは、カフェインをたくさん摂る、ではなくて、若い頃から紫外線対策をしっかりおこなう、ということです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Tea, coffee, and caffeine and early-onset basal cell carcinoma in a case?control study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://journals.lww.com/eurjcancerprev/Abstract/2014/07000/Tea,_coffee,_and_caffeine_and_early_onset_basal.11.aspx

参考:
医療ニュース2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
医療ニュース2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
医療ニュース2012年12月3日 「コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効」
医療ニュース2012年10月1日 「コーヒーは消化管疾患と無関係」
医療ニュース2010年5月24日 「紅茶で大腸ガンのリスクが上昇?」
はやりの病気第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2014年6月16日 月曜日

2014年6月16日 梅毒が増えていると言うけれど・・・

  ここ1~2ヶ月の間、梅毒が増えているという新聞記事を目にする機会が多いように思われます。記事のタイトルの例(すべてオンライン版)を少し紹介すると・・・

「梅毒、若い男性に増加 妊婦通し胎児にうつる恐れも」 日経新聞(2014年5月23日)
「梅毒、都市部の男性中心に拡大 昨年、21年ぶり千人超」 朝日新聞(2014年6月6日)                                                             「梅毒が東京でアウトブレイク」 読売新聞(2014年5月20日)
「梅毒が若年層に増加 昨年1000人超、「過去の病気」ではない!」産経新聞(2014年4月6日)
「梅毒、なぜか急増 3年で倍、国が注意喚起 検査拡大が必要」共同通信(2014年5月27日)

 なぜこのような報道がおこなわれているかというと、2013年の梅毒の届出件数が例年に比べて増加しているからです。

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 しかしこれは実態を反映していないと私は考えています。つまり、梅毒が突然急激に増えたのではなく単に届けられる件数が増えただけです。感染症の発生動向は、その感染症の種類によって充分に注意をしなければなりません。一般に、重症となりうる感染症については発表される感染者数は比較的正確です。なぜなら診断した医師は届出をおこなわなければならないと考えるからです。HIVがその代表でしょう。ですからHIVについては、医療機関で診断がついた人数と届出された人数にそれほど差はないといえます。(ただし検査を受けておらず感染していることに気付いていない人は大勢います)

 一方梅毒は、治療をすれば比較的簡単に治る疾患ということもあり、医師が届けていないことがまあまああるのです。届出を怠れば(たしか)50万円以下の罰金則があったと思うのですが、実際にこれを払った医師というのは聞いたことがありません。届出を怠るのは医師の怠慢ではないか、という声があるでしょうが、届出義務があることを知らない医師も少なくないというのが実情です。

 梅毒の届出数が実態を反映していない理由は他にもあります。例えば、医師が梅毒の診断をつけられなかったけれど、リンパ節の腫脹や皮膚症状から抗菌薬を処方して結果的に治った、というケースも少なくないと思われます。また、梅毒がHIVと異なるのは、自然治癒もありうるということです。いつのまにか感染していつのまにか治っていたというケースではそもそも医療機関を受診しません。あるいは細菌性扁桃炎や細菌性腸炎など他の理由で抗菌薬の投与を受け、たまたま感染していた梅毒も治ってしまったと思われる例も少なくありません。

 もちろんHIVと同じように、感染していて治療が必要だけれども、無症状のために検査を受けていない、という人も大勢いるに違いありません。

 では、現在日本に梅毒に感染している人は実際にはどれくらいいるかというと、発表されている人数の数倍から十数倍にはなるのではないかと私はみています。日本ではHIV陽性者の多くが男性同性愛者であるのに対し、梅毒は女性やストレートの男性にも珍しくありません。実際、太融寺町谷口医院の患者さんをみてみても、梅毒は性別や性指向に関係なくみつかります。

梅毒は簡単に治る病気ではありますが、発見が遅れると、脊髄まで進行して車椅子の生活を余儀なくされたり、母子感染で奇形が生じたりすることもあります。

 新しいパートナーができれば性交渉を持つ前に検査、が最善ですが、突然生まれるロマンスもあるでしょう。今からでも遅くはないので交際しているカップルは二人で検査を受けるべきです。現在パートナーがいないという人でも思い当たる行為のある人は検査を受けるべきでしょう。

(谷口恭)

参考:「増え続ける梅毒」(NPO法人GINAウェブサイトより)

