医療ニュース
2018年7月19日 すし詰めバスで22歳女性が脳梗塞
深部静脈血栓症、DVT、ロングフライト血栓症、旅行者血栓症、エコノミークラス症候群、基本的にはこれらは同じ疾患を示しています。このなかで最も人口に膾炙しているのは「エコノミークラス症候群」だと思います。実際には、ビジネスクラスに座っていても発症しますし、例えば震災などで避難所に同じ姿勢でいたり、軽自動車のなかで眠ったりすればおこりますから、「エコノミークラス」という表現は適切ではないのですが、今も他の表現はなかなか社会に浸透していません。ここでは「深部静脈血栓症」で通します。
今回紹介したい事例(”事故”と呼べるかも)も飛行機ではなくバスのなかで起こりました。
2017年(何月かは不詳)、カンボジアからバンコクのすし詰め状態のバス(cramped bus)に14時間乗っていた22歳のスコットランド人の女性が脳梗塞を起こしました。最近(2018年5月)になって、海外のいくつかのメディアが報道しています(注1)。報道では、足にできた血の塊が原因で(つまり深部静脈血栓症が原因で)脳梗塞を発症したとされています。
女性は左半身が麻痺しましたが、母国でのリハビリの結果、ほぼ完全に回復し5kmのマラソンにも出場したそうです。
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この報道には疑問があります。メディアは医学系または科学系のものではなく、(どちらかというと)三面記事を中心に扱った媒体であるため仕方がありませんが、深部静脈血栓症が脳梗塞につながるわけではありません。下腿の静脈内にできた血の塊は肺の血管を閉塞して「肺梗塞」を起こすことはありますが、脳の血管をつまらせることは通常はありません。それが起こるのは心臓の壁に穴があいているときで、報道ではその可能性を指摘しているのですが、心臓に穴があいている疾患をもっているのならマラソンは危険です。
ただ、すし詰めバスに14時間もいれば、容易に脱水状態になることが予想されます。それで、例えば(私の推測ですが)低用量ピルなど血栓を起こしやすい薬を飲んでいたとすれば脳梗塞が起こってもおかしくありません。
また、この女性は血栓症のリスクとされている肥満や喫煙はなく、アルコールを飲んでいたわけでもないようですが、記事にはこの女性のコメントとして「my drink had maybe been spiked or I had eaten something dodgy」とあります。「飲み物に何か入れられた、あるいは何か危ないものを食べた」という意味ですからいわゆる「危険薬物」を摂取していたのかもしれません。
いずれにしてもこういった旅行プランでは、深部静脈血栓症(さらには肺梗塞も)のリスクも脳梗塞のリスクもあります。(特に若い人は)正確な知識を身につけて身を守らねばなりません。
注:下記を参照ください。
https://www.mirror.co.uk/news/uk-news/young-woman-left-paralysed-stroke-12587230
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