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2022年6月30日 木曜日

2022年6月30日 乳製品の摂り過ぎは前立腺がんのリスクか

 「乳製品は前立腺がんと乳がんのリスクを上げるのではないか」という問題は以前から議論になっていました。最近、「乳製品は前立腺がんのリスクを上げる」という報告が出ましたので報告します。

 医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」2022年6月8日号に掲載された論文「『Adventist Health Study-2』における乳製品、カルシウム摂取量、および前立腺がんの発症リスク(Dairy foods, calcium intakes, and risk of incident prostate cancer in Adventist Health Study-2 )」の紹介です。

 研究の対象者は、米国とカナダのセブンスデー・アドベンティスト教会の男性信者28,737人で、平均7.8年間の追跡調査期間中に合計1,254人が前立腺がんを発症しました。うち190人は進行がんでした。

 乳製品の摂取量が上位1割の男性は下位1割に比べると、前立腺がんのリスクが27%上昇していました。上位1割の男性は、乳製品をまったく摂らないグループと比べると62%も上昇していました。

 発がんの原因が乳製品に含まれるカルシウムにあるのか、とった点も検討されています。乳製品以外でのカルシウム摂取量が少ないグループと多いグループの間で発がんリスクの差は認められませんでした。ということは、乳製品が前立腺がんのリスクを高めるのは、乳製品に含まれるカルシウム以外の成分が原因ということになります。

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 研究の対象となったセブンスデー・アドベンティスト教会は、過去のコラム「メディカルエッセイ第126回(2013年7月)我々はベジタリアンの道を進むべきか」でも紹介しました。同協会では菜食主義が勧められており、信者にはビーガン(肉魚だけでなく、卵も乳製品も一切摂らない菜食主義者)も少なくありません。

 この論文を読めば、「乳製品を止めようかな……」と思う人もいるかもしれませんが、そう思い込むのは早そうです。論文で紹介されている乳製品摂取上位1割は1日あたりの摂取量が430グラムにもなります。一方、国立健康・栄養研究所によると、日本人男性の乳製品摂取量の平均は166.1グラムと4割以下です。

 乳製品はカルシウムを効率よく摂ることができるだけではありません。蛋白質も効率よく摂取できる貴重な食品です。よって、極端に摂りすぎなければむしろ健康及び長生きに寄与する食品と考えるべきです。

 ところで、乳製品は乳がんのリスクになるという説もありますが、現在ではほぼ否定されています。日本乳癌学会は、乳製品摂取はむしろ乳がんのリスク低下になるとしています。

 尚、前立腺がんは男性にしか起こりませんが(女性は持っていないのですから)、乳がんは女性だけでなく男性にも起こります(男性にも乳房はありますから)。乳がんのリスクが喫煙、アルコール、糖尿病であることをここで確認しておきましょう。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2022年6月12日 日曜日

第226回(2022年6月) アトピーの歴史は「モイゼルト」で塗り替えられるか

 「はやりの病気」でアトピー性皮膚炎(以下、単に「アトピー」)を取り上げる機会がここ数年で増えてきています。その理由はいずれも「画期的な新薬が登場した」からであり、今回もまた新たな新薬が登場したが故に再び取り上げることにしました。

 今回はその新しい薬「モイゼルト軟膏」の話をする前に、「アトピー性皮膚炎の治療の歴史」をまとめておきましょう。

1999年まで:ステロイドしかなかった時代
1999年:タクロリムス軟膏登場
(2007年:当院開院)
2008年:シクロスポリン登場
2018年:デュピクセント®(注射)登場
2020年:コレクチム®軟膏登場
2020年:オルミエント®登場
2021年:リンヴォック®登場
2021年:サイバインコ®登場
2022年:モイゼルト®軟膏登場

 まず、1999年までは効果のある薬はステロイド外用くらいしかありませんでした。そのため、「ステロイドを塗ればよくなるけれどもやめれば悪化する。そしてそのうちに取り返しのつかない副作用に悩まされる……」ということが多かったのです。

