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2013年7月7日 日曜日

2011年9月5日(月) イソフラボンは骨密度にも更年期にも無効

 大豆イソフラボンのサプリメント(以下イソフラボン)は、女性ホルモンに似た働きをしてかつ安全であるという理由から、骨粗しょう症の予防や更年期障害の症状軽減を目的として幅広く摂取されています。ところが、骨粗しょう症に対しても更年期障害に対しても治療にも予防にもならない、という研究結果が医学誌『Archives of Internal Medicine』2011年8月22日号(オンライン版)に発表されました(注)。

 この研究では、研究開始時点で骨密度が正常の45~60歳の女性248人が対象とされています。対象者を2つのグループにわけ、一方にはイソフラボンのサプリメントを服用(1日200mgを2年間)してもらい、もう一方にはプラセボ(偽薬)を服用してもらっています。尚、対象者は自分の服用するものがイソフラボンなのか偽薬なのか分からないようになっています。

 2年後に対象者の骨密度を測定したところ、2つのグループ間に差は認められなかったそうです。

 さらに、更年期障害の症状を聞き取りしたところ、顔面紅潮以外は症状にグループ間の差は認められていません。しかも、その顔面紅潮もイソフラボンを服用していたグループに多かったのです。(イソフラボン服用者の48%以上、プラセボ群の約32%に認められています) また統計学的な有意差はないものの、イソフラボンのグループの方が便秘を訴える人が多かったそうです。

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 骨粗しょう症の予防や更年期障害の治療にホルモン補充療法というものが注目されていた時代がありました。しかし、有用性と副作用について検証されたWHI(Women’s Health Initiative study)と命名された大規模調査で否定的な結論が出てから見方が変わりました。その否定的な結論とは、「浸潤性乳ガンのリスク上昇と、乳ガン診断が遅れる危険性」です。それでも症例によっては積極的に検討すべきという意見もあり、完全に否定されているわけではありませんが、この調査の結果が発表されてからは、かつてほどホルモン補充療法が積極的におこなわれなくなってきているのは事実です。

 その影響も受けて、「天然の女性ホルモン」とも言われるイソフラボンが一躍脚光を浴びだしたという経緯があります。しかし、今回のこの研究ではイソフラボンの有益性は否定されており、今後女性の骨密度対策や更年期障害対策の見直しが必要となるでしょう。

 それにしても、サプリメントの有益性を検討した研究では、残念ながら大半が否定的な結果が出されているような印象があります・・・。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは「Soy Isoflavones in the Prevention of Menopausal Bone Loss
and Menopausal Symptoms」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/abstract/171/15/1363?maxtoshow=&hits=
10&RESULTFORMAT=&fulltext=Silvina+Levis&searchid=1&FIRSTINDEX=0&resourcetype=HWCIT

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2013年7月7日 日曜日

2011年9月10日(土) 適度な飲酒がアルツハイマーを予防

 適度な飲酒、特にワインは、アルツハイマーを含む認知症のリスクを軽減させる・・・

 このような嬉しい研究結果が医学誌『Neuropsychiatric Disease and Treatment』8月号(オンライン版)に掲載されました(注)。

 論文によりますと、研究チーム(米国Loyola大学シカゴ校Stritch医学部)は、1977年以降に実施された合計143個の研究を分析しています。対象者は365,000人以上にのぼるそうです。

 その結果、適度の飲酒をする人は、アルツハイマーを含む認知症を発症するリスクが23%低いということが判ったそうです。その一方で、大量の飲酒は、逆に認知症のリスクを増大するとの結果もでています。(しかしこれは統計学的に有意なものではなかったそうです)

 なぜ、飲酒が認知症を予防するのかについて、研究チームは、アルコールが脳の血流や脳代謝を改善させる可能性を指摘しています。また、少量のアルコールで脳細胞に小さなストレスが与えられ、認知症の原因となる大きなストレスに対処する能力が向上するという説もあるそうです。

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 「適度」とはどれくらいかというと、論文では、「男性で1日2杯、女性で1日1杯」としています。認知症のリスクが上がるかもしれない「大量」は「1日3~5杯」とされています。また、お酒の種類では、「ビールや蒸留酒に比べてワインに高い効果があった」とされています。

