医療ニュース

2023年6月26日 月曜日

2023年6月25日 母親の認知症、母親の円形脱毛症は子供に遺伝しやすい

 アルツハイマー病が遺伝するのは間違いありませんが、それは父親ではなく母親からだ、という研究結果が発表されました。医学誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」2023年5月10日号に掲載された「親の認知症歴と認知症のリスク: 世界共同研究の横断分析(Parental history of dementia and the risk of dementia: A cross-sectional analysis of a global collaborative study)」にまとめられています。

 研究に用いられたのは、8ヵ国のデータベースに登録された高齢者合計17,194人のデータです。父親および母親の認知症歴と子供の認知症、どのような認知症かなどが分析されました。結果、次のことが分かりました。

・母親が認知症があれば子供の認知症の発症リスクは上昇するが、父親では認められなかった

・母親に認知症があれば子供が認知症を発症するリスクは1.51倍、母親がアルツハイマー病であれば子供の認知症のリスクは1.80倍

・子供の性別でも差があった。子供が男性の場合、リスクは2.14倍に上昇するが、女性の場合は1.68倍にとどまる

 もうひとつ、こちらは認知症以上に衝撃的な研究を紹介しましょう。

 円形脱毛症のエピソードがある母親から生まれた子供は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、甲状腺疾患、精神疾患を発症するリスクが有意に高い、というものです。

 医学誌「JAMA Dermatology」2023年5月24日号に掲載された論文「円形脱毛症の母親から生まれた子供の自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、甲状腺疾患、精神疾患(Autoimmune, Inflammatory, Atopic, Thyroid, and Psychiatric Outcomes of Offspring Born to Mothers With Alopecia Areata)」で紹介されています。

 研究に用いられたのは韓国のデータベースです。円形脱毛症で医療機関を3回以上受診した母親46,352陣と、その母親から2003年から2015年に生まれた子供67,364人が分析されています。

 結果、母親に円形脱毛症があれば、子供に次の疾患のリスクが上昇することが分かりました。

・自己免疫疾患:2.08倍
・全頭型脱毛:1.57倍
・アトピー性皮膚炎:1.13倍
・アレルギー性鼻炎:1.04倍
・気管支喘息:1.03倍
・甲状腺機能低下症:1.14倍
・ADHD:1.16倍
・気分障害(うつ病など):1.13倍
・不安障害:1.14倍

 当然といえば当然なのかもしれませんが、母親の円形脱毛症の程度が強ければ遺伝リスクも上昇するようです。母親に重症の全頭型脱毛症または汎発性脱毛症があった場合は次のようにリスクが上昇します。

・全頭型脱毛:2.98倍
・ADHD:1.26倍
・気分障害:1.23倍
・不安障害:1.24倍

 さらに興味深いのは母親の年齢が関連していることです。分娩時の年齢が35歳未満の母親に比べ、35歳以上の母親が出産した場合、円形脱毛症、アレルギー疾患、精神疾患のリスクが上昇します。

 また、生まれてくる子供の性別によっても変わります。男児と比べて女児は円形脱毛、白斑症、精神疾患のリスクが上昇していました。

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 認知症に遺伝性があるのは以前からよく知られており、ApoE遺伝子は簡単に調べることができます。ただし、知ってしまえば後には引けませんから安易な気持ちでは調べない方がいいでしょう。

 円形脱毛症については、遺伝性があるという説は過去にもありましたが、それは円形脱毛に対する遺伝であり、他の疾患についても遺伝性があることをこれほど明らかにした報告はなかったと思います。

 最近は疾患のみならず性格やキャラクターも環境ではなく生得的なものであるという考えが主流になってきており、それを示唆するエビデンスも増えてきています。これは「やればできる」「教育が人をつくる」「生活習慣のみなおしで病気を防げる」など従来言われてきた言わばリベラルな主張を覆すことになり興味深いと言えます。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2023年6月4日 日曜日

2023年6月4日 治る糖尿病は1%だけ?

 糖尿病の治療を受けている患者の約1%だけが薬が不要になる……。

 これは医学誌「Diabetes Obesity and Metabolism」2023年5月8日号に掲載された論文「日本における2型糖尿病の寛解と再発の発生率と予測因子: 全国患者登録の分析 (JDDM73)(Incidence and predictors of remission and relapse of type 2 diabetes mellitus in Japan: Analysis of a nationwide patient registry (JDDM73))」の結論です。

 この研究の対象者はタイトルから分かるとおり日本人です。「糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)」という研究会が保有するデータベースが分析されています。研究の対象者は18歳以上の日本人48,320人で、この研究での糖尿病の定義は「HbA1cが6.5%以上、および(または)糖尿病の薬が処方されている」です。

 「寛解」というのはおおまかには「治ること」と考えていいのですが、この研究での定義は「糖尿病の薬を中止して3カ月以上HbA1cが6.5%未満を維持している状態」とされています。

 解析の結果、中央値5.3年の追跡期間中に3,677例が寛解に至り、年間1000人あたりの寛解率は10.5(およそ100人に1人)でした。

 寛解に至りやすい特徴としては「治療期間が短い」「調査開始時のHbA1cが低い」「調査開始時のBMIが高い」「1年でBMIが大きく低下している」「調査開始時に糖尿病の薬を飲んでいない」でした。

 ただし、寛解した3,677人のうち2,490人(67.7%)が1年以内に再発(HbA1c値の再上昇)していました。

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 この研究は、日本の糖尿病関連サイトでも報告されています。

 この日本語の報告では、「糖尿病は意外にも治る人がいる」というような紹介をされています。

 しかし谷口医院の経験でいえば、糖尿病が「治る」のは1%程度ではありません。1割までは届かないと思いますが、少なく見積もっても5%程度(20人に1人程度)の患者さんは薬を中止できます。残念ながら再発する人がいるのは事実ですが、この研究のように7割近くなどということはありません。せいぜい2~3割程度です(さらに長期間観察すれば上昇するかもしれませんが)。

 そもそも他院から谷口医院に移ってきた時点では、「これまで食事にも運動にも気を使っていなかった」という人が大半です。そういう人には、まず薬を止めたい意思があることを確認し、生活習慣を改善させればそれが可能であることを説明します。

 糖尿病で重要なことのひとつは「薬を使うかどうか別にして、治療開始を遅らせない」ことです。糖尿病はいったん発症して長期化すると、血管がボロボロになり、物理的に傷んだ血管はもはや修復不能になります。

 そうなる前に生活習慣を改め必要最低限の薬を使えばいいのです。

 「糖尿病は治らない」なんて考え、もはや古すぎます。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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