医療ニュース
2018年2月26日 月曜日
2018年2月26日 片頭痛は心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症のリスク
ちょっと物議をかもしそうな論文が発表されました。
今から8年前の2010年6月、「片頭痛は脳梗塞のリスク」という論文が発表され、このときは一般のメディアで取り上げられたこともあり話題になりました。この論文の主旨は「前兆(閃輝暗点)を伴う片頭痛のある女性は脳梗塞を起こしやすい」というものでした(注1)。
今回発表された論文はデンマークの住民を対象としたもので、2010年のものよりも調査の規模がかなり大きく、また結果もインパクトの強いものです。医学誌『British Medical Journal』2018年1月31日(オンライン版)(注2)に掲載されました。
研究の対象者は、デンマークの51,032人の片頭痛患者、対照は510,320人の一般住民。調査期間は1995年から2013年です。結果は以下の通りです。数字は「片頭痛あり」と「片頭痛なし」は1,000人あたりの発症者の人数、「リスク」は片頭痛があればない人に比べて何倍になるかを示しています。
片頭痛あり 片頭痛なし リスク
心筋梗塞 25 17 1.49
脳梗塞 45 25 2.26
脳出血 11 6 1.94
静脈血栓症 27 18 1.59
心房細動・粗動 47 34 1.25
さらに、脳卒中(脳梗塞+脳出血)は、片頭痛の診断がついてから短い人の方が発症しやすいことが分かりました。また、閃輝暗点と呼ばれる目の前がチカチカする前兆(これを英語でauraと呼びます。「あの人にはオーラがある」と使うときのオーラと同じ単語です)を伴う人の方がない場合よりもリスクが高いという結果が出ています。性差としては女性にリスクが高いようです。
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女性で前兆を伴う片頭痛があれば脳梗塞のリスクという2010年の発表に矛盾しない結果となっています。さらに、脳梗塞のみならず他の心血管疾患のリスクにもなるという結果がでたわけです。
では(特に前兆のある)片頭痛を持っている人がすべきことは何か。まず、こういった心血管疾患の他のリスクを取り除くことが最重要です。喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病があればそれらを治すことを考えるべきです。
同時にすべきことは「規則正しい生活」です。毎日同じ時間に起きて、できるだけ同じ時間に就寝する、これを徹底するだけで頭痛の頻度が大きく減少する人は少なくありません。そして「治療」です。治療には症状が生じたときに飲む薬のみならず、頻度の多い人は予防薬を上手に使うことが大切になってきます。
注1:過去の「医療ニュース」で取り上げたことがあります。
医療ニュース2017年2月10日「片頭痛があると術後脳卒中のリスク上昇か」
注2:この論文のタイトルは「Migraine and risk of cardiovascular diseases: Danish population based matched cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。
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|2018年2月26日 月曜日
2018年2月25日 ペットは精神状態を癒してくれる
ペットと一緒にいると心が癒される、というのは多くの人が感じていることです。そして、これは科学的にも正しいようです。
英国リバプール大学が、ペットと飼い主の精神状況の関係についてこれまでに公表された合計17の研究を総合的に解析し(これを「メタアナリシス」と呼びます)、結果を医学誌『BMC Psychiatry』2018年2月5日号(オンライン版)(注1)に発表しました。
ペットの肯定的な側面と否定的な側面についてそれぞれ考察されています。肯定的な面としては、「つながり」(connectivity)が強くなり、飼い主の精神状態がいくつもの方法で(multifaceted ways)安定することが分かり、特に「危機的な状況」(crisis)になったときにペットは強い味方となってくれるようです。
一方、否定的な面として、ペットを飼うことの実際的または精神的な「負担」(burden)が挙げられています。また、ペットを失くしたときの心理的ダメージも指摘されています。
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論文では、研究者らは「さらなる調査が必要」としていますが、この研究は特に真新しい発見があるわけではなく、ほとんどの人が同意することでしょう。先日は「犬を飼えば長生きできる」という研究結果を報告しました。我々は、犬や猫と共に過ごすことが‶自然”なのかもしれません。ただし、一方で、ペットからうつる感染症や「権勢症候群」といった少しやっかいな問題があることもお忘れなく。
