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2021年11月25日 木曜日

2021年11月25日 ω3系脂肪酸は心房細動のリスク

 最近の「医療ニュース」で、「ω3系脂肪酸(以下、単に「ω3」)は片頭痛を改善させる」というω3が有用だという話をしましたが、今回は否定的な話題です。

 ω3のサプリメント接種で心房細動(不整脈の一種)のリスクが上昇する……

 医学誌「Circulation」2021年10月6日号に掲載された論文「心血管疾患のランダム化比較試験における心房細動のリスクに対する長期のω3脂肪酸サプリメントの効果:系統的レビューとメタ分析 (Effect of Long-Term Marine Omega-3 Fatty Acids Supplementation on the Risk of Atrial Fibrillation in Randomized Controlled Trials of Cardiovascular Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis)」を紹介します。

 この研究は過去に発表された良質な論文を集めて解析し直すこと(メタ分析)で結論を出しています。解析全対象者は81,210人で、58,939人(72.6%)は1日当たりのω3の摂取量が1グラム以下、22,271人(27.4%)は1グラムを超える量を摂取していました。ω3の1日当たりの摂取量が1グラムを超えていると、心房細動の発症リスクが49%上昇していたのに対し、1グラム以下ではリスク上昇は12%にとどまっていました。

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 巷ではω3は心臓に優しいと言われているのにも関わらず心房細動のリスクになるとは驚きです。

 ですが、結論から言えば、過去にも述べたようにほとんどの日本人にとってω3のサプリメントは不要です。ついでに言えば、医薬品としてのω3も不要です。そもそも日本人のω3の平均摂取量はおよそ2グラムです。一方、標準的な米国人では1日あたりの摂取量は1グラム以下です。

 そして、ω3のサプリメントを多くとっても有益性はなく、逆に前立腺がんのリスクを上昇させるという研究もあります。サプリメントや製薬会社の宣伝に踊らされるのではなく、日本人らしい食事をしていればそれでOKということです。心房細動はいったん発症すると、生涯にわたり血液をサラサラにする薬を飲まなければならないことも多く、日常生活が制限されてしまいます。また、突然死のリスクも増えます。

 サプリメントのせいで心房細動を起こしたとしたら、後悔してもしきれないでしょう。

<参考>
メディカルエッセイ第122回(2013年3月)「不飽和脂肪酸をめぐる混乱」 
医療ニュース
2021年8月29日「片頭痛を大きく改善させるω3脂肪酸」
2018年12月30日「ω3系脂肪酸、心血管疾患にもがんにも予防効果なし」
2013年7月31日「ω3系脂肪酸で前立腺ガンのリスクが4割上昇」
 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2021年11月20日 土曜日

第219回(2021年11月) 「発達障害」を”治す”方法

 本サイトで初めて発達障害を取り上げたのは太融寺町谷口医院をオープンする前、今から15年前の2006年です(はやりの病気2006年9月「あなたの周りにも?!-アスペルガー症候群-」)。その後、発達障害の”流行”は現在も続いていて止まる様子がありません。

 昭和時代なら単なる「個性」で片付けられていたような”症状”を、自身もしくは周囲が発達障害だと決めつけて受診に至るというケースも目立ちます。以前からそのような、例えば「空気が読めない人」は大勢いたわけで、「昔なら病気とは考えられていなかった。だから発達障害は増えているわけではない」という意見は根強くあります。

 他方、精神科医と製薬会社が発達障害を意図的に増やしているという指摘もあります。これは「薬で儲けたい製薬会社と受診者数を増やして稼ぎたい精神科医の利害が一致し、市民が犠牲になり患者にされている」という意見です。いささか陰謀論のきらいがある考えですが、この考えもまったくのデタラメではないと私は感じています(そう思わざるを得ない実例については後述します)。

 では、やはり統計上、薬の処方数が増え、受診者数が増えているだけであって、発達障害そのものは増えていないのでしょうか。現在の私の考えは「増えている」です。そう考える理由については後述することにして、まずは発達障害の基本をまとめておきましょう(実は、肝心の基本が誤解されていることが多いのです)。

 発達障害は先天的な疾患です。「大人の発達障害」という言葉があり、これは大人になっていきなり発症するかのような印象を受けます。たしかに成人してから発症する可能性もなくはないでしょうが、障害は生まれつきあったはずです。つまり脳を詳しく調べれば異常が見つかるはずです。具体的には、小脳が平均より小さかったり(だからバランス感覚が悪い)、脳の左右差が大きかったり(だから特定の領域に詳しくなる)するわけです。

