医療ニュース

2021年4月28日 水曜日

2021年4月28日 「濃厚接触」の定義はどのように変わったのか

 「濃厚接触」、1年前から毎日何度も聞くようになった言葉です。

 「わたしは濃厚接触になりますか?」「保健所からは濃厚接触ではないと言われたのですが…」「濃厚接触の人と接したわたしも濃厚接触ですか?」などなど、この濃厚接触という言葉をめぐって今も毎日多くの問合せが寄せられています。

 その(新型コロナウイルスに関する)濃厚接触の定義が最近変更になりました。

 下記は変更前の定義です。国立感染症研究所による「新型コロナウイルス感染症者に対する積極的疫学調査実施要項」(2020年5月29日版)に記載されています。

「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ)の感染可能期間において当該患者が入院、宿泊療養又は自宅療養を開始するまでに接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

 (1)患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者

 (2)適切な感染防護なしに患者(確定例)を診察、看護もしくは介護していた者

 (3)患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者

 (4)その他:手で触れることのできる距離(目安として1m)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

 2021年4月20日、この定義が見直されました。厚労省のサイトにも書かれていますが、より分かりやすいのはNHKの説明です。

 ポイントは「発症の2日前から1メートル以内で15分以上接触」という点です。以前は「期間」についての記述があいまいでしたが、新しい定義でははっきりと「発症の2日前」とされています。距離については、以前は2メートルで新しい基準は1メートル、時間は変わらずに「15分間」です。

 2メートルから1メートルに距離は縮められたわけですから、ここだけを見ると、「以前は濃厚接触だったけれど新しい定義では濃厚接触にならない」ケースが増えるように思えますが、NHKは「今回の変更で全国的に増加する見通し」と断定しています。これは、「発症の2日前」と断定されたことで該当者が大幅に増加すると考えているからです。

 無症状の発症前の2日間は行動範囲が広いことが予想されますから、そうなるのは当然でしょう。

 ただし、あまりこの定義にはこだわらない方がいいと思います。また、「保健所が濃厚接触でないと言ったから…」というのも感染していない理由にはなりません。実際、保健所からは濃厚接触でないと言われ感染していた人も大勢います。

 結論としては「気になれば検査を」です。太融寺町谷口医院では、当院をかかりつけ医にしている人と海外渡航目的の人以外は新型コロナウイルスの検査をおこなっていませんが、最近は民間の検査会社が驚くほど低価格(当院が使っているロシュ社製の検査は何倍もします)で検査を実施しています。精度に問題があるという指摘もあるようですが、しないよりはましです。依然として医療者のなかには「PCRの対象を絞れ」という意見も多いのですが、私自身は「疑えば検査を」と言い続けています。

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2021年4月28日 水曜日

2021年4月27日 たった一度の頭部外傷で認知症リスクが上昇

 慢性外傷性脳症(以下「CTE」)の恐ろしさについてこれまで繰り返し述べてきました。今も日本ではこの疾患があまり注目されていませんが、スポーツに捧げた人生の最期が悲惨なものになることから、海外ではサッカーを含むコンタクトスポーツの是非が見直されつつあります。

 一般にCTEは繰り返し脳震盪を起こしたような人がハイリスクと言われています。では”繰り返さなければ”リスクは低いのでしょうか。

 たった一度の頭部外傷で認知症のリスクが上昇する……

 医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月9日号(オンライン版)に掲載された論文でこのようなことが言われています。論文のタイトルは「頭部外傷と認知症の25年間のリスク(Head injury and 25‐year risk of dementia)」で、要約すると「たった一度でも頭部外傷の経験があれば後年に認知症を発症するリスクが25%高く、受傷回数が多いほどそのリスクは上昇する」というものです。

 研究の対象は米国のARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)と呼ばれる研究に参加した14,376人(研究開始時の平均年齢は54歳、56%が女性)。追跡期間中(中央値25年)に、対面または電話で頭部外傷に関する聞き取り調査をおこない、さらに対象者のカルテから過去の頭部外傷のエピソードが調べられています。

 認知症との関係を分析したところ、認知症を発症した人の9.5%が、過去に生じた1回以上の頭部外傷に関連していることが分かりました。頭部外傷のエピソードがある人とない人を比較すると、一度のエピソードがある人は、後年に認知症を発症するリスクが25%高いことが分かりました。2回以上あれば25年後の発症リスクが2倍以上になっていました。

 男女の比較では、女性の方がリスクが高く(女性1.69倍、男性1.15倍)、白人の方が黒人よりもリスクが高い(白人1.55倍、黒人1.22倍)ことが分かりました。

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 どうやら、我々の頭部は固い頭蓋骨に保護されているとはいえ、それほど強固なものではなさそうです。コンタクトスポーツのみならず、日常生活でも注意すべきでしょう。バイク乗車はもちろん、自転車でもヘルメット装着がもっと検討されてもいいかもしれません。

参考:

医療ニュース
2020年8月17日「小児のヘディングは禁止すべきか」
2019年11月23日「やはりサッカーも認知症のリスク」
はやりの病気
第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」

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2021年4月1日 木曜日

2021年3月31日 心臓の病気で死にやすいのは低所得で運動しない人?

