医療ニュース
2018年3月30日 金曜日
2018年3月30日 3月24日は「世界の8つの記念日」のひとつ~結核~
先日、3月21日は「世界ダウン症の日」であることをお伝えし、英国発の4分半の画像が世界中を感動の渦に巻き込んだ、というニュースを紹介しました。
世界ダウン症の日は、健康に関する記念日のなかでは比較的有名な方ですが、全体からみたときにはマイナーです。では、もっと有名というか世界的に重要と考えられているのはどのような疾患かというと、WHO(世界保健機関)が公式に認定している記念日が合計8つあります(注1)。今回はそれらを紹介し、3月24日が記念日の「結核」について述べたいと思います。8つの記念日は以下の通りです。尚、日本語表記について、ここでは「~の日」という表現にしましたが、「~デイ」あるいは「~デー」と呼ばれることもあります。
3月24日 世界結核の日
4月7日 世界健康の日
4月の最終週 世界ワクチン週間
4月25日 世界マラリアの日
5月31日 世界禁煙の日
6月14日 世界献血の日
7月28日 世界肝炎の日
12月1日 世界エイズの日
このように記念日は春に集中しています。結核の日が3月24日に定められたのは、結核菌を発見したドイツのロベルト・コッホが結核についての演説をおこなった日だからと言われています。
世界結核の日は日本ではさほど盛り上がりません。世界マラリアの日が日本であまり(というかほとんど)取り上げられないのは日本にはマラリアがないからだと思いますが、結核は世界で最も死亡者の多い感染症ですし(注2)、日本でも少なくありません。たしかにピーク時からは大きく減少していますが、今も先進国のなかではかかり多いのです。
WHOの2017年のレポートから少し抜粋してみます。まず、結核は世界で9番目に多い死因で、感染症では2位のHIV/AIDSを引き離し第1位です。(このレポートには記載はありませんが第3位はマラリアです)
2016年の結核による死亡者はHIV陰性者で130万人、HIV陽性者で37万4千人。2016年に新たなに結核を発症したのは合計で1,040万人。そのうち90%が成人。男性が65%。10%はHIV陽性者です。全体の56%が5つの国(インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン)で発症しています。
日本では毎年約18,000人が新たに結核を発症し、約1,900人が結核で死亡しています(注3)。
************
このサイトは(ありがたいことに)関西以外の人にもご覧いただいているようなので、少し解説しておきます。関西(というか大阪の一部の地域)では、結核が珍しくない感染症であることが広く知られていますが、関西以外の地域では「過去の病気」と思われているようです。たしかに、昔の小説のような主人公が結核で他界するような話は現在の日本では現実味がありませんが、関西では長引く咳の患者さんをみたときには必ず結核を鑑別に入れます。また、結核は肺結核とは限りません。たとえば、膀胱炎が治らないと思っていたら、それは結核性膀胱炎だったということもしばしばあります。
また、結核は世界のなかでも特にアフリカに多いと思っている人が多いようですが、これも上述したWHOのレポートにあるように、アフリカよりもアジアに多い感染症です。(ただしWHOのレポートによると、HIVと結核を合併している人の74%はアフリカです)
アジアから帰国後、体調が悪い、咳が続くという人は、結核感染の有無を調べた方がいいかもしれません。発症者が多い関西でも、結核の診断にいたるまでにいくつもの医療機関を受診していることが少なくありません。
注1:詳しくはWHOの下記ページを参照ください。
http://www.who.int/mediacentre/events/official_days/en/
注2:詳しくはWHOの「Global tuberculosis report 2017」を参照ください。
注3:公益財団法人結核予防会のサイトを参照ください。
投稿者 記事URL
|2018年3月28日 水曜日
2018年3月28日 世界中を感動させたダウン症の動画
3月21日は「世界ダウン症の日」です。そして、この日世界中で話題となり多くの涙を誘った動画があります。2018年3月16日、その動画がアップロードされると、一瞬で世界中を駆け巡り、ユーチューブで10万回以上、フェイスブックで100万回以上閲覧されました。翌日のBBCが報道しています(注1)。(12日後の3月28日時点でユーチューブの再生回数はすでに350万回を超えています)
