医療ニュース

2015年4月28日 火曜日

2015年4月28日 糖尿病は不眠の原因、まず早起きを

  不眠が生活の質を低下させ生活習慣病の原因にもなる、ということは過去に述べたことがあります。(下記「はやりの病気」を参照ください) 今回ご紹介したいのはその逆で、「糖尿病が悪化すると不眠になる」とするものです。医学誌『PLOS ONE』2015年4月14日号(オンライン版)に掲載された研究(注1)で、大阪市立大学が実施しています。

 大阪市立大学医学部附属病院に糖尿病で入院した63人の脳波を測定したところ、血糖値が悪化すればするほど良質な睡眠がとれないことが判ったそうです。また、良質な睡眠がとれていない被検者では、早朝の血圧が高い傾向にあることも判ったそうです。

 睡眠と糖尿病の関係で興味深い研究が韓国から報告されましたのでそちらも紹介したいと思います。

 医学誌『The Journal of clinical endocrinology and metabolism』2015年4月1日号(オンライン版)(注2)によりますと、睡眠時間が同じであるとき、「夜更かし型」の人は「早起き型」の人よりも糖尿病やその他生活習慣病を発症しやすいそうです。

 この研究は、47~59歳の韓国人約1,000人が対象とされています。「夜更かし型」の人は体脂肪率が高くメタボリックシンドロームに罹患しやすいことが判ったそうです。また、興味深いことに、「夜更かし型」の人は、脂肪率が上昇するのみならず、筋肉量も減少することが判ったようです。

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 良質な睡眠がとれなくなれば、血圧も上昇し、さらに血糖コントロールも悪くなるはずです。つまり、血糖コントロール不良 → 不眠 → さらに血糖値上昇+他の生活習慣病のリスク上昇、と悪循環になるわけです。

 大阪市立大学の研究から言えることは、糖尿病の人は不眠も治しましょう、ということになるわけですが、単に、では睡眠薬を飲みましょう、で解決するわけではありません。

 まず、不眠の原因は何と何なのか、それぞれの原因に対して(薬を使わずに)対処できることはないのか、生活習慣の何を改めればいいのか、などを個別に検討していく必要があります。これらは、医師が診察をしてすぐに答えが見つかるわけではありません。患者さん自身が日頃から不眠について考える必要があると言えるでしょう。

 韓国の研究と合わせて考えれば、日頃から、早起きの習慣を身につけるのが賢明といえます。仕事の内容などから、どうしても夜更かし型にならざるを得ないという人もいますが(特に「物書き」の人はこのパターンが多い)、可能な限り、早起き型にシフトすべきと私は考えています。以前にも述べましたが、私が提唱している健康を維持するためにおこなうべき「3つのenjoy」のひとつが「Early-morning waking up」、つまり「早起き」です。これは「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」です。(下記2つのコラムも参照ください)

注1:この論文のタイトルは「Association between Poor Glycemic Control, Impaired Sleep Quality, and Increased Arterial Thickening in Type 2 Diabetic Patients」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0122521

注2:この論文のタイトルは「Evening chronotype is associated with metabolic disorders and body composition in middle-aged adults.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://press.endocrine.org/doi/pdf/10.1210/jc.2014-3754

参考:
はやりの病気第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」

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2015年4月27日 月曜日

2015年4月27日 バリ島の狂犬病対策の是非

  現在バリ島では犬をめぐっての議論が白熱しているようです。

 きっかけは2015年1月27日、10歳のオーストラリアの女子が一匹の犬に噛まれたことです。幸いなことにこの犬は地元の動物保護団体が狂犬病ワクチンを事前に接種しており、この少女は軽い怪我を負っただけで大事には至りませんでした。

 しかし、この事故の2日後にバリ州の知事が「野良犬をすべて殺す」との発言をメディアの前でおこないこれが物議を醸しています(注1)。

 バリ島にはおよそ50万匹の野良犬がいると試算されています。

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 少女は助かったわけですし、少女に噛みついた犬も狂犬病ワクチンを接種していたのになぜ?、と感じますが、知事がこのような発言をおこなったのには理由があります。

 狂犬病はバリ島では以前から問題になっていましたが、近年は特に顕著で2008年以降でみると150人以上が狂犬病で死亡しています(注2)。外国人が犬に噛まれる事例も相次いでいるようです。知事の立場からすると、「観光」が税収の大部分を住めるバリ島で、観光客が遠ざかることを避けたかったのでしょう。

 しかし、50万匹もの野良犬を一掃せよ、となれば当然世界中の動物保護団体から反対意見が出ますし、ヒンドゥー教徒や仏教徒はイヌを大切にしますから地元の一般人からも批判されているようです。(インドネシアで最大多数の宗教はイスラム教で、イスラム教徒は犬を嫌いますが、バリ島ではヒンドゥー教徒と仏教徒が大部分を占めます)

 ゴールデンウィークにバリ島に旅行に出かけるという人も少なくないと思います。狂犬病ワクチンを接種していない人は、現地では動物に咬まれないように注意して(狂犬病ウイルスを持っているのは犬だけではありません)、もしも咬まれたら直ちに現地の医療機関を受診するようにしてください。(狂犬病ワクチンは感染してからでも効果が期待できます)

