医療ニュース
2022年5月15日 日曜日
2022年5月16日 寝室が明るいと血糖値と心拍数が上昇する
睡眠が健康に重要なのは疑いようがなく、少しでもいい睡眠が取れるようにできることは何でもしたいと考える人が大勢います。過去の医療ニュース「2021年2月28日 睡眠環境の見直しで人生が変わる」では緑の多い地域に住めばいい睡眠がとれるという研究を紹介しました。
緑の多い地域に引っ越すのは大変ですが、今回紹介する方法は誰もが本日から実践できます。医学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」2022年3月14日号に「睡眠中に光に当たると心臓の機能が損なわれる(Light exposure during sleep impairs cardiometabolic function)」という論文が掲載されました。
論文の結論は「照明を付けたまま睡眠をとると、インスリン抵抗性が亢進し(つまり血糖値が高くなり)、心拍数が高くなり、心拍変動が低下する(緊張状態が続く)」です。
研究の対象者は20人の健康な若年成人で2晩施設に泊まってもらっています。10人ずつ2つのグループに分け、第1グループは2晩連続で3ルクスの暗い部屋で眠ってもらい、第2グループは最初の晩は第1グループと同様3ルクスの部屋で、翌晩は100ルクスの明るい部屋で眠ってもらい、その差が比較検討されました。
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この研究が物語っているのは、人間は暗いところでリラックスできる(緊張状態が緩和され交感神経が落ち着く)ということです。就寝時には電気を消す(暗くする)べきなのは当然です。
私は個人的には朝早く起きることを推奨していますが、谷口医院の患者さんのなかには「夜型人間(night person)」もいます。職業でいえば、作家や芸術家の人たちです。こういう人は自分のペースを維持すればいいと思いますが、日中の就寝時に暗くする工夫を促したいと思います。
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|2022年4月30日 土曜日
2022年4月30日 適切な睡眠時間で心房細動を予防
心房細動というのは年齢と共に発症率が上昇する不整脈のひとつで、頻度は比較的高いものです。全年齢では日本人の1~2%ですが、年齢と共に増加し、70代で3%を超え、80代になると1割以上になると言われています。よく、「昔に比べて増えている」と言われるのは、時代と共に何か特別な出来事があったわけではなく、単に平均寿命が延びていることが最大の要因でしょう。
心臓の病気の代表と呼べる虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)は、生活習慣病の1種と考えられています。ですから、肥満、喫煙、高血圧、糖尿病などがあればリスクは急上昇します。心房細動も、こういったものがリスクになるのですが、何の基礎疾患もない(年齢以外にリスクのない)人でも起こります。長嶋茂雄さんもその一人だと思います。
心房細動になって最も困ること。それは、心臓の中で血の塊(血栓)ができて、それが脳の血管まで飛んでいき、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を起こすことです。こうなると、よほど治療が迅速かつ的確におこなわれない限りは、多少なりとも後遺症を残します。私を含めて多くの医師は、この説明をする際に長嶋茂雄さんの話をさせてもらっています。
よって、心房細動が見つかったならまったく何の症状もなかったとしても、脳梗塞を予防するために血栓溶解薬(血をサラサラにする薬)を飲みましょう、となるわけですが、この「決断」は簡単ではありません。なにしろ、そのような薬を飲むということは、今度は血が固まりにくくなるリスクが上昇するわけです。たいていのスポーツは慎まねばなりません。転倒して頭をうてば、それが重篤な脳出血を招くおそれがあります。
これまで私が診てきた患者さんのなかにも、「現時点では血栓溶解薬は飲まない」という決断をしている人もいます。たしかに、心房細動があれば全員が脳梗塞を発症するわけではなく、そのリスクは年間5%程度と言われています。興味深いのは、「5%もあるのならすぐに(血栓溶解薬を)飲みます」と言う人もいれば、その逆に「その程度ならもう少し様子をみます」と答える人もいることです。
