医療ニュース

2014年5月31日 土曜日

2014年5月31日 日焼け止めサプリに要注意!

 4月から5月になると紫外線が原因で悪化する皮膚疾患が急増するために、太融寺町谷口医院では私も看護師も紫外線対策の重要性をしつこいくらいに話しています。どのような疾患が多いかというと、一番多いのはアトピー性皮膚炎の悪化、次に多いのが口唇ヘルペスでしょうか。

 ここ数年間で増えているのがアトピーとは関係のない湿疹です。花粉や黄砂の影響を受けているであろう湿疹が目立ちますが、紫外線が原因の湿疹も少なくありません。紫外線単独というよりは、薬剤性光線過敏症が疑わしい症例が少なくなく、サプリメント(特にビタミン剤)によると思われる光線過敏が増えてきているような印象があります。

 紫外線の害はこのような急性症状だけではありません。よく知られているように将来の皮膚の老化の原因になりますし、日光角化症のような悪性疾患のリスクにもなります。

 つまり、小児(成長に紫外線が必要です)やヴィーガンと呼ばれる完全なベジタリアン(食品からビタミンDが摂れませんから紫外線をあびなければなりません)などを除けば、紫外線というのは有害性の方が遙かに高いというわけです。

 そこで紫外線対策が重要になるわけですが、サンスクリーン(日焼け止め)を毎朝塗って、剥がれてくればまた塗って・・・、というのはけっこう大変な作業です。そこで飲むだけで紫外線対策OKというサプリメントに頼りたくなるのは人間の心情でしょう。

 前置きが長くなりましたが、お伝えしたいのは、この「日焼け止めサプリ」というものは有効性が実証されておらず、米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology)が警告を出しているということです(注1)。

 同会の警告を簡単にまとめると次のようになります。

・日焼け止めサプリメントの有効性は実証されていない
・FDA(米国食品医薬品局)が認めている日焼け止めは外用剤のみ
・SPF15以上のサンスクリーンは、皮膚ガンのリスクや皮膚老化を抑えることが科学的に証明されている
・米国皮膚科学会としてはSPF30以上のサンスクリーンを使用することを推薦する

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 最近患者さんから、日焼け止めサプリについての質問をよく受けるようになり、どのような製品があるのかを調べてみました。少なくとも日本の大手のサプリメントのメーカーからは発売されておらず、海外製品の個人輸入が多いようです。

 私自身もサンスクリーンを塗るのが面倒くさいと感じますし、きちんと塗れていなかったためにまだら様の日焼けをしてしまったこともあって、もしも「日焼け止めサプリ」があれば飛びつきたいのですが、当分そのようなものの登場には期待できないでしょう・・・。

(谷口恭)

注1:この発表(警告)のタイトルは「American Academy of Dermatology statement on oral supplements for sun protection」で、下記URLで閲覧することができます。
http://www.aad.org/stories-and-news/news-releases/american-academy-of-dermatology-statement-on-oral-supplements-for-sun-protection

参考:はやりの病気第15回(2005年8月)「日焼け -日光皮膚炎-」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2014年5月30日 金曜日

2014年5月30日 ポリオが急増、WHOが緊急事態宣言

  2011年にポリオ(急性灰白髄炎)という言葉がマスコミに頻繁に登場しましたが、これはまだ記憶に新しいものと思います。この年には、国が認可していない不活化ワクチンを神奈川県は独自に輸入し神奈川県民への接種を開始し、厚生労働省と対立するかたちになりました。その後、”正式な”(つまり国の認可を受けた)不活化ワクチンが、単独ワクチンとしては2012年9月1日に、4種混合ワクチン(他の3種は百日咳、破傷風、ジフテリア)としては2012年11月1日に導入されました。

 20世紀の終わり頃からポリオウイルスは世界的に減少傾向であり、WHO(世界保健機関)は2005年に世界全体での根絶宣言を発表する予定でした。しかし、実際には根絶には至らず、2010年の時点でインド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの4ヶ国で発症の報告がありました。さらに2011年7月には中国で4例の報告があり蔓延が懸念されていました。

 その後、あまり報道はなかったのですが、2014年1月、インドで過去3年間発症がないことが確認され、世界全体での根絶に近づいたかに思われました。

 ところが、です。2014年5月5日、WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(Public Health Emergency of International Concern, PHEIC)という緊急事態宣言をおこなったのです。(注1)

 WHOによりますと、従来から感染者の報告のあった、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアに加え、2014年4月29日までに、カメルーン、赤道ギニア、エチオピア、イスラエル、ソマリア、シリア、イラクで新たに感染者の報告があったそうです。

 WHOは、各国に警戒を呼びかけ、予防接種などの対策を急ぐよう求めています。

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 今回WHOが発表した国というのは、日本人があまり渡航しないような国が多いのは事実ですが、WHOは感染が急速に広がっていることを懸念しています。ということは、今後アフリカ、中東、一部のアジアから世界中に広がる可能性もあるということになります。