 尚、個人的な体験を付記しておくと、私はアジアのある島で早朝にジョギングをしているときに野良犬に囲まれて大変恐い思いをした経験があります。島でジョギングするときはたいてい海沿いを走るのですが、その日私は山道を走っていました。犬の鳴き声が聞こえてきた1~2分後には5~6匹の犬に囲まれてしまっていました。手に持ち替えたバックパックで比較的身体の小さな犬を振り払いながらそこを抜けだし全速力で疾走し事なきをえましたが、100メートル以上も複数の野良犬に追いかけられているときは本当に恐怖でした。私は狂犬病ワクチンを接種していますが、もしも接種していなかったらあの恐怖は何倍にもなっていたに違いありません。

 狂犬病ワクチンを接種している人も野良犬がいそうなところには近づかないのが賢明です。

注1:『The New York Times』が報道しています。記事のタイトルは「Beach Dogs, a Bitten Girl and a Roiling Debate in Bali」で、下記URLで記事が読めます。野良犬を捕獲している写真も掲載されています。
http://www.nytimes.com/2015/03/05/world/beach-dogs-a-bitten-girl-and-a-roiling-debate-in-bali.html?_r=0

注2:財デンパサール日本国総領事館のウェブサイトに記載があります。下記URLを参照ください。
http://www.denpasar.id.emb-japan.go.jp/japan/04_02safe.html

また、下記は同領事館の「安全対策情報等:2015年4月」です。狂犬病についての記載もあります。
http://bali.vc/press/201504

参考:はやりの病気第130回(2014年6月)「渡航者は狂犬病のワクチンを」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2015年4月6日 月曜日

2015年4月6日 スタチンは糖尿病のリスク、使うならプラバスタチン

  日本ではなぜかあまり話題になりませんが、数年前からスタチンが糖尿病のリスクになることが頻繁に指摘されています。スタチンというのはコレステロールを下げる薬で、(おしなべて言えば)副作用も少なく長期使用ができて、(後発品を使えば)費用もさほどかからず、例えばイギリスでは治療薬ではなく予防薬としても用いられているくらいですから、世界で最も使われている薬のひとつです。(ちなみに、スタチンを発見したのは日本人の遠藤章博士です)

 コレステロールを下げるのは動脈硬化を予防するためであり、動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞など「死に至る病」または「寝たきりになる病」の原因です。しかし、コレステロールをスタチンで下げることに成功したとしても、そのスタチンで糖尿病のリスクが上昇するなら結局動脈硬化のリスクを下げることができないのでは?ということになります。

 スタチン療法を受けていた人では受けていなかった人に比べて2型糖尿病を発症するリスクが46%も上昇することが分かった・・・。

 これは医学誌『Diabetologia』2015年3月10日号(オンライン版)(注1)に掲載された研究結果です。

 研究では、糖尿病を患っていないフィンランドの男性約9,000人(45~73歳)をおよそ6年間追跡し、スタチン服用と糖尿病発症の関連について分析されています。対象患者の4人に1人が調査開始時にスタチンを服用しており、調査期間中に625人の(2型)糖尿病の発症が確認されています。

 分析の結果、スタチン服用者は非服用者に比べると、糖尿病の発症リスクが46%も高いことが分かったそうです。(喫煙や肥満など)他の危険因子(リスク)を調整しての結果です。

 スタチン服用者では非服用者に比べて、インスリン感受性が24%、インスリン分泌が12%低下することも分かった、と述べられています。

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 スタチンがなぜ糖尿病のリスクになるのか、はっきりとしたことは分かっていませんでしたが、in vitroの(研究室での)実験ではスタチンによりインスリン分泌が低下することは報告されていました。今回の研究で、スタチンがインスリンの感受性を低下させ(インスリンが効きにくくなるということ)、インスリンの分泌を低下させる、ということがほぼ間違いないように思えます。しかもこの研究は約9,000人と大人数を対象としていますから信憑性は高いと言えます。(もっとも、対象は白人男性だけですから、性差や人種差がある可能性はあります)

 さて、ではコレステロールを下げる薬は何を使えばいいのでしょうか。スタチン以外にもコレステロールを下げることのできる薬はありますが、スタチン以外の薬では、費用が高くつく、効果が不充分、薬によっては毎回水に溶かねばならない、など欠点が目立ちます。

 ではどうすればいいのでしょう。実はスタチンの糖尿病のリスクは「スタチンの種類」で異なります。スコットランドの大規模研究(West of Scotland Coronary Prevention Study)では、プラバスタチン使用で糖尿病のリスクがなんと30%も下がる!という結果が出ています。他の研究でも、プラバスタチンに関しては、糖尿病のリスクはさほど大きくないという結果が出ています。また、プラバスタチンは糖尿病リスク以外の他のリスク、例えば肝機能障害などのリスクが低いことも指摘されています。