さて、前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは「長すぎても短すぎてもダメで、適切な睡眠時間(6~8時間)が最も心房細動のリスクが低い」という研究です。この研究は「吹田研究」と呼ばれる、国立循環器病研究センターが実施した大阪府吹田市民を対象とした、主に循環器疾患に関する調査を解析したものです。医学誌「EPMA Journal」2022年2月26日に「予測医療、予防医療、個別化医療の文脈における睡眠時間と心房細動のリスク:吹田研究と前向きコホート研究のメタアナリシス(Sleep duration and atrial fibrillation risk in the context of predictive, preventive, and personalized medicine: the Suita Study and meta-analysis of prospective cohort studies)」というタイトルで掲載されています。
対象とされたのは吹田研究に参加した30~84歳の、それまでに心房細動を発症したことのない6,898人(男性3,244人、女性3,653人)で、追跡期間中(中央値14.5年)にどれだけの人が心房細動を発症するかが調べられ、さらに、睡眠時間との相関関係が検討されました。対象者は睡眠時間で次のように分類されました。
#1 6時間以下(短時間群)
#2 6~8時間未満(標準群)
#3 8時間以上(長時間群)
#4 不規則(不規則群)
追跡期間中に合計313人(対象者の4.5%)が新たに心房細動を発症しました。#2標準群の6~8時間を基準とすると、#1の短時間群で発症リスクが1.36倍上昇、#4の不規則群では1.62倍上昇していました。#3の長時間群も数字の上ではリスクが上昇していたのですが、有意差は認められていません。
しかし、年間人口千人あたり何人が心房細動を発症するかを解析すると、#2の標準群では2.53人なのに対し、#1は3.11人、#4は6.70人、#3も3.97人と高くなっています。
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過去にも述べたように、私自身が睡眠に関してはかなりの期間無関心で(というよりも、むしろショートスリーパーであることを誇りに思っていたほどで)、40歳を超えるまではまともな睡眠をとっておらず、今では後悔しています。
この社会で生きていく以上、ある程度は睡眠は不規則になりますが、それでも規則的な生活、適度な睡眠時間(6~8時間)が大切であることは忘れてはいけないと自分自身をも戒めています。
医療ニュース
2017年8月31日 長時間労働で心房細動発症のリスクが大幅上昇
2021年11月25日 ω3系脂肪酸は心房細動のリスク
2015年7月31日 運動は心房細動のリスクを上げる?下げる?
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|2022年4月10日 日曜日
2022年4月10日 日本人の薬物乱用頭痛の実態
「あなたは薬物乱用頭痛です」などと言うと、たいていの患者さんは驚くか、ムッとするために私自身はあまりこの言葉を使わないのですが、「薬物乱用頭痛」はかなり多い頭痛です。
この病気に誤解が多いのは「薬物乱用」という表現が入っているからで、あたかも「違法薬物のユーザー」と言われたような印象を持ってしまうからでしょう。薬物乱用頭痛の「薬物」とは違法薬物ではなく、処方された鎮痛薬や市販の鎮痛薬を飲み過ぎたことによって生じる頭痛のことです。
ただし、麻薬(オピオイド)の摂取のし過ぎでも起こり得るので、その場合はたしかに「違法薬物による薬物乱用頭痛」ということになります。とはいえ、日本では大麻や覚醒剤に比べると麻薬はほとんど出回っていませんから、日本人では麻薬という違法薬物による薬物乱用頭痛は極めて稀だと思います。
このように誤解が多いために、私は以前から薬物乱用頭痛でなく「鎮痛薬乱用頭痛」と呼ぶことを(勝手に)提唱しているのですが、誰も話を聞いてくれないので、診察室では「痛み止めを飲み過ぎて起こる頭痛」と、そのままの病名を告知しています。最近は英語のMedication Overuse Headacheの頭文字をとった「MOH」が使われることもありますが、まだまだ人口に膾炙しているとはいえません。とはいえ、病名を決めないと話が前に進まないので、ここからはMOHとします。