 小さいお子さんはもちろんですが、成人も安心してはいられません。不活化ワクチンよりも強力な生ワクチンを子どもの頃に接種しているから大丈夫、そのように考えている人も多いようですが、過信しない方がいいでしょう。私自身が自分の抗体を調べたところ、ポリオの2型は陽性でしたが、1型と3型は陰性でした。

 ポリオはワクチンで防ぐことのできる感染症(VPD)です。後で後悔することのないように、小児はもちろんですが成人の方も海外によくでかける人は検討した方がいいかもしれません。

(谷口恭)

注1:WHOのこの声明文のタイトルは「WHO statement on the meeting of the International Health Regulations Emergency Committee concerning the international spread of wild poliovirus」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2014/polio-20140505/en/

また、下記のURLで、FORTH(厚生労働省検疫所)が作成した上記声明の和訳を読むことができます。
http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2014/05071419.html

参考:はやりの病気第100回(2011年12月)「不活化ポリオワクチンの行方」

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2014年5月16日 金曜日

2014年5月16日 帯状疱疹発症後の脳卒中に注意

  帯状疱疹は水痘(みずぼうそう)のウイルスが成人になってから神経をつたって皮膚表面にやってくる痛みの伴う病気です。従来は高齢者に多いとされていましたが、最近では若い人でも過重労働がある人やストレスが多い人などでは発症することが珍しくありません。

 帯状疱疹を発症した直後には脳卒中のリスクが急上昇する・・・

 これは医学誌『Clinical Infectious Diseases』2014年4月2日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注1)。ロンドン衛生熱帯医学校(London School of Hygiene & Tropical Medicine)の研究者が、イギリス内の625以上のプライマリケア医(総合診療科医)の患者情報データベースを分析し、帯状疱疹を発症しその後脳卒中を起こした合計6,584人の情報を解析しています。

 その結果、帯状疱疹発症後から4週間以内に脳卒中を発症するリスクは、帯状疱疹を発症していないときに比べて63%高いことが判ったそうです。4週間を過ぎればリスクは低下していきますが、それでも5~12週後では42%リスクが高く、6ヶ月後でも23%リスクが高いそうです。

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 この研究は対象者数も少なくなく信憑性の高い結果といえそうです。とすると、帯状疱疹を発症すれば、その後の脳卒中にビクビクと怯えながら生活しないといけないのか、と感じてしまいますがそうでもありません。

 この研究では、「脳卒中のリスクは経口抗ウイルス薬で有意に低下する」ことも導かれています。帯状疱疹の治療を受けていない症例では、治療を受けた症例に比べて脳卒中のリスクがおよそ2倍になることも判ったそうです。

 ということは、帯状疱疹を疑えば直ちに医療機関を受診する、ということが重要になります。それから忘れてはいけないのは、「なぜ帯状疱疹を発症したのか」についての検討です。

 帯状疱疹は免疫力が低下したときに発症します。特に2回目以降の発症は徹底的に調べるべきです。その原因として、悪性腫瘍、膠原病、HIVなどが潜んでいることがしばしばあるのです。もしも、このような基礎疾患がなくて帯状疱疹を複数回発症しているなら、相当ストレスを抱えた生活をしてないか、極度の過重労働がないか、そういったことも考えなければなりません。

 ところで海外では帯状疱疹のワクチンがあり、ある程度の有効性が指摘されています。帯状疱疹の原因ウイルスは「水痘帯状疱疹ウイルス」ですから水痘(みずぼうそう)のワクチンと同じもの?、と思ってしまいますが、海外で用いられている帯状疱疹ワクチンというのは通常の水痘ワクチンに比べて抗原量が10倍(つまり、弱毒化させたウイルスが多量に入っている)とされています。

 日本にはこのワクチンがありませんから、通常の水痘ワクチンで帯状疱疹を予防する試みがあり有効性があるという報告もありますが、大規模調査はありません。

 日本は他の国にさきがけて超高齢化社会に突入しているわけですから、日本こそが帯状疱疹のワクチン導入を積極的に検討しなければならない、と私は考えているのですが、今のところそのような動きはないようです・・・。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Risk of Stroke Following Herpes Zoster: A Self-Controlled Case-Series Study」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://cid.oxfordjournals.org/content/early/2014/03/25/cid.ciu098.full?sid=2b5528d5-d9e7-47df-bdb5-a9c779779dab

参考:はやりの病気第71回(2009年7月)「帯状疱疹とヘルペスの混乱」

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2014年5月12日 月曜日

2014年5月12日 世界の脂肪酸摂取、バルバドスが最優秀?