 私の見解を言えば、ステロイドによる最も多い副作用は「酒さ様皮膚炎」です。顔面の、特に鼻や鼻の周囲、頬部、口の周りに赤い炎症が起こり、これが治らないのです。酒さ様皮膚炎は比較的少ない量のステロイドでも起こり得ます。さらに進行すると、全身の皮膚が薄くなり、そんなに強い力を加えなくても皮膚に触れると皮がめくれるようになります。ここまでくるとどうしようもありません。

 1999年までは(それ以降も)ステロイド以外の治療としていろんなものが試みられましたが、私の印象で言えば、一部の漢方薬を除けば有効といえる薬はほぼありません。漢方薬も、効く人もいるけれど効かない人の方が多い、といった感じで、おおざっぱにいえば(患者さんには失礼な言い方ですが)1999年までのアトピーは「どうしようもない病気」だったのです。そういう背景もあり、多数の民間療法やアトピービジネスが蔓延しました。

 タクロリムス(先発の商品名は「プロトピック」)は画期的な製品でした。なにしろ「もうステロイドを使わなくてもアトピーを治すことができる」という噂が広がり、「夢の薬」という声もあったほどです。

 けれども、実際には当初期待されていたほどには普及しませんでした。この経緯については2011年のコラム「アトピー性皮膚炎を再考する」にも書きましたが、ここでもポイントだけを振り返っておくと、「タクロリムスを使えない」という人は「タクロリムスを始める地点にまだ立っていない」のです。

 強い炎症を取ることができるのはステロイドを置いて他にはありません。ですが、どれだけ重症であっても、ステロイドを1週間も外用すればまず間違いなく症状をゼロにできます。そして、この状態になって初めてタクロリムスの出番となります。その後は、タクロリムスを適切に使用すればステロイドはその後(頭皮以外は)不要となります。

 ではタクロリムスは塗るタイミングを誤らず、その後適切に塗っていれば、もう何も心配ないのかと言われれば、そういう人も多いのですが、そうでない人もいます。「感染症のリスク」があるからです。若い人の場合、タクロリムスでアトピーの再発を防げたとしても、ニキビ、ヘルペス、脂漏性皮膚炎といった病原体が関与する疾患が生じることがあります。

 特にニキビは厄介で、元々ニキビ肌ではないのに、タクロリムスを使用し始めたがために発症するようになり、そのためにニキビの予防薬を外用しなければならなくなったという人もいます。すると、皮膚症状がまったくないのに、アトピーの再発予防目的でタクロリムスを外用し、そのタクロリムスの副作用で生じ得るニキビを防ぐためにニキビの予防薬を塗らなければならなくなります。これはかなり面倒くさいことです。

 少し補足しておくと、ニキビ予防に保険診療で処方できるのはディフェリンゲルとベピオゲル(いずれも商品名)で、発売されたのはそれぞれ2008年10月、2015年4月です。これらが発売されるまでは有効なニキビの予防薬もなく、そのため谷口医院では、ディフェリンを海外から輸入して処方していました。尚、アゼライン酸(商品名AZAクリア)も優れたニキビの予防薬ですが、なぜか日本では化粧品扱いとなり保険適用はありません。

 アトピーには極めて有効だけれど、ニキビなどの感染症のリスクとなるというのはタクロリムスの欠点と言えます。そして、この問題をほぼ克服したのが2020年6月に発売となったコレクチム(商品名)です。コレクチムもJAK阻害薬と呼ばれる免疫抑制剤の一種であるため、ニキビなどの感染症の発症が懸念されていたのですが、発売前の調査では頻度は少なく、また発売後の市場調査でもそれほど多くありません。谷口医院の患者さんを診ていてもコレクチムがニキビで使えないというケースはほぼ皆無です。タクロリムスとコレクチムは作用メカニズムがまったく異なりますが、イメージでいえば「コレクチムはタクロリムスの欠点を克服した薬」です。

 そして、2022年6月1日、そのコレクチムに続く外用薬「モイゼルト軟膏」が発売となりました。この薬も作用メカニズムは、タクロリムスやコレクチムとはまったく異なります。3種のなかでは免疫抑制作用が最も弱く、副作用も最も少ないことが予想されます。ただ、実際にはコレクチムの患者満足度がかなり高いために、モイゼルト軟膏はそれほど広がらない可能性もあります。

