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2013年8月31日 土曜日

8/31 ミドリガメのサルモネラに要注意

 2013年8月12日、厚生労働省は、「カメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症に係る注意喚起について」というタイトルの情報提供をおこないました(注1)。

 これは米国でサルモネラの集団発生が繰り返し起こっていることを受けてのものです。2011年5月から2013年5月の2年間で、米国で合計8つの集団発生が報告されています。疫学調査の結果、カメもしくはカメを飼育する水槽の水などから感染したことが示唆されるそうです。詳しくは2013年5月24日付で、CDC(米国疾病管理局)が発表しています(注2)。

 カメ等の爬虫類については、日本国内においてもサルモネラ属の細菌を保有していることが少なくないことがわかっています。(50~90%は感染していると言われています)

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 人がミドリガメなどの爬虫類と接すると、わずかに触れただけであってもサルモネラに感染することがあります。感染すると、最初に起こるのが胃腸炎の症状(特に下痢)です。ミドリガメに接したエピソードがあって、こういった症状が出現したときは軽症であったとしてもサルモネラ感染を疑うべきです。

 重症化すると髄膜炎や敗血症に以降することがあり、そうなると、稀ではありますが、命にかかわる状態になることもあります。特に、新生児や高齢者、あるいは免疫不全者などは容易に重症化する可能性があります。

 カメに近づいてはいけない、とまでは言えませんが、扱いには充分注意が必要です。少しでも触った可能性があれば直ちに手洗いすることが重要です。本人は感染しなくても、サルモネラが付着した手で新生児や免疫不全の人に触れると大変なことになる可能性があるからです。

注1 この情報は下記のURLで閲覧することができます。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20130812-01.pdf

注2 CDCのこの報告は下記のURLで閲覧することができます。
http://www.cdc.gov/salmonella/small-turtles-03-12/index.html

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2013年8月30日 金曜日

2013年8月30日 超低用量ピルでの死亡例

  飲んで避妊ができる薬としてピルが開発されたのは1955年の米国でした。FDA(米国食品医薬局)で承認されたのが1960年です。当時のピルはホルモン濃度が高く、副作用をいかに克服するかが課題でした。その後、ホルモン濃度を減らしたピルの開発が次々とおこなわれ、日本でも2010年についに超低用量ピルが認可されました。(詳しくは下記「はやりの病気」を参照ください)

 超低用量ピル「ヤーズ」は、発売後およそ2年半の間に国内の14万人以上の女性に処方されていると言われており(メーカーの発表)、そのうち副作用の報告は87例に上っています。(87例/14万例は約0.06%になりますが、報告されていない軽微な副作用も実際にはありますから「副作用出現率」はもっと上がるはずです)

 87の副作用報告例のなかで死亡例が1例あります。2013年6月、20代の女性が頭蓋内静脈洞血栓症と呼ばれる頭の中に血の塊ができる状態となり死亡しました(注1)。血栓症というのは、ピルを飲めばリスクになるのですが、そのリスクの大きさは個人によって異なります。喫煙や肥満があればリスクは大きく跳ね上がりますし、単純に高齢になるだけでもリスクは上昇します。

 今回亡くなられた女性は、やせ型で喫煙はしておらず、過去に血栓症を起こしたエピソードもなく、ほとんどリスクはありませんでした。(厳密に言えば祖父が脳梗塞になったことがあるそうですが、通常は祖父の脳梗塞まではあまりリスクとみなしません)

 頭蓋内静脈洞血栓症は頭痛で発症し、そのうち痙攣をきたし意識消失にいたります。この患者さんはヤーズ内服の2日後にすでに頭痛が出現していたそうです。7錠飲んだ時点で服用を中止していますが、主治医が処方してからわずか13日後に死亡しています。

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 頭蓋内静脈洞血栓症というのは、ピルを飲んでいる若い女性に起こりやすいという特徴があります。そして、飲みだして数週間以内に起こることが多いことがわかっています。ですから、頭痛が起これば直ちに服薬を中止して主治医に相談しなければなりません。

 今回私が驚いたのは、まったくといっていいほど血栓症のリスクがない女性が、中容量や低用量でなく超低用量ピルで発症し死亡にまで至ったということです。薬に副作用はつきものですし、月経困難症が薬を必要とするほどのものであったことは理解できるのですが、なんともやりきれない感じがします。

 副作用を恐れすぎるのも問題ですが、現在ピルを飲んでいる人、これからピルを始めようとしているすべての女性にこの症例のことを知ってもらいたいと思います。

(谷口恭)

注1:厚労省の報告を参照ください。

参考:はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」

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2013年8月20日 火曜日

第120回 高血圧を考え直す 2013/8/20

  京都府立医科大学や東京慈恵会医科大学でおこなわれた降圧剤に関する研究に不正があったことが明らかになり、現在国内外で大変な問題になっています。この血圧の薬は、商品名は「ディオバン」、一般名は「バルサルタン」といい、製造会社はスイスに本社がある「ノバルティスファーマ株式会社」です。

