医療ニュース
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
医療機関で最もよく処方される胃薬のひとつPPI(プロトンポンプ阻害薬)は、過去2年で最も評判の落ちた薬と言えるかもしれません。これまでは、安全でよく効く、といいことづくしの薬だったのが(値段が高いのは欠点ですが)、認知症のリスクを上げる、血管の老化を早める、腸炎や肺炎にかかりやすくなる、精子の数が減る…、と、様々な副作用のリスクが指摘されるようになってきました(下記「医療ニュース」「はやりの病気」参照)。
今回は、そのPPIがなんと、胃がんのリスクを上昇させる!という驚くべき研究を紹介したいと思います。なぜ驚くかというと、PPIは「最も効く胃の薬」としての”地位”がありますし、胃がんの原因として有名なピロリ菌の除菌をおこなうときにも使う薬だからです。
この報告がおこなわれたのは医学誌『Gut』2017年10月31日号(オンライン版)です(注1)。研究の対象は、香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)に登録されたピロリ菌の除菌をおこない成功した成人63,939人のデータです。対象者はその後の平均追跡期間7.6年の間に全体の0.24%にあたる153人が胃がんを発症しています。
胃がんとPPI使用の関係を解析した結果、PPI使用により胃がんの発症リスクが2.44倍にもなることが判りました。さらに、リスクはPPIの使用頻度が多ければ多いほど、期間が長ければ長いほど上昇しています。
具体的な数字は驚くべきものです。PPIを使用していない人に比べると、週に1~6日内服している人のリスクは2.43倍、毎日飲んでいる人ではなんと4.55倍にも上昇します。内服期間では、1年以上内服すれば5.04倍、2年以上で6.65倍、3年以上では8.34倍にまで上昇します。
一方、PPIとよく比較される胃薬のH2ブロッカーではリスク上昇はなく、内服していない人に比べて0.72倍とむしろ低下していました。
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衝撃的な報告です。これが真実だとすれば、直ちにPPIを中止しなければならない人が大勢いることになります。
ところで、この報告の信ぴょう性はどの程度なのでしょうか。この研究はいわゆる「後ろ向き研究」です。つまり、胃がんになった人、ならなかった人が過去にPPIをどの程度内服していたかを調べて分析したものです。一方、統計学的には「前向き研究」の方がエビデンス(科学的確証度)のレベルが高くなります。前向き研究でPPIのリスクを検討するなら、ピロリ菌除菌後の患者をたくさん集め2つのグループに分け、一方にはPPIを使用し、もう一方には使用しない(より正確にするためには偽薬を用いる)でその後の胃がん発症率を調査することになります。
前向き研究でもPPI使用者で胃がん発症が多いという結果がでればPPIのリスクはほぼ「確定」となります。したがって、より科学的な考え(エビデンスに基づいた考え)をする人たちからは、「後ろ向き研究しかない現時点でPPIを控えるのは時期尚早」という意見が出てくると思われます。
ですが、私の個人的見解としては、今回の研究のみでも、つまり前向き研究の登場を待たなくても「PPI投与、特に長期投与は慎重にすべき」と考えていいと思います。少なくとも、先にH2ブロッカーを試すべきですし、その他胃薬には多数ありますし、漢方薬にも有用なものが複数あります。もちろん、薬以前に生活習慣の見直しが重要なのは言うまでもありません。
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注1:論文のタイトルは「Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study」で、下記URIで概要を読むことができます。
http://gut.bmj.com/content/early/2017/09/18/gutjnl-2017-314605
参考:
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
医療ニュース
2016年12月8日「胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク」
2016年8月29日「胃薬PPIが血管の老化を早める可能性」
2017年1月25日「胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる」
2017年1月23日「胃薬PPIは精子の数を減らす」
2017年4月28日「胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク」
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