 脂肪酸についてはこのサイトでも取り上げたことがありますし、最近はマスコミでも、どのようなものを食べるべきか、サプリメントはどうか、一部医薬品として認められたものは実際はどうなのか、といったことがしばしば議論されています。

 医学誌『British Medical Journal』2014年4月15日号(オンライン版)で世界各国(地域)の脂肪酸の摂取の状況が報告されました(注1)。この論文によると、脂肪酸の摂取状況は世界で随分と異なるようです。具体的にいくつか紹介しようと思いますが、先に脂肪酸について簡単にまとめておきます。(より詳しくは下記メディカルエッセイを参照ください)

 脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸は肉のアブラに含まれているもので食べ過ぎるといかにも身体に悪そうなイメージがあると思います。では、不飽和脂肪酸ならいいのかというとそうではありません。不飽和脂肪酸は3つに分けて考えると理解がしやすいでしょう。

 ひとつめは「トランス脂肪酸」と呼ばれるもので、マーガリンやフライドポテトに多量に含まれていることで有名です。ファストフードの利用が多い人は要注意で、可能な限り減らしていかなければなりません。
 
 ふたつめは「ω6系脂肪酸」でゴマ油、コーン油、ベニバナ油などに含まれているものです。なんとなく身体によさそうな気がしますが、多くの人はω3系に比べて摂りすぎる傾向にあります。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸よりはましだけれども摂りすぎに注意しなければならない、と理解しておくのがいいでしょう。

 3つめが「ω3系脂肪酸」で、端的にいってしまえばこれが一番身体にいいもので積極的に摂る必要があります。ならばサプリメントや医薬品で摂ってしまうのが手っ取り早い、と考えられるかもしれませんが、それほど単純なものではなく、食品から摂らなければ効果が期待できないとする研究もあります。(詳しくは下記メディカルエッセイを参照ください)

 さて、件の論文についてですが、ここではトランス脂肪酸とω3系脂肪酸について紹介します。

 トランス脂肪酸の摂取量が多い国(地域)は、(多い順に)エジプト、パキスタン、カナダ、メキシコ、バーレーンと続きます。少ないのは、(少ない順に)バルバドス、ハイチ、カリブ海の島国、エチオピア、エリトリアと続きます。

 ω3系脂肪酸は魚介類からの摂取と植物からの摂取が分けられています。魚介類からの摂取が多いのは、(多い順に)モルディブ、バルバドス、セーシェル、アイスランド、マレーシア、タイ、デンマーク、韓国、日本です。少ないのは、(少ない順に)ジンバブエ、レバノン、パレスチナ、ボツワナ、ギニアビサウと続きます。

 植物からのω3系脂肪酸摂取が多い国は、(多い順に)ジャマイカ、中国、イギリス、チュニジア、アンゴラ、セネガル、アルジェリア、カナダ、アメリカです。少ないのは、(少ない順に)ソロモン諸島、スリランカ、コモロ、セントルシア、フィリピンと続きます。

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 この結果をみると、なるほどと頷けるものと意外なものがあります。

 トランス脂肪酸摂取が多い国は、カナダを除けばあぶらっこい肉料理がメインの国が多いようでこれは理解しやすいのではないでしょうか。少ない国は、肉をあまり食べずに魚介類を豊富に食べているところです。エチオピアは内陸国ですが、隣のエリトリアから魚介類がたくさん入ってくるのでしょう。

 魚介類由来のω3系が多い国は魚をよく食べる国と理解していいと思うのですが、日本がマレーシアやタイよりも少ないというのが意外です。また、新鮮な魚介類が豊富に料理に含まれているイタリアやスペインなど地中海諸国が入っていないのも意外です。少ない国は魚料理をほとんど食べないような地域ですからこれは頷けます。

 植物由来のω3系は最も意外です。これについては論文のなかで少し解説があります。カナダで摂取量が多いのはキャノーラ油が豊富に用いられるからだそうです。中国とアメリカではchiaと呼ばれる植物の種をよく食べるそうです。このchiaという植物について、私は聞いたことがないのですが、そんなによく食べられているものなのでしょうか。それほどω3系脂肪酸が豊富なら今後健康食品として流行るかもしれません。

 植物由来のω3系が少ないのがすべて島国ということに注目すべきでしょう。しかも南太平洋、南アジア、インド洋、カリブ海、東南アジア、と世界中に分布しているところが興味深いといえます。しかし、同じ島国のジャマイカが世界一の摂取国というのがさらに興味を駆り立てます。

 ところでこの論文を読んで私が真っ先に感じたのは「バルバドス料理ってどんな料理?」というものです。トランス脂肪酸摂取が少ない国とω3系脂肪酸摂取が多い国の両方にランクインしたのはこの国だけです。

 バルバドス、日本人もしばしば訪れるカリブ海に浮かぶこの小国に対する私のイメージは「リゾートアイランド」というだけで、料理はどのようなものなのか、などということを考えたことがありませんでした。遠すぎて気軽に行けないところですが、バルバドス料理に関する今後の研究に注目したいと思っています。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Global, regional, and national consumption levels of dietary fats and oils in 1990 and 2010: a systematic analysis including 266 country-specific nutrition surveys」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g2272

参考:メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」

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