 この手の研究で最も注意しなければならないのは、これは疫学であり個人には必ずしもあてはまるわけではない、ということです。つまり、すべての人が飲酒によって認知症のリスクが23%低下するわけではないのです。ある人は、飲酒でアルツハイマーを防げるかもしれませんが、別の人はまったくお酒に影響を受けない、ということもあるわけで、全体でみてみれば23%リスクが下がっていましたよ、という話です。

 ですから、お酒は楽しんで飲むことには私も賛成ですが、まちがっても認知症予防のみを目的とした飲酒はすべきではありません。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは「Moderate alcohol consumption and cognitive risk」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://www.dovepress.com/articles.php?article_id=8067

参考:医療ニュース
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年10月8日「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」
2009年5月26日「「孤独な酒」は脳卒中の危険性2倍」
2009年5月15日「お酒弱いのに飲酒・喫煙で食道ガンのリスク190倍」
2008年3月3日「お酒は憂さ晴らしに逆効果?!」

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2013年7月7日 日曜日

2011年9月26日(月) 中国でポリオが発生

 中国の厚生省が同国でポリオウイルスが検出されたことをWHO(世界保健機構)に通知し、これを受けたWHOは2011年9月1日に公表しました(注)。

 中国で検出されたポリオウイルスは合計4例で、いずれも新彊ウイグル自治区内の同一の県で確認されています。4例は生後4ヶ月から2歳の小児で、7月3日~27日の間に麻痺症状を呈しています。検出されたウイルスは、いずれもポリオウイルスの1型で、遺伝子検査により、これらのウイルスはパキスタンに常在するタイプとの関連が明らかになっているそうです。
 
 中国ではポリオウイルスの野生株が最後に報告されたのは1999年でそのときはインドからの輸入症例だったそうです。また、同国内にもともと存在する野生株の最後の発症は1994年だったそうです。
 
 今回の報告を受けて、国際調査チームが同国に派遣され、接触者の検体採取やワクチン接種の状況の調査をおこなう予定だそうです。

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 日本では、ポリオウイルスの野生株が最後に検出されたのは1993年です。しかし、ワクチンの副作用でポリオウイルスに感染したときと同じような麻痺症状が出現することは(非常に稀ですが)あり得ます。(下記医療ニュースも参照ください)
 
 このために現在おこなわれている「生ワクチン」ではなく、安全性の高い「不活化ワクチン」の導入が待望されています。成人には生ワクチンは危険性が高く接種できないために必要な人は不活化ワクチンを接種しなければならないのですが、現在日本では販売されていません。
 
 ところで、生ワクチンはどれだけの期間有効なのでしょうか。現在もポリオウイルスの野生株が見つかるのはインドやその周辺国のパキスタンなどです。こういった地域に渡航するのであれば、日本を発つ前にまず抗体検査をおこない、抗体がなければ(小児期に接種したワクチンの効果が消えていれば)不活化ワクチンを接種すべきということになります。
 
 いったいどれくらいの人が抗体が消えているのかというデータは見たことがないので、私自身が最近自分自身の抗体を調べてみました。結果は、ポリオウイルスの2型には抗体が形成されていたものの1型と3型は陰性でした。私が幼少時に接種したポリオワクチンの効果はすでに切れているというわけです。もしも私が新彊ウイグル自治区やインド、パキスタンに渡航すれば、ポリオウイルスに感染するかもしれないということになります。
 
 現在議論されている不活化ワクチンが早急に承認されることを願いたいと思います。

(谷口恭)

注:この発表は下記のURLで読むことができます。
http://www.who.int/csr/don/2011_09_01/en/index.html

参考:医療ニュース
2010年2月22日 「神戸の9ヶ月男児がポリオを発症」
2011年5月30日 「不活化ポリオワクチンがついに導入か」

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2013年7月7日 日曜日

2011年9月29日(木) 四半期で新規エイズ発症者が過去最多

 2010年は年間エイズ発症者が過去最多となったということを以前お伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、この傾向は続いているようです。