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2014年6月2日 月曜日

2014年6月2日 オリーブオイルで心房細動が予防できる可能性

 不整脈というのは治療を要しない軽症のものまで含めると多くの人が持っていますが、重症のものであれは時に致死的になることもあります。比較的よくあるもので重症化するのが心房細動と呼ばれる不整脈です。長嶋茂雄さんが脳梗塞をおこされリハビリに励まれているのは有名ですが、この脳梗塞の原因が心房細動と言われています。

 心房細動の病態は心臓の一部が細かく震えるということですが、これが続くと小さな血の塊ができて、その血の塊が脳の血管を詰まらせてしまい、脳梗塞を発症するのです。心房細動がやっかいなのは、元々心臓の病気を持っている人が起こしやすいのは事実ですが、そのような心臓の病気を持っていなくてもほとんど誰にでも起こりうるということです。

 高齢になればなるほど発症しやすいのは事実ですが、30代でも珍しくありません。また喫煙や肥満、高コレステロール、高血糖、高血圧などのいわゆる心血管系疾患のリスクがまったくなくても発症します。運動をしてもリスクが減るわけではなく、むしろ激しいトレーニングをしているアスリートのリスクが上がることが指摘されています。長嶋茂雄さんに発症したことからもそれは分かるでしょう。

 さて、その心房細動の予防については(私の知る限り)ほとんど有効なものが報告されていないのですが、最近、オリーブオイルが有効かもしれない、という研究が発表されましたので報告します。

 医学誌『Circulation』2014年4月30日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、オリーブオイル摂取で心房細動のリスクが有意に低下するそうです。

 この研究はスペインのナバラ大学(University of Navarra)公衆衛生学教室のMiguel Á. Martínez-González氏らによっておこなわれています。

 研究の対象は、追跡開始時点で心房細動を発症していなかった6,705人です。対象者は、オリーブオイルを積極的に摂取するグループ(2,292人)、ナッツ類を積極的に摂取するグループ(2,210人)、カロリー制限食を実施するグループ(2,203人)の3つにわけられ、平均4.7年間の追跡調査がおこなわれました。

 その結果、心房細動を発症したのは、オリーブオイルのグループで3.1%(72人/2,292人)、ナッツのグループで3.7%(82人/2,210人)、カロリー制限のグループで4.2%(92人/2,203人)だったそうです。これらを統計学的に解析すると、カロリー制限のグループに比べ心房細動のリスクが、オリーブオイルのグループでは38%、ナッツのグループでは11%低下するという結果になったそうです。

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 この研究を受けて、というわけではないと思いますが、私がときどき行くレストランのサラダバーのドレッシングのコーナーにオリーブオイルが置かれていました。早速試してみると、不味くはないのですが、酸味と辛さが物足りなく感じました。しかし、オリーブオイルを中心にして、酢と塩こしょうで味を調えれば、オリジナルのオリーブオイルドレッシングをつくることができるのではないかと思いました。(まだ試していませんが・・)

 和食は今でも世界一の健康食と考えている人は少なくありませんが、最近の医学論文を読んでいると、そのような和食の栄光も「今は昔・・」というような気がします。最近もてはやされるのは地中海食ばかりです。そしてその主役が、今回紹介した研究でも取り上げられているオリーブオイルとナッツです。

 私は食べ物とかグルメ関係の情報には疎いのですが、現在の日本で地中海食というのはどの程度注目されているのでしょうか。そもそも「地中海食」の定義はどのようなものになるのでしょう。ギリシャ料理とポルトガル料理ではあまり似ていないような気がしますし、ギリシャのパスタは不味いけれどフェリーで15時間のイタリアに入ったとたんに突然美味くなる、という話を複数の知人から聞いたことがあります。モロッコやチュニジアの料理も地中海料理になるのでしょうか。また、トルコ料理はどうなるのでしょう。

 一度このあたりで日本人の食に詳しい人に地中海料理について解説してほしいのですがそのような人はいないのでしょうか・・・。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Extra-Virgin Olive Oil Consumption Reduces Risk of Atrial Fibrillation: The PREDIMED Trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://circ.ahajournals.org/content/early/2014/04/30/CIRCULATIONAHA.113.006921.abstract?sid=e50b739c-6b2b-4578-b683-1e170ea5cbcc

参考:
医療ニュース2014年1月6日「ナッツを毎日食べると健康で長生き」
メディカルエッセイ第109回(2012年2月号)「糖質制限食はダイエットにどこまで有効か」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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