注1:この論文のタイトルは「The power of support from companion animals for people living with mental health problems: a systematic review and narrative synthesis of the evidence」で、下記URLで全文を読むことができます。
https://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12888-018-1613-2
また、医師向けのポータルサイト「Physician’s Briefing」でも紹介されています。
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|2018年2月2日 金曜日
2018年2月2日 インフルエンザワクチンの「謎」が解けたかも…
インフルエンザのワクチンは有効だが完全ではなく、そのため”誤解”が多いということは過去に何度か述べています。なぜ”誤解”が多いかは過去に書いたもの(注1)を見ていただきたいのですが、今回は我々医療者も以前から感じていたある「謎」が解けたかもしれない、という話をしたいと思います。
その「謎」とは、「なぜベテランの医師でなく若い研修医に感染するのか」、というものです。医師だけではありません。看護師も他のメディカルスタッフもベテランよりも若手が感染するのです。そのため、若い看護師は「日ごろの体調管理がなってない!」と自分の母親くらいの年齢の先輩看護師から叱られることになります。
この理由として、よく言われるのが「若手の医師や看護師の方が患者さんと接する時間が長く、熱心であればあるほど感染しやすい」というものがあります。また、「ベテランの医療者は若い頃に何度かかかっているから免疫がある」というものもあります。この2つの意見はどちらも正しいとは思います。ですが、あまり”熱心でない”若手の医療者も感染しますし、何度もかかっている(医療者以外の)高齢者も感染します。そして、高齢者の場合重症化して死に至ることもあります。
インフルエンザを軽く考える人もいますが、年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。(参考:厚労省の該当ページ)
さて、なぜベテランの医療者はインフルエンザにかかりにくいのか、その「謎」が解けたかもしれない研究を紹介したいと思います。それは、「ワクチンは毎年接種で効果が高くなる」というものです。なるほど、医療者なら毎年ワクチンを接種することを義務付けられていますから、今年は忙しくてうてなかった、ということはありません。
この研究は医学誌『Canadian Medical Association Journal』2018年1月8日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。この医学誌はカナダ発のものですが、研究の対象者はスペイン人です。スペインの病院20施設で2013年から2015年のシーズンにインフルエンザで入院した65歳以上の患者について調査されています。
結果は想像以上のものです。過去4年間で一度もワクチンを接種していない人に比べると、4年連続でワクチンをうっている人は「軽症インフルエンザ」への罹患が31%少なかったのです。31%ならそう多くないかも…、と思えるかもしれませんが、重症例では歴然とした差が出ています。ワクチンを連続して接種していると、集中治療室に入らなければならないような「重症インフルエンザ」を74%減らすことができ、インフルエンザでの死亡は70%減らせることが分かったのです。
そして、興味深いことに、その年にしか接種しなかった人では未接種の人と比べて大差なかったのです。その年と過去3年間で1回(つまり合計2回)接種していた場合は重症化を55%減らせていました。
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この研究が正しいとすれば、ベテランの医療者はインフルエンザに感染しにくく、また感染してもより軽症で済むということになります。ということは、若い医療者たちは「日ごろの健康管理がなっていない」からインフルエンザに感染するのではなく、単にベテランの人たちが繰り返しワクチン接種をしているからだ、ということになります。ベテラン勢はもう少し謙虚になった方がいいのかもしれません…。
注1:下記を参照ください。
そもそもインフルエンザのワクチンって効くの?
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月31日「インフルエンザワクチンは必要?不要?」
注2:この論文のタイトルは「Repeated influenza vaccination for preventing severe and fatal influenza infection in older adults」で、下記URLで全文を読むことができます。
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|2018年2月1日 木曜日
2018年2月1日 妊娠中のアセトアミノフェンで言語発達の遅れ?