 2011年9月27日、厚生労働省のエイズ動向委員会は、2011年4月~6月(正確にいうと3月28日~6月26日)に、HIV感染に気付かずにエイズを発症した症例(いきなりエイズ)が、136人に上ったことを報告しました。これは、1984年の調査開始以来、3ヶ月ごとの集計では過去最多となります。(ちなみに2位は2010年4月~6月の129人です)
 
 一方で、同時期に発覚した、まだエイズを発症していないHIV感染者は217人で、これは直前の3ヶ月(2011年1月~3月)と比較して減少傾向にあります。前年同期と比べると46人の減少となります。
 
 感染経路をみてみると、(まだエイズを発症していない)HIV新規感染者の感染経路は、同性間の性的接触が148件で全体の68.2%、異性間の性的接触が39件で18.0%となっています。一方、すでにエイズを発症した症例(いきなりエイズ)では、同性間の性的接触が68件で50.0%、異性間の性的接触が43件で31.6%となっています。
 
 同時期の保健所など公的機関で実施しているHIV抗体検査件数は31,553件で、前年同期の32,011件から減少しています。相談件数も38,784件で前年同期の40,181件から減っています。
 
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 検査件数、相談件数の減少の原因として、関係者らは「3月の東日本大震災の発生が影響している可能性がある」とコメントしているようですが、果たしてそれだけでしょうか。
 
 以前にも指摘しましたが、太融寺町谷口医院の患者さんをみてみても、発熱、下痢、皮疹などで受診して、患者さん自身がまさかHIVとは思ってもみなかった、という症例が増えてきています。2008年頃までは、当院でHIVが発覚した症例の半数以上は、患者さん自身がHIVを疑って受診した、というケースでしたから、東日本大震災とは関係なく、全国的にHIVに対する社会的関心が低下している、というのが私の考えです。
 
 上の数字をみれば分かるように、まだエイズを発症していないケースでHIV感染が発覚している場合と比べ、いきなりエイズで発覚する症例は異性愛者の割合が多いという特徴があります。これは、すなわち同性愛者よりも異性愛者の方がHIVに無関心であることを示しています。そしてこの傾向は太融寺町谷口医院の患者さんにも当てはまります。つまり、異性愛者で危険な性交渉の経験がある人はもっと自覚を持たなければならない、ということです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース 2011年5月27日 「エイズ発症者が過去最多に」

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2013年7月7日 日曜日

2011年9月30日(金) RSウイルスがアウトブレイク

 今年は「風邪」が多い年で、この傾向は年末まで続きそうです。このサイトで、リンゴ病(伝染性紅斑)と手足口病が過去最多の報告があるということを紹介しましたが、RSウイルスも過去最多を更新しているようです。
 
 国立感染症研究所感染症情報センターの発表によりますと、RSウイルス感染症の小児科定点医療機関(全国に約3千ヶ所あります)からの患者報告数は6月下旬頃から増加傾向が続き、調査を開始した2003年以降で最多となっているそうです。
 
 同センターの速報値では、9月12~18日の週の報告数は1,414人で、同時期で過去最多だった2008年の993人を大きく上回っています。都道府県別で見ると、大阪の205人が最多で、以下、宮崎160人、東京126人、福岡100人と続いています。
 
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 RSウイルスは冬の風邪の代表的な病原体のひとつです。新生児では重篤化することもありますが、小学生以降の子供や成人ではさほど重症化しません。しかし特効薬があるわけではなく、特に日ごろ不摂生をしているような人が感染すると長期化することもあります。
 
 RSウイルスには迅速診断キットがあるのですが、一般の診療所では保険適用がないために症状から疑うことになります。特効薬はなく、解熱剤、咳止めなどの対症療法しかありません。
 
 ワクチンはありませんが、予防用の抗体はあります。ただし、適用は、早産で生まれた新生児や先天性心疾患を持つ小児に限られます。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2011年7月29日 「手足口病の勢い止まらず」
2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」

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2013年7月7日 日曜日

2011年10月6日(木) 禁煙で記憶力アップ!

