医療ニュース

2016年6月30日 木曜日

2016年6月30日 酒さが認知症のリスク

 よくある疾患なのにも関わらず、一般の人があまり病名に馴染みのないものに「酒さ(しゅさ)」があります。顔面に生じる非感染性の慢性の炎症性疾患で、赤くなったり、一見ニキビのようなブツブツができたりします。痛みはなくかゆみもほとんどありません。酒さは男女ともに起こりますが、医療機関を受診する患者さんは圧倒的に女性の方が多く、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で言えば9割は女性です。

 なぜ男性は医療機関を受診しないかというと、女性ほどは「見た目」が気にならないのでしょう。実際、谷口医院では、別のことで受診した男性の患者さんに、「その顔面の赤みは酒さによるものですけれど治療はしなくてもいいのですか」と尋ねると、「気にしていません」と答える人が多く、なかには「放っておいてくれ」と言わんばかりの人もいます。一方、女性の場合は、気になる人が多いようで、酒さで受診する患者さんの多くは谷口医院を受診するまでにいくつかの医療機関をすでに受診しています。

 酒さが気にならないという男性は、おそらく「見た目の問題だけで別に寿命が短くなるわけでもないし・・・」ときっと思っているはずです。しかし、酒さがあれば認知症になりやすい、となればどうでしょう。

 酒さがあればアルツハイマー病になるリスクが2倍近くになる・・・

 これは医学誌『Annals of neurology』2016年6月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が言っていることです。研究の対象者は、18歳以上のデンマークの住民5,591,718人で、調査期間は1997年1月1日から2012年12月31日です。行政に提出されているデータを分析することにより検討が加えられています。

 調査期間中に何らかの認知症を発症した人は99,040人で、そのなかでアルツハイマー病は29,193人です。皮膚科医が「酒さ」の診断をつけた患者で解析をおこなうと、酒さがあれば何らかの認知症になるリスクが1.42倍、アルツハイマー病に限って言えば1.92倍にもなるそうです(注2)。ただ、リスク上昇が有意に認められたのは60歳以上の高齢者のみだったようです。

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 アルツハイマー病のリスクが1.92倍と聞けば、現在自分の酒さに無関心な男性も治療をおこなう気になるかもしれません。しかし、酒さの治療はそう簡単ではありません。先に述べたように谷口医院を受診する(女性の)酒さの患者さんは、すでにいくつもの医療機関を受診しています。これは、満足いく治療効果がでなかったために自身の判断で医療機関を変更しているということです。

 また、いったんよくなっても再び悪化する例が多く、それを繰り返しているうちに外出が億劫になったり、精神的にしんどくなったりする女性もいます。しかし、治療がないわけではありませんし、「完治」が困難だったとしても、最初の状態よりは大幅に改善させることは可能ですし、治療をあきらめなければならないような疾患ではありません。

 これまで治療に関心がなかったという男性も、よくなることを諦めてしまっているという女性も、将来の認知症のリスクを挙げないようにするためにも治療を考えてみればどうでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Patients with rosacea have increased risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24645/abstract

注2:ただし、この調査はデンマーク人を対象としたものであり、日本人に同じことが当てはまるかどうかは不明です。

参考:
トップページ:ニキビ・酒さ(しゅさ)を治そう
医療ニュース
2015年10月6日「「酒さ」の原因は生活習慣と遺伝」
2015年11月28日「酒さは生活習慣病や心疾患のリスク」酒さが認知症のリスク

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2016年6月27日 月曜日

2016年6月28日 ポテト食べすぎで高血圧

 以前、この「医療ニュース」でじゃがいもをたくさん食べると糖尿病のリスクが上昇するという報告(注1)をおこないました。今回はじゃがいもが高血圧のリスクになるという話です。

 じゃがいもは血圧を上昇させ、なかでもフライドポテトが最も危険である・・・

 医学誌『British Medical Journal』2016年5月17日号(オンライン版)(注2)にこのような論文が掲載されました。

 この研究はこれまでに米国で実施された3つの大規模調査の結果を分析することによっておこなわれています。これら大規模調査の対象者は、「NHS(Nurses’Health Study)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師88,475人、「NHS Ⅱ」と呼ばれるやはり女性看護師を対象とした調査に協力した88,475人、③HPFS(Health Professionals Follow-up Study)と呼ばれる医療者を対象とした調査に協力した男性の医療者36,803人です。