 ですが、待望の新薬ですから谷口医院では発売された6月1日以降、コレクチムかタクロリムスを使用している(ほぼ)すべてのアトピーの患者さんに、モイゼルト軟膏を「お試し」というかたちで処方しています。本稿執筆時点(6月12日)でその後再診された患者さんは2人います。「コレクチムvsモイゼルト」の印象を尋ねると、コレクチム派が1人、モイゼルト派が1人と意見が別れています。

 ところで、アトピーの新薬という話になると、学会では過去のコラム「アトピー性皮膚炎の歴史が変わるか」「アトピー性皮膚炎の歴史を変える「コレクチム」」で紹介したような、高価な薬が取り上げられます。3割負担で年間50万円から100万円もするこういった薬、効果が高ければいいではないかという人もいるでしょうが、副作用のリスクが高すぎて安易には使えません。

 これら過去のコラムでも述べたように、いずれも免疫抑制作用が強すぎるのです。ここで、冒頭で述べた「歴史」に戻りましょう。実は2008年にシクロスポリンという極めて効果の高い内服薬がアトピーに使われるようになりました。しかし普及したとは言えません。その最大の理由は「副作用が強すぎて使えない」です。強力な免疫抑制作用があるために、感染症、さらには悪性腫瘍のリスクが上昇するのです。

 では、2018年に発売されたデュピクセント、2020~21年に使用できるようになった3種の内服薬はどの程度のリスクがあるのかというと、少なくとも添付文書上のリスクはシクロスポリンとほとんど同じです。「生ワクチンが接種できない」はすべてに共通しています。シクロスポリンの添付文書には、いったん治ったB型肝炎ウイルスの活性化、敗血症、悪性リンパ腫や他のがんのリスクなどが記載されていて、これらはオルミエント、リンヴォック、サイバインコのものにも同様の注意が書かれています。また、これら3種の内服薬の添付文書には結核のリスクについても言及されています。

 つまり、現在学会などで盛んに取り上げられ、各製薬会社が資金を投入してPR活動をしているデュピクセント、オルミエント、リンヴォック、サイバインコは、副作用のリスクが高すぎて普及しなかったシクロスポリンと、同等とまではいえませんが、同じようなリスクがあり、また費用は驚くほど高いのです。

 というわけで、今後のアトピー性皮膚炎の治療は「タクロリムス、コレクチム、モイゼルトの3種の外用薬を、効果、費用、副作用の3点に注意しながら各自それぞれの方法で使い分けていく」ということになるでしょう。

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2022年6月12日 日曜日

2022年6月12日 「16時間断食ダイエット」に効果なし

 数年前から世界的に「16時間断食ダイエット」が流行しています。これは、24時間のうち連続16時間は何も食べないようにすれば体重が減っていくという夢のようなダイエット法です。例えば、午後8時から翌日の正午までの16時間何も食べなければ正午から午後8時には無制限に何を食べても減量できるというのです。8時間の間は好きなものをいくら食べてもいいというのですから試さない手はないと考えた人も多いのではないでしょうか。

 しかし、結論から言えばこのダイエットはどうも有効ではないようです。

 医学誌「The New England Journal of Medicine」2022年4月21日号に「カロリー制限をしたときに時間制限を併用するときとしないとき(Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss)」という論文が掲載されました。
 
 研究の対象者は139人で、ランダムに2つのグループに分けられました。一方は、カロリー制限に加え時間制限(食事をしていいのは午前8時から午後4時まで)もおこない、もう一方はカロリー制限のみをしました。

 結果、時間制限を加えたグループでは平均8㎏、カロリー制限単独のグリープでは6.3kgの体重減少が認められました。8㎏と6.3kgですから、時間制限に効果があったのかと思えますが、統計学的には有意差と呼べる差ではありませんでした。

