医療ニュース

2025年8月28日 悪玉コレステロール(LDL)を上昇させる真犯人

 卵を食べるとコレステロールが上がるから控えるように言われています……。

 谷口医院をオープンしてから、何人の患者さんにこのセリフを言われたか、たぶん千回は超えているでしょう。その度に私は「そんな必要ありません」と答えてきました。なぜか。私のそれまでの臨床経験から判断して「たしかに卵をたくさん食べてLDLコレステロールが上昇する人がいるが、上がらない人もいる。むしろ他の”犯人”が重要」だからです。

 この私の考えに自信ができたのは2015年の米国のガイドラインでした。食事性コレステロールが「懸念される栄養素」から削除されたのです。このガイドラインにははっきりと「卵を食べてもいい」とは書かれていませんが、「食事性コレステロール」の代表が卵です。つまり、このガイドラインは「卵には健康上有害性がない」と断言したのです。

 しかしながら、一方では、卵が血中コレステロールを上昇させ心血管系疾患のリスクになることを示唆する研究もあります。いったい、どちらが正しいのか。その答えは「個人差が大きく試してみるまで分からない」となります。ただし、私の個人的な臨床経験で言えば「卵を制限する必要はほとんどない」です。

 医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」の2025年7月号に掲載された論文「卵と飽和脂肪酸由来の食事性コレステロールがLDLコレステロール値に与える影響:ランダム化クロスオーバー研究(Impact of dietary cholesterol from eggs and saturated fat on LDL cholesterol levels: a randomized cross-over study)」によると、飽和脂肪酸の摂取量を減らせば、むしろ卵を2個食べた方が卵を食べないときよりもLDLコレステロールが低下することが分かりました。

 では、いったい何がLDLコレステロールを上昇させるのか。その「答え」はこの論文に書かれているように「飽和脂肪酸」です。当院の経験でいえば、飽和脂肪酸を多く含む食品のなかでも最もLDLコレステロールが上昇しやすいのは次の3つです。

・ポテトチップスを代表とするスナック菓子
・ケーキやシュークリーム
・揚げ物(フライドポテトやから揚げなど)

 上記論文にも述べられているように、卵は「食物コレステロールは豊富で飽和脂肪が少ないユニークな食品」です。卵も極端に大量に食べればLDLが上昇するかもしれませんが、論文では「1日2個の摂取でLDLコレステロールが低下する」としているわけです。そして、卵は良質な蛋白質やアミノ酸がたくさん摂れます。一方、飽和脂肪酸は”諸悪の根源”なのです。

    ************

 診察室で患者さんから話を聞いていると、「卵を控えてこれまでの人生、随分損をしてきましたね」と言いたくなることがあります。もしも今も控えている人がいるなら、そんなルールは直ちに撤廃して卵料理を楽しみましょう。

 しかし、なかには卵を増やして上昇する人がいるのは事実です。たとえば、卵が入ったお菓子を増やせばLDLコレステロールは上昇します。私の場合、夜中に大量の脂っこい料理の外食を続けた結果、LDLコレステロールが一気に上昇したことがあります(参考:はやりの病気第65回(2009年1月)「突然やってきた脂質異常症」)。

 また、どのように食事を変更しても一向にLDLコレステロールが改善しない人もなかにはいます。卵をどのように増やしていけばいいのか、現在の食事内容に問題はないのか、などについて疑問がある人はかかりつけ医に相談しましょう。

月別アーカイブ