 血圧を下げる薬にはいくつかの種類があり、代表的なものを挙げると、①カルシウム拮抗薬、②ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、③ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、④利尿薬、⑤β遮断薬(ベータ・ブロッカー)となります。(これ以外にもいくつかのタイプがありますが、これ以上は言及しないでおきます)

 ディオバンは上記②のARBのひとつで、日本で発売されたのは2000年11月です。発売翌年の2001年の売上は160億円に過ぎなかったものが、降圧剤の市場が拡大し、そのなかでも特にARBの普及が広がったことを受けて、同社は売上目標を上方修正していきます。2002年には「100Bプロジェクト」と命名された社内プロジェクトが発動されたそうです。100BのBはビリオン(10億)のB、つまり100Bプロジェクトとは10億の100倍で1,000億を目指すプロジェクトのことだそうです。そして、問題となった慈恵医大の論文が発表された2007年には1,276億円の売上を達成し、京都府立医大の論文が発表された2009年には1,400億円を超える売上を記録しています。

 ディオバンに関する研究や論文について、何が問題であったかというと、「ディオバンは単に血圧を下げるだけでなく、他のARBとは異なり、脳卒中や狭心症を減らせる」という結論が主張されていたからです。この結論に対して疑問視する専門家の声もありましたが、研究が大規模であったこと、メーカーが主導した研究ではない(と思われていた)こと、『ランセット』など一流の医学誌に論文が掲載されたことなどから、「ARBで一番いいのはディオバン」という雰囲気が国内でできていたのは事実でしょう。

 実際、私の記憶をたどってみても、2007年頃からディオバンを絶賛する専門家の座談会を取り上げた記事のようなものが医学誌で目立つようになっていました。医学の商業誌では、ディオバンの広告がやたらと目立ちました。一般の商品のCMと同じように、派手な広告や専門家が絶賛する記事を繰り返し目にするようになると、無意識的に「ARBならディオバン」という式が頭の中にできてしまうのかもしれません。

 では私は、というか、太融寺町谷口医院ではどうしていたかというと、実は、これまでにディオバンを処方したことは(前医からの引き継ぎ処方など特別な場合を除けば)一度もありません。この理由は、私は初めからディオバンが胡散臭いことを見抜いていた・・・、というわけでは残念ながらなくて、単に「値段が高いから」というものです。

 異論があることは認めますが、おおまかに言うと、ARBの効果は上記③ACE阻害薬と効果に大差はありません。副作用に注意しなければならないのと、容量の調節が少しむつかしいことを除けば、ARBを使わなくてもACE阻害薬でもほとんどのケースで充分に対処できるのです。そして、ACE阻害薬には随分前から値段の安い後発品(ジェネリック薬品)がありました。そこで太融寺町谷口医院ではオープンしてから(オープン当時は「すてらめいとクリニック」)しばらくは、ACE阻害薬の後発品を使用し、ARBは特別な場合を除いて処方していなかったのです。

 そして2012年6月、ついにARB初の後発品が登場することになりました。「ニューロタン」という商品名で知られていた一般名「ロサルタン」の後発品が発売開始となったのです。そこで、当院では新規に降圧薬を処方する場合や、これまでACE阻害薬の後発品を使用していた患者さんに対しても、この「ロサルタン」の後発品を使い始めることになったのです。

 さて、ここで高血圧の原点に戻ってみたいと思います。まず、特に自覚症状のない高血圧は本当に治療しなければならないのか、ということを考えてみたいと思います。

 高血圧も極端にひどくなれば、例えばだいたいの目安として収縮期(上の血圧)で180mmHgとか200mmHg以上になれば、頭痛や頭重感が生じることがあります。これは大変な苦痛ですから血圧を下げなければならないのは理解しやすいと思います。しかし、現在降圧薬を飲んでいる、もしくは飲まなければならないと医師から言われている患者さんの多くは何も自覚症状がないでしょう。ではなぜ血圧を下げなければならないのかと言うと、それは動脈硬化や脳卒中のリスクを下げるためです。動脈硬化は自覚症状のないまま進行し、ある日突然胸痛が発症(心筋梗塞)したり、ある日突然右半身が動かなくなったり呂律が回らなくなったり(脳梗塞)します。また、突然脳の血管が破綻すると(脳出血)、そのまま帰らぬ人となることもあります。こういったリスクを下げるために症状がなくても薬を飲んで血圧は下げなければならないというわけです。

 では、血圧はどこまで下げるべきなのでしょうか。多くの患者さんが、そして以前は私自身も感じていたことですが、高血圧の基準はどうして以前と異なるのか、という疑問を持つのではないかと思います。昔の高血圧の基準は、160/95mmg以上(上が160、下が95)でしたが、これが次第に引き下げられ、現在の日本のガイドライン(JSH2009)では130/85mmHg(若年者・中年者の場合)とされています。