 また、腹囲や体脂肪、血圧などにも差異はありませんでした。

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 残念な結果ですが、現実は現実として受け止めるほかありません。ただ、まったく無効というわけではないと思います。太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、このダイエット法を実践している人のほとんどはある程度は効果が出ています。

 その理由はおそらく「寝る前に食事(やお菓子)を摂らなくなったから」、という単純なからくりではないかと思われます。

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2022年6月9日 木曜日

2022年6月 「若者の命」を考えれば戦争は防げるか

 戦争ほど愚かなことはない、と当たり前のように学んできました。人類の歴史は戦争の歴史でもあるわけですが、それでも2つの原爆を落とされ、300万人以上が犠牲になった太平洋戦争を経験した日本人は二度と戦争をしないと子供の頃から言い聞かされてきました。

 戦争をしかけるのが罪だというのなら、当時日本のために頑張った日本の軍人は犯罪者なのかと問うてみると、「それは時代を考えると仕方がない」というような答えが必ず返ってきました。では、「次に戦争が起これば自衛隊員は犯罪者になるのか」という質問に対してはどうでしょう。「日本は戦争をしない……」と苦し紛れに誰かが言っていたような気がします。

 太平洋戦争の空襲や原爆のフィルムを何度か見ましたが、直接人が人を殺すシーンを見たことはありません。私の幼少時にはまだ続いていたベトナム戦争でも殺戮シーンを見たことはありません。ソ連がアフガニスタンに侵攻したアフガニスタン紛争は私が小学校5、6年生のときでしたからニュースでみた記憶はありますが、人が直接人を殺めるようなシーンは見ていません。

 1990年の湾岸戦争も空爆シーンは何度もテレビで見ましたがやはり人が人を殺すような映像はありませんでした。1994年のルワンダでのフツ族がツチ族を大量虐殺した事件は想像するのも苦痛ですが、直接現場を知っているわけではありません。

 その他、物心がついてからリアルタイムで報道されていた戦争はいくつかありますが、ある人間が目の前の人間を銃やナイフで次々と殺害するシーンは直接見たことはありませんでした。そういうシーンを想像できるのは、映画やテレビでそのようなシーンに見覚えがあるからです。

 ところが、2022年2月にロシアの一方的な侵攻で勃発したウクライナ戦争ではスマホとSNSのおかげで、死体の写真や人が人を殺害する瞬間のビデオなどが世界中に広く拡散しています。欧米の大手メディアもこのような映像を紹介していますから、殺害シーンがどうしても目に入ってしまいます。映像をみればあきらかなように、戦争の犠牲になっているのはほとんどが若者です。

 最近の米国をみてみましょう。2022年5月14日はニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで、その10日後の24日には米国テキサス州ユバルディの小学校で、いずれも18歳の青年による銃乱射事件が起こり、ニューヨークでは10人、テキサスでは21人(うち19人は児童)が犠牲となりました。6月1日には、医師の治療に満足できなかった男性がクラホマ州タルサでの病院の敷地内で銃を乱射し4人が死亡し自身は自殺しました。報道によると、この事件は今年(2022年)米国で起こった233番目の銃乱射事件になるそうです。

 このように戦争や無差別事件が頻繁に起こっているのが人類の歴史であることを考えると、人が人を殺すことはそう難しくないのかもしれないと思えてきます。平和な日本で育った我々は、まさか生涯のうちに自分が人を殺すことがあると考えている人は(たぶん)ほとんどいないと思いますが、状況が変わればまた我々の考え方も変わるのかもしれません。

 2022年4月のマンスリーレポート「「社会のため」なんてほとんどが偽善では?」では、あさま山荘事件を取り上げ、左翼(赤軍派と革命左派からなる連合赤軍)による集団リンチ殺人について述べました。この事件が起こったのは1972年2月で、その3か月後の5月30日にはイスラエルで「テルアビブ空港乱射事件」が起こりました。