 ジャガイモは、①焼き(baked)/ゆで(boiled)/すりつぶし(mashed)、②フライドポテト(French fries)、③ポテトチップス(potato chips)の3つに分類し、高血圧のリスクが検討されています。結果、焼き/ゆで/すりつぶしで11%、フライドポテトで17%のリスク上昇が認められています。(ポテトチップスでは有意なリスク上昇はなかったようです)

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 この研究から言えることは「じゃがいもは野菜ではない」ということです。じゃがいもには食物繊維と多量のカリウムが含まれていることから、むしろ高血圧に有用な食べ物ではないかと言われることもありますが、この研究でそれが否定されたことになります。

 ちなみにWHOは以前よりじゃがいもを野菜と認めていません。ポテト料理を食べ過ぎて体重増加を経験した人も少なくないのではないでしょうか。糖尿病と高血圧のリスクを上昇させるじゃがいも。我々はじゃがいもとの付き合い方を見直すべきなのかもしれません。

注1:医療ニュース「ポテト食べすぎで糖尿病」(2016年1月29日)

注2:この論文のタイトルは「Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/353/bmj.i2351

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2016年6月27日 月曜日

2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品

 塩分を減らしましょう、というのはほとんどの診察室で医師が毎日何度も言うセリフで、太融寺町谷口医院も例外ではありません。しかし、この塩分対策というのは容易ではなく、定期的な運動や体重コントロールがきちんとできている人でもなかなかうまくいきません。

 米国でもそれは同様で、FDA(アメリカ食品医薬品局)のレポート(注1)によれば、アメリカ人が摂取している塩分は1日8.6g(原文ではナトリウム量の表記で3,400mg)(注2)、米国の推奨値は5.8g(ナトリウム2,300mg)です。(ちなみに、日本人の塩分摂取量は2013年の厚労省の調査では男性11.1g、女性9.4g、2015年版の推奨値は男性8g未満、女性7g未満です)

 米国では、摂取する塩分の7割は加工食品や飲食店での食事と言われています。そこで、FDAは食品メーカーやレストランなどに対し、自主的に塩分含有量を減らすことを求めた指針を発表しました。チーズやパン、ドレッシング、お菓子、加工肉など150の食品カテゴリーごとに2年後と10年後のナトリウム含有量の目標値が示されています(注3)。例えば、プロセスチーズなら現在1,358mgで、2年後には1,210mg、10年後には1,000mgが目標とされています。

 日本では、このような具体的な指針の発表はありませんが、日本高血圧学会の減塩委員会は減塩にふさわしい食品の検討をおこない、昨年(2015年)から「減塩アワード」というコンテストをおこなっています。下記は第1回と第2回の受賞製品です(注4)。

〇第1回受賞製品(2015年5月発表)

味の素(株)                     やさしお
ヤマキ(株)                     減塩だしつゆ
ユニー(株)                     スタイルワン素材のうまみ引き立つよせ鍋つゆ
                            スタイルワン素材のうまみ引き立つちゃんこ鍋つゆ
ヤマモリ(株)            減塩でおいしいとり釜めしの素
                            減塩でおいしいごぼう釜めしの素
キッコーマン食品(株)  味わいリッチ減塩しょうゆ
一正蒲鉾(株)                サラダスティック
                                       鯛入りまめかま赤
                                       鯛入りまめかま白
シマダヤ(株)                 「流水麺」うどん
                                       食塩ゼロ本うどん
                                       東京「恵比寿」ラーメンやさしい醤油味
                                       東京「恵比寿」ラーメンやさしい味噌味
サンヨー食品(株)          サッポロ一番大人のミニカップきつねうどん
                                       サッポロ一番大人のミニカップきつねそば
(株)マルタイ                  マルタイラーメン
寿がきや食品(株)        小さなおうどんお吸いもの

〇第2回受賞遺品(2016年5月発表)