 こんなにもどんどん下げられれば、高血圧です、と言われる人が当然のことながら増えていきます。すると、これまた当然のことながら降圧薬がよく処方されるようになるのです。となれば、特に穿った見方をしなくても、血圧の基準が厳しくなることによって製薬会社(及び医療機関)が得をするだけではないのか、という疑問が出てきます。

 しかし、答えを言えば、そういうわけでもありません。動脈硬化やその他高血圧が原因で発症する疾患を防ぐためには血圧をどれくらいに保つべきかというのは世界中で研究が行われていて、日本だけが逸脱したガイドラインをつくっているわけではないからです。欧米の一流誌はかなり査定が厳しく、きちんとした科学的な裏付けがなければ論文が掲載されることはありません。今回のディオバンのような不正が世界同時におこなわれるようなことは考えにくいですから、世界的に承認されているものは、もちろん絶対とは言えませんが、ある程度信用していいのではないかと思われます。

 それに、日本のガイドラインも適宜見直しが行われています。実は上に述べたJSH2009というガイドラインは現在改訂準備中で、来年(2014年)にはJSH2014というものが発表される予定なのですが、最近入手できた情報では、どうも高血圧の基準が緩和され140/90mmHgとなる可能性が強くなってきているようなのです。

 ただし、ガイドラインというのはあくまでもガイドラインに過ぎません。我々医師は、盲目的にガイドラインに従っているわけではありませんし、診察室で測定した血圧が基準値を超えていればそれで「高血圧」という病名をつけるわけではありませんし、すぐに薬を処方することもありません。

 よほどのことがない限り、まずは食事の見直し、運動などを開始してもらいます。喫煙者には禁煙をすすめます。食事・運動の見直しというのはもちろん簡単なものではありません。まず患者さんは、どのようなライフスタイルを送っているのか、仕事はどのようなものか、労働時間は?、通勤はどのように?、朝・昼・夜それぞれ何をどれだけ食べているか?、間食は?、お酒は?、休日は何をしているか?、過去のスポーツ歴は?、趣味は?、ストレスは?、睡眠は?、家族からの協力は得られるのか?、などの質問をして話を進めていきます。

 生活習慣の改善を試みてもどうしても下がらないときは薬を検討することになります。先に5つのタイプの降圧薬を紹介しましたが、これら以外の降圧薬を使うこともありますし、ときには漢方薬で血圧を下げることもあります。

 ときどき誤解している人がいますからここではっきりと述べておくと、我々医師は「薬を処方すること」ではなく「いかに薬を減らすことができるか」を考えています。高血圧の基準が厳しくなって製薬会社は嬉しいのかもしれませんが、医療機関はそういうわけではありません。薬には副作用もありますし、何よりもお金がかかります。特に高血圧のように長期間(あるいは一生)飲まなければならない薬はその費用負担が大変です。我々医師は、患者さんが負担する費用のことも(充分とは言えないかもしれませんが)考えています。

 そうは言っても薬を処方すれば医療機関が儲かるのでは?、と思う人もいるかもしれませんので説明しておくと、薬の利益というのは消費税を含めて考えれば実は粗利1%もありません。消費税が上がればほとんどの薬は処方すればするほど赤字になるのです。

 高血圧も含めて生活習慣病の治療についてまとめると、「(血圧や血糖値などの)数字に惑わされることなく、まずは生活習慣の改善をおこなう。薬は最終的な治療法であり、初めから薬を使うべきでないし、薬を飲んでいるから生活習慣を見直さなくていいというわけでもない」、と月並みな言葉になってしまいますが、それでもこれが最も大切なことには変わりないのです。

参考:医療ニュース
2010年1月27日「高血圧の半数の人が受診せず」
2009年12月16日「不規則な生活で血圧上昇」
2009年10月26日「喫煙+高血圧+高コレステロール=寿命10年短縮」
2009年5月1日「高血圧はメタボより危険!」

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2013年8月20日 火曜日

第127回 見当違いのマスコミとおとなしすぎる薬剤師 2013/08/20

  以前にもお伝えした薬のインターネットでの販売に対して厚労省で新たな動きがありましたので、今回はこのことについてお話ししたいと思います。

 これまでの経緯をまとめておくと次のようになります。

 まず、2009年に厚生労働省は、薬局で販売されている薬の第1類とそれに準じた第2類をインターネットで販売することを禁止しました。すると、この禁止令は違法であるとしてネットのドラッグストアなどが訴訟を起こしました。2013年1月、最高裁で「厚労省の禁止令は違法」との判決がでてドラッグストアが勝訴しました。この判決以降、いくつかのドラッグストアはインターネット販売を再開しています。