 プラバスタチンが有利な理由はまだあります。ほとんどのスタチンはグレープフルーツとの相性が悪いのですが、プラバスタチンについてはグレープフルーツの影響をほとんど受けないことが分かっています。他の食べ物でも制限されるものはありません。

 日本では合計6種のスタチンがあり、そのうちの1つだけを「ベタ褒め」するのには少し気が引けますが、これだけのデータがそろえば仕方ありません。太融寺町谷口医院の患者さんのスタチン処方の95%以上はプラバスタチンです(注2)。

注1:この論文のタイトルは、「Increased risk of diabetes with statin treatments associated with impaired insulin sensitivity and insulin secretion: a 6 year follow-up study of the METSIM cohort」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00125-015-3528-5

注2:先発品のスタチンを発売している製薬会社は合計6社あります。プラバスタチンは商品名は「メバロチン」で第一三共が発売しています。他の5種をあげておくと、シンバスタチン(商品名「リポバス」MSD社)、フルバスタチン(商品名「ローコール」ノバルティス社)、アトルバスタチン(商品名「リピトール」アステラス社)、ピタバスタチン(商品名「リバロ」興和)、ロスバスタチン(商品名「クレストール」アストラゼネカ社)です。

では、なぜここまで有利なデータがそろっているのにもかかわらず、プラバスタチンの製薬会社(第一三共)は積極的なPRをしないのでしょうか。私の印象で言えば(そして他の医師も同じように感じているはずです)、現在積極的にスタチンをPRしているのはアストラゼネカ社だけです。この最大の理由は同社のスタチン「クレストール」には後発品(ジェネリック薬品)がないからでしょう。他の5種はいずれも後発品が発売されているために先発品のメーカーはそれほどPRに力を入れていないのではないでしょうか。

ならば、後発品のメーカーが積極的にPRをすればいいではないか、と思われますが、一般に後発品のメーカーは、薬価が安いこともあり元々PRにあまり費用をかけません。

結果としてプラバスタチンのように「安くて安全で効果の高い薬」が目立たなくなっているのです。

参考:メディカルエッセイ第133回(2014年2月)「スタチンの功罪とリンゴのことわざ」

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2015年4月3日 金曜日

2015年4月3日 ようやく日本も麻疹(はしか)排除認定

  長い間「麻疹(はしか)の輸出国」と揶揄されていた我が国も、ようやくWHO(世界保健機関)から排除の認定を受けました。WHOが2015年3月27日に正式に発表しています(注1)。厚生労働省はこれを受け、同日に国内に発表しました(注2)。

 WHOの発表によると、今回アジアで麻疹排除を認定されたのは、日本、ブルネイ、カンボジアの三国で、いずれの国でもワクチン接種が適切に実施されたことが排除に至った理由であるということが述べられています。

 厚労省の発表では、日本由来の麻疹ウイルスは2010年5月を最後に、それ以降は検出されていないそうです。それ以降に発症した例はすべて海外から日本に持ち込まれたケースだったようです。

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 ちなみに韓国ではすでに2006年に排除認定を受けています。その翌年の2007年に日本で流行し、アメリカやカナダに日本人が持ち込んだ例が立て続けに報告され、「日本は大丈夫なのか・・・」と世界中から心配されましたが、ようやく日本も感染症後進国から少し抜けられそうになってきました。

 豊かなブルネイはともかく、カンボジアに行ったことのある人なら、カンボジアの医療レベルと日本が同じ、とされるのに違和感を覚えることでしょう。もちろん、医療全体でみたときには日本とカンボジアが同レベルというわけではありません。しかし、感染症、とりわけ感染症の(治療ではなく)予防に関していえば、同じレベルと言わざるを得ません。

 では、日本の麻疹対策はこれで充分かと言えばそういうわけではありません。日本人の成人の麻疹抗体を測定すると陰性の人が少なくない、というか太融寺町谷口医院の例でいえば、20代後半から30代でみれば抗体ができている人の方が少数派なのです。ということは、日本にやってきた外国人(たとえば中国やフィリピンではまだ排除が認定されていません)が日本で蔓延させる、という可能性は充分にあります。

 以前も述べましたが、日本では「麻疹にかかったようなもの」という慣用句があり、これは麻疹が単なる風邪のような一過性の軽い疾患のような意味で使われています。しかし麻疹は実際には死亡例もありますし、重篤な後遺症を残す脳炎につながることもあります。

 まだワクチンを接種していない人、抗体形成の確認をしていない人は早めに確認しておいた方がいいでしょう。

注1:WHOのこの発表は下記URLで読むことができます。
http://www.wpro.who.int/mediacentre/releases/2015/20150327/en/

注2:厚生労働省のこの発表は下記URLで読むことができます。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10906000-Kenkoukyoku-Kekkakukansenshouka/img-327100220.pdf

参考:
トップページ:「風疹・麻疹(はしか)」
医療ニュース2014年3月3日「麻疹(はしか)が増加中」
はやりの病気
第46回(2007年6月)「はしかの予防接種率はなぜ低いのか」
第119回(2013年7月)「VPDを再考する」

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