医療ニュース
2016年1月29日 金曜日
2016年1月29日 ポテト食べすぎで糖尿病
すべての医師が認めているわけではないものの、「糖質制限」は糖尿病の新しい食事療法になりつつあります。極端な糖質制限に対してはほとんどの医師は警告を促していますが、マイルドなものであれば注意点を充分理解した上で実践してもらうことに反対する医療者は少数でしょう。
糖質というのは、甘いものの他、コメやコムギ(パン、パスタ、うどんなど)を指しますから従来「主食」と呼ばれてきたほとんどのものが該当してしまいます。そしてときどき落とし穴になっているのが「ポテト」です。日本ではサツマイモを常食にしている人はあまりいないと思いますが、ジャガイモはいろんな料理で日常的に食べている人は少なくないでしょう。
ポテトは糖質そのものと考えていいのですが、肥満や糖尿病とどの程度相関するのかを検証した大規模研究というのはあまりありませんでした。この度、大規模研究の結果が報告されましたのでお伝えしたいと思います。結論は、もちろん「ポテト食べすぎると糖尿病」です。
論文(注1)は、医学誌『Diabetes Care』2015年12月17日号(オンライン版)に掲載されたもので、この研究の対象者は米国人ですが、論文を執筆したのは日本人の研究者です。
研究の対象者は全員医療者で合計20万人近くになります。内訳は、「NHS(Nurses’ Health Study)」と命名された1984~2010年におこなわれた調査に参加した70,773人の女性看護師、1991~2011年の「NHSⅡ」に参加した87,739人の女性看護師、「HPFS(Health Professionals Follow-up Study)」という名前の1986~2010年に実施された調査に参加した40,669人の男性医療従事者です。ジャガイモの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ, Food frequency questionnaire)というものが使われて4年ごとに調査されています。
まず調査開始時点の解析で、ジャガイモの総摂取量が多ければ多いほど、カロリー摂取量、肉や清涼飲料水の摂取量が多く、身体活動度(つまり運動量)が少ないという結果が出ています。
追跡機関中に合計15,362人が糖尿病を発症しています。解析の結果、ジャガイモ摂取量が多ければ多いほど糖尿病のリスクが高いことが明らかになっています。ジャガイモ摂取が週に一度未満の人に比べると、週に2~4回食べる人でリスクが7%上昇し、毎日食べる人では33%もリスクが増加しています。
料理の仕方にも差があるようです。週に3回食べている人でみてみると、ベイクドポテト、ボイルドポテト、マッシュポテトでは糖尿病リスクが4%高いのに対して、フレンチフライでは19%も高いことが分かったそうです。
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我々日本人からするとポテトは穀物でありコメやパンと同じ、という感覚ですが、欧米人は「野菜」と思っている人が少なくありません。以前私はイギリス人から、「我々はコメも野菜と考えている」という言葉を聞いて驚いたことがあります。彼(女)らによると、ポテトもコメも畑(コメは田なのですが・・・)から採れるから野菜だというのです。
しかし、日本でも糖質制限をおこなっている人で、ついついポテトを食べ過ぎている人はいないでしょうか。たとえば、糖質制限をしている人に人気のあるステーキを食べるとき、付け合わせのポテトを食べている人はいないでしょうか。その横にあるニンジンもそれなりに糖質をたくさん含んでいます。そしてステーキにかかっているソースが甘くてこってりしたものであったとしたら・・・。これでは糖質制限をおこなっていることになりません。
注1:この論文のタイトルは「Potato Consumption and Risk of Type 2 Diabetes: Results from Three Prospective Cohort Studies」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2016年1月29日 金曜日
2016年1月28日 夜勤あけは交通事故を起こしやすい
夜勤が肥満や生活習慣病のリスクになるということは過去にも述べました(下記「医療ニュース」参照)。今回は、夜勤勤務者が交通事故に遭遇しやすいという研究を紹介したいと思います。
医学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』2015年12月22日号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。
研究の対象者は夜勤勤務の16人です。閉鎖されたコースで2時間の運転テストが2回行われています。1回目のテストは、夜勤をせずに平均7.6時間の睡眠をとった後に実施され、2回目のテストは夜勤あけにおこなわれています。
結果、夜勤あけの運転テストでは、37.5%が急ブレーキを使用し、43.8%が運転テストを続けることができずテストを中断しています。また、運転能力の低下は、運転開始から15分以内に出現していたようです。
米国では労働者の15%に相当する950万人以上が夜勤勤務に従事しており、居眠り運転は交通事故死の21%を占め、重大な障害事故の13%に関連しているそうです。
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以前から何度も述べているように、最も健康的なライフスタイルは「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ということです。夜勤の有害性はこれからも報告が相次ぐでしょう。しかし、夜勤は誰かがやらねばならないわけです。日本では、高齢者が「他に仕事がない」という理由で、シフト勤務のガードマンやメンテナンスの仕事をおこなっている人が少なくありませんが、健康リスクの高い高齢者にこのような仕事をやってもらっていいのか、一度社会全体で考えてみるべきだと思います。
注1:この論文のタイトルは「High risk of near-crash driving events following night-shift work」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.pnas.org/content/113/1/176.full?sid=7c894e9b-bb67-472b-b8e3-5078982453c2
参考:
