医療ニュース
2021年5月30日 日曜日
2021年5月30日 「仕事で身体動かしてます」は無意味?
2007年の開院以来、当院が一貫して言い続けているのが「検査や薬は最小限に」です。では、薬を極力減らしてどのように治療しているかというと、最も患者さんに言い続けているのが「運動」です。肥満や他の生活習慣病はもちろん、頭痛やめまいなどの神経疾患、胃炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患、肩こりや腰痛といった整形外科的疾患、うつや不安などの精神疾患にも運動を積極的に勧めています。そして実際、運動だけでこういった疾患が治癒することも少なくありません。
患者さんに「運動しましょうよ」と言って、よく反論されるのが「私は仕事で身体を動かすので、運動はすでにしています」というものです。しかし、私の経験上、「仕事での運動」は(職種にもよりますが)あまり効果がありません。今回紹介するのはその私の考えを支持するような論文です。
医学誌「European Heart Journal」2021年4月14日号に掲載された論文「心血管疾患における身体活動のパラドックスと全死亡率: 104,046人の成人を対象としたコペンハーゲンの人口調査 (The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults)」によると、「余暇の時間に運動をすると心血管疾患のリスクが低下するが、仕事で身体を動かすと逆に上昇する」ようです。
研究の対象はデンマークの20~100歳の一般住民104,046人です。余暇の身体活動レベル、及び仕事での身体活動レベルが、自己申告に基づいて「低値」「中等度」「高値」「極めて高値」の4つのグループに分られています。そして、追跡調査を10年間(中央値)おこない、心血管疾患との関連が調べられています。追跡期間中に7,913件(7.6%)の心血管疾患が確認され、9,846人(9.5%)が死亡しています。
結果は次の通りです。
余暇の身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「中等度」は14%、「高値」は23%、「極めて高値」は15%、心血管系疾患に罹患するリスクが低下していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「中等度」は26%、「高値」は41%、「極めて高値」は40%、リスクが低下していた。
一方、仕事での身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「高値」は15%、「極めて高値」は35%、心血管系疾患に罹患するリスクが上昇していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「高値」は13%、「極めて高値」は27%、リスクが上昇していた。
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なぜ、余暇の時間に運動すれば健康になり、仕事で身体を使えば不健康になり死亡率が上昇するのか、その理由は論文からは分かりません。
大切なのは、理由はともかく、仕事で身体を動かす人もそうでない人も、余暇の時間に運動しましょう、ということです。
尚、どのような運動が望ましいかについてまでは分析されていませんが、当院で勧めることが多いのは、50歳未満ならジョギング、50歳以上なら速いスピードのウォーキング、さらに年齢に応じた筋トレです。
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|2021年5月9日 日曜日
2021年5月9日 鳥のさえずりと水の音で健康増進
波の音と鳥のさえずりで目を覚ます日々……。考えただけでワクワクするのは私だけではないでしょう。そして、こういった環境が健康を増進するという研究結果が発表されました。
医学誌「PNAS」2021年4月6日号に発表された論文「自然の音による健康上の利点と国立公園でのそれらの分布 (A synthesis of health benefits of natural sounds and their distribution in national parks)」です。
この研究では、これまでに発表された自然の音についての合計36件の論文が精査されています。その上で、18件を取り出しそれらを総合的に解析(これをメタ解析とよびます)しています。その結果、単に気分が改善するだけでなく、痛みが軽減し、ストレスが減り、さらに、認知能力の向上も認められたのです。
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この論文は米国の健康サイトHealthDayでも取り上げられています。タイトルは「(波の音と鳥のさえずり、自然の音が癒しをもたらすことを示した研究(Waves Lapping, Birds Singing: Nature’s Sounds Bring Healing, Study Finds)」です。さらに、ビデオもあります。
公園の横に位置したマンションやホテルはそれだけで人気があると聞いたことがあります。公園の存在だけでなく、鳥のさえずりも人気に寄与しているのかもしれません。公園に噴水や池があれば尚いいと思いますが、それらがあったとしても「水の音」は聞こえるのでしょうか。
と、ここまで書いて思い出したのが大阪の梅田にあるウエスティンホテルです。私はこのような高級ホテルとは(おそらく生涯)縁がありませんが、このホテル、中庭に「森」があり、その中に滝があることで有名です。近くを通ると(私も通ったことはあります)、まさに本物の滝と同じ音が聞けます。季節と時間によっては鳥のさえずりも聞こえるでしょうから、最高にリラックスできるかもしれません。
ちなみに私は、高級ホテルではありませんが、以前タイ南部の田舎にある海に面したホテルに泊まったことがありこの体験をしました。周りには何もないところで、まさに波の音と小鳥のさえずりで目を覚ましたのです。着替えて海岸に行くと、海藻をとっている高齢の女性がひとりいるだけ。海は格別きれいというわけではありませんでしたが、10年以上も前のあの朝のシーンを今回紹介した論文を読んで思い出しました。
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