医療ニュース

2025年4月27日 日曜日

2025年4月28日 認知症予防目的に帯状疱疹ワクチン

 「はやりの病気」第258回(2025年2月)「認知症のリスクを下げる薬」で、「帯状疱疹のワクチンが認知症のリスクを下げる」という話をしました。最近、それを補強する研究が公表されたこともあり、ここでもう少し詳しく掘り下げたいと思います。

 科学誌「Nature」2025年4月2日号に掲載された論文によると、生ワクチンの接種で女性の認知症のリスクが約2割下がります。

 この研究が興味深いのは英国ウェールズのワクチンプログラムに基づいているからです。通常「〇〇のワクチンを接種すると△△の発症リスクが下がる」と言われても、そのまま鵜呑みにはできません。なぜなら、そもそもワクチンを接種する人は日頃から健康意識が高いことが多く△△に対する予防行動もとっている可能性があるからです。

 今回の研究で使われたワクチンプログラムは(拒否しなければ)該当者は誰もが(たぶん)無料で受けられるものです。 2013年、ウェールズ政府は1933年9月2日以降に生まれた人々に対し、弱毒生帯状疱疹ワクチンの提供を開始しました。この日付の直前と直後に生まれた人々を比較することで認知症のリスクを検討することができます。この研究では1925年9月1日から1942年9月1日の間に生まれた28万人以上の認知症診断が追跡調査されました。

 女性については結果があきらかでした。研究者によると、認知症発症のリスクがおよそ2割減少しました。他方、残念ながら男性にはその効果が認められませんでした。

女性は生ワクチンを接種すれば認知症発症リスクが約2割低下する

 

男性は効果がない

 

 もう1つ研究を紹介しましょう。冒頭で紹介した「はやりの病気」でも紹介した2024年7月に「nature medicine」で発表された研究です。

 こちらの対象者は米国民です。米国では2017年に帯状疱疹のワクチンが生ワクチンから組換えワクチン(不活化ワクチンの一種)に全面的に変更されました。その前後で帯状疱疹の発生率のみならず、認知症の発症率がどの程度変化したかが調べられたのです。結果は下記グラフの通りです。

組換えワクチンに切り替わった2017年以降帯状疱疹発症率が低下した

 

 

2017年以降、認知症の発症も減少した

 

研究者によると、組換えワクチンは接種後6年間の認知症リスクが生ワクチン接種時よりも有意に低いことがわかりました。さらに女性の方が男性よりも効果が高かったとされています。

 ただし、帯状疱疹ワクチンがなぜ認知症のリスクを下げるのか、その理由はいまだ解明されていません。

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 なぜ、帯状疱疹のワクチンが認知症のリスクを予防するのか。ものすごく単純に考えれば「水痘帯状疱疹ウイルスが認知症の原因のひとつだから」となります。

 しかし、現在認知症の原因は「アミロイドβ蛋白、またはタウ蛋白の蓄積」とされています。「それは間違っている。実は感染症が認知症の原因だ!」などと言えば馬鹿にされるだけです。しかし、私自身は認知症の一部は感染症によるものではないかと本気で考えています。いずれその考えを公開したいと思います。 

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2025年4月10日 木曜日

2025年4月10日 ビタミンAの過剰摂取に注意

 2019年の国民健康・栄養調査では、日本人のビタミンAの摂取量は大幅に少ないことが明らかにされています。男性の摂取量の平均は552ugRAE/日、女性は518ugRAE/日です。必要量は、成人男性で850~900ugRAE/日、成人女性で650~700ugRAE/日ですから、男女ともかなり不足していることが分かります。

 では、サプリメントで補えばいいのか、と考えたくなりますが、現在米国では大変な事態となっています。報道によると、テキサス州ではサプリメントの過剰摂取で「ビタミンA中毒」を起こして治療を受けている子供が増えているのです。

 なぜ、このようなことが起こっているのか。麻疹(はしか)のワクチンをうたなくなったからです。ロバート・F・ケネディ・ジュニア(RFK Jr)保健相の影響を受けて、ワクチンを拒否する人たちが増え、現在テキサス州を中心に麻疹が流行しています。そこで、その予防や治療にビタミンAを内服する人たちが急増し、その結果ビタミンA中毒が相次いでいるというわけです。

 たしかに、麻疹に感染するとビタミンAを治療に使います。ですが、摂取量が過剰になると、頭痛、吐き気、嘔吐、肝機能障害などが起こります。妊娠中に過剰摂取すると新生児の先天異常のリスクとなります(ビタミンAの外用薬が妊娠中に使えないのはそのためです)。

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 栄養調査で「日本人は不足している」と言われ、「サプリメントなどで摂りすぎると危険」と忠告されればいったいどうすればいいのでしょうか。「適量を摂りましょう」とはよく言われるセリフですが、そもそも自身のビタミンAの摂取量は不足しているのか足りているのか、あるいは食事からすでに摂りすぎていないかなどについてはどうやって把握すればいいのでしょう。

 それを調べるには血液検査しかありません。しかし、ビタミンAの血中濃度測定は保険適用がなく自費で実施するしかありません。そして、費用は安くありません(当院の場合3,300円)。ですが、健康の意識が高い人は受けています。これからの時代、ビタミンDや亜鉛などと共に、日本人に不足しがちな栄養素はお金をかけても定期的に調べるべきなのかもしれません。

 

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