味の素(株)           お塩控えめの・ほんだし
ヤマモリ(株)               地鶏釜めしの素
                                      山菜五目釜めしの素
(株)マルタイ                屋台とんこつ味棒ラーメン
一正蒲鉾(株)              SHさつま揚
中田食品(株)             梅干し おいしく減塩うす塩味塩分3%
                         梅干し おいしく減塩しそ風味塩分3%
                         梅干し おいしく減塩はちみつ塩分3%
(株)新進                 国産野菜 カレー福神漬 減塩
ユニー(株)               スタイルワンだしのうまみ引き立つしょうゆラーメン
                        スタイルワンだしのうまみ引き立つシーフードラーメン

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注1:下記URLでFDAのレポートが参照できます。
http://www.fda.gov/food/ingredientspackaginglabeling/labelingnutrition/ucm315393.htm

注2:ナトリウムと食塩の換算式は、「食塩(g)=ナトリウム(mg)x2.54÷1,000」です。

注3:下記のサイトで150項目の詳細がわかります。
http://www.fda.gov/downloads/food/guidanceregulation/guidancedocumentsregulatoryinformation/ucm504014.pdf

注4:高血圧学会減塩委員会が推奨する減塩食品のリストは下記URLを参照ください。
http://www.jpnsh.jp/data/salt_foodlist.pdf

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2016年6月1日 水曜日

2016年6月1日 うつ病と性病の意外な関係

 うつ病と性感染症、一見まったく関係のないように思えますが、これらには相関関係があるようです。

 うつ病があると性行為感染症のリスクが上昇する・・・

 私はこの論文のタイトルをみたときに自分の目を疑いました。 「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」というタイトル、直訳すると「うつのある若い成人は性感染症のリスクが上昇する」となります。うつ病があると、気分が滅入り外出するのも億劫になりますから、性行為などというエネルギーのいる行為などとてもできない。だから性感染症のリスクは下がるのではないか、というのが私が感じたことです。しかし、そう考えるのは当然すぎて面白くもなんともありませんから、私が考えたような結果ならそもそも論文にはならなかったでしょう。

 医学誌『Preventive Medicine』2016年7月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、うつ病があれば性感染症のリスクが上昇し、うつ病の治療を受ければリスクが低下するというのです。

 この研究の対象者は米国の12歳以上の合計18,142人の男女で、うつ病(過去にあった例も含めて)の有病率は15.3%、性感染症の有病率は2.4%です。常識的には何ら関連のなさそうなこれら2つを分析してみると、うつ病があれば性感染症に罹患するリスクが男性で2.23倍に、女性で1.61倍になるそうです。白人のみでみると3.02倍にもなります。さらに興味深いことに、治療を受けるとなんと性感染症に罹患するリスクが0.55倍に、つまり45%も減少するというのです。

 この研究者は、「プライマリ・ケアの領域でうつ病に積極的に介入することによって性感染症を防ぐことができる」と主張しています。

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 先に述べたようにこの研究結果は私にとっては意外なものでした。ただし、うつ病があれば感染症全般に罹患しやすくなるというのは納得できることです。なぜならうつ病があれば、免疫能が落ちることが予想されますから、当然病原体に対する抵抗力が弱くなるからです。そしてこれを調べた研究があります。医学誌『International Journal of Epidemiology』2015年11月19日(オンライン版)に掲載された論文(注2)によれば、うつ病のエピソードがあれば感染症全般のリスクが1.61倍になるそうです。この研究の対象者は976,398人と大規模なものですから、信憑性が高いと言えるでしょう。

 性感染症というのは、HIVにしてもB型肝炎にしても、あるいはクラミジア頸管炎/尿道炎といった簡単に治癒する感染症であったとしても自覚症状がないのが普通です。ということは、うつ病のエピソードがあればこれら性感染症のリスクを考慮して検査をすべきなのでしょうか。それともこの研究はアメリカのものであり、日本では結果が異なるのでしょうか。

 いずれにしても、うつ病や性感染症というのは上記で述べたように有病率が高いものですから、プライマリ・ケア(総合診療)の現場では積極的に介入すべき疾患であるということは言えそうです。

注1:この論文のタイトルは「Young adults with depression are at increased risk of sexually transmitted disease」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743516300421

注2:この論文のタイトルは「Depression and the risk of severe infections: prospective analyses on a nationwide representative sample」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://ije.oxfordjournals.org/content/45/1/131.abstract?sid=573d6c57-6af5-47d2-8818-94e253ac4106

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