 そして、2013年6月5日、安倍晋三首相は内外情勢調査会で成長戦略第3弾を発表し、その中で「インターネットによる一般医薬品の販売を解禁します」と発言しました。これでインターネットによる薬の販売が一気に加速するかと思われましたが、厚生労働省は、首相の発表に横槍を入れるようなかたちで、一部のネット販売の再禁止を検討しています。具体的には、一部の薬を一般用医薬品(大衆薬)から医療用医薬品(処方薬)に戻そうとする案が出ています。

 では、なぜ厚労省は、薬のインターネットでの販売に反対するのでしょうか。一番の理由は、副作用の出やすい薬が野放しにされることの危険性を懸念している、というものです。もしもインターネットで薬の流通が広がり、それで副作用が社会問題になれば「そのような危険な薬を処方薬でなく大衆薬に分類した厚労省の責任ではないか」という声が出てくるでしょうから、厚労省としてはこれを避けたいわけです。

 もうひとつは、これはあまり報道されていないようですが、おそらく厚労省は薬の依存症を懸念しているのではないかと私は見ています。例えば、この議論になるといつも引き合いにだされる「ロキソニン」という解熱鎮痛薬があります。ロキソニンは今も医療機関で処方されていますが、2011年1月に「ロキソニンS」という名称の大衆薬が発売され薬局でも購入できるようになりました。

 ロキソニンは多くの痛みにシャープに効きますから、服用している人は多いのですが、知らず知らずのうちに依存している人が少なくありません。この依存が進行すると「ロキソニン中毒」と呼ばれる状態に移行することもあり、特に頭痛に対してロキソニンを用いている人に危険があります。週に1日程度の服用であれば依存症にまで進展することはあまりありませんが、これが週に3回、4回、それも1日あたり3錠も内服している、となると依存症になっていく可能性があります。そうすると「薬物乱用頭痛」と呼ばれるたいへんやっかいな頭痛に移行することがあります。

 薬物乱用頭痛とは、簡単に言えば、「鎮痛薬を使い続けるうちに痛みへの敏感さが増し常に痛みを感じるようになった頭痛」のことです。つまり、ロキソニンをあまりにもたくさん飲み続けたことによって、ちょっとした痛みにも耐えられない状態になってしまうのです。そして、薬物乱用頭痛の原因になるのはロキソニンだけではありません。日常の診療でもっともよく遭遇する薬物乱用頭痛の原因の鎮痛薬は、イブプロフェンを主とした鎮痛剤です。商品名でいえば「イブ」「ナロンエース」「リングルアイビー」などです。医療機関で処方されるものでいえば「ブルフェン」が相当します。

 薬物乱用頭痛の治療は簡単ではなく、鎮痛剤から離脱するのにかなりの苦労を要します。アルコール依存症や覚醒剤中毒者、あるいはニコチン中毒者が薬物を断ち切るのはかなり大変なことですが、薬物乱用頭痛から鎮痛剤を減らしていくのは、それに準じるくらいの困難さがあるのです。

 おそらく厚労省はこういった依存症へのリスクも踏まえて、薬のネット販売の全面解禁に反対しているのだと思います。現在同省は、28の薬品について大衆薬から処方薬へ移行させ、医療機関での処方のみとすることを検討しているようです(注1)。ロキソニンなどはいったん大衆薬として認めたけれども処方薬のみである元の状態に戻そう、というわけです。

 私個人としても、28のそれぞれの薬品すべてが妥当かどうかまでは断言できませんが、ロキソニンのように依存性の強いものや重大な副作用を懸念しなければならないものについては、あまりにも気軽に買えてしまうのは問題だと考えています。(私個人としては28項目に含まれていないものにも気になるものがあります。例えば先に述べたイブプロフェンを主とした鎮痛剤はこれら28項目に含まれていません)

 では、この問題をマスコミはどのように捉えているかというと、残念ながら見当違いのものが目立ちます。

 例えば、日経新聞2013年8月16日に掲載された「「ロキソニン」また規制?」というタイトルの記事には、「ネットで買えれば、処方薬をもらうために通院する人が減り、開業医の稼ぎは減る」という記載があります。開業医の稼ぎが減る???、見当違いも甚だしいと言わざるを得ません。

 先に述べたように我々医師が注意しているのは、ロキソニンでいえば「いかにして依存症への移行を防ぐか」ということであり、ロキソニンに限らず、我々医師の仕事は、薬の処方量を増やすことではなく減らすことにあります。

 日経新聞の記者はいつも経済のこと、もっと言えば金を稼ぐことばかりを考えているからこのような発想になるのかもしれませんが、冷静になって考えれば、医師がロキソニンを処方したいと考えているわけではないことは数字を見直してもらえれば誰にでも分かることです。ここでそれを説明しておきたいと思います。