 テルアビブ空港で起こった銃乱射事件は合計26人の命を奪いました。犯人は3人の日本人です。(後に日本赤軍となる)犯人らの目的は「革命のため」ということなのでしょうが、それにしてもイスラエルとパレスチナの紛争になぜ日本人が加担できたのか、しかも何の罪もないイスラエルの人々をなぜ無差別に殺すことができたのか私には謎です。しかも、「左翼」というのはどちらかというと武力に訴えることを避ける思想を持っていたのではなかったでしょうか。あさま山荘事件の集団リンチと同様、左翼の輩の方が右翼的な思想よりもはるかに暴力的で危険です。

 つまり、(右であろうが左であろうが)人間の社会ではいつ戦争が始まるか分からず、同じ民族であろうが、隣人であろうが平気で人を殺すことができ、銃を使って一気に見知らぬ人を犠牲にすることもできるのが人間の真実なのかもしれません。

 では、私にもそのときが来れば人を殺すことができるのでしょうか……。できません。たとえ、そのような状況になれば他人を殺すことができるのが人間の性(さが)であったとしても私にはできません。それはなぜなのか。おそらく、これまで医師として、人の、特に若い人の死をみてきたからです。病気で、事故で、若い生命を救えなかったことは日本の病院でも経験していますが、私の場合は2002年及び2004~5年にかけて赴いたタイのエイズ施設でみてきた「死」に多大な影響を受けています。当時のタイではまだ抗HIV薬が充分に使えずに、HIV感染は「死へのモラトリウム」を意味していました。そして、実際、若い命が毎日のように奪われていたのです。

 高齢者にも自分の運命を受け入れることができない患者さんがいますが、私の経験でいえば、若くしてエイズを発症し末期になった人の多くは死を受容できていませんでした。自力での水分摂取も困難となり、もうあと一日もつかどうかわからないといった段階になってもそれでもなお死を受け入れられず「助けて……」とか細い声で私の腕に触れようとする患者さんもたくさんいました。

 「命は平等」という言葉がありますが、私はそうは考えていません。私には高齢者の命よりも若者の命の方が大切に感じられます。さらに、誤解を恐れずにいえば、物心がまだついていない赤ちゃんよりも自我を認識できるようになった年齢の若者の命の方が大切です。若者の命が簡単に失われるようなことはあってはならないのです。

 だから、戦争をすることや、人が人を殺すことが人間の性(さが)だとしても、私にはまだそれを阻止する方法が残っていると信じています。その方法とは、世界中で徹底的に「若者の死」についての教育をおこなうことです。

 現在ロシアはウクライナをネオナチになぞらえて国民を洗脳していると言われています。ロシア軍はネオナチに迫害されているウクライナの民間人を救うために戦っているんだと国民に納得させれば国民の支持が得られると考えているのでしょう。戦争には大義名分が必要なのです。しかし、「戦争とは若者を容赦なく殺害すること」であることを再認識すればそのような洗脳には騙されなくならないでしょうか。

 ウクライナ側からみたときも、攻めてくるロシア兵を殺せるだけ殺すのではなく、白旗を挙げ降参している敵兵の命は守ることを考えるべきです。もしも私がロシアかウクライナで医師をしているとすれば、戦争は若者の命を奪うことであることを両国の国民に訴えかけます。私は戦争を阻止するキーパーソンは医療者ではないかと考えています。医師だけが命の大切さを知っているわけではありませんが、医師は若者の不遇な死を繰り返し経験しているからです。

 けれども、この私の主張には説得力がないかもしれません。先述したテルアビブ空港乱射事件の主犯格の奥平剛士の(戸籍上)の妻は最近刑期満了で出所した重信房子です。重信の帰国後の潜伏を手助けしていた一人は若い頃に学生運動に傾倒していた医師です。この医師は重信の秘匿の罪で医師免許を剥奪されましたが、その後再び医師免許を取得し(おそらく現在も)医療を続けています。戦時下の九大医学部の医師たちは生きた若い米兵を実験の材料にしました。満州では731部隊が捕虜の中国人やロシア人の若い男女に想像を絶するような人体実験を繰り返し、最大では3千人以上の命を奪ったと言われています。

 こういった事件を考えると、医師だから若い命の大切さを知っているなどと主張すれば噴飯ものだと言われるかもしれません。ですが、それでも「若い命は大切だ」と私は言い続けるつもりです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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