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2021年7月29日 木曜日
2021年7月29日 果物摂取で糖尿病リスクが36%低下
果物を積極的に食べるようにすれは糖尿病のリスクが36%も下がる……
このような嬉しい研究結果が医学誌「The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」2021年6月2日号に報告されました。論文のタイトルは「あるコホートにおける果物摂取と糖尿病のリスクとの関連(Associations Between Fruit Intake and Risk of Diabetes in the AusDiab Cohort)」です。
研究の対象は合計7,675人のオーストラリア人(平均年齢54歳、男性45%)で、果物の総摂取量で全体を4つのグループに分類しています。最も接種量が少ないグループは1日の果物摂取量が平均で62グラム、2番目に少ないグループは122グラム、上から2番目のグループは230グラム、最も多いグループは372グラムです。
研究では対象者に「糖負荷試験」を実施しています。糖負荷試験とは空腹時に糖(甘い飲み物)を飲んでもらい、その後採血をおこない血糖値やインスリンの血中濃度を測定する試験です。
結果、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは糖負荷後、血糖値が3%低く、インスリン濃度が5%低値で、インスリン感受性は6%高くなっていました。インスリンは血中の糖を体内に取り込むときに必要なホルモンです。ということは、糖負荷後にインスリン濃度が低いということはそれだけ糖尿病になりにくいことを意味します。また「インスリン感受性が高い」ということは、少量のインスリンでも効くという意味ですから、やはり糖尿病になりにくいことを示しています。
そして、5年後の2型糖尿病発症リスクを検討すると、果物摂取が最も少ないグループに比べて、最も多いグループは36%リスクが低かったのです。
残念ながら、12年後の調査では果物摂取による糖尿病リスク低下は認められなかったのですが、リンゴ、オレンジ、バナナでは、ある程度のリスク低下がありました。
尚、興味深いことに、果物をジュースにした場合は、糖尿病のリスク低下は認められませんでした。
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果物は糖尿病のリスクと思っていた、と言う患者さんがなぜかけっこういます。また、果物ジュースはむしろ糖尿病のリスクになると思っている人も少なくありません。
この研究を意外に思う人もいるかもしれませんが、果物のGI値(グリセミックインデックス)を考えれば何も不思議ではありません。不思議なのは、果物はたいてい甘い(そして美味しい)のにGI値がさほど高くないことです。一般にGI値が高い食べ物は糖尿病の、そして肥満のリスクになります。白米より玄米、うどんよりそば、と言われるのは、白米より玄米が、うどんよりそばがGI値が低いからです。
果物ジュースで効果が出ない理由は、(これは論文には書いていないことですが)おそらく2つあります。1つは果物そのものを食べるときと異なり、一気に甘い成分(果糖)が体内に吸収されること、もうひとつは本来果物に含まれているはずの食物繊維がジュースにすることにより分解されているからではないかと思われます。
ということは、果物ジュースを飲むときにはゆっくり飲む方がいいということになります。また、果物ジュースが糖尿病のリスクになるわけではなく、すでに糖尿病の人が果物ジュースを飲んではいけないわけではありません。ただし、果物にもよりますから、すでに糖尿病がある人はかかりつけ医に相談してください。
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|2021年7月19日 月曜日
2021年7月19日 血圧の薬カルシウム拮抗薬は男性の「夜間頻尿」に注意
血圧が高い……
夜中にトイレに起きる……
これらは共に中年以降の男性によくある訴えです。血圧については程度やその人の背景(例えば肥満や喫煙があれば基準が厳しくなる)にもよりますが、運動や食事療法で改善しない場合は薬を検討することになります。
その血圧の薬のせいで夜中のトイレの回数が増えるようなことは避けたいものです。
しかし、血圧の薬によってはそうなりやすいのはどうやら間違いなさそうです。
医学誌「Journal of Clinical Medicine」2021年4月9日号に興味深い論文が掲載されました。タイトルは「カルシウムブ拮抗薬は40歳以上の男性の夜間頻尿に関連 (Calcium Channel Blockers Are Associated with Nocturia in Men Aged 40 Years or Older )」です。