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんで言えば、最も多い頭痛は「初診時の訴えが頭痛の人」のランキングで言えば片頭痛が第1位です。一方、患者さん全体でいえば筋緊張性頭痛が第1位となります。これは、筋緊張性頭痛は軽症であることから、わざわざこの目的で受診する人が少ないからで、何度か(別のことで)受診している間に頭痛の相談もされるようになります。
さて、MOH(ここからは薬物乱用頭痛とは呼びません)について。谷口医院の患者さん全体では1位の筋緊張性頭痛、2位の片頭痛に次いで第3位です。けっこう多いのです。男女比は2:8くらいで圧倒的に女性が多いのが特徴、年齢は10代から80代まで様々です。
医学誌「Neurological Sciences」2022年1月19日号に「糸魚川市における薬物乱用頭痛の有病率に関するアンケート調査(Questionnaire-based survey on the prevalence of medication-overuse headache in Japanese one city – Itoigawa study)」という論文が掲載されました。新潟県糸魚川市でMOHに関するアンケート調査が実施されたのです。
対象者は糸魚川市の15~64歳の住民5,865人。MOHの定義としては、「1ヵ月当たり15回以上の頭痛及び過去3ヵ月間で1ヵ月当たり10日または15日以上の鎮痛薬の使用」とされました。
結果は次の通りです。
・MOHの有病率は2.32%(136人/5,865人)
・女性が80.8%
・年齢層で最多が40~44歳で5.28%
・乱用されていたのは市販(OTC)の鎮痛薬及び処方薬で、処方薬はロキソプロフェンとアセトアミノフェンが多かった。
・頭痛の予防薬を使用していたのは7.35%のみだった。
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8割が女性というのは、谷口医院での実態とピッタリ一致します。論文からは市販の鎮痛薬の名称が分からないのですが、谷口医院の患者さんで言えば圧倒的に多いのが「イブ」「リングルアイビー」「バファリンルナ」、そして、悪名高き「ナロンエース」など、イブプロフェンを主成分とする鎮痛薬です。
MOHでよくある誤解を2つ紹介しておきます。1つは「アセトアミノフェンは副作用が少ない」という誤解です。たしかに、カロナールを代表とするアセトアミノフェンは妊娠中の女性にも、新生児にも使うことがあり、さらに胃腸や腎臓への副作用が少ないことからイブプロフェンやロキソプロフェンに比べると安全な鎮痛薬といえます。ですが、MOHは比較的簡単に起こりえます。
もう1つは「トリプタン製剤ならMOHが起こらない」という誤解です。ときどき「MOHが怖いからトリプタン製剤を使いたい」と言う人がいますが、トリプタン製剤でもMOHは起こります。ただ、トリプタン製剤は月あたりの処方量が保険診療のルール上制限されているために、入手しようと思っても(ドクターショッピングをしない限りは)困難で、実際にはあまり多くありません。
MOHを疑ったときは、というより鎮痛薬の使用が増えてきているのなら早めにかかりつけ医に相談しましょう。場合によっては予防薬の検討が必要かもしれません。
最後に、日本人の頭痛に関する最も重要な問題を改めて強調しておきます。それは「ブロモバレリル尿素には絶対に手を出してはいけない」ということです。(麻薬を除けば)すべての鎮痛薬で最も依存しやすいのがこの劇薬です。処方薬でこんな危険な薬剤は存在しませんが、薬局では簡単に手に入ります。その代表が「ナロンエース」なのです。
参考:
日経メディカル:谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」2020年6月30日
「悪名高いOTC鎮痛薬、販売継続の謎」
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
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|2022年3月27日 日曜日
2022年3月27日 片頭痛はやはり認知症のリスク
片頭痛が認知症のリスクであることはもはや「確定」と言えそうです。
過去の医療ニュース「2021年11月8日 片頭痛は認知症のリスク」でも述べたように、片頭痛が認知症のリスクであることが大規模調査ではっきりとしました。今回、新たに大規模調査がおこなわれ、やはり片頭痛が認知症のリスクであるという結果となりましたので報告しておきます。尚、片頭痛は脳梗塞のリスクであることもすでにはっきりとしています。
