医療ニュース

2023年2月26日 日曜日

2023年2月26日 他者に優しくすれば自身の抑うつ感や不安感が改善する

 2022年12月のマンスリーレポートで、「誰もが簡単に直ちに幸せになれる方法」として「他人に感謝の言葉を述べる」を紹介しました。

 この医療ニュースでは、それに似た研究を取り上げたいと思います。「他者に優しくすれば自分自身の抑うつ感や不安感が改善する」という研究です。

 医学誌「The Journal of Positive Psychology」2022年2月26日号に掲載された論文「助けることによる治癒:幸福介入としての優しさ、社会活動、(認知の)再評価の実験的調査(Healing through helping: an experimental investigation of kindness, social activities, and reappraisal as well-being interventions)」です。

 研究の対象者は軽度の不安感か抑うつ感のある122人(18歳から78歳、中間年齢24.7歳、女性76%)で、ランダムに次の3つのグループに分けられました。

グループ#1 他者に優しくする行為を行う
グループ#2 社会活動を計画して行う(行動療法)
グループ#3 認知の再評価を行う(認知療法)

 結果は次の通りです。

・社会的つながり(social connection):グループ#1が、グループ#2及びグループ#3よりも改善

・抑うつ感/不安感・生活満足度(depression/anxiety symptoms and life satisfaction):グループ#1が、グループ#3よりも改善

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 この研究の興味深い点は、従来言われてきたような「認知行動療法」が「他者に優しくする」に劣っていることです。

 21世紀になってから認知行動療法の有効性がやたら主張されてきました。認知行動療法とは「認知のゆがみを直し」「望ましい行動をする」ことで精神状態を改善させる方法で、保険適用もあります。

 保険で認知行動療法を受けるには、厚労省に届け出をした医師または看護師が30分以上かけておこなえば16回まで保険で受けることができます。医師の場合は3割負担で1,440円(480点)、看護師の場合は(正確には「医師及び看護師が共同して行う場合」)は1,050円(350点)です。

 認知行動療法を保険診療でおこなう医療機関は精神科を標榜していなくてもかまいません。よって、過去に私自身も研修を受けて届出をして実施しようかと考えたこともあるのですが、やめました。

 最大の理由は「30分の時間を確保するのが困難」だからですが、他にもあります。それは、「認知行動療法で改善した患者をみたことがない」からです。

 保険適用になるくらいですからエビデンスレベルの高い確固とした治療法なのでしょう。ですが、谷口医院の患者さんで精神科を受診してもらってこの治療で改善した人はいまだに一人も知りません。率直に言って、この治療に効果があるとは思えないのです。

 むしろ、「やりがいのある仕事が見つかった」「新しいパートナーができた」という人はそれだけで精神状態が大きく改善することがあります。特にパートナーの存在は大きく、どんな名医よりも「愛し合えるパートナー」が最大の”治療”になります。

 そして、パートナーとの愛情を深めて維持させるには互いの思いやりが絶対に必要になります。

 そういったことを考えると今回紹介したこの研究はすっと腑に落ちます。あまりこのことを強調しすぎると、「パートナーも友達もいなくて優しくする相手がいない場合はどうするんだ」という反論がくるでしょうが、それでも私は「誰でもいいから身近な人に優しくすることから幸せが始まる」と最近は言うようにしています。

参考:認知行動療法を保険診療で実施している医療機関のリスト
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/cbt.html

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2023年2月9日 木曜日

2023年2月9日 夜勤もシフト勤務も認知症のリスク

 夜勤が様々な疾患のリスクになるという話はこのサイトで何度も述べてきました。どのような疾患のリスクになるか、少し例を挙げてみると、乳がん、心筋梗塞などの心疾患、高中性脂肪血症、糖尿病、肥満、交通事故のリスク上昇などです。

 そして、今回お伝えしたいのは「夜勤は認知症のリスク」というショッキングな研究です。

 医学誌「Frontiers in Neurology」2022年11月7日号に掲載された論文「シフト勤務、夜勤と認知症との関係:系統的評価とメタ分析(Relationship between shift work, night work, and subsequent dementia: A systematic evaluation and meta-analysis)」を紹介します。

 研究の対象者は過去の4つの研究の対象となった合計103,104人で、これらを総合的に解析(これをメタ解析と呼びます)することで検討しています。

 結果は、夜勤をすると夜勤をしない人と比較して、認知症発症のリスクが12%高いことが分かりました。他方、シフト勤務では「全体としては」そのようなリスク上昇が認められませんでした。しかし、50歳以上に限定して解析しなおすと、シフト勤務をすればしない場合に比べて認知症発症リスクが31%上昇していました。

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 認知症のリスク、と言われると、さすがに夜勤に抵抗が出てくる人も少なくないのではないでしょうか。こういったことをあまり言い過ぎるのは、夜勤で頑張ってくれている人に対して失礼な行為ではあります。

 ですが、やはりこういった信ぴょう性の高いデータは社会で共有する必要があるでしょう。過去のコラム(下記)にも書いたように、夜勤は若いうちに体験して(そして稼いで)、社会全体で様々な疾患のリスクを減らし、そして医療費も削減する、というのが私が考える理想です。

参考:はやりの病気第192回(2019年8月) 「夜勤」がもたらす病気

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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