メディカルエッセイ第128回(2013年8月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」
医療ニュース2014年12月26日「夜勤は肥満のリスク」
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|2016年1月9日 土曜日
2016年1月9日 妊婦のダイエットで子供が脂肪肝
無理なダイエットなどでやせている妊婦から生まれてくる子供は脂肪肝になりやすいことが以前から指摘されていました。このメカニズムを分子レベルで解明し、さらに改善させる方法についても言及している論文が医学誌『Scientific Reports』2015年11月19日(オンライン版)に掲載されました(注1)。日本人による研究です。
エサを40%少なくすることで栄養不良にした妊娠マウスから生まれた子供マウスの肝臓が調べられています。肝臓には、異状な形態をした役に立たないタンパク質が蓄積し、これを除去するために免疫をつかさどるマクロファージの一種が増え、結果として炎症が生じ脂肪肝となっているようです。
「シャペロン」という最近注目されている物質があります。これは、わかりやすく言えば、形状がおかしくなって本来の機能が発揮できなくなったタンパク質に働きかけ、おかしくなった形を元に戻してあげることのできる物質で、形が元に戻ったタンパク質は機能を取り戻すことができるのです。
今回の研究では、このシャペロンを脂肪肝の子供マウスに投与しています。結果、タンパク質が本来の機能を取り戻し、脂肪肝が大きく改善したそうです。
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シャペロン(chaperon)の元々の意味は「若い女性が社交界にデビューするときに付きそう年上の女性」のことです。形が崩れて正常の機能を無くしてしまったタンパク質(若い女性)に働きかけ元に戻すことができる(シャペロン)ことからこの名前が付けられたと言われています。
(ヒトの)若い妊婦さんから生まれた子供(もしくは妊婦)にシャペロンを投与すれば、脂肪肝が防げるのではないかという意見もあるようですが、シャペロンに過度の期待をするのは筋違いでしょう。
つまらない正論に聞こえるかもしれませんが、妊娠中こそ、過度なダイエットを避け、適正な体重を維持することに努めなければなりません。
注1:この論文のタイトルは「Undernourishment in utero Primes Hepatic Steatosis in Adult Mice Offspring on an Obesogenic Diet; Involvement of Endoplasmic Reticulum Stress」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2016年1月8日 金曜日
2016年1月8日 デング熱ワクチン、ついに実用化へ
2014年の東京での流行以来、デング熱に対する世間の関心は高まっており、最近は海外渡航前に診察室で相談される人も増えてきました。もちろんこれは好ましいことで、デング熱はマラリアと異なり、日中に人の多いプールサイドやビーチでも被害に遭いますから、我々医療者からみると、これまでの関心が低すぎた、というのが実情です。
デング熱は日本人がよく行くリゾート地、たとえばハワイやプーケットやバリ島などでも被害は少なくありません。水着になるときは日焼け止めの上からDEETの塗布が必要です。しかし、水に濡れる度に何度も塗り直すのはけっこう大変です。
デング熱は感染症ですからワクチンの登場が長年望まれていました。昨年(2015年)には医学誌『The New England Journal of Medicine』に開発中のワクチンに有効性があるとした論文(注1)が掲載され、秒読み段階に来ていました。
そして、ついに2015年12月9日、メキシコでこのワクチンが世界で初めて承認されました(注2)。さらに12月22日、ワクチン製造者のSanofiはフィリピンで(注3)、12月28日にはブラジルでも承認されたことを発表しました(注4)。
一方、デング熱で年間9万人以上の感染者と200人近くの死亡者を出しているインドでは、このワクチン導入に慎重な姿勢をみせています(注5)。有効性と安全性が充分に検証されていないのではないかとする意見があるようです。
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冒頭で述べたように、プールサイドやビーチでDEETを完璧に塗るというのは思いのほか困難です。有効で安全なワクチンがあれば接種を希望する人が大勢いるでしょうし、私自身も接種します。しかし、デング熱ウイルスを媒介するネッタイシマカ(やヒトスジシマカ)は、チクングニア熱ウイルスや最近注目されているジカ熱ウイルスも媒介します。そしてこれらに対してデング熱ワクチンは無効です。
ということは結局これまでと同様の蚊対策は必要ということになります。ワクチンではなく、蚊の発生自体を抑制する工夫が必要かもしれません。しかし仮に抑制できたとしても、今度は「生態系が乱れる」という問題が出てきます。なんとも悩ましいものです・・・。
注1:この論文のタイトルは「Efficacy and Long-Term Safety of a Dengue Vaccine in Regions of Endemic Disease」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1506223
注2:下記URLでメキシコでの承認の詳細が読めます。
注3:下記はフィリピンでの承認についてです。
注4:下記はブラジルについてです。
http://www.sanofipasteur.com/en/articles/Dengvaxia-First-Dengue-Vaccine-Approved-in-Brazil.aspx
注5:インドのオンライン新聞「The Indian Express」に「Dengue fever vaccine Dengvaxia: Hope but with caution」というタイトルで報道されています。下記URLを参照ください。
http://indianexpress.com/article/explained/dengvaxia-dengue-vaccine-delhi-health-deaths-india-fever/
参考:旅行医学・英文診断書 → 〇海外で感染しやすい感染症について → 3) その他蚊対策など
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