研究の対象者は泌尿器科に入院していた40歳以上の男性合計418人です。夜間の排尿回数は次のようになりました。
・降圧薬を飲んでいない人:1.35回
・カルシウム拮抗薬以外の降圧薬を飲んでいる人:1.48回
(飲んでいない人との有意差はなし)
・カルシウム拮抗薬だけを飲んでいる人:1.77回
・カルシウム拮抗薬を含む降圧薬を2種以上飲んでいる人:1.90回
カルシウム拮抗薬だけが夜間頻尿を促すというわけです。そして、この研究にはもうひとつ興味深い結果が導かれています。この傾向は若年者(40~65歳)で顕著だというのです。この年代では、カルシウム拮抗薬を飲んでいない男性の夜間の排尿は0.96回なのに対し、飲んでいる男性では2.00回に上昇しているのです。
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降圧薬を簡単にまとめてみましょう。次の種類があります。
#1 カルシウム拮抗薬
#2 ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
#3 ACE阻害薬
#4 βブロッカー
他にはαブロッカー、サイアザイド系利尿薬、漢方薬などがあります。#1から#4では、太融寺町谷口医院の処方量で言えば、(ARB>>カルシウム拮抗薬≒βブロッカー>>その他)です。ACE阻害薬は、ARBと似た薬ですが副作用がそれなりの頻度で出現するため、ARBの後発品が登場してからはほとんど使わなくなりました。
カルシウム拮抗薬は昔からある薬で後発品も豊富にそろっていますから、谷口医院を開院したころには最も多く処方していたのですが、年々頻度が減ってきています。実は、夜間頻尿は以前から(この論文の登場前から)訴える人はそれなりにいましたし、顔がほてる、むくむ、という訴えもそれなりにあり、さらに他の薬と飲み合わせが複雑であることから次第に処方頻度は減っていきました。ただし、血圧を下げる力は最も強いように思えます。
血圧の薬を飲んでいる男性は、最近気になる夜間のトイレは年齢のせいではない可能性があります。特に若い人は一度薬の見直しをしてもいいかもしれません。
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|2021年7月18日 日曜日
第215回(2021年7月) アルツハイマー病の新薬が期待できない理由
5月から開始したメルマガ「谷口恭の「その質問にホンネで答えます」」で、複数の読者の方から質問をいただいた、エーザイが米国から承認を得たアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を取り上げました。
メルマガでは、私自身は「この薬にはさほど期待していない」ことを紹介しました。その後、様々なご質問が届いたために、「はやりの病気」でこの新薬を取り上げ、さらにアルツハイマー病をどのように考えるかについて私見を述べたいと思います。
まずは基本的事項を確認しておきましょう。
・アルツハイマー病の新しい薬「アデュカヌマブ」が米国FDAから”認可”を受けた。ただし「迅速承認制度」を利用した認可であり、販売後に「検証試験」が義務付けられており、この試験で有効性が示せなければ認可が取り消しになる。
・費用は高額で、米国では4週間に一度の注射で年間約610万円がかかる。
・日本では現時点では未認可。
・FDAの承認を審議した専門家委員会(諮問委員会)は、2020年11月、賛成0、反対10、保留1で承認を支持しない勧告を出していた。
・FDAが諮問委員会の勧告に従わなかったことに反発し、同委員会のメンバー3名(2名という報道もある)が辞任した。
諮問委員会のすべての決定がFDAの判断に直接つながるわけではありませんが、委員会で賛成0、反対10となった新薬が承認されたということは、常識的に考えて問題でしょう。なぜ認められたのか私には分かりませんが、少し経緯を詳しく紹介しましょう。
アデュカヌマブの説明を始める前に、「アルツハイマー病はなぜ起こるか」について2つの仮説があることを確認しておきます。1つは「アミロイドβ仮説」、もうひとつは「タウ仮説」と呼ばれます。
アミロイドβ仮説は、アルツハイマー病の患者の脳細胞に多く認められるアミロイド斑がアルツハイマー病の原因だとする考え方です。アミロイド斑が原因なら、そのアミロイド斑がつくられないようにすればアルツハイマー病は防げるだろう、という単純な発想です。そして、これまで世界中の会社がアミロイド斑を抑制する薬の開発にしのぎを削ってきました。アデュカヌマブはそのひとつというわけです。
