はやりの病気
第275回(2026年7月) 低用量ピル(OC/LEP)の歴史と今後の行方
谷口医院がオープンしたのは2007年の1月ですから、もうすぐまるまる20年が経過することになります。この20年間を振り返ってみると、治療方法がまったく変わっていない疾患もあれば(例えば、接触皮膚炎、梅毒、めまい、外傷などの治療)、大きく変わったもの(糖尿病、片頭痛、HIV、潰瘍性大腸炎など)もあります。今回取り上げるのは「ピル」です。この領域も20年前から使用する薬の種類が大きく変わりました。そこで今回は過去20年間のピルの歴史を振り返り、これからの賢明なピルの選択について当院の経験を紹介しながら述べていきたいと思います。
先に言葉の整理をしておきましょう。日本では経口避妊薬をピル(またはOC=oral contraception)と呼び、海外ではcontraceptive pills(またはbirth control pill)と呼ばれます。日本にはLEP(=低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤)という言葉もあって、この表現は海外では使われません。基本的にはOCもLEPも同じもので、日本では保険適用のない自費処方の低用量ピルをOC、保険適用のある低用量または超低用量ピルをLEPと呼びます。従来のOC/LEPは「エストロゲン+プロゲスチン」でできていますが、プロゲスチン単剤の製品もあります。
では20年の歴史を振り返りましょう。
2007年1月(谷口医院開院当時):月経困難症や子宮内膜症があって保険適用でピルを処方しようと思えば、いわゆる中用量ピルの「プラノバール」を処方することしかできなかった。低用量ピルは当時から存在していたが、すべて「自費」でしか処方できなかった。当時、谷口医院で処方していたのは、「アンジュ」、「トリキュラー」、「トライディオール」、「シンフェーズ」、「オーソ777」、「オーソM」、「マーベロン」。このうち、オーソMとマーベロンは一相性、他は三相性
2008年:子宮内膜症に対して保険診療で処方できる「ルナベル」が登場。ルナベルは上述のオーソMとまったく同じもので名前が違うだけ。子宮内膜症があることを超音波検査やMRIで示せば保険診療で処方することができた。エストロゲンを含まないプロゲスチン単剤の「ディナゲスト1mg」も同時期に登場。こちらも子宮内膜症に対しのみ保険での処方が可能
2010年:ルナベルが子宮内膜症がなくても、つまり単なる月経困難症であっても保険診療で処方できるようになった。月経困難症に対し超低用量ピルの「ヤーズ」が発売された
2013年:従来のルナベルが「ルナベルLD」に名前が変更され、別の製品として超低用量ピルの「ルナベルULD」が発売された(ルナベルULDは避妊効果がふじゅうぶん)
2017年:ヤーズフレックス登場。中身はヤーズと同じだが最長4か月連続飲みすることが認められた。これにより(うまくいけば)月経周期を4か月に一度にできるようになった。同時期にディナゲスト1mgの後発品「ジエノゲスト1mg」が発売された
2018年:ルナベルLD、ルナベルULDの後発品がそれぞれ「フリウェルLD」「フリウェルULD」という名前で登場した。3割負担で1枚500円程度となり一気にOC/LEP開始へのハードルが下がった。また、77日間連続飲みできる「ジェミーナ」が登場し、連続飲みのLEPの選択肢がヤーズフレックス、ジェミーナの2種になった
2020年:月経困難症に対して処方できる「ディナゲスト0.5mg」が登場
2022年:ディナゲスト0.5mgの後発品「ジエノゲスト0.5mg」が登場
2023年:日本で初めてのいわゆる「ミニピル」(=プロゲスチン単剤)として「スリンダ」が登場。血栓リスクがほぼないため、肥満、喫煙など血栓のリスクがある女性にも使えるとされている。自費のみ
2024年:「アリッサ」登場。月経困難症に対して保険診療で処方可能。血栓のリスクの少ないエストロゲン製剤が使用されている
