医療ニュース
2014年7月7日 「赤ワインが健康に良い」は、もはや幻想・・・
「フレンチ・パラドックス」という言葉をご存知でしょうか。これは、フランス人はあぶらっこい肉料理を好んで食べて、おまけに喫煙率も高いのに、心筋梗塞など心血管系疾患の罹患率が低いことを表した言葉です。フレンチ・パラドックスの原因として90年代初頭に「赤ワイン」が注目を浴び、日本でも「健康で長生きするために赤ワインを」としきりに言われていた時期がありました。
しかし、その後の研究などで、フランスでの心血管疾患に対する統計の取り方に問題があることなどが指摘されるようになり、実際のところは他のヨーロッパ諸国と心血管疾患の罹病率に大差がないとする研究が発表されました。
これをもって、フレンチ・パラドックスは誤りだった、と多くの関係者や医師は考えたわけですが、世の中には簡単には引き下がらない人たちもいるようで、赤ワインに含まれるポリフェノールの1種のレスベラトロールこそが寿命を延ばすんだ、と主張する人たちがでてきました。レスベラトロールのサプリメントも登場し、いまやアメリカだけでレスベラトロールのサプリメントの市場は3,000万ドル(約30億円)にもなるそうです。
しかし、赤ワインが健康食品として一人歩きしたように、レスベラトロールも有効性が充分に検証されないまま市場に大きく広がってしまいました。(おそらくこの”首謀者”は、赤ワインやサプリメントが好きな医療者や研究者でしょう。マルチビタミンやミネラルなどのサプリメントについては、ここ10年くらいは有害性が次第に指摘されるようになってきていますが、それでもごくわずかとはいえサプリメントを信奉する医師がいるのも事実です)
そんななか、ついにレスベラトロールが心血管系の予防には無関係であるという研究結果がでました。医学誌『JAMA Internal Medicine』2014年5月12日号(オンライン版)で発表されています(注1)。
この研究の対象者は、イタリアのトスカーナ州のキャンティと呼ばれる地域(ワイン生産で有名な土地だそうです)に在住の65歳以上の男女783人です。調査期間は1998年から2009年で、各人につき9年間の追跡調査がおこなわれています。期間中に合計268人が死亡し、そのうち174人が心血管系疾患、34人が悪性腫瘍であったようです。
レスベラトロールの尿中濃度により対象者が4つのグループにわけられています。尿中濃度が最も高いグループと低いグループで死亡率に有意差が認められず、心血管疾患に対しても悪性腫瘍に対しても予防効果はなかったようです。さらに、この研究では、心血管疾患や悪性腫瘍の指標に使われる検査値(C反応性蛋白(CRP)、IL-6、IL-1β、TNFなど)にも、レスベラトロールの濃度による差は一切認められなかったようです。
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私がこの研究を初めて目にしたのは医学関連の情報ツールではなく、一般の週刊誌(『週間ダイヤモンド』)でした。この研究は少し対象者が少ないように思われますが、一般の週刊誌が取り上げたということはそれだけ世間から強い関心が持たれているということでしょう。
赤ワインにもレスベラトロールにも長寿や疾患予防への期待はすべきではありませんが、赤ワインを飲んではいけないというわけではもちろんありません。少量の飲酒が心血管系疾患のリスクを減少させるという研究はいくつもあります。ただし、飲み過ぎると健康を害するのは間違いなく、また比較的少量のアルコール摂取でも発ガンリスクが上昇するという研究もあります。
つまらない結論になりますが、赤ワインに過度な期待をするのではなく、少量を味わって楽しく飲むのが一番いいというわけです。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Resveratrol Levels and All-Cause Mortality in Older Community-Dwelling Adults」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1868537&resultClick=3
参考:医療ニュース
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2013年10月4日「女性も多量飲酒で脳卒中のリスクが増加」
2011年4月18日「ビール中ジョッキ1杯で発ガンリスクが上昇・・・」
2009年10月8日 「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」
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