 昨年(2010年)の10月1日にタバコが大幅に値上げされ、その前後には禁煙治療希望者が一気に増え、全国的に禁煙治療薬のチャンピックスが品切れとなりました。しかし、この禁煙ブームの盛り上がりは次第に冷めてきたようで、年明け(2011年1月)あたりから禁煙治療希望者は減少傾向にあります。
 
 現在禁煙を検討している人に対して朗報があります。

 禁煙のメリットにはいろんなことがありますが、医学誌『Drug and Alcohol
Dependence』2010年12月1日号(オンライン版)に掲載された論文(注)によりますと、記憶力も向上することが明らかとなったそうです。
 
 この研究は英国Northumbria大学により実施されています。喫煙者27人、元喫煙者18人、喫煙未経験者24人が対象となり記憶テストがおこなわれています。テストでは、対象者に与えられた課題を思い出してもらい記憶力を測定しています。その結果、元喫煙者は課題の74%、喫煙未経験者は81%を記憶していたのに対し、喫煙者で課題を記憶していたのは59%にとどまったそうです。
 
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 この研究では、対象者の数が少ないように思われますが、それでも注目すべき内容でしょう。研究者によると、禁煙による記憶力への効果を検討した研究は今回が初めてだそうです。(過去にあってもよさそうな研究のように思われますので調べてみたのですが、私が調べた範囲では確かに記憶力と禁煙に関する研究は見当たりませんでした)
 
 現在喫煙している人は、この研究結果を充分に吟味してみればどうでしょうか。この情報の記憶がなくなる前に・・・。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Smoking and everyday prospective memory: A comparison of
self-report and objective methodologies」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0376871610002383

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2013年7月7日 日曜日

2011年10月15日(土) 喫煙者率が男女とも過去最低に

 JT(日本たばこ産業)は毎年、日本人の喫煙率を発表していますが、最新の発表(発表がおこなわれたのは2011年10月13日で、データはおそらく2010年のものだと思われます)では、男女を合わせた喫煙率が下記のように過去最低となりました。
 
 男女合計21.7%(前年から2.2ポイント低下)
 男性のみ33.7%(前年から2.9ポイント低下)
 女性のみ10.6%(前年から1.5ポイント低下)

 女性については、1年前の発表ではその前の年から喫煙率が増加していましたから、男女とも禁煙する人は着実に減少しているといえます。

 喫煙者減少の原因として、JTは2010年10月の大幅なタバコ増税によるものと分析しているようです。喫煙人口は、22,790,000人で前年から2,160,000人減少しているそうです。
 
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 JTは毎年5月にこのデータを公表していましたが、今年は震災の影響で遅れたのでしょうか。(遅れてもかまわないことですが)

 2.2ポイント低下と言われてもよくわかりませんが、1年間で200万人以上の人が禁煙した、と考えると禁煙者は大幅に増加しているように感じます。

 タバコに関しては、次々と身体や精神に有害であるという研究がでてきており、喫煙者を擁護するような論文は最近ではほぼ皆無です。「愛煙者を護れ」という動きもありますが、いかなる人も禁煙するにこしたことはないでしょう。
 
(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年8月16日 「喫煙率、男性は過去最低、女性は再び増加」
2010年10月1日 「受動喫煙で毎年6,800人が死亡」
2010年11月4日 「50代の大量喫煙はアルツハイマーのリスク」
2011年8月29日 「タバコの危険性は男性より女性」
2011年10月6日 「禁煙で記憶力アップ!」

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2013年7月7日 日曜日

2011年10月24日(月) 夫婦の子供の数が初の2人未満に

 夫婦が生涯に持つ子どもの平均人数が、2010年の調査で1.96人に・・・。

 このような結果が、10月21日、国立社会保障人口問題研究所の「出生動向基本調査」で明らかになりました。

 この調査は、同研究所が1940年から5年毎におこなっているもので、2010年が14回目となるそうです。妻の年齢が50歳未満の夫婦約9千組に調査票を配り、初婚同士の6,705組が集計されています。
 
