医療ニュース

2025年5月30日 金曜日

2025年5月30日 若者の半数がネットのない世界を望み7割がSNSで病んでいる

 「はやりの病気第257回(2025年3月)人生が辛いなら『スマホを持って旅に出よう』」では、若者が心を病んでいる最大の原因がSNSであることが自明なのに人類はもはやSNSの”魅惑”から逃げられない現実について述べ、ならばスマホを持ったまま旅に出て、画面上ではなく現実の非日常を求めてみてはどうか、という私見を述べました。 

 では、若者はSNSに対してどう考えているのでしょうか。最近、英国で若者を対象とした興味深い調査が実施され、The Guardianが報じました。

 British Standards Institutionが16~21歳の1,293人の若者を対象に実施した調査で、結果は下記の通りです。

・46%が「インターネットのない世界で暮らしたい」と考えている

・68%がSNS利用で自己嫌悪感に苦しみ精神を病んでいる

・50%が午後10時以降のSNS利用を禁じる「デジタル禁止令」を支持している

・4分の1は1日4時間以上SNSを利用している

・42%はオンラインでの行動について両親や保護者に嘘をついている

・42%が年齢を偽ったことがある

・40%が偽アカウントや「使い捨て」アカウントを持っている

・27%が全くの別人になりすましたことがある

・27%が自分の位置情報を知らない人に教えたことがある

************

 冒頭のコラムを書いたとき、「まだアイデンティティが確立していない脆弱な発達段階でSNSに触れるのが危険であることに当事者の若者は気づいていないだろう」と私は考えていました。ところが、この英国の調査に鑑みれば、すでに若者自身がSNSの弊害を察しているようです。

 だからといって実際にSNSと縁を切れる若者はほとんどいないでしょうし、現在英国が進めようとしている「午後10時以降のSNSへのアクセス禁止案」もそれほど効果がでるとは私には思えません。

 しかし、誹謗中傷や他者の比較に辟易としている若者も増えてきているのでしょう。ならばSNSから完全に脱却できなくても、従来の(まともな)人間関係構築に向けた動きも広がっていくことを期待したいと思います。もちろん、日本も含めて。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2025年5月6日 火曜日

2025年5月6日 大気汚染は認知症のリスク

 本サイトでは「大気汚染のリスク」を繰り返し紹介しています。大気汚染は「WHOが定める世界10大脅威」の1つであり、喘息や心血管疾患のリスクになることを「はやりの病気第185回(2019年1月)避けられない大気汚染」で述べ、大気汚染により血圧が上昇することは「医療ニュース2024年2月4日道路の空気汚染が血圧を上昇させる」で紹介しました。大気汚染があらゆる原因の早期死亡リスクの第6位であることは「はやりの病気第249回(2024年5月)健康の最優先事項はパートナーを見つけること」のなかで触れました。

 また、大気汚染が認知症発症リスクの3%を占めることは「はやりの病気第253回(2024年9月)『コレステロールは下げなくていい』なんて誰が言った?」で紹介しました。

 今回は「大気汚染が認知症のリスク」について少し掘り下げてみたいと思います。ちょっと古くなりましたが、科学誌「Nature」2025年1月14日号に掲載された記事「大気汚染と脳損傷:科学が示すもの(Air pollution and brain damage: what the science says)」に掲載されたポイントをまとめてみます。

・これまでに発表された多くの研究で、大気汚染が、認知症、うつ病、不安症、自閉症(発達障害)などのリスクとなることが示されている

・WHOが作成した2021年版の「WHO Global Air Quality Guidelines」(世界大気質ガイドライン)は、大気汚染の神経学的影響の重要性を強調している

・WHOは世界人口の99%が推奨レベルを超える大気汚染にさらされていると推定している

・2000年代後半から2010年代初頭にかけてメキシコシティで実施された研究で、大気汚染の深刻な都市に住む子どもは、大気汚染の少ない地域の子どもよりも、脳の各領域をつなぐ白質線維に病変を持つ子どもが多く、特に前頭前皮質が影響を受けやすいことが明らかとなり、都市部の子どもは認知課題の成績が低いことも判明した

・大気汚染は、自動車の排気ガスや工場による汚染に加え、調理用コンロ、山火事、砂漠の砂塵なども原因となる。窒素酸化物、硫黄酸化物、一酸化炭素、オゾンなどが汚染の実態である

・2023年にUK Biobankを元に389,000人以上を対象とした分析により、大気中の粒子状物質、一酸化窒素、二酸化窒素への長期曝露がうつ病や不安症のリスクとなることが示された

・スコットランドの住民20万人以上を対象とした16年間の研究で、二酸化窒素への累積曝露量の増加が精神疾患や行動障害による入院の増加をもたらすことが明らかとなった

・認知症のリスクを検討したLANCETの論文で、フランス米国中国で行われた研究から「大気汚染が改善された地域では高齢者の認知症、認知機能低下、うつ病の発生率が低下していること」が示された

・大気汚染により海馬の容積が減少し認知機能低下を起こしていることを示す研究がある

・大気汚染は白質線維の発達を阻害して脳の各領域間でのコミュニケーションに変化をもたらす可能性を示した報告がある

・成長期のマウスに大気汚染の原因となる超微粒子を曝露させた研究は、超微粒子によって白質路と脳室が拡大し、衝動性が高まり、短期記憶が障害されていることを示した

************

 大気汚染といえば、自動車による排気ガスが著しい都市、焼畑農業のエリア、コンロを多用する地域など思い出しがちですが、PM2.5の被害が小さくないわが国でも他人事ではありません。PM2.5を浴びても無症状という人も、認知症のリスクを軽減する目的で、日々の大気汚染情報黄砂情報をチェックした方がいいかもしれません。

 海外渡航を考えるときには「IQAir」を利用してその地域のその時期の大気汚染の程度を参考にするのがいいでしょう。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

月別アーカイブ