「妊娠中には市販のものも含めて風邪薬や解熱鎮痛剤はほとんど飲めない。どうしても必要なときにはアセトアミノフェンを使用しなければならない」ということは過去にもお伝えしてきました。また、そのアセトアミノフェンも妊娠中の危険性を指摘する意見がなくはなく、新生児のADHD(注意欠陥多動性障害)のリスクとなるという研究も紹介しました(いずれも下記参考文献を参照)。
今回、新たに妊娠中のアセトアミノフェンの危険性についての研究が発表されましたので報告します。医学誌『European Psychiatry』2018年1月10日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。
研究の対象者はスウェーデンの妊娠8~13週に登録された妊婦754人です。妊娠中のアセトアミノフェンの使用と生後30カ月(2歳6カ月)での子供の言語発達との関係が解析されています。
結果は、まず妊娠8~13週の間にアセトアミノフェンを内服していた妊婦は全体の59.2%。言語発達の遅滞は女児(4.1%)より男児(12.6%)に多いものの、アセトアミノフェンとの関連があったのは女児のみでした。妊娠中にアセトアミノフェンを1日6錠(注2)以上内服すると、まったく飲まない妊婦に比べて女児の言語遅滞がみられるリスクが5.92倍増加しています。また、リスクは内服量にも影響するようで、尿中アセトアミノフェン濃度が最も高かった母親から生まれた女児は、最も低かった母親に比べてリスクが10.34倍にもなっています。
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妊娠中に頭痛や発熱が起こったときに何もせずに放っておくと、胎児に影響を与える可能性があります。一方、バファリンやロキソニンといったNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬は内服すべきでありません。もちろん麻薬(オピオイド系)は論外です。痛みや発熱が生じたときにはアセトアミノフェンに頼らざるを得ません。
月並みなコメントになりますが、まずは健康に注意し、規則正しい生活をこころがけ(頭痛は生活の乱れがリスクとなります)、可能な限り鎮痛薬に頼らぬよう予防することが最重要となります。
注1:この論文のタイトルは「Prenatal exposure to acetaminophen and children’s language development at 30 months」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.europsy-journal.com/article/S0924-9338(17)32989-9/abstract
注2:論文にはミリグラム数が記載されていません。日本ではアセトアミノフェンの製剤は1錠200mgが多いのですが、海外では300mgが一般的です。海外での6錠(1,800mg)は日本の9錠に相当するのではないかと思われます。(ただし、スウェーデンに渡航したことのない私には確証はもてません)
参考:
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月10日「解熱鎮痛剤 安易に使うべからず」
医療ニュース2015年1月30日「妊娠中のアセトアミノフェンの是非は?」
医療ニュース2014年4月4日「妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?」
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|2018年2月1日 木曜日
2018年1月31日 うつ病の背景にヘルペス2型とサイトメガロが?
うつ病は心(精神)の病であり、通常は感染症とは無関係です。一方、疲労についてはヘルペスウイルス6型(HHV-6)との関連が指摘されています。HHV-6は幼少期に感染する突発性発疹の原因ウイルスのひとつで、いったん感染するとウイルス自体は生涯体内から消えません。また、疲労が強いときに口唇ヘルペスや性器ヘルペスを発症しやすくなりますから疲労が単純ヘルペス1型(HSV-1)や2型(HSV-2)と関連しているのも間違いありません。(ちなみに、昔はHSV-1が口唇ヘルペス、HSV-2が性器ヘルペスの原因と言われていましたが、実際には口唇ヘルペスの病変からHSV-2が、性器ヘルペスからHSV-1が検出されることも多々あります)
しかし、疲労ではなくうつ病が一部のウイルス感染が関与しているという研究が発表されました。医学誌『Psychiatry Research』2018年3月号(オンライン版)(注1)に掲載されています。
研究の対象は米国の成人で、CDC(米国疾病管理局)の国民健康栄養研究調査(National Health and Nutrition Examination Survey)のデータを解析することによりおこなわれています。研究の対象となった感染症はいずれもウイルスで次の6つ。A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、HSV-1、HSV-2、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、サイトメガロウイルス(CMV)です。
うつ病と関連があることがわかったのはHSV-2とCMVです。HSV-2感染はうつ病のリスクを上昇させ、CMVはその抗体価が高ければうつ病を発症しやすくなるとの結果がでています。
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CMVは幼少時もしくは青年期までに感染することが多く、抗体価が高くなるのは免疫が低下したときです。例えば、HIVに感染して無治療でいるとCMVは活性化し、その結果、抗体価が高くなります。(CMVの抗体はCMVをやっつけることはできません) 一方、HIV感染とうつとはいかにも関係がありそうですが、これが否定される結果となりました。ということは、HIV感染→免疫能低下→CMV抗体価上昇→うつ病、というわけではないということになります。
また、HSV-1では無関係で、HSV-2のみがうつ病のリスクになるというのは、それを説明する合理的な理由が見当たりません。
まだまだ謎だらけのウイルスとうつの関係と言えそうです。また、冒頭で述べた疲労の原因であることが分かっているHHV-6とうつの関係も知りたいところです。
注1:この論文のタイトルは「Association between virus exposure and depression in US adults」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.psy-journal.com/article/S0165-1781(17)30980-0/abstract
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