もうひとつの仮説であるタウ仮説は、脳に存在する「タウ蛋白」と呼ばれる蛋白が神経に変化をもたらせてアルツハイマー病が発症するという仮説です。ならば、そのタウ蛋白を抑制する薬ができれば特効薬になるのではないかと考えられ、こちらも世界中の製薬会社が日々研究に勤しんでいます。
二つの仮説のうち、最初に脚光を浴びたのはアミロイドβ仮説で、エーザイは早くから着目していました。実際、エーザイはβセクレターゼ阻害剤と呼ばれるアミロイドβの産生を阻害する薬剤を開発しています。イーライ・リリー社のソラネズマブ、ロシュ社のガンテネルマブなども抗アミロイドβ抗体と呼ばれるアミロイドβ仮説に基づいた薬剤です。しかし、どの薬剤もアミロイド斑を減らすことには成功しても、肝心の臨床効果を証明することができず、開発は暗礁に乗り上げていました。全体的な流れは、アミロイドβ仮説からタウ仮説に移行しつつありました。
そんななか、抗アミロイドβ抗体のアデュカヌマブが突然FDAの承認を受けたわけですから、我々医療者は大変驚いたのです。なんで今さら、アデュカヌマブなの??、という疑問が払拭できないのです。
実際、FDAが審査の対象とした2つのアデュカヌマブの臨床試験のうち「ENGAGE」と呼ばれるものは、アミロイドβの量が減ってはいたものの臨床評価では認知機能の改善が認められなかったのです。もうひとつの臨床試験「EMERGE」では認知機能の改善についても有意差をもって認められたとされていますが、劇的に症状が改善するとは言い難いとする意見があります。
「ENGAGE」について、「対象者全員で解析するといい成績が出なかったが、高用量を投与した群だけでみれば効果が認められた」とエーザイは主張しています。ですが、高用量での使用では、約4割に脳出血や脳浮腫といった重大な副作用が出現しています。高用量で使用した場合は、安全性が高いとは言えないのです。
先に基本的事項として紹介したように、アデュカヌマブは「迅速承認制度」で認可されました。こういった経緯を改めて確認すると、認可するのはさらなる検証をしてからでもよかったのではないかと私には思えます。
さて、ここからは今後の”予想”をしたいと思います。エーザイ(及び共同開発のバイオジェン)は今後どのような戦略をとるかというと、おそらく米国の神経内科医に一斉にアプローチをかけます。そして、受け持ちの患者のできるだけ多くにアデュカヌマブを使ってもらうよう働きかけます。おそらく、患者に投与すればするほどその医師に個人的利益が得られるような手を使うでしょう。同時に、日本の厚労省にも働きかけ、「米国では承認後これだけ大勢に使用されている」といったデータを出して早い承認を求めます。
おそらく同社は販売後の検証試験でいい結果が出ない可能性を見込んでいます。ならば同社にとって一番いい戦略は何か。それはできるだけ短期間にできるだけ多くの患者に使ってもらうことです。効果は関係ありません。なぜなら、使われれば使われるほど同社に利益が出るからです。検証試験の結果、やっぱり効果は認められず認可が取り消されました、となってもOKです。効果が認められなくても返金する必要はなく、すでに十分な利益を得ているわけですから。
このように私の予想はかなり穿ったものです。では、太融寺町谷口医院の患者さん(の家族)からアデュカヌマブを使いたいという希望があった場合はどうすればいいでしょう。その場合、ここに書いたようなことも説明した上で、それでも希望される場合は、アデュカヌマブを処方している病院を紹介するでしょう。他に治療薬がない場合、「効かなかったとしても一縷の望みがあるのなら使いたい」という患者さんの気持ちがよく分かるからです。
しかし、アルツハイマー病を発症していない若い人に対して私が言いたいのは、「この疾患に対する特効薬は現時点ではない。すべきなのは予防とリスクを知ること」です。ただし、予防といっても、暴飲暴食、喫煙、肥満、運動不足などがリスクになることはある程度は事実ですが、これらをすべて改善させたとしても発症するときは発症します。そもそも、それなりに年をとれば誰にでも発症しうるのがこの病です。
リスクについては今挙げたものもそうですが、それらより決定的な因子は「遺伝」です。そして、そのリスク(ApoE遺伝子のタイプ)は血液検査で簡単に分かります。ただし、誰にでも実施してよいわけではなく、ルールやガイドラインがあるわけではないのですが、「若者は受けるべきではない」というのが私見です。例えば、結婚前の若いカップルが受けたとして、ひとりはリスクが非常に低く、ひとりはすごく高かった(ApoE遺伝子がε4・ε4)として、結婚を躊躇するようなことにはならないでしょうか。
他方、出産を終え、ある程度の年齢になった人であれば、いつまで働くか、事業の継承をいつおこなうか、といったことを考える上でもアルツハイマー病のリスクを知っておくことは有益ではないでしょうか。