医学誌「Aging Clinical and Experimental Research」2022年1月31日号に掲載された論文「片頭痛と認知症のリスク:メタアナリシスと系統的レビュー (Migraine and the risk of dementia: a meta-analysis and systematic review)」を紹介します。
この研究も、過去に発表された質が高い9つの研究を総合的にまとめなおしたメタアナリシスという方法がとられています。9つの研究のうち、7つはコホート研究(前向き研究)と呼ばれる研究です。”まだ”認知症を発症していない片頭痛のある人とない人を追跡した研究です。9つのうち2つはケースコントロール研究(後ろ向き研究)と呼ばれる方法で、”すでに”認知症を発症している人が片頭痛があったかなかったかが調べられています。
研究の全対象者は291,549人で、結果は「片頭痛があれば認知症のリスクが33%上昇する」というものです。
興味深いことに、血管性認知症のリスクが85%上昇していた、という結果も出ています。
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冒頭で紹介した医療ニュースで取り上げた研究では「片頭痛があれば認知症のリスクが34%上昇する」でしたから、ほぼ同じ結果となっていることは注目に値します。
もうひとつ注目すべき点があります。それはその過去に紹介した研究では「アルツハイマー病のリスクが2.49倍も上昇するが、血管性認知症のリスクは上昇させない」だったのに対し、今回の研究では「血管性認知症のリスクを85%も上げる」とされている点です。
いずれにしても、現在片頭痛を持っている人は注意した方がいいでしょう。注意すべきは2つ。1つは、「片頭痛の治療、というよりも予防をしっかりとおこなうこと」。もう1つは「脳梗塞や認知症の片頭痛以外のリスクを取り除くこと」です。つまり、規則正しい生活をして、禁煙して、太らないように注意し、運動を積極的におこない、知的な生活をして、社交も大切にする、といったようなことが大切というわけです。
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|2022年3月20日 日曜日
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
「発達障害ブーム」あるいは「発達障害バブル」と呼んでもいいかもしれませんが、患者さんから「私は発達障害でしょうか」という訴えを10年ほど前からよく聞くようになり、一向に減りません。発達障害の分類については、いろいろと変更があったり、医療の範疇を離れた考えが世間で大きく広がったりして、いまだまとまっているとは言えませんが、「ADHD型とアスペルガー型がある」と考えている人が多いような印象があります。
そのADHD(注意欠陥多動性障害)にカフェインが有効かもしれない、という研究を紹介したいと思います。
医学誌「Nutrients」2022年2月号に掲載された論文「カフェインによるADHDの治療:動物研究の系統的レビュー (Effects of Caffeine Consumption on Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) Treatment: A Systematic Review of Animal Studies)」に掲載された研究です。
論文のタイトルからわかるように、この研究は動物実験を対象としています。ですが、これまで発表された複数の研究をまとめなおした系統的レビューですから、エビデンスのレベルはまったく低いわけではありません。
結果は、カフェイン摂取により、注意力が上昇し、学習、記憶、嗅覚の識別が向上することが分かりました。しかも血圧も体重も変化していませんでした。また、この結果は神経学的に理にかなったものです。
ただし、多動性と衝動性に関するカフェインの効果は一定していません(つまり、有効とする研究と無効とする研究があるという意味です)。
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動物実験レベルの研究をそのまま鵜呑みにするわけにはいきませんが、適量で度を越さなければADHDの人(または疑っている人)がカフェインを試すのはいいかもしれません。そもそも、ADHDにはメチルフェニデートが有効であることが分かっていますから、似たような作用のあるカフェインが有効なのは頷けます。