 1940年には子供の数が4.27人、50年代に入り3人台となり、60年代で2人台となったそうです。その後2人台は維持しており、2005年では2.09人でしたが、ついに2010年の調査で2人を下回ったということになります。
 
 この調査では実際の子供の数だけでなく、アンケートもおこなわれています。

 すべての夫婦に尋ねた「理想的な子どもの数」の平均は2.42人(2005年は2.48人)、「実際に持つつもりの子どもの数」が2.07人(2005年は2.11人)で、いずれも過去最低を記録しているそうです。
 
 「実際に産むつもりの子どもの数が理想を下回る」と答えた夫婦はおよそ3割で、その理由(複数回答)を尋ねると「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が60.4%と最多ではありますが、これは前回より5.5ポイント減少しているそうです。次いで「高年齢で産むのがいやだから」が35.1%ですがこれも前回より2.9ポイントの減少となっています。一方、前回よりも3ポイント増えているのが、「欲しいけれどもできない」で19.3%となっています。
 
 全体で「不妊を心配したことがある(または現在心配している)」が5.3ポイント増加して31.1%にも昇っています。さらに、実際に不妊治療中、または治療したことがあると回答した夫婦も3ポイント増加で16.4%となるそうです。
 
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 毎年厚生労働省から発表される子供の数は、合計特殊出生率といって1人の女性が生涯に産むと推定される子供の数を示しています。(2010年は1.39人でした) 合計特殊出生率は、結婚していない女性も含まれてしまいますが、上記の国立社会保障人口問題研究所のデータは結婚した女性だけを対象としていますから、子供を求めている女性の実態の数字に近いかもしれません。(しかし、結婚せずに子供を持つ女性もいますし、子供はいらないと考えている夫婦がいることも忘れてはいけません)
 
 今回の発表で特筆すべきことは、「不妊症が増えている」ということではないでしょうか。出生率低下の話題になると、きまって「(社会が悪いから)子育てできる環境がないからだ」とか、「(景気が悪いから)教育費がかけられないからだ」という議論がでてきますが、そのような理由を挙げる夫婦はむしろ減ってきており、不妊を心配し、実際に治療をしている夫婦が増えているということがもっと注目されるべきで、なぜそのようなことが生じているかを分析していくことが重要だと思います。
 
参考:医療ニュース2011年6月3日 「出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に」

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2013年7月7日 日曜日

2011年10月26日(水) 女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に

 中年期に適量(moderate amounts)のアルコールを摂取する女性は、全く飲まない人に比べて高齢期の健康状態が心身とも良好・・・。

 このような研究結果が医学誌『PLoS Medicine』2011年9月6日号(オンライン版)に掲載されました(注)。この研究では、1980年代に中年(中央値58歳)で、70歳以上まで生存した米国の看護師13,894人が対象となっています。元々、大酒家やアルコール依存のある人は対象から除外されています。高齢(70歳以上)になっても慢性疾患や心身障害のみられない対象者1,491人(全体の11%)を、何らかの疾患を抱えている対象者と比較しています。
 
 その結果、高齢期に健康状態良好のグループでは、全く飲酒をしない人は22%にとどまり、62%の人が1日1杯の飲酒(アルコール15グラム)をたしなんでいたことが分かったそうです。また、約10%は1日1~2杯、3%は2~3杯の飲酒をしていたそうです。
 
 飲み方については、習慣的に適量の酒を飲む方が、ときどきしか飲まないよりも有益であることがわかったそうです。

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 アルコール15グラムというのは、ビールなら中瓶1本程度、日本酒なら1合程度、ワインならグラス1杯くらいと考えていいでしょう。

 アルコールに関する調査は、有害とするものもあれば有益とするものもあります。アルコールの苦手な人がこの調査結果に影響を受けて、新たに飲酒を始める必要はありません。
 
 アルコールを有益とする調査も、今回の研究と同様に、ビールで言えばせいぜい中瓶から大瓶1本程度です。大量飲酒が健康にいいとする調査は(皆無ではありませんが)ほとんどないということはしっかりと認識すべきでしょう。
 
(谷口恭)
 
