医療ニュース
2015年2月28日 温泉で痛みがとれてぐっすり睡眠
湯治(とうじ)という言葉があります。温泉地に長期間滞在し、温泉につかることで持病を治す、という治療法です。最近はそれほどおこなわれていないとは思いますが、今も一部の温泉ではリウマチなどの慢性疾患の患者さんが訪れるといった話をときどき聞きます。
ただ、こういった治療法は疾患ガイドラインに記載されているわけではありませんし、必ずしも効果が実証されているとは言い難く、標準的な治療とは呼べません。また、通常湯治では長期間の滞在が必要になりますから多くの人にとって現実的ではないでしょう。
しかし、小規模ながら温泉が様々な疾患に有効とする研究もあり、湯治のように温泉地に何ヶ月にもわたり滞在しなくても、今は交通手段も発達していますから、短い期間の温泉入浴が健康に寄与するなら考えてみたいものです。
12日間の温泉治療プログラムで、健康な高齢者の疼痛、気分状態、睡眠、抑うつ状態が有意に改善・・・
このような研究結果が医学誌『Psychogeriatrics』2014年12月16日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。この医学誌のサブタイトルは「The Official Journal of the Japanese Psychogeriatric Society」で、日本語にすると「日本の老年精神医学会の公式な医学誌」となりますから、対象とされたのは日本の温泉かと思いましたが、スペインの温泉地での研究でした。
スペイン人の高齢者52名(男性23名、女性29名)を対象とし、12日間の温泉治療プログラムに参加してもらい、疼痛(pain)、気分(mood state)、睡眠(sleep)、抑うつ状態(depression)の改善度が評価されています。
その結果、温泉療法により、全員のすべての症状が改善したそうです。男女差もあったようです。疼痛については男性の方が改善度が高く、抑うつ状態については女性の方が高かったようです。
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この研究は規模がさほど大きくなく、症状の評価は主観によるものであり、科学的確証度(エビデンスレベル)が高いとは言えないかもしれません。しかし、参加した52人の全員の気分が良くなり、痛みがとれ、ぐっすり眠れるようになっているわけで、一方では、この治療による「副作用」は一切ありません。(入浴場で転倒するといったリスクはあるかもしれませんが)
温泉は世界中にあるといえばありますが、温泉地の数、質、衛生度、旅館の心地よさ、周囲の風景、食事、お酒、と、どの観点からみてもおそらく日本が世界一でしょう。日本の次は台湾でしょうか。(今回の研究の舞台となったスペインを含め南欧の温泉も有名なようですが私は詳しくありません・・・)
湯治とまでいかなくても、ぐっすり眠り気分を良好にし、身体の痛みを和らげるために温泉地に長期滞在する、あるいはリタイア後の人生を温泉地で過ごす、という高齢者が今後増えてくるのではないでしょうか。太融寺町谷口医院は旅行医学をおこなっている関係で、リタイア後の海外移住の相談をされる患者さんがときどきいますが、案外、海外よりも日本の温泉地の方が快適に過ごせるかもしれません。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Effect of a 12-day balneotherapy programme on pain, mood, sleep, and depression in healthy elderly people」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/psyg.12068/abstract
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