「アルツハイマー病のリスクが高くても、アデュカヌマブがあるからもう安心」とは考えない方がいいでしょう。
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参考:
はやりの病気第179回(2018年7月)「認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」
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|2021年7月6日 火曜日
2021年7月 「相手の立場に立つ」を再考する
2021年6月1日、東京都立川市のホテルで性風俗店勤務の31歳の女性が19歳の少年に殺害されました。この事件は「初対面の女性を70か所もメッタ刺しにした残虐さ」と「未成年の加害者が法律上匿名とされる一方で、被害者のセックスワーカーが実名を報道されたこと」が注目されました。
これだけ残虐な事件が起こると、週刊誌は加害者の人物像を過去にさかのぼり取り上げます。そんななか、私が最も驚いたのは週刊新潮と週刊文春が報道した中学の卒業アルバムに掲載された加害者の文章です。一部を抜粋します。
************
僕はいつか、僕を支えてくれた人たちを支えられるような人になりたいと思います。だから、そのためには、まず自分自身が成長し、自立することです。そして、相手の立場に立って一緒に考えてあげる力を身に着けていきたいです。そして、苦しい思いをしている人たちを支えられるような大人になりたいです。
************
話は変わって、2021年6月30日、大阪府下のある大学の看護学部の授業で、私は「在日外国人の健康問題」というタイトルで講義をおこないました。日本(特に大阪)では、外国人が適切に医療を受けられていない現状があります。それを、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の経験も踏まえて、外国人医療に関する諸問題を話したのです。
その講義で、外国人医療の問題を解決するために最も重要なのは「相手(外国人患者)の立場に立つことだ」と強調しました。講義では、「相手の立場に立つこと」が外国人医療の最重要事項であるだけでなく、すべての医療問題の最重要事項であるという私見を紹介しました。
実際、患者・医療者間のトラブルのほぼすべての原因が「相手の立場で物事を考えていないこと」と言っても過言ではありません。逆に言えば、そのトラブルは「相手の立場に立てばたいていは解決する」のです。
そして、私自身はこの「相手の立場に立つ」を(後述するように)あるときから実践するよう心がけています。医師になってからも、例えば「救急外来で患者が怒っている」などという話を聞くと「自分の出番だ」と考えて駆けつけていました。なぜ、多くの人が嫌がる仕事を率先して引き受けるかというと、それまでの人生でいくつもの成功体験があるからです。
争いごとは、たいていは、「私があなたのことを理解していることをあなたに理解してもらうまでは私の言い分を言わずあなたの話を聞きます」という態度で臨めば一気に進展します。このときに絶対にやってはいけないことは、「相手の意見を聞く前にこちらの言い分を主張すること」と「正論の押し付け」です。
例えば、外来で「長時間待たされたのにCTも撮ってくれへんのか!」と騒いでいる人がいたとしましょう(実際こういう人は多い)。このときに「この状態ではCTは不要です。不要な検査はあなたのためになりません」などと言ってしまうと、理屈の上ではそれは正しいわけですが、これは医療者側の見方です。こういうときには、「なぜあなたがCTが必要と考えているか聞かせてもらえますか?」という切り口で話を聞くことから始めます。
もっとも、実際の現場では、全体の状況を考えた上で、あえて怒らせたままにしておくこともあります。例えば、暴言を浴びせられて委縮している医療者に対して、いかにも殴り掛からんばかりの態度で威圧してくるような人に対しては、「それは恫喝です。お引き取りください!」と(ちょっとだけ)強い口調で迫ることもあります。
谷口医院でもだいたい年に1人くらいは「お帰りください」と言わねばならないことがあります。理由として多いのは「スタッフへの暴言」と「金払うから〇〇を出してくれ、△△の検査をしてくれ」と威圧的に言ってくる場合です。