この動画は、イギリスのダウン症支援グループに所属する49人の母親たちが作成したものです。クリスティーナ・ペリー(Christina Perri)の2011年の名曲「A Thousand Years」のカラオケを車の中にいる母親とダウン症の子供が手話で歌っています。BBCによれば、「James Corden’s Carpool Karaoke」という(おそらく)テレビの企画があり、その方式で母親とダウン症の子供が歌い、それを父親のひとりが編集したようです。
BBCの報道から、ひとりの母親のコメントを紹介しておきます。
「私たちは普通の母親で、子供たちを愛しています。子供たちもまた私たちを愛しています。子供たちは他の4歳の子たちと変わりありませんし、私たちは子供たちを変えようとも思いません。そういう思いでビデオを作成しました」(The idea is, we are just normal mums, we love our kids, they love us, and they are just like other four-year-olds, we wouldn’t change them)
********
ダウン症の患者数は日本・英国とも約5万人と言われています。染色体異常のなかで最も多い疾患で、一般的な発生頻度は0.1%程度ですが、高齢出産でリスクが上がることが知られています。40歳以上の初産婦では1%になると言われています。
ダウン症を知るには映画がお勧めです。ダウン症の子供が登場する映画はいくつかありますが、私が最も推薦したいのは『チョコレート・ドーナツ』です。母親から育児放棄されたダウン症の少年をゲイのカップルが育てようとする、というストーリーです。この映画はハンカチなしでは観られません。すべての人に推薦したい映画です。
注1:BBCの記事のタイトルは「カルプール式のカラオケ、母親とダウン症の子供の画像が拡散される」(Carpool karaoke mums’ Down’s syndrome video goes viral)で、下記URLで読むことができます。
http://www.bbc.com/news/uk-england-coventry-warwickshire-43443510
投稿者 記事URL
|2018年3月17日 土曜日
2018年3月17日 女性は低収入が肥満のリスク?パートナーの減量に期待?
年収が低い女性は肥満になりやすい…。
このような日本の研究結果が発表されメディアで報道されました。研究は滋賀医大の研究者によりおこなわれ同大学社会医学講座のウェブサイトのトップページで案内されています。
メディアの報道からこの研究をまとめてみます。対象は、厚労省が実施した2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査に参加した全国の20歳以上の男女約2900人。就業状況、教育歴、世帯支出などの社会要因や、食事の傾向など生活習慣が健康にどの程度相関するかが調べられています。
65歳未満の女性の場合、世帯年収が200万~600万円未満であれば、肥満になるリスクが600万円以上の女性に比べて1.7倍、年収200万円未満ならなんと約2.1倍にもなるそうです。教育歴との関係も調べられており、学歴9年以下(つまり中卒)は、10年以上(大卒以上)に比べて1.7倍肥満になりやすいそうです。
また、年収が低いほど炭水化物をよく摂ることも分かったそうです。
「肥満」に関して、最近発表された興味深い海外の研究を紹介しましょう。それは同居するカップルの一方が減量に成功すると、ダイエットをしていないパートナーも同時にやせる、というものです。医学誌『Obesity』2018年2月1日号(注1)で報告されています。
この研究の対象者は合計130組の同居するカップルで、一方がダイエットをおこない、もう一方はおこないません。半数の65組は米国の民間企業「Weight Watchers」が提供する減量プログラムに基づいたダイエットをおこない、残りの65組は自己管理でダイエットしました。
結果はとても興味深いもので、下記の通りダイエットをおこなっていない「相方」も体重が減ったのです!
