はやりの病気
第65回 突然やってきた脂質異常症 2009/1/21
それは何の前触れもなくやってきました。
太融寺町谷口医院では、院内の定期健康診断というものがあります。これは、通常の企業と同じように従業員の健康診断を年に一度おこなう健診で、心電図、胸部X線、尿検査、そして血液検査があります。
私はこれまでの人生で、ひどい下痢や高熱のときなど以外では血液検査でほとんど異常が出たこともなく、健診での血液検査の異常などというのは、年齢的には出現してもおかしくないということは理屈では分かっていても、まさか自分にはないだろうと思っていたのです。
ところが、です。返ってきた検査結果を見て私は愕然となりました。
なんと、総コレステロール値が280mg/dL!
すぐにでも薬を開始しなければならないような異常高値です。これには本当にショックを受けました。太融寺町谷口医院にもコレステロールが高い患者さんは毎日のように受診されています。私はそのような患者さんに対して、薬を処方するだけでなく生活指導もおこなわなければならない立場です。それなのに、私自身が高コレステロール血症をもっており、それも決して軽症ではない数値なのです。
コレステロールは数値にもよりますが、総コレステロールが280mg/dLというのは、もう「食事療法や運動療法で・・・」とか言っているレベルを超えています。そういった生活習慣の改善をしなければならないのはもちろんですが、それらと同時に薬を始めなければなりません。
早速私は薬を飲み始めることにしました。コレステロールの薬は、非常によく効くものがいくつもありますが、私はまずは標準的な薬を1錠だけ始めることにしました。ちょうど2週間後に採血をすると、私のコレステロール値は正常範囲におさまっていました。
それにしても、なぜ前年までの血液検査では異常がなかったのに、今冬になって突然コレステロールの値が急上昇したのでしょうか。
その最大の原因はおそらく不規則な食事でしょう。中性脂肪が運動をしたり体重を減らしたりすることによって大きく改善することが期待できるのに対し、コレステロール(悪玉コレステロール)は食事の内容により大きな影響を受けます。
実は私はちょうど今から1年くらい前、2008年1月頃から1日に1食しか食べないようになりました。これは別に変な健康法を始めたからではなく、食べる時間を捻出できなかったからです。
午前の診療が終わり、それから事務仕事をしているとすぐに午後の診察が始まります。昼食をとっている余裕はありません。午後の最後の患者さんの診察が終わって、それからカルテ記載や写真の整理、検査値の見直しなどをしていると通常は日付が変わります。それから、読まなければならない学会誌などを手にもってご飯を食べにいきます。朝ごはんを食べる時間があるなら、その時間を睡眠か勉強に使いたいですから、その頃には朝食も抜いていました。ということは1日1食、深夜の食事で1日に必要な栄養をすべて取らなければなりません。最も効率よくカロリーを摂取するのは高脂肪食が最適です。というわけで、私の食事はいつのまにか1日1回、深夜の高脂肪食になっていました。
そんな夜中に高脂肪食なんてどこで食べるの?と感じる人もいるかもしれませんが、太融寺町谷口医院は東梅田のど真ん中、深夜まで開いている食堂はいくらでもあります。私は、今日は牛丼、昨日はカツカレー、その前は焼き飯と酢豚、・・・といった感じで、メニューを決めるときはできるだけ高脂肪食のものを選んでいたというわけです。
寝る前にそんなものを食べて太らないの?と思われる人がいるかもしれませんが、私の計算ではカロリー過剰摂取にはならないのです。私が夜中に食べていた油っこい食事はおなかいっぱい食べても1,200~1,600キロカロリー程度です。私の年齢・体重から考えて最適なカロリー量は2,000~2,200キロカロリーだと思われます。ですから、夜中に満腹まで食べて、それ以外に缶ビールを飲むとかお菓子を食べるとかして、ちょうどいいくらいなのです。実際、私の体重は1年間でほとんど変わりませんでした。
ここで脂質異常症の整理をしておきましょう。
まず、「脂質異常症」という言葉ですが、以前は「高脂血症」と呼ばれていましたし、現在も脂質異常症というよりは、高脂血症という言い方の方が一般的かもしれません。(「脂質異常症」という表現は2007年2月に日本動脈硬化学会が発表したガイドラインで初めて登場しました)
脂質異常症には主に3つに分けられます。高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症です。高LDL血症というのは、LDL(悪玉コレステロール)が異常高値を示す病態で、私もこれに相当します。
先に、私の総コレステロールの値は280mg/dLだった、と述べましたが、最近は総コレステロール値を計測することは少なくなってきており、太融寺町谷口医院でも通常は患者さんの総コレステロール値は測定せずに、LDL、HDL(善玉コレステロール)、中性脂肪(TG)の3つを測ります。では、なぜ私は自分自身に対しては総コレステロール値を計測したかというと、これは健康診断での測定だからです。健康診断の詳細を規定している労働安全衛生法による指針が、LDLでなく総コレステロール値になっているからです。
高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症の3つを比較した場合、臨床的に最も多いのが私と同じ高LDL血症です。高LDL血症は、肥満やメタボリックシンドロームと合併することも多いですが、そうでない場合も少なくありません。例えば、20代(なかには10代の人もいます)の痩せている人でも驚くほど高いLDLを示す場合があります。これは、食べ物が悪いのではなく、遺伝的に高いLDL値となっていることが考えられます。
脂質異常症には自覚症状がありません。自覚症状が出るとすれば、動脈硬化が進行し、脳の血管がつまって半身麻痺になったり、心臓の結果がつまって突然倒れたりするような場合です。ですから、早期発見、早期治療が大切というわけです。
もちろん予防が最も大切なのは言うまでもありません。コレステロールや油の多い食べ物はできるだけ避けなければなりません。
しかし、一度できあがった食生活を改善するのは簡単ではありません。私は薬の力でLDLの値は下がっていますが、一年間の暴食のせいで、私の味覚はすっかり高脂肪食に慣れてしまったようです。
今から、あぶらっこいものなしの食事にできるだろうか・・・。今の私の悩みのひとつです・・・。
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