と、日本製のOC/LEPはだいたいこのような感じです。これらに加え、次の未承認ピルもそれなりに普及しました。
・ダイアン:抗アンドロゲン作用が強いのが特徴
・セラゼッタ:ディナゲスト(=ジエノゲスト)、スリンダと同じカテゴリーでエストロゲンを含まないいわゆる「ミニピル」
・マーシロン:海外では早くから普及してたい超低用量ピル
・ヤスミン:ヤーズの低用量ピル版。一部の女性はヤーズフレックスと同じように連続飲みしている
ここからは、今後のOC/LEPの行方を考察したいと思います。まず「エストロゲンを含む合剤か、プロゲスチン単剤か」を考えてみましょう。
プロゲスチン単剤のメリットはなんといっても「血栓のリスクがない」ことです。喫煙、肥満、血圧などが血栓のリスクとして有名ですが、頻度は低いもののこういったリスク要因がなくても血栓を起こすことはあります。また、プロゲスチン単剤なら乳がんのリスクが上昇することもありません。さらに、エストロゲンとの合剤は不正出血を起こしやすいのに対し、プロゲスチン単剤なら出血のリスクもほとんどありません(出血すれば数日休薬すれば止まります)。
血栓、乳がん、不正出血のリスクが激減するのなら「全員がプロゲスチン単剤を選べばいいではないか」という単純な疑問が生じます。しかし、(特に谷口医院では)プロゲスチン単剤はあまり人気がありません。なぜでしょうか。
エストロゲンを入れないことのデメリットがあるからです。ただし、エストロゲンはOC/LEPで取り入れなくても、内因性の(つまり自然に分泌される)エストロゲンがあるのだからエストロゲンを抜いてもデメリットはないとする考えが一般的ではあります。たしかに理論的にはそうなのかもしれませんが、やはりエストロゲンを含むOC/LEPを摂取した方が、例えば、皮膚や髪がきれいになり、胸がふくよかになるなど女性らしい体型が維持できて、メンタルが安定します。全員に言えるわけではありませんが、エストロゲンの特徴を一言でいえば「女性らしくなる」のです。
谷口医院の事例でいえば、プロゲスチン単剤のデメリットで最も目立つのが「メンタルの悪化」です。まるで更年期障害の女性にみられるような抑うつ状態が起こることがあるのです。更年期障害のメカニズムもエストロゲンの分泌低下ですから、プロゲスチン単剤投与で抑うつ状態が生じるのは理に適っているように思えます。
エストロゲンが入った従来のOC/LEPを使用する場合、血栓と乳がんのリスクは常に考慮しなければなりませんし、子宮筋腫や腺筋症があれば不正出血が緩和されることも多いのですが、逆に出血量が増えることもあります。しかし、エストロゲンの補給によって女性らしさが得られることに魅力を感じる女性も少なくないわけです。では、エストロゲンが入ったOC/LEPではどれを選べばいいのか。血栓のリスクを考えるなら最新のアリッサが最もよさそうに思えますが、後発品がないために費用は高くなります。
値段を重視するならフリウェルが最適で1枚500円以下(3割負担)です。しかし、まもなくヤーズフレックスの後発品(=ドロエチフレックス)が発売されます。そうなればおそらく1月1000円未満の費用で、4か月に一度の月経周期にすることも可能になります。しばらくの間、およその目安としては次にようになるのではないかと推測されます。いずれも月経困難症(生理痛や生理不順、PMSなど)がある場合で、かっこのなかは3割負担でのひと月あたりのおよその費用です。
#1 エストロゲンを不要と考える → ジエノゲスト0.5mg(約700円)
#2 費用重視 → フリウェルLDまたはULD(約500円)
#3 連続飲みを希望 → ドロエチフレックス(未定。おそらく800円程度か)
#4 エストロゲン必要だが血栓のリスクを最小限にしたい → アリッサ(約1,500円)
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