ダイエットをした人の体重減少 3カ月後 6カ月後
減量プログラム 3.4kg 4.3kg
自己管理で実施 2.0kg 3.1kg
その相方の体重減少
(パートナーが)減量プログラム 1.5kg 2.2kg
(パートナーが)自己管理で実施 1.1kg 1.9kg
論文のタイトルにもあるように、著者はダイエット方法に関わらず同居するだけで「Ripple Effect(波及効果)」があることを強調しています。
********
実は、「肥満(やせ)は伝染する」ということは以前から指摘されています。ある有名な研究では、肥満になるリスクはその人の配偶者が肥満になれば37%上昇し、その人の親友が肥満になるとなんと71%も上昇する、とされています。この研究では、興味深いことに、ただ隣に住んでいるだけの隣人が肥満になってもリスクは上昇せず、一緒に暮らしていなくても、兄弟が肥満になった場合はリスクが上昇することを明らかにしています。
この研究に対する私の「仮説」を紹介しておきます。それは「肉を食べる習慣」です。そして、肉が体重を決めるのではなく、肉に含まれている「抗菌薬」の影響を受けて体重が決まるのではないかというのが私の仮説です。最近は規制される傾向にあるとはいえ、家畜を飼育するときには大量の抗菌薬が使用されます。つまりヒトが肉を食べると抗菌薬も一緒に摂取することになるのです。そして、抗菌薬を与えた家畜は肥満しやすいことが分かっています。そもそも家畜に大量に抗菌薬を投与するのは感染予防ではなく早く身体を大きくして出荷したいという人間の都合によるものなのです。(この理論について興味のある方はかつて私が書いたコラム(注2)を参照ください)
注1:この論文のタイトルは「Randomized Controlled Trial Examining the Ripple Effect of a Nationally Available Weight Management Program on Untreated Spouses」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.22098/abstract
注2;毎日新聞医療プレミア2017年4月2日「やせられない… それは抗菌薬が原因かも」
投稿者 記事URL
|2018年3月2日 金曜日
2018年3月2日 有酸素運動が過敏性腸症候群を改善する
腸の疾患で最も多いのはおそらく「過敏性腸症候群」で、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもほぼ毎日患者さんが受診しています。過敏性腸症候群には「下痢型」「便秘型」「混合型」があり、程度も軽症から重症まで様々です。重症化すると、いつ便をもよおすか分からないために、外出が困難になり、電車に乗れないという人もいます。
治療にはまずプロバイオティクス(整腸剤)を用いますがこれだけで改善するケースはそう多くありません。下痢型の場合には便を固める薬や、お腹の動きを止める薬も用います。また、イリボー(ラモセトロン塩酸塩)と呼ばれる薬や、精神症状も出現している場合はやむを得ず精神安定剤を用いることもあります。
過敏性腸症候群はよく「ストレスで悪化する」と言われ、これは正しいとは思いますが、精神的ストレスのみで説明できるわけではありません。谷口医院の患者さんには運動、特に有酸素運動を勧めることがあり、それなりに有効であるように思われます。今回、それが正しいことを裏付けるかもしれない研究が発表されたので紹介したいと思います。
有酸素運動が女性の過敏性腸症候群を改善させる…。
医学誌『Cytokine』2018年2月号(オンライン版)にこのような研究が発表されました(注1)。
研究の対象者は、診断基準を満たした過敏性腸症候群の女性患者109人から60人を選び出し、有酸素運動を実施するグループ30人と、運動をしないグループ30人に分けられました。調査期間は24週間。つまり約半年間、有酸素運動をすればしない場合に比べてどの程度症状が改善するかが調べられました。主な指標とされたのが、サイトカインと呼ばれる免疫に関与する物質や抗酸化物質などです。そして、症状の改善と相関関係が認められました。
************
一昔前は過敏性腸症候群といえば「ストレスの病気」と簡単に片づけられていました。それが、サイトカインを代表とする物質の関与が判ってきて、さらに最近では腸内細菌との関連も指摘されるようになってきています。
今回の研究は小規模ではありますが、有酸素運動が免疫系を整えて過敏性腸症候群の症状を改善することが実証されたわけです。そして、有酸素運動には一切のデメリットはありません。また、過敏性腸症候群ではなく単なる「便秘」の人も、ジョギングなど有酸素運動をするだけで「完治」することも珍しくありません。
有酸素運動をあえてしない理由など何もないというわけです。
注1:この論文のタイトルは「Low-to-moderate intensity aerobic exercise training modulates irritable bowel syndrome through antioxidative and inflammatory mechanisms in women: Results of a randomized controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1043466617303873
投稿者 記事URL
|最近のブログ記事
- 2024年11月22日 アメリカンフットボール経験者の3分の1以上がCTEを自覚、そして自殺
- 2024年11月17日 「座りっぱなし」をやめて立ってもメリットはわずか
- 2024年10月24日 ピロリ菌は酒さだけでなくざ瘡(ニキビ)の原因かも
- 2024年10月11日 幼少期に「貧しい地域に住む」か「引っ越し」がうつ病のリスク
- 2024年9月19日 忍耐力が強い人は長生きする
- 2024年9月8日 糖質摂取で認知症のリスクが増加
- 2024年8月29日 エムポックスよりも東部ウマ脳炎に警戒を
- 2024年8月4日 いびきをかけば認知症のリスクが低下?