 心疾患に関する論文で興味深いものが2つありましたのでまとめて紹介します。

 ひとつめは「運動不足の人は心臓発作で死にやすい」とするものです。医学誌「European Journal of Preventive Cardiology」2021年2月10日号に掲載された論文「死に至る心筋梗塞と過去の身体活動レベルとの関連 (Association of fatal myocardial infarction with past level of physical activity: a pooled analysis of cohort studies)」によると、日ごろの身体活動量が多い人は、たとえ心筋梗塞の発作を起こしたとしても、死亡しにくいことが分かりました。

 この研究はこれまでに発表された10件の研究を統合して解析し直すこと(メタ解析)によりおこなわれています。研究の対象となった総人数は1,495,254人。追跡期間中に心筋梗塞を発症したのは28,140人。そのなかで発症後28日以内に死亡したのが4,976人(17.7%)でした。

 対象者は身体活動量によって4つにわけられています。「ほとんど運動しないグループ」、「低運動グループ」、「中運動グループ」、「高運動グループ」の4つです。

 「ほとんど運動しないグループ」に比べて、「低運動グループ」、「中運動グループ」、「高運動グループ」は死亡リスクがそれぞれ、21%、33%、45%少ないことが分かりました。

 もうひとつの研究は「収入が多い人ほど心臓が丈夫」とするもので、これは日本の研究です。医学誌「Journal of Occupational Health」2020年2月2日号に掲載された論文「東京の労働者、社会経済的地位が運動習慣と心肺機能に関連 (Socioeconomic status relates to exercise habits and cardiorespiratory fitness among workers in the Tokyo area)」によると、雇用形態や収入、学歴と、運動習慣や心肺機能に関連のあることが分かりました。

 この研究の対象者は東京、埼玉、千葉、神奈川のいずれかに在住で、1日6時間以上、週3日以上働いている20~65歳9,406人(うち男性は56.0%)です。調査は2018年1月~7月にウェブサイト上でおこなわれました。結果は次の通りです。

・年齢と運動習慣の有無は無関係
・既婚者の方が未婚者より運動している(34.7% vs 30.9%)
・高学歴者の方が運動している(大学院卒36.7% vs 高卒者27.8%)
・経営者(雇用者)>正社員(フルタイム従業員)>パートタイムワーカーの順に運動している(41.5% > 36.7% > 27.8%)
・標準体重の人は肥満者ややせている者よりよく運動している

 この研究が興味深いのは、(ウェブ上のアンケートですから)実際には測定していないものの、年齢、性別、BMI、身体活動量から最大酸素摂取量を算出し、これと社会的因子の関係を調べていることです。最大酸素摂取量が大きいほど心配機能が高いと考えればOKです。
 
 その結果、心配機能の高低には次のように関係があることが分かりました。

・大卒者 > 高卒者
・経営者(雇用者)>フルタイム従業員>パートタイムワーカー

 さらに、年収上位3分の1のグループは、下位3分の1のグループに比べて運動習慣がある確率が76%高く、心肺能力が劣る確率が47%低いことがわかりました。

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 2つの論文をまとめると、運動すれば心臓が強くなり(これは当然と言えば当然)、学歴が高く収入が多いほど運動していて心肺機能が高い、となります。最近、所得で寿命が決まるというようなことがよく言われます。それを裏付けるような研究と言えるかもしれません。

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2021年4月1日 木曜日

2021年3月31日 ステロイドは塗り薬でも骨粗しょう症のリスク増大

 アトピー性皮膚炎(以下、単に「アトピー」)の治療の最大のポイントはステロイドを早く終わらせることです!

 これは太融寺町谷口医院でほぼすべてのアトピーの患者さんに対して15年前から言い続けている言葉です。ほぼ100%の患者さんに「ステロイドを塗るのは今から1週間のみ。その後は生涯塗らなくてOK」と伝えています。そして、実際、きちんとケアをすればほとんどの患者さんがステロイドゼロにもっていけます(ただし頭皮は除く)。

 しかしながら、痒みがとれれば「忙しい」などを言い訳にしてケアを怠り、再びステロイドが必要になる人もいます。そういう人には「今度こそ今から1週間が生涯最後のステロイド」と伝えるのですが、やはりケアを怠って……、という人もなかにはいます。今回はそんな人にこそ知ってもらいたい研究結果です。

 ステロイドは塗り薬でも骨粗しょう症や骨折のリスクになる!

 医学誌「JAMA Dermatology」2021年1月20日号に掲載された論文「ステロイド外用薬と骨粗しょう症および骨粗鬆しょうが原因の骨折のリスクとの関連 (Association of Potent and Very Potent Topical Corticosteroids and the Risk of Osteoporosis and Major Osteoporotic Fractures)」で報告されています。

 この研究の対象者はデンマークの723,251人。データベースを用いて解析されています。ステロイド外用の累積使用量が500g未満に比べて、501~999gの場合、骨粗しょう症が原因の骨折のリスクが1.01倍に、1,000~1,999gであれば1.05倍に上昇します。2,000~9,999gなら1.10倍、10,000g以上になると1.27倍にもなります。

 また、ステロイド使用量が倍になる度に骨粗しょう症及び骨粗しょう症が原因の骨折のリスクが3%ずつ増加するという結果も出ています。

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 ステロイド10,000gというと、1本が5gの軟膏でいえば2,000本に相当します。2,000本と聞くと多いような気がしますが、太融寺町谷口医院を受診する人のなかには、「これまでの人生でそれ以上使ってきた」と答える人も少なくありません。例えば、月に20本使えば8年4か月で”達成”してしまいます。

 ステロイド外用で骨折が起こるということは当然血中に吸収されているということです。血中にステロイドが吸収されているのなら、骨折以外にも当然様々な副作用が起こり得ます。

 私が医師になり20年近くがたちますが、以前に比べてステロイドに対する危機感が社会全体で薄れているような気がします。改めてステロイドのリスクを見直す必要があります。ちなみに、この研究の対象とされたステロイドは先発品でいえば「フルメタ」です。

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