医療ニュース

2022年9月11日 日曜日

2022年9月11日 減塩対策の「裏技」

 まずは2つの数字を思い出しましょう。1つは、WHO(世界保健機関)が推奨する1日の食塩摂取量、もう1つは日本人の平均食塩摂取量です。答えは次のようになります。

WHOの推奨する1日あたりの塩分摂取量:5g/日

・日本人の食塩平均摂取量:男性11.0g/日、女性9.3/日
(平成30年「国民健康・栄養調査」より)

 男女とも基準の約2倍を摂取しているというわけです。食塩量は味噌汁1杯で2g、ラーメン1杯7-8g、かつ丼1杯4g、梅干し1個2gくらいです。これらの数字をみただけで、1日5g未満を達成するのがいかに過酷かが分かるでしょう。

 では日本食を減らせば減塩できるのでしょうか。これは一理あるのですが、そう簡単ではありません。例えば、タイで現地の人たちと一緒にタイ料理を食べれば塩分がかなり少ないことが実感できます。唐辛子やコショウを上手く使って美味しく食べることができればいいのですが、それを長く続けていると和食に慣れた日本人は次第に物足りなくなってきます。タイに長く住んでいるとタイ料理に塩をかけたくなってくるのです。

 では、塩分の量を増やさずに塩味を得ることができるとすればどうでしょう。「代替塩」というものがあります。従来の「食塩」は塩(ナトリウム)が(ほぼ)100%ですが、ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩が存在します。

 これを使った大規模調査が中国でおこなわれ論文として発表されています。医学誌「The New England Jpurnal of Medicine」2021年9月16日に掲載された「心血管疾患および死亡に対する代替塩の影響(Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death)」です。

 研究の対象者は中国の約600の村の住民で、脳卒中を起こしたことがあるか60歳以上で高血圧がある20,995人です。10,504人には「ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩」を、残りの10,491人には「ナトリウム100%の従来の食塩」を使用してもらいました。追跡調査の平均期間は4.74年です。

 結果、代替塩を使うと、脳卒中、心血管疾患、死亡のリスクが、それぞれ、14%、13%、12%低下していました。

 しかし、カリウムがたくさん含まれる代替塩を摂取すると、高カリウム血症を起こすのではないかという懸念が生まれます。しかし、この研究では高カリウム血症を含む有害事象は代替塩に認められませんでした。

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 2021年9月に発表されたこの研究、コロナ禍のせいで大きな注目はされませんでしたが、かなり衝撃的な内容です。というより、これを読めば、直ちに世界のスーパーマーケットの食塩売り場の棚を一掃すべきだ、と考えたくなります。

 しかし、ナトリウム75%・カリウム25%の代替塩はどうやって入手すればいいのでしょう。実は、日本にはこの代替塩よりもはるかに有用な(と考えられる)”代替塩”があります。そして、すでに過去の医療ニュース「2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品」で紹介しています。

 それは味の素の「やさしお」です。「やさしお」ならナトリウムが約50%で、残りはカリウムとマグネシウムでできています。はっきり言うと、この「やさしお」、非の打ちどころがない素晴らしい商品です。

 医師が特定の商品を絶賛するようなことは極力避けるべきですし、私はすでに過去のマンスリーレポート「2013年8月 この夏の暑さと塩と味の素」で「味の素」を褒めちぎってしまいましたから、同じようなことはしたくないのですが、「やさしお」はどう考えても誉め言葉以外の言葉が見つからない商品なのです。

 ただし、調べてみると、他にも2つ「代替塩」として推奨できる商品が見つかりました。

 1つは大正製薬の「減塩習慣」で「やさしお」と同様、ナトリウムが約50%で、残りはカリウムを中心に、リン酸カルシウムやクエン酸が含まれています。

 もうひとつはポッカの「ウレシオ」で、こちらもナトリウムは約50%です。ユニークなのはカリウムがわずかしか含まれておらず、炭水化物が残りの大半を占めていることです。「粉末レモン」が使われているようで、おそらくこの正体が炭水化物なのではないかと思われます。一般に、「粉末もの」の正体は炭水化物であることが多いからです。サイトをみると「塩化カリウム不使用」であることが強調されているので、もしかすると慢性腎臓病や腎不全の人のために開発されたものかもしれません。