注:この論文のタイトルは、「Alcohol Consumption at Midlife and Successful Ageing in Women:
A Prospective Cohort Analysis in the Nurses’ Health Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://www.plosmedicine.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pmed.1001090

参考:医療ニュース
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」
2007年2月6日 「女性の飲酒はC型肝炎をより悪化させる」
2009年10月8日 「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」

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2013年7月7日 日曜日

2011年10月28日(金) マイコプラズマ肺炎も過去最多、しかも・・・

 今年は「風邪」の多い年で、このサイトでもお伝えしてきたように、リンゴ病、手足口病、RSウイルスが過去最多を記録しています。そして、昨年10月頃から増えだし、2010年は過去最多を記録したマイコプラズマも、再び6月下旬から急増しており、過去最多の状態が続いています。
 
 国立感染症研究所感染症情報センターによりますと、全国に約500ヶ所ある定点医療機関当たりの1週間ごとの患者報告数は、6月下旬から各週とも過去の同じ週に比べて最も多い状態が続いており、10月に入りさらに急増しています。10月10~16日の定点当たり報告数(速報値)は1.23で、3週間前の2倍超にまで増えていることになります。
 
 都道府県別にみてみると、定点あたりの報告数は、青森の5.67が最多で、沖縄(4.14)、埼玉(3.78)、愛知(3.15)、大阪(2.47)と続いています。

 今年のマイコプラズマが脅威なのは、感染者数が増えていることだけではありません。流行しても早期発見・早期治療を心がければ、いずれ流行は収束していきます。しかし、今年のマイコプラズマは、従来「特効薬」として使われていたマクロライド系抗生物質が効かないのです。
 
 国立感染症研究所感染症情報センターの速報(注)によりますと、マクロライド系抗生物質に耐性のある(つまりマクロライドが無効な)マイコプラズマが89.5%にも上るそうなのです。2002年には耐性はゼロ(つまりマクロライドで全例治癒した)でしたから、わずか10年足らずで特効薬がほぼ無効になったことになります。
 
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 咳が主症状の風邪症状の患者さんのなかにマイコプラズマを疑う例があります。私の経験で言えば、小児の場合は咳の仕方に特徴があり、胸部レントゲンからも疑いやすいのですが、成人の場合は、症状とレントゲンからマイコプラズマと断定するのは困難です。
 
 マイコプラズマの確定診断をつけるための血液検査はありますが、それほど精度が高くないものや、結果判定に時間のかかるものであり、あまり実用的ではありません。最近になり、マイコプラズマの迅速診断キットが発売されましたが、値段がやや高いのが難点です。(当院では現在導入を検討中です)
 
 確定診断をつけるのが困難であったとしても、咳が主症状の「風邪」で、(ウイルス性でなく)細菌性の可能性が強く、マイコプラズマが疑われれば、従来であれば「特効薬」のマクロライド系抗生物質を使用すれば上手くいくことが多かったわけです。ところが、マクロライド耐性が約9割ですから、こうなればマクロライドの処方は治療を遅らせることになりかねません。(1~2年前から、マクロライドが無効なマイコプラズマが増えていることは”実感”として感じていましたが、89.5%という数字には驚かされました)
 
 国立感染症研究所感染症情報センターの報告では、「マクロライド以外でマイコプラズマ感染症に適応があるのはミノサイクリン」としていますが、同時に「ミノサイクリンは耐性菌は認められていないが、抗菌力が非常に優れているというわけではない」とも述べられています。
 
 これからはマイコプラズマの治療に苦労することが増えてくるかもしれません。しかし、マクロライドとミノサイクリン以外にもマイコプラズマに有効と考えられる抗生物質はありますから、咳が主症状の「風邪」があれば早めに医療機関を受診すべきでしょう。
 
(谷口恭)

注:国立感染症研究所感染症情報センターの報告は下記URLで読むことができます。

http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html

参考:医療ニュース
2011年1月28日 「マイコプラズマが急増!」
2011年9月30日 「RSウイルスがアウトブレイク」
2011年7月29日 「手足口病の勢い止まらず」
2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」

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