 ロキソニンは、現在は後発品が普及しており薬価が随分安くなっています。太融寺町谷口医院で処方しているロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)は1錠5.6円(3割負担で1.68円。ただし患者さんの側からみればこれに診察代や処方代がかかります。それでも薬局で買うよりは随分安くなりますが)です。仕入れ価格はこれよりわずかに安い程度で、1錠あたりの医療機関の利益は0.2~0.3円程度です。日経新聞の記者は、0.2~0.3円の利益を確保するために我々医師がネット販売に反対していると言うのでしょうか・・・。

 経済発展のために自由化を原則とすべきなのは理解できます。しかし、どのようなものも野放図に解禁するのは問題です。ネットでロキソニンを買おうとすると、画面にいくつか質問事項が現れてそれをクリアしないと買えないように一応はなっています。しかし、このようなものは買おうと思えば実際にはなんとでもなります。

 薬は可能なものは医療機関以外でも入手できるようにすべきで、かつ危険性を充分に認知してもらう必要があるわけです。ではどうすればいいのか。私の意見は「薬局及び薬剤師の活用」です。ロキソニンが必要な人は薬局に行き、症状について相談し、薬剤師が妥当だと判断すれば販売できるようにすればいいのです。薬局まで行く時間がないとか、身体が不自由で度々薬局まで足を運べないという人もいるでしょう。そのような人たちにとってインターネットは大変便利なツールです。ならば、そのかかりつけ薬局のホームページから買えるようにすればいいのです。ホームページがない薬局ならメールを利用すれば済む話です。

 安倍首相の成長戦略第3弾を実現させ、なおかつ、薬の危険性から国民を守る最善策、それは「薬局及び薬剤師の活用」に他なりません。しかし、これは医師である私が主張すべきことではありません。インターネットでの薬の全面解禁というのは、薬剤師にとっては自分たちの尊厳に関わる問題のはずです。主役であるのにもかかわらず蚊帳の外に置かれて薬剤師はなぜ黙っているのでしょう。

 私は「薬剤師の逆襲」を期待しています・・・。

 
注1:これら28の薬品の詳細は下記URLに記されています。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000014659.pdf

参考:
マンスリーレポート2013年4月号「薬局との賢い付き合い方(前編)」
マンスリーレポート2013年5月号「薬局との賢い付き合い方(後編)」
はやりの病気第第96回(2011年8月)「放っておいてはいけない頭痛」
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」

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2013年8月12日 月曜日

2007年1月7日(日) インフルエンザ発症者がチラホラ

 12月28日の毎日新聞によりますと、札幌市地域衛生課は27日、市内の医療機関を受診した1歳女児と10代男性の計2人から、北海道では今冬初のA香港型インフルエンザウイルスを検出したと発表しました。全国では岐阜県に次いで2番目で、今年は全国的に発生が少ない冬になっています。

 私の所属するプライマリケア医のメーリングリストでも、東京と奈良でのインフルエンザの発生が各1名ずつ報告されています。

 昨シーズンの第1号は11月30日でしたから、今年の流行は例年に比べて遅いようです。

 しかしながら、インフルエンザが今年も流行するのはほぼ間違いないでしょうから、うがい・手洗いが重要であることには変わりありません。

 例年であれば、今からワクチン接種というのは遅すぎますが、今年はまだ間に合いそうです。おそらく今月の終わりにはある程度の流行を迎えているでしょうから、まだワクチンを接種していないという人は、遅くとも今月中旬までに接種するようにしましょう。

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2013年8月12日 月曜日

2013年8月 この夏の暑さと塩と味の素

 今年(2013年)の夏はとにかく暑い・・・。多くの人がそのように感じているでしょう。過去にこれほど暑い夏はなかったのではないか、と思わずにはいられません。私はクーラーの効いたクリニックでの勤務ですし、通勤もTシャツにジーンズという格好ですから、暑いといってもましですが、現場の仕事をしている人や、スーツを着て外に出られている人にとってはたまらない暑さだと思います。紺色のシャツなどを着れば汗が析出され塩の結晶が確認できるのではないでしょうか。

 今年は、太融寺町谷口医院を受診する夏バテの患者さんは、総数で言えば例年と変わりないと思うのですが、なぜか「塩分はどうしてとればいいのか」という質問をよく受けます。

 マスコミからの取材もきます。春先には、ある雑誌の「熱中症対策講座Q&A」という記事の監修を頼まれましたし、先月はあるテレビ番組が熱中症を取り上げるとのことで取材を受けました(この番組は早朝に放送されたのにもかかわらず多くの患者さんから「テレビに出ていましたね」と言われました。テレビの影響は大変大きいことを改めて実感させられました)。マスコミからの取材依頼は断ることが多いのですが、その理由は特定の製品(商品)や特定の治療法を肩入れするものになりがちだからです。しかし今回は熱中症や塩分摂取についてのことであり、そういった心配がないと判断し受けることにしました。