 最後に、代替塩を使うよりももっと推薦できる方法を紹介したいと思います。その方法なら、費用がほぼかからず、安全で、(一部の人を除けば)誰もが簡単にできます。それは「運動で汗をかくこと」です。過剰に摂取したナトリウムは汗とともに対外に排出されます。そういう意味でも運動は大切なのです。

 というわけで「代替塩と日々の運動」という”裏技”で、過酷な塩分制限をしなくても美味しい食事を楽しむことができるのです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2022年9月4日 日曜日

2022年9月5日 血圧が高くても毎日コーヒーを飲めば血管がしなやかに

 太融寺町谷口医院では高血圧の患者さんを診ない日はありません。全員に毎回、というわけではありませんが、血圧は計測する以外にも私自身がときどき血管を触らせてもらうことがあります。なかには触っただけで血管がガチガチに硬くなっている人もいます。

 高血圧が進行し、血管が硬くなると、血管はしなやかさを失い全身の動脈硬化が進行します(触った血管が硬くなっていること自体が動脈硬化であることを示しています)。

 しかし、血圧が高くても血管をしなやかに保つ(=動脈硬化を防ぐ)方法があるとすればどうでしょう。しかも、ごく簡単な方法で。

 毎日コーヒーを飲む習慣がある人は血圧が高くても血管の機能が良好。

 このようなコーヒー好きには嬉しい研究発表が日本人によっておこなわれました。医学誌「Nutrients」2022年6月29日に掲載された論文「高血圧患者における日々のコーヒー摂取量と血管機能との関係(Relationship of Daily Coffee Intake with Vascular Function in Patients with Hypertension )」に掲載されています。

 研究の対象者は広島大学付属病院で2016年4月~2021年8月に健診を受けた高血圧患者462人です。受診者にはコーヒーをどれほど飲むかを尋ね、その量と血管のしなやかさが測定され関係が算出されました。

 結論を言えば、「コーヒー摂取量が多いほど血管がしなやかになる」という結果が出たのですが、もう少し詳しく解説しましょう。本研究では血管のしなやかさを2つの指標で調べています。

 1つは「血流再開時に血管がどれくらい拡張するか」です。血圧を測るときには駆血帯を上腕に巻いて強くしばり、いったん血液の流れを止めます。解放したときに血管が拡張します。このときの拡張の度合いを「血流再開による血管拡張反応(flow-mediated vasodilation)」と呼びます。

 もう1つの指標は、ニトログリセリン(血管を拡張させることができる薬品)を投与したときにどれだけ血管が拡張するかで、これを「ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation)」と呼びます。

 「血流再開による血管拡張反応」の成績が悪い(血流を再開しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは45%低下することが分りました。

 「ニトログリセリン投与による血管拡張反応」では、成績が悪い(ニトログリセリンを投与しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは50%低下することが分りました。

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 コーヒー好きには朗報ですが、飲めば飲むほど血管がしなやかになるとは言えないでしょう。効果のある上限(何杯までが有効か)が気になるところですが、この研究からは分かりません。

 また、当然のことながら、コーヒーに期待しすぎるのは禁物です。昔からはっきりしているのは「血管のしなやかさを保つのに最も大切なのは運動」という事実です。 

参考:医療ニュース
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
2018年11月30日 コーヒーで酒さ予防
2018年4月5日 コーヒーの発がん性をLA高等裁判所が認定
2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下
2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下
2015年12月26日 コーヒーを飲んで長生き、自殺も予防!

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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