コロナ禍以降は、通常の診察時間に「コロナかもしれへんから診てくれ」と言ってやって来るケースも該当します。そういう場合、直ちに外に出てもらい、「いったんお帰りいただいて発熱外来にお越しください。あるいは当院が紹介する医療機関を受診してください」と説明するのですが、「どうしても今ここで(谷口医院で)診てくれ」という人がいます。院内感染を起こすわけにはいきませんから、こういうケースでは強い口調で「お引き取りください!」と言わざるを得ません(当院が今も「コロナ院内感染ゼロ」を維持しているのはこういうことも実施しているからです)。
話を戻します。過去のことを言い出せば私には失敗例がものすごくたくさんあるのですが、少なくとも医師になってから20年近くの間、こちらから訣別することを決めたとき以外は、患者さんとトラブルになったことはほぼありません。仕事ではなくプライベートなことでも、信頼していた人から裏切られたことは何度かありますが、それほど人間関係で苦労したことはありません(注)。裏切られたのならそれは苦労じゃないのか、との指摘はあるでしょうが、こういうときは「あの人はその程度の人だったんだ」と思って以降関わらないようにすればそんなにストレスにはなりません。
「相手の立場に立つ」というのは一見当たり前のようですが、過去の私にとってはそうではありませんでした。私がはっと気づいたのは1997年のある日、このサイトでも何度か紹介した『7つの習慣』を読んだときでした。「7つの習慣」の第5の習慣が「理解してから理解される(Seek first to understand, then to be understood)」です。この本にはこの「習慣」が真実であることを示すエピソードがいくつも紹介されています。
私はこの本を読んで、それまでの人生でいかに自分が正論の押し付けをしていたか、そして議論に勝つことを目標にしていたかを思い知りました。今となっては常識中の常識と認識していますが、過去の私は「議論に勝ったときは内容ではたいてい負けている」ということが分かっていなかったのです。
さて、本題です。冒頭で紹介したように19歳の加害者は、中学の卒業論文で「相手の立場に立って一緒に考えてあげる力を身に着けていきたい」と書いています。「考えてあげる」は上から目線のおかしな表現ですが、それを除けばものすごく大切な人生の真理を述べています。これを常に心がけていれば他者や社会に貢献できることは間違いありません。
私は週刊誌で加害者のこの文章を読んだとき2つの点で大変驚きました。一つは、この部分だけでなく、文章全体に整合性があり、中学生の作文にしてはかなり優秀な内容だということです。なにしろ、私が20代後半になって『7つの習慣』のおかげでようやく理解できるにいたったことが書かれているわけです。そしてもうひとつの驚きは、言うまでもなくこの文章を書いた張本人がこれほど残虐な事件を起こし一人の女性の命を奪ったことです。
ではなぜこの加害者はこれほどまでに身勝手で残虐な事件を起こしたのでしょうか。「中学の卒業アルバムに書いたこの言葉のことなどすっかり忘れていた」と信じたいのですが、それで済ませていいのでしょうか。「忘れていた」にしても、これを書いた中学生時代にはそう思っていたのは事実でしょう。
我々はこの事件とこの卒業アルバムから何を学べばいいのでしょう。常に相手の立場に立って物事を考える人物でも残虐な事件を起こす、ということでしょうか。あるいは、正しく生きるために相手の立場に立つことを忘れてはいけない、ということでしょうか。
いずれにしても、私の場合、残りの人生、命が尽きるまでこの「習慣」を維持していくつもりです。
************
注:ただし現在、医師になってから初の、というよりも人生初のトラブルを抱えています。2020年12月に谷口医院の階上に入居したボクシングジムが日々耐え難い振動と騒音をつくりだし、当院の患者さんを苦しめています。ジムのオーナーと話し合いをして「4月末に防音・防振対策の工事をする」との約束をもらったのですが、まったくそのような工事を実施した気配がなく、「本当に工事をしたなら証拠を見せてほしい」と依頼すると、意味不明の写真を送ってきただけでその説明をお願いしても無視されました。5月以降に振動・騒音が悪化していることを伝えると「6月20日を目途にちゃんとした工事をする」と約束を取り付けたのですが、7月5日現在、工事を開始した様子は一切なく説明も求めてもやはり無視です。「工事をする、と言っておけばいいだろう」と思っているのでしょう。「苦しんでいる患者さんに、恐怖と苦痛を与えていることをどう思いますか?」と尋ねると、「ウチは客に”ユメ”を与えなあかんからやめられへんのですわ」という回答が返ってきました。こういう問題は得てして被害者が泣き寝入りすることになると聞きましたが、これ以上、患者さんに苦痛と恐怖を与え続けるわけにはいきません。ときに「理解しようと努めてもまったく理解できない相手」も存在するのです。
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