 患者さんからもマスコミからもよく聞かれるのが「塩をどれくらい摂ればいいのか」というものなのですが、この問いには大変返答しにくく、いつもどのように答えるべきか悩まされます。答えを聞きたい側としては、たとえば「1日に何グラム」という言い方がわかりやすいと思うのですが、ことはそれほど単純ではありません。

 まず、塩がどれくらい必要かというのは、その人によってまったく異なってきます。クーラーの効いた部屋で仕事をしている人と、炎天下で朝から晩まで肉体作業に従事している人ではまったく異なりますし、例えば高血圧や糖尿病などがあれば個々の対応が必要になってきます。

 ですから、「塩をどれくらい摂ればいいのか」という質問に対する最適な答えは、「どのような人がどのような環境にいるかによりますから各自かかりつけ医に相談してください」という身も蓋も無いものになってしまうのです。

 特に高血圧や糖尿病など生活習慣病がある人、あるいは腎臓に何らかの異常がある人は、マスコミなどが報じる一般論をそのまま当てはめない方がいいでしょう。当院の患者さんにも「熱中症対策として塩を摂らなければならない」と思い込んで、1日に何度も塩を舐めているという人がいました。この人は薬を飲むほどではありませんが、日頃から血圧が高く、私は塩分制限の指導をしていた(つもり)なのですが、この患者さんは「夏は例外」と思い込んでいたのです。案の定、そのときの診察での血圧は上昇しており、直ちに塩分制限を徹底するように説明しました。

 しかし、この患者さんのように血圧が高い人も含めて、長時間大量の汗をかくような環境にいるときは塩分摂取を考慮しなければなりません。例えば、フルマラソンを走ったり、登山をしたりするようなときにはどのような人も注意が必要になります。

 ではこの見極めはどのようにすればいいのでしょうか。高血圧や腎疾患がないような人も含めて日本人は日頃から塩分を取りすぎています。厚労省のデータ(2008年)によると、日本人の1日あたりの平均塩分摂取量は、男性で11.9グラム、女性で10.1グラムです。目標は男性9グラム、女性で7.5グラムとされていますが、これでも世界的にはかなり多く、国際水準では6グラムが一般的ですし、これを下げようとする動きもあります。日本人でも高血圧や慢性腎臓病があれば6グラム以下にしなければなりません。

 普段は塩分をできるだけ減らさなければならない、しかし熱中症を予防するために必要なときには摂らなければならない、と言われて「分かりました」と答えられる人はそれほど多くないでしょう。

 ではどうすればいいのか。一般論として述べるのはむつかしいのですが、私の場合は、「着ているTシャツを絞って滴り落ちるくらいの汗をかいたときには積極的に塩分を摂取する」ことを心がけています。それから「(塩分を含まない)水分をとっても身体がだるい」ときは塩分が不足している可能性があります。また、(これはあまりあてにならないかもしれませんが)「塩気のあるものが食べたくなったときに塩分を摂る」というのもひとつの方法です。私がよくするのが「今、スイカを食べるとしたら塩をふった方が美味いだろうか、そのままの方が美味いだろうかを考える」、という方法です。

 この「スイカに塩」というのはとてもすぐれた夏バテ防止フードになります。私は小学生の頃は、ほぼ毎回スイカを食べるときに塩をふっていましたが、大人になるにつれて塩を使う頻度が減りました。塩をかけても美味しくならないから使わなくなったわけですが、これは小学生の頃は外で遊んで汗を大量にかいていたために自然に身体が塩分を欲していたからでしょう。ちなみに、今の私はふだんはスイカはそのまま食べますが、運動後だけは塩を振って食べています。これはトマトでも同じです。

 熱中症予防の塩分の摂り方については、理論上は「OS-1」やスポーツドリンクがいいとされていますが、このようなものだけでは飽きてきますから、クラッカーやミックスナッツ、またスープや味噌汁を摂るのもおすすめです(注1)。

 大量に汗をかくようなとき以外は、日本人の大半は塩分制限を考える必要があります。しかし、これは日本食では大変困難です。味噌汁1杯で約2グラムもの塩が含まれていますし、醤油や味噌にもたっぷりの塩分が含まれています。これで1日6グラム以下にもっていくのは至難の業です。では洋食はどうかというと、ピザやハンバーガーは塩分制限を考えたときには最悪の料理です(おまけにカロリー過多になります)。では中華料理はどうかと言えば、チャーハン1人前で3.2グラム、五目そば1杯で8.0グラム(いずれも厚労省のサイトより)ですから絶望的です。

 では、どのようにして塩分を制限しながら美味しくご飯を食べればいいのか・・・。これについてはそのうちに改めてまとめてみたいと思っているのですが、ここではひとつだけ提案したいと思います。それは「味の素」を積極的に使ってみよう、というものです。

