医療ニュース
2017年5月10日 スタチンで糖尿病患者の下肢切断リスクが低下
ここ数年「スタチン」と呼ばれるコレステロールの薬が話題になることが増えてきました。その理由はおもに2つあります。
1つは、2010年9月に日本脂質栄養学会が「コレステロールは下げる必要がない」といった内容の発表をおこなったことです。このときマスコミは「コレステロールは高いほど長生きする」といった報道をおこない随分と物議を醸しました。コレステロール値は下げるべきか下げなくていいのか、実はこの論争は今も続いており、日本脂質栄養学会は「下げるべきでない」という考えを今も変えていません。一方、日本動脈学会をはじめとするいくつかの大きな学会や日本医師会は従来どおりの基準を守るべき、つまり高ければ治療すべき、という考えです。(このあたりの詳細は過去のコラム(注1)を参照ください)
もうひとつ、スタチンが話題になるのは「スタチンを内服することにより糖尿病のリスクが上昇する」と言われだしたからです。フィンランドの大規模調査ではっきりと有意差をもってこれが実証され、使用に慎重さが求められるようになりました。ただし、スタチンの種類にもより、例えばプラバスタチンは逆に糖尿病のリスクが3割も下がるという調査もあります。(詳細は過去のコラム(注2)を参照ください)
問題なのは、自分自身の判断でこれまで処方されていたスタチンを勝手にやめてしまう患者さんがいることです。病気や薬というのは、それほど単純なものではなく週刊誌の報道をみて自分で中止したり開始したりすべきではありません。医師で意見が異なることがあるのは事実ですが、例えば「LDLコレステロールが〇〇mg/dL以上ならこのスタチンを開始すべき」と簡単に決められるわけではありません。その人の年齢、性別、体重、運動度、ライフスタイル、他の疾患の有無などを考慮して総合的に判断します。
私は過去のコラム(注2)で、スタチンはまず使うならプラバスタチンがいいということを述べましたが、盲目的にプラバスタチンを処方しているわけではありません。患者さんごとにどのスタチンが最も適しているかを判断する必要があるのです。
今回お伝えしたい情報は「スタチンの使用で糖尿病患者の下肢切断リスクが低下する」という研究です(注3)。糖尿病が進行すると下肢の血行が不良となり、切断せざるを得なくなります。このようなことはなんとしても避けなければなりませんから、血糖コントロールは非常に重要です。そして、糖尿病がある人の多くが高コレステロール血症ももっています。そのときに「糖尿病が怖いから」という理由でスタチンを自分の判断で中止するようなことがあってはいけません。今回の研究はむしろスタチンを内服することによって糖尿病の合併症を防げるとしています。
研究は台湾のものです。対象者は台湾在住で糖尿病と末梢動脈疾患を有する20歳以上の69,332人です。スタチン使用者が11,409人、スタチン以外の脂質低下薬使用者が4,430人、非使用者が53,493人です。
データベースを用いて解析した結果、スタチン使用者は非使用者に比べ、下肢を切断するリスクが25%、院内心血管死亡率が22%、全死因死亡率が27%低かったことが判りました。
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糖尿病がある場合、LDLコレステロールの基準を低くするのが基本です。糖尿病も高血圧も肥満も喫煙も他のリスクもない場合、少々基準値を超えていてもスタチンの処方は必ずしも必要ありませんが、糖尿病があれば(もちろんその程度にもよりますが)LDLコレステロールの基準をかなり厳しくすることもあります。
結論としては、自分の判断で薬を中止するのではなく「スタチンを含めて現在の内服薬がなぜ必要か」について納得いくまで主治医と話をすることです。
注1:メディカルエッセイ第101回(2011年6月)「過熱するコレステロール論争」
注2:医療ニュース2015年4月6日「スタチンは糖尿病のリスク、使うならプラバスタチン」
注3:この論文のタイトルは「Statin therapy reduces future risk of lower limb amputation in patient with diabetes and peripheral artery disease」で、下記URLで概要を読むことができます。
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