メチルフェニデートは覚醒剤類似物質で、商品名で言えばコンサータが該当します。連日内服すれば依存症にもなり得る危険な薬で安易に服用すべきではありません。また、メチルフェニデート以外のADHDの薬も長期服用は危険性が伴うと考えた方がいいでしょう。
カフェインも大量摂取は危険であり依存性もありますが、自制の効かないものではありません。そういう意味では、今後カフェインがADHDに対する比較的安全で長期使用が可能な”薬”となるかもしれません。
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|2022年2月20日 日曜日
2022年2月21日 歯周病が身体も精神も蝕んでいく
歯周病が心疾患を中心とする様々な疾患のリスクになることは随分前から指摘されています。日本の多くの歯科医院のウェブサイトにもそれが掲載されていて「Floss or Die」という言葉はそれなりに人口に膾炙しています。「フロスをするか、死か」というこの標語は、デンタルフロスをしっかりと実践して歯周病を予防しなければ、死に至る病を起こすことになるという意味です。
では、(フロスを怠るかどうかは別にして)歯周病を起こせば身体疾患、あるいは精神疾患に対するリスクがどれくらい上昇するのでしょうか。
医学誌『BMJ Open』2021年12月19日号に掲載された論文「歯周病の慢性疾患への関わり:英国のプライマリ・ケアでのデータを使用した後向きコホート研究 (Burden of chronic diseases associated with periodontal diseases: a retrospective cohort study using UK primary care data)」を紹介したいと思います。
研究の対象者は英国在住者で、かかりつけ医で歯周病の記録がある64,379人と、歯周病の記録のない対照者251,161人です。調査開始時点の平均年齢は45歳、調査期間は1995年1月1日から2019年1月1日までで、追跡期間の中央値は3.4年です。
調査開始時点(ベースライン時点)の解析では、歯周病があるグループは対照グループに比べて、各疾患の罹患率が次のように上昇していました。
・(狭心症などの)心血管疾患:43%上昇
・(糖尿病などの)代謝疾患:16%上昇
・(関節リウマチなどの)自己免疫疾患:33%上昇
・(うつ病などの)精神疾患:79%上昇
次に、調査開始時点ではなかったけれど追跡期間中に歯周病ができた人が、対照グループ(追跡期間中も歯周病にならなかった人)に比べて各疾患の罹患率がどれだけ上昇したかをみてみましょう。
・(狭心症などの)心血管疾患:18%上昇
・(糖尿病などの)代謝疾患:7%上昇
・(関節リウマチなどの)自己免疫疾患:33%上昇
・(うつ病などの)精神疾患:37%上昇
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この論文を読んで、私がまず驚いたのは英国のプライマリ・ケア医(私のような総合診療医)は患者さんの歯の状態に関心を払い、カルテにその旨を記載していることです。私の場合、患者さんからの訴えがあれば簡単な(とても簡単な)歯のチェックをおこなって歯周病や齲歯(虫歯)がひどければカルテに記載しますが、ほとんどの患者さんに対しては訴えがなければ歯科疾患に関しての話をすることもあまりありません。
次に驚いたのが精神疾患の高さです。歯周病と心疾患との関係は昔からよく指摘されていますし、糖尿病の患者さんに歯周病が多いことにはなんとなく気付いていましたが、精神疾患は考えたことがありませんでした。
精神疾患の場合、気分が落ちることにより、フロスどころかブラッシングすらできなくなり口腔内の衛生状態が悪化して歯周病になるのでは、と考えられますが、これだけ高い数字をみると、もしかすると、歯の不衛生でなく精神疾患が先なのかもしれません。精神状態が悪くなることで免疫能が低下して、その結果歯周病をもたらす細菌が増殖するという理屈です。
いずれにしてもすべての人が歯周病の予防をすべきなのは自明です。ちなみに、私の場合、フロスが苦手で歯間に入れることができないために歯間ブラシを使っています。ブラッシングは30年前から電動歯ブラシを愛用しています。しかし、最近歯科医院を受診すると歯肉炎があることを指摘されました……。
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|2022年2月13日 日曜日
2022年2月13日 カレーライスは身体も精神も健康にする!