 私が大学生になったばかりの頃、お金がありませんでしたから時間があれば自炊をしていました。しかし何をつくっても美味しくありません。味気がないから塩や醤油を足してみるのですが、辛くなるだけで美味しくなりません。そこであるとき味の素を使ってみたのですが、これが驚く程美味しくなったのです。しかも塩や醤油の使用量がぐっと減りました。それ以来、私は和風もしくは中華風の煮物や炒め物をつくるときは必ずといっていいほど味の素を、しかも(おそらく普通の人が使うよりも)大量に入れています。

 「味の素」というのは商品名ですから、例えばNHKが「味の素」を取り上げるときは別の表現があるのでしょうが、世界的に、とまでは言えなくとも、少なくともアジア的には「アジノモト」という名前が浸透しています。

 私が以前、NPO法人GINA(ジーナ)の関連でタイの東北地方のある辺鄙な村を訪れたときのことです。その村は何度もバスを乗り継いで行かなければならず、外国人はめったに来ないエリアで、私が初めてその村にやってきた日本人だと言われました。その村には電気も充分に来ておらず、焚き火で料理をするようなところなのですが、あるとき若い女性がソムタム(青いパパイヤをベースにしたタイ風サラダ)をつくっているときに大量の白い結晶をふりかけているのが気になりました。ちょうどタイ語を勉強し始めていた頃だったので、その結晶が入ったビニール袋を借りて印刷されたタイ語を読んでみると、なんと「アジノモト」と書いてあるではないですか。タイ語でも味の素は「アジノモト」なのです。そして、ソムタムを作っていたそのタイ女性に話を聞くと、「あたしが幼少時の頃からアジノモトはいろんな料理に使うのよ」と話してくれました。しかしその女性はアジノモトが日本のものとは知りませんでした(注2)。

 味の素は料理を美味しくするだけでなく、塩分制限をするのに大変有用な調味料だと思います(注3)。味の素の成分は「グルタミン酸ナトリウム」ですから、やはり大量に摂取するとナトリウム過多になり、結局塩分過多の状態と同じになってしまうのは事実です。しかし、食べ物を美味しくするために必要な「塩」と「味の素」では、体内に吸収されるナトリウム量が大きく異なります。

 塩分制限に味の素を・・・、という声がなぜ上がってこないのか。味の素株式会社はそれを主張するのに遠慮しているのだろうか・・・、これは長い間、私が疑問に思っていることです。

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注1:詳しくは下記「水分摂取と塩分摂取について」を参照ください。
http://www.stellamate-clinic.org/nettyu/#a03

注2:このような経験をしているのは私だけではありません。例えばノンフィクション作家の高野秀行氏は著書『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)のなかで、ナガ(Naga)族(インド北東部からミャンマー国境上に沿うナガランド一帯に暮らす民族)の日常の料理にアジノモトが使われていることを紹介しています。

注3:私は今回のコラムの最初の方で「特定の治療法に肩入れするようなマスコミの取材を受けない」と述べているにもかかわらず「味の素」を高く評価しているわけで、これは矛盾していることになります。しかし、日本のみならず少なくともアジア全域で日々使われている味の素が食事を美味しくするだけでなく塩分制限に貢献しているのはやはり事実ではないかと思います。例えてみると、自動車のメーカーが世界にトヨタ社一社しかなければトヨタ車をすすめるしかない、というようなものです。このように考えると、味の素株式会社のライバル会社はなぜ存在しないのでしょうか。尚、念のために付記しておくと私と味の素株式会社の間には何の利害関係もありません。

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2013年8月11日 日曜日

2007年1月8日(月) ホワイトカラー・エグゼンプションに過労死の遺族が反対表明

 ホワイトカラー・エグゼンプションという言葉がマスコミをにぎわせるようになりました。ホワイトカラー・エグゼンプションとは、ホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用免除(exempt)することで、これが施行されると、事実上、雇用者は従業員に対して労働時間の制限なく働かせることが可能となります。

 ホワイトカラーは、その働き方に裁量性が高く、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない部分があるため、労働時間に対して賃金を支払うのではなく、成果に対して賃金を支払う仕組みが必要、というのがこの制度の趣旨です。

 たしかに、効率をあげずにダラダラと仕事をして残業時間を稼ぐ従業員に高額を支給するのはおかしいという考え方は筋が通っています。雇用者の立場からすれば、ダラダラと残業をおこなう従業員よりも、むしろ効率よく仕事をおこないテキパキと仕事をこなす従業員に高額を支払いたいと考えるでしょう。

 したがって、この制度を推進する者のなかには、この制度により労働時間が全体として減少すると考えている者もいます。しかしながら、成果主義を取り入れすぎることにより、一部の者は不当に長時間労働を強いられてそれが過労死につながるのではないかとみる向きもあります。
  
 12月28日の共同通信によりますと、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求める労働政策審議会分科会の報告書に対し、過労死の遺族らからは27日、「若い人の過労死も増える」との批判が相次いだそうです。

