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2014年4月4日 妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?

 妊婦さんが風邪をひいて受診、妊婦さんが耐えられない頭痛で受診、ということは太融寺町谷口医院でもよくあるのですが、妊婦さんに対する薬にはいくら注意してもしすぎることはありません。妊婦さんに薬を処方することもありますが、「絶対に何も問題がありません」と言って出せる薬はありません。妊婦さんに処方することのある薬も、伝統的に妊婦さんにも使われていて特に副作用の報告がないようなものに限られます。

 風邪をひいたときの発熱や咽頭痛に、あるいは慢性の頭痛や関節痛のある妊婦さんに処方できる薬といえばアセトアミノフェンになります。アセトアミノフェンは新生児にも使うことがありますし、あらゆる解熱鎮痛剤のなかでもっとも安全だと言われています。(アセトアミノフェンの詳細については下記コラム「鎮痛剤を上手に使う方法」を参照ください) アセトアミノフェン以外では漢方薬を用いることもありますが、インフルエンザを含む風邪症状によく用いる麻黄湯は動悸を生じることがあるため、妊婦さんには少し処方しにくいと言えます。葛根湯あたりであれば比較的処方されやすいですが、それでも動悸などの副作用がないわけではありません。

 そのアセトアミノフェンについて、妊婦さんが内服すると出生児がADHD(注意欠陥多動性障害)を発症するリスクが上昇するという研究が米国UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のZeyan Liew氏らによりおこなわれ、医学誌『JAMA Pediatr』2014年2月24日(オンライン版)(注1)に掲載されました。
 
 この研究は、デンマークの周産期母児合併症に関する調査(Danish National Birth Cohort)に参加した合計64,322人の妊婦さんが対象です。妊娠中のアセトアミノフェン内服と、出生児のADHDリスクとの関連性が検討されています。

 調査の結果、まず妊婦さんの半数以上(56%)がアセトアミノフェンを妊娠中に内服していたことが判りました。妊娠中にアセトアミノフェンを内服していた場合、内服していなかった場合に比べて、子どもがADHDの診断を受けたり、薬物療法が開始されたりする割合が有意に高かったようです。(具体的には、出生児が多動性障害(hyperkinetic disorder、HKD)と診断されるリスクが1.37倍、ADHDの薬物療法が開始されるリスクが1.29倍、7歳の時点でADHDを疑う問題行動を生じるリスクが1.13倍とされています)

 また、妊婦さんがアセトアミノフェンを内服した期間が長いほど、内服量が多いほど、これらのリスクは上昇したそうです。

 このような結果に対し、研究者らは、アセトアミノフェンが胎盤関門を通過できることを指摘し、アセトアミノフェンに内分泌攪乱作用があり、性ホルモンや甲状腺ホルモンといった母体から分泌されるホルモンに影響を与えるのではないか、あるいはアセトアミノフェン自体が何らかの神経毒性があるのではないか、と考察しています。そして、「アセトアミノフェンを妊娠中の安全な薬と考えるべきではない」と述べています。しかし同時に、「さらなる研究が必要である」とも述べています。

 この研究に対し、英国ウエールズのCardiff UniversityのMiriam Cooper氏は、同じ医学誌にコメントを載せています(注2)。Cooper氏は、妊娠中のアセトアミノフェンと神経発達異常との関連性について否定はしていませんが、「因果関係を断じるには時期尚早であり、現時点で臨床を変えてはならない、つまり、慎重さは必要だが従来通りアセトアミノフェンを必要な症例においては使用すべき」、という見解を述べています。

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 激しい痛みや高熱を我慢すれば、その我慢が母体にストレスを与え胎児に影響を及ぼす可能性が出てきます。もちろん薬は安易に使うべきではありませんが、内服するメリットと薬の副作用のリスクをよく考えた上で、必要と判断されれば使うべきです。

 今後のさらなる研究を待ちたいと思います。

(谷口恭)

参考:メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」

注1:この論文のタイトルは「Acetaminophen Use During Pregnancy, Behavioral Problems, and Hyperkinetic Disorders」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1833486&resultClick=3

注2:この論文(論評)のタイトルは「Antenatal Acetaminophen Use and Attention-Deficit/Hyperactivity DisorderAn Interesting Observed Association But Too Early to Infer Causality」で、下記URLで一部を読むことができます。
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1833483&resultClick=3

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