数年前から「カレーが健康に良い」ということがしばしば指摘されます。香辛料のおかげで塩分摂取が減ること、タンメリックに含まれるクルクミンをはじめ、各スパイスには抗酸化作用があること、漢方薬にも使用されるクローブやナツメグは様々な健康増進効果があること、などがその理由でしょう。
ですが、「カレーが健康に良い」とされている記事を最後までよく読むと、たいていはご飯を食べると(つまりカレーライスにすると)、炭水化物を摂りすぎることになり(日本のカレールーにはコムギがたっぷり入っています)健康に悪いために、「一緒にご飯を食べるのは避けてカレールーだけで食べましょう」と書かれています。
では、カレーはよくてもカレーライスは身体によくないものなのでしょうか。実は、「カレーライスは身体にも精神にも良い」とする研究が発表されました。
医学誌「Diabetes & Metabolic Syndrome」2021年12月号に掲載された論文「カレーライス消費と高血圧、2型糖尿病、うつ病との関連:2012~16の調査結果 (The association between curry-rice consumption and hypertension, type 2 diabetes, and depression: The findings from KNHANES 2012-2016)」を紹介します。
研究の対象者は18歳以上の韓国人17,625人。カレーライスの消費量と心血管障害、2型糖尿病、うつ病などとの関連が解析されました。結果は、カレーライスをよく食べる人は、食べない人と比べて次のような違いがあることが分かりました。、
・中性脂肪上昇のリスクが11%低い
・糖尿病の指標であるHbA1C、血糖値がそれぞれ19%、14%低く、2型糖尿病の発症リスクが18%低い
・高血圧のリスクが12%低い
・うつ病のリスクが18%低い
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驚くべき結果ですが、この結果を信用していいのでしょうか。嗜好品を対象とした調査は、得てして研究者の”好み”が反映されます。喫煙者はタバコの害が小さくなったデータを大切に扱うどころか、タバコが健康にいいとするデータをなんとか出そうとします。アルコールでも赤身肉でも同じです。
カレーライスがこれだけ健康に良いとするデータを算出したのはおそらく「カレー好き」の学者でしょう。
そして、その「カレー好き」が執筆した論文を食い入るように読んで、このようにまとめたものを公開する私もまた「カレー好き」であることはすでに本サイト読者の方にはお見通しでしょう。
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|2022年1月23日 日曜日
2022年1月23日 ソーシャルメディアの利用はうつ病を招く
ベストセラーとなったスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンによる『スマホ脳』(英語版タイトル『Insta-Brain』)には、(私は読んでいないのですが)「スマホは脳の報酬系を刺激して依存させ、集中力を低下させ、抑うつ状態を作り出す」という内容が書かれているそうです。
最近「スマホ=悪」のような論調が目立ち、私自身はそれには反対なのですが(後述するようにスマホは優れたデバイスです)、ソーシャルメディアはその限りではありません。『スマホ脳』でも、ソーシャルメディアが抑うつ感を招く理由が詳しく書かれているのでしょうが、ここでは最近発表された論文を振り返ってみたいと思います。
まずは言葉の確認から始めましょう。似た言葉にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というものがありますが、ここではSNS(Facebook、Twitter、Instagramなど)に、YouTube、ニコニコ動画などの動画共有サイト、掲示板、さらにLINEなどのメッセージアプリも加えた、要するにインターネットを介したコミュニケーションツールをソーシャルメディアと呼ぶことにします(ただしビジネスなどに用いるemailは除外します)。
医学誌『JAMA Network Open』2021年11月23日号に「米国の成人におけるソーシャルメディアの使用と自己申告によるうつ病の症状との関連 (Association Between Social Media Use and Self-reported Symptoms of