 過労死の遺族のひとりは次のようにコメントしています。

 「過労死は当時、中高年の問題だったが、最近は20代にも広がっている。(ホワイトカラー・エグゼンプションの導入により)過労死や自殺の増加を加速させるのではないか」

 労働政策審議会の報告書には、「自由度が高い」や「104日の休日取得」などの文言が並んでいます。これに対し、父親を過労死で亡くした遺族のひとりは、「働く人に優しい言葉にみえるが、父のことを思うと本当にそういう働き方があるのか疑問」と話しています。

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 医師の立場からこの制度をみたときに懸念するのは、残業や休日出勤をすべて「自由」とすることにより、自殺も含めた過労死が起こったときに、その原因を「仕事」や「会社」と特定することができにくくなるのではないかということです。

 過労死や自殺までいかなくても、過酷な労働のせいで、様々な身体症状や精神症状が出現している人は少なくありません。もしもあなたに思い当たることがあるなら、ひとりで悩まずに、気軽に医療機関に相談するようにしましょう。

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2013年8月11日 日曜日

2007年1月10日(水) 鳥インフルエンザの診断キット、開発に成功

 大阪府立公衆衛生研究所が、世界で初めて鳥インフルエンザの検査キットの開発に成功しました。鳥インフルエンザを検出するには、特殊な遺伝子診断をおこなう必要があり、これまでは特別な機関でのみ実施され、結果が出るまでに2日ほどかかっていました。

 今回、同研究所によって開発された迅速診断キットは、わずか10分で結果が得られるようです。まだ一般の病院やクリニックで使用される目途はたっていませんが、近いうちに市販される可能性もあり期待がもたれています。

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2013年8月11日 日曜日

2007年1月11日(木) ノロウイルスによる感染性胃腸炎がピークに

 国立感染症研究所が12月28日にまとめた全国約3000の小児科の定点調査結果によりますと、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者報告数は、12月11日からの1週間で6万8950人に上り、1施設当たり22.8人と、1981年の調査開始以来過去最多だった前週(22.2人)をさらに上回っています。ただ、同研究所は、感染性胃腸炎の流行は「ピークを迎えつつある」とみています。

 私自身も、今シーズンは感染性胃腸炎が例年に比べて多いなという印象があります。

 よく患者さんに聞かれるのは、「この胃腸炎はノロウイルスによるものですか」というものです。患者さんによっては、「ノロウイルスの検査をしてほしい」、との希望をもたれていますが、現在のところ、ノロウイルスの検査は保険適用がなく、自費診療でおこなうと1万円以上もするため、私は原則として検査をすすめていません。

 ノロウイルスの感染性胃腸炎は、たしかに死亡例も出ており危険な印象がありますが、健常人であれば、それほど重症化することはなく、大半は外来の点滴か、入院が必要となったとしても2~3日で元気になります。

 また、ウイルス感染ですから、抗生物質は効果がありません。点滴のなかに入れるのは、せいぜい胃薬か吐き気止め程度で、点滴の主目的は水分補給です。

 医学の教科書には「ノロウイルスはカキによるものが多い」と書かれていますが、実際はカキで感染した人よりも、感染している人の近くにいる人が感染していくケースの方が圧倒的に多いといえます。

 ノロウイルスに限らず、感染性胃腸炎や風邪にもっとも効果があるのは、”うがい”と”手洗い”であることを再認識することが大切です。

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2013年8月11日 日曜日

2007年1月12日(金) みずぼうそうを難病と勘違いして自殺

 みずぼうそうと言えば、誰もが知っている子供の感染症ですが、子供のときにかかっていなければ、大人になってから発症することがあります。よく言われるように、大人になってからみずぼうそうに罹患すると、ときに重症化することがあり入院を強いられることもあります。

 しかしながら、みずぼうそうは決して”難病”ではありません。そのみずぼうそうを難病だと勘違いして自殺を図った男性(タイ人)がいます。

 1月11日のバンコク週報(日本語でタイの情報を伝えるメディア)によりますと、タイのサケオ県で26歳の男性が森林でわらに火をつけ炎の中で拳銃自殺をしました。

 この男性は工場で働くために医師に診断書作成を依頼したところ、診察の結果、軽度のみずぼうそうに感染していることが判ったそうです。

 ところが、この男性は医学の知識が乏しいせいもあってなのか、みずぼうそうを”難病”と勘違いし遺書を残し自殺を図りました。

 遺書には次のような記載があったそうです。

「お母さん、ごめんなさい。僕は火の中で死にます。いつまでも愛しています」

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 みずぼうそうは”難病”でもなんでもなく、成人になってから感染したとしても、薬を数日間飲めば治ります。ワクチンもありますから、最近は罹患すること自体も減ってきています。

 この事件は自殺した患者さんに非があるわけではなく、きちんと説明をしなかった医師に責任があると言えるでしょう。日本で同じようなことが起こるとは考えにくいでしょうが、医師が患者さんに正しい知識を伝える義務を再認識させられる事件だと言えます。

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