- 2024年7月15日 感謝の気持ちで死亡リスク低下
- 2024年6月30日 マルチビタミンで死亡率上昇?
月別アーカイブ
- 2024年11月 (2)
- 2024年10月 (2)
- 2024年9月 (4)
- 2024年8月 (1)
- 2024年6月 (2)
- 2024年5月 (2)
- 2024年4月 (2)
- 2024年3月 (2)
- 2024年2月 (3)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (2)
- 2023年11月 (2)
- 2023年10月 (2)
- 2023年9月 (2)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (3)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (2)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (2)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (2)
- 2022年12月 (2)
- 2022年11月 (2)
- 2022年10月 (2)
- 2022年9月 (2)
- 2022年8月 (2)
- 2022年7月 (2)
- 2022年6月 (2)
- 2022年5月 (2)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (2)
- 2022年2月 (2)
- 2022年1月 (2)
- 2021年12月 (2)
- 2021年11月 (2)
- 2021年10月 (2)
- 2021年9月 (2)
- 2021年8月 (2)
- 2021年7月 (2)
- 2021年6月 (2)
- 2021年5月 (2)
- 2021年4月 (4)
- 2021年3月 (2)
- 2021年1月 (2)
- 2020年12月 (3)
- 2020年11月 (3)
- 2020年9月 (2)
- 2020年8月 (2)
- 2020年7月 (1)
- 2020年1月 (2)
- 2019年12月 (2)
- 2019年11月 (2)
- 2019年10月 (2)
- 2019年9月 (2)
- 2019年8月 (2)
- 2019年7月 (2)
- 2019年6月 (2)
- 2019年5月 (2)
- 2019年4月 (2)
- 2019年3月 (2)
- 2019年2月 (2)
- 2019年1月 (2)
- 2018年12月 (2)
- 2018年11月 (2)
- 2018年10月 (1)
- 2018年9月 (2)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (2)
- 2018年6月 (2)
- 2018年5月 (4)
- 2018年4月 (3)
- 2018年3月 (4)
- 2018年2月 (5)
- 2018年1月 (3)
- 2017年12月 (2)
- 2017年11月 (2)
- 2017年10月 (4)
- 2017年9月 (4)
- 2017年8月 (4)
- 2017年7月 (4)
- 2017年6月 (4)
- 2017年5月 (4)
- 2017年4月 (4)
- 2017年3月 (4)
- 2017年2月 (1)
- 2017年1月 (4)
- 2016年12月 (4)
- 2016年11月 (5)
- 2016年10月 (3)
- 2016年9月 (5)
- 2016年8月 (3)
- 2016年7月 (4)
- 2016年6月 (4)
- 2016年5月 (4)
- 2016年4月 (4)
- 2016年3月 (5)
- 2016年2月 (3)
- 2016年1月 (4)
- 2015年12月 (4)
- 2015年11月 (4)
- 2015年10月 (4)
- 2015年9月 (4)
- 2015年8月 (4)
- 2015年7月 (4)
- 2015年6月 (4)
- 2015年5月 (4)
- 2015年4月 (4)
- 2015年3月 (4)
- 2015年2月 (4)
- 2015年1月 (4)
- 2014年12月 (4)
- 2014年11月 (4)
- 2014年10月 (4)
- 2014年9月 (4)
- 2014年8月 (4)
- 2014年7月 (4)
- 2014年6月 (4)
- 2014年5月 (4)
- 2014年4月 (4)
- 2014年3月 (4)
- 2014年2月 (4)
- 2014年1月 (4)
- 2013年12月 (3)
- 2013年11月 (4)
- 2013年10月 (4)
- 2013年9月 (4)
- 2013年8月 (172)
- 2013年7月 (408)
- 2013年6月 (84)