 よく指摘されるように、この疾患は正常と異常の境界がはっきりしていません。病名の定義も変わってきており、最近はアスペルガー症候群という病名は用いられなくなり、代わりに「自閉スペクトラム症」という言葉がよく使われます。そして、発達障害のなかに自閉スペクトラム症、ADHD(注意欠陥性多動障害)、他に学習障害などがあるとする概念が普及してきています。ですが、実際には自閉スペクトラム症とADHDの区別がつきにくいこともしばしばあります。

 冒頭のコラムを書いた2006年頃からアスペルガー症候群は流行語のようになり、いわゆる「空気の読めない人」がアスペルガーのレッテルを貼られるようになってきました。また、抜群に暗記が得意だったり、特定の趣味に没頭したりするような人たちも「アスペ(ルガー)の傾向がある」と言われるようになりました。「他人の気持ちが理解できない」こともアスペルガーの特徴のひとつとされ、「私の気持ちをまったく理解してくれない夫はアスペルガーかも……」と考える妻の訴えも増えだし、この苦しみが「カサンドラ症候群」と呼ばれるようになりました。

 一方、ADHDは文字通り注意力に欠けていて落ち着きがない症状を指すわけですが、単に不注意が多いだけ、忘れ物を繰り返すだけでADHDではないかと考える人が増えてきました。また、アスペルガー症候群と同じように、何か特定のジャンルに極めて詳しいことや高い芸術のセンスがあることが取り上げられるようになり、いわゆる「オタク」と呼ばれる人たちからの「自分はアスペ(ルガー)でしょうか、それともADHDでしょうか」という相談が増えました。

 私は精神科医ではないために、このような疾患の診断を下すことは原則としておこないません。他覚的にそれらが疑われ、患者さんが希望するときには精神科医を紹介しますが、(特にアスペルガー症候群の場合)有効な治療法がないこともあり、積極的に精神科受診を促すようなことはしていません。

 それに、率直に言うと、精神科医の診断を疑うこともあります。そもそも発達障害というのは先述したように先天性の疾患であり、文字通り「発達」に障害があるわけです。つまり、幼少時に発達障害を連想させるエピソードがなければなりません。決して、10分程度でできるアンケートのような質問に答えるだけで診断がつくわけではないのです。

 にもかかわらず、「精神科では初診時に簡単な質問用紙に答えて10分で発達障害の診断がついて薬が処方されました」という患者さんもいるのです。しかも、診察室で会話する限り、私にはその患者さんが発達障害だとは到底思えず、薬は覚醒剤類似物質が処方されています。もしかすると、名医ならば初診患者に10分程度の質問用紙を書かせただけで診断がつけられるのかもしれませんが……。

 発達障害の診断をきちんとするには、脳に異常があることを示すべきだと以前から私は主張しているのですが、これはほとんど試みられていません。MRIを撮影すれば医療費が高くつくことが原因なのかもしれませんが、発達障害というのは「治らない病気」とされているわけですから(後述するように私は”治療”できると考えていますが)、病名告知はその患者さんの人生を大きく変えてしまうこともあるわけです。何十年もたってから「それは誤診でした」では済みません。発達障害には脳に器質的な異常所見があるはずで、仮にそれが見つからなければ発達障害でない可能性も出てくるわけです(否定できるわけではありませんが)。逆に、あきらかな脳の器質的な異常(先述したように左右差や脳の一部が小さいなど)があればそれだけで確定診断に近づきます。

 発達障害が増えていると私が考える理由のひとつは「父親の高齢化」です。これにはきちんとしたデータがあるのにも関わらず、なぜか世間には今一つ浸透していません。医学誌『Molecular Psychiatry』2011年12月号に掲載された論文「父親の年齢と自閉症のリスク:人口ベースの研究と疫学研究のメタアナリシスからの新しいエビデンス (Advancing paternal age and risk of autism: new evidence from a population-based study and a meta-analysis of epidemiological studies)」を紹介しましょう。この論文によれば、50歳以上の父親から生まれた子供が(発達障害を含む)自閉症(autism)を発症するリスクは、29歳以下の父親の2.2倍にもなります。

 発達障害が増えていると私が考えるもうひとつの理由は「”治療”されていない人が多い」というものです。ですから、これは正確には「増えている」わけではありません。冒頭で述べたように、昔なら「個性」で片付けられていた行動が発達障害と呼ばれるようになっているという指摘は正しいと思います。ですが、発達障害を患っている人が、昭和時代なら”治療”されて症状が出なくなっていたのが、現在では”治療を受けていない”ということがあるように思えるのです。

 先ほど発達障害は「治らない」と述べました。では私が言う”治療”とは何なのでしょうか。それは「対人関係を通しての”学習”により症状を再発させないこと」です。発達障害の中には知能が正常、あるいは正常よりも高い人が少なくありません。例えば18歳のときには場違いな発言をして空気を凍らせていたような人も、そういった失敗を繰り返し経験することで、「他人があのようなことを言ったときに、こういう返答をしてはいけない」とか「あれを言うならあのタイミングではよくない」といったことが学習できると思うのです。

 そして、そのような学習の機会を最も多く得ることができるのが「恋愛」です。これは完全に私見ですが、発達障害の人たちには美男美女が多くないでしょうか(注)。だからコミュニケーションが苦手で、無神経な発言で他人をイラつかせることがあったとしても恋愛にはむしろ有利なこともあるのです。そして恋愛を通して、つまりパートナーから”指導”を受け学習することで発達障害の症状の再発が防げると思うのです。

 ところが、昭和が終わる頃あたりから若者の人間関係が希薄になってきました。クラブ活動に参加したとしても昭和時代のように濃厚な人間関係が構築されず、恋愛に消極的な若者が増え、さらにインターネットやSNSの普及でコミュニケーションが対話から文字に変わりました。健全な人間関係を構築するには、言葉そのものではなく、話し方や空気の読み方、非言語(non-verbal)でのコミュニケーションが大切です。昭和時代であれば、部活で厳しい”洗礼”を受け、恋愛で失敗を繰り返し、就職すれば上司からの暴言は当たり前といった社会でもまれるうちに、人間関係が苦手な人も、そして発達障害を患っている人たちもそれなりの学習ができたと思うのです。

 私は「厳しい社会を復活させよ」と言っているわけではありません。ですが、文字でなく濃厚な対面の人間関係に自分を置き、そして深い恋愛にどっぷりと耽溺するような経験を通して学習することが、発達障害の”治療”になると思うのです。

 こんなことは研究のテーマになりませんし、学術的な論文は書けません。ですからこの私見は医学的な意味をもたないことは分かっています。ですが、私がこれまで多くの人(それは患者さんのみならずプライベートの友人知人も含めて)をみてきた結果、発達障害の”治療”としてたどりついた結論が「若者よ、濃厚な人間関係に己の身を投げ入れよ、そして恋愛に人生を賭けよ」なのです。

注:高齢の父親から生まれた子供に発達障害が多いという事実に注目してみましょう。高齢になってから若い女性に子供を産ませることができるのは、経済的にも肉体的にも、そしておそらく容姿にも恵まれた男性ではないでしょうか。よって発達障害を抱えながら生まれてくる子供も遺伝的に魅力のある容姿や雰囲気を持っていることが予想されるというわけです。もっとも、これは私の「仮説」というよりも「偏見」ですが……。

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2021年11月14日 日曜日

2021年11月8日 片頭痛は認知症のリスク

 過去に紹介した医療ニュースで「片頭痛がアルツハイマー病のリスクになる」とする研究について紹介しました(医療ニュース2019年10月27日「片頭痛があればアルツハイマーのリスクが4.2倍」)。この研究はかなりのインパクトがあり、この医療ニュースを読んだ方からの問合せも多かったのですが、最近はあまり触れられなくなってきていました。

 最近、同じように片頭痛が認知症のリスクであることを示した研究が報告されたので紹介します。

 医学誌「Acta Neurologica Scandinavica」オンライン版2021年9月15日号に掲載された「片頭痛と認知症のリスクにおけるメタ解析(Meta-analysis of association between migraine and risk of dementia)」という論文です。

 冒頭で述べた過去に紹介した研究は「前向き研究」と呼ばれる信頼度の高い検査です。今回紹介する研究は「メタ解析」で、これまでに発表された質の高い5つの研究を総合的にまとめ直したものであり、さらに信頼度は高いと言えます。研究の総対象者は合計249,303人とかなり多い人数が選ばれています(よって信ぴょう性は上がります)。結果は以下の通りです。

・片頭痛はすべての認知症のリスクを34%上昇させる。

・片頭痛はアルツハイマー病のリスクを2.49倍上昇させる

・ただし、片頭痛は血管性認知症のリスクを上昇させるわけではない

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 この論文、片頭痛がある人には非常に不快なものではないでしょうか。もしも「片頭痛は血管性認知症のリスクを上げる」なら、血管性認知症のリスクを下げる生活習慣を身に着ければいいわけです。例えば、運動をする、適正体重を維持する、などです。

 ですが、血管性認知症のリスクではなくアルツハイマー病のリスクを上げるとなると、対策のとりようがありません。もちろん、運動や適正体重、良質な食事などはアルツハイマー病のリスクを下げるとは言われていますが、決定的なものではありません。

 冒頭で紹介した過去の論文も「リスクが4.2倍」という悩ましいものでしたが、研究の規模はさほど大きくありませんでした。今回の結果は2.49倍と4.2より数字は小さいわけですが、メタ解析されたもので信頼度はかなり高いと言えます。しかも、そのリスクを下げるための決定的なものはないわけです。

 受け止められない人も多いでしょうが、片頭痛がある人は「アルツハイマー病になる」という前提で今後の人生計画を立てた方がいいかもしれません。

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2021年11月11日 木曜日

2021年11月 「人に好かれる」よりも大切なこと

 「承認欲求」の話を書くと質問・相談のメールが増えます。それだけ世間の関心が高いテーマなのでしょう。私が一貫して主張しているのは「承認欲求など捨ててしまえばいい」ということです。こう書けば反論もたくさん届くわけですが、この世のすべての人から承認を得ることなどできるはずもなく、また求める必要もないわけです。

 では、私自身は「すべての人から嫌われてもいいのか?」と問われれば、そうは言っておらず、「自分にとって大切な人からはやはりその人からみて大切な人間になりたい」わけです。しかし、では「その大切な人のためにお前は何でもするのか?」と問われれば、そういうわけではありません。「それが身近な人や大切な人であったとしても他人に振り回されるべきではない」と考えています。

 ちょっと抽象的な話になってきましたからここで例を挙げましょう。

 それは私が医学部の学生の頃、あるイベント運営会社でアルバイトをしていたときの話です。

 そのアルバイトを始めて数か月がたったある日、その会社の社長から直接電話がかかってきました。

 「おう、谷口か。お前、かげで俺の悪口言うてるらしいな。俺はお前が思てるような人間やないんや。俺はな……」

 声のトーンがいつもの社長のそれとは異なっています。そして、延々「言い訳」のような話が続きました。もちろん、私はこの社長の悪口など言っていません。話をよく聞くと、社長は前日にアルバイトの女性と飲みに行き、そこでスタッフの話題となって、私が社長の悪口を言っていることになっていたようです。しかし、その悪口の内容がどうもおかしいのです。被害妄想的というか、それって悪口?、と言えるようなものでした。しかし、こういうときは理屈で反論してもいいことは一つもありません。「社長、僕は社長の悪口を言っていません。明日からまたよろしくお願いします」と言って電話を切りました。

 数日後、社長と飲みに行ったというそのアルバイトの女性と話す機会がありました。社長からの電話の話をすると、案の定「私は谷口君が社長の悪口を言ったなんて言っていない。なんであの社長、そんなふうに受け取るのかな……」とのことでした。

 この社長、学生時代に起業(今で言うスタートアップ)し、しっかりと利益を上げて大勢のアルバイトを雇用し人望もあります。話もおもしろく、人を惹きつける魅力があります。何もしなくても人が寄って来るようなタイプだと私は思っていました。それだけに、「自分が悪く言われているのではないか」と過剰な心配をしていることが奇妙に思えました。

 尊敬していた社長だっただけに、私としては「他人が何を言おうが自分は自分」という態度でいてほしかったのです。私が悪口を言ったというのは完全に誤解ですが、たとえ本当に悪口を言ったとしても「谷口が何を言おうが放っておけ」くらいの態度をとってほしかった……、と今も思っています。

 続いて当院の患者さんの話をしましょう。ただし、プライバシー保護の観点から詳細にはアレンジを加えていることをお断りしておきます。

 その女性は現在28歳。派遣会社経由でコールセンターに努めています。関西の私立大学を卒業した後、いったん大企業に入りましたが、1年もしないうちに退職し、その後は転々としています。幼少時から勉強はよくでき、いつも優秀な成績をおさめており、学生の頃はどんなアルバイトをしても仕事ができていつも重宝されていました。おまけに人あたりも良く、さらに容姿も端麗。周囲からは「理想の女性」とみられています。

 そんな彼女がなぜ仕事を続けられないのか。この答えは彼女自身が分かっていました。それは「男性」です。彼女は「恋愛依存症」なのです。恋愛依存症という正式な病名はありませんが、交際相手に依存してしまい、世の中の何もかもがその男性を中心に回り始め、やがて日常生活にも影響が出てきます。こうなると、その男性が電話に出なかっただけでパニックになり、それだけで会社に行けなくなるのです。

 この女性、たしかにメンタルが脆弱なところがあるのですが、うつ病や不安症と呼べるほどではありません。谷口医院を受診したきっかけは不眠と抑うつ感でしたが、薬は使うべきでないと私は判断しました。問診を繰り返しているうちに、どうやらパートナーとの関係がうまくいっているときは何もかもが調子よくなり、そうでないときに症状が出てくることが分かりました。

 しかし、24時間相手のことを考えて日に何度も電話で愛を語り合うようなハネムーン期はたいてい数か月で変化を迎えます。情熱が冷めたわけではなくても、数時間電話に出られないことくらいあるでしょう。しかし、彼女にとっては、それが「まるで世界を失ったかのような感覚」になってしまいます。毎日何十回の電話やLINEがなければ愛を確認できないのです。

 さて、この女性は「異常」でしょうか。私は女性からこの話を聞いたとき、以前あるタイ人女性と交わした会話を思い出しました。当時の私はタイ語を勉強していて、教材として使っていたあるタイポップスの歌詞のなかに「何十回と電話しているのになぜあなたは出てくれないの?」という歌詞がありました。私は、そのタイ女性に「何十回も電話されると冷めるよね」ということを言うと、その場の空気が白けてしまいました。そのタイ人から「これが女心なの。あなたは冷たい人ね」と言われてしまいました……。

 その後、韓国人女性と交際したことがあるという日本人男性にこの話をすると、まさにこのことを経験したと言われました。交際時にはその韓国女性から毎日何十回と電話がかかってきたというのです。電話に出なければ激怒されたそうです。また、韓国人男性と付き合ったことのあるという日本人女性に聞いてみたときに、やはり同じことを経験したと教えてくれました。韓国では好きな相手への愛情を示すために日に何十回も電話することが珍しくないようです。

 では、仕事が長続きしない先述の女性は韓国やタイなどアジアに行けばうまくやっていけるのでしょうか。私の答えは「NO」です。

 話をタイ人女性との会話に戻します。「冷たい人ね」と言われた後、私が「電話に出ない男との関係はどうなるの?」と尋ねてみると、「また新しい男を探す」という答えが返ってきました。要するに、電話にも出てくれないような男にはさっさと見切りをつけて新しい男を探せばいい、と考えているのです。

 恋愛依存の女性とタイ女性(や韓国人)の違いはどこにあるか分かるでしょうか。それは、タイ女性は男性に依存していないことです。一時的に依存したとしても「この男は信用できない」と思えばさっさと捨ててしまう強かさを持っています。

 他方、谷口医院の患者さんは、すでにその男性が女性にとってのすべてになってしまっていて「男性が自分の思い通りにならない=世界を失うこと」なのです。もちろん、タイ女性のなかにも恋愛依存症の女性はいます。(元)交際相手のペニスを切断、という事件がタイのローカル紙にときどき報道されますが、タイ人にとっては「またか」という感じで新鮮味がないようです。そういえば、日本人女性にも阿部定という、愛した男性を殺害し切断したペニスを持ったまま逃亡していた女性がいましたが……。

 今回の話をまとめましょう。まず繰り返しますが、赤の他人からの承認欲求は初めから持たないのが一番です。一方、あなたにとって大切な人からの承認を求めるのは当然ですが、行き過ぎた承認欲求はときにあなたの人生を狂わせます。あなたにとって大切な人がどのような言動をとろうが、あなた自身が<変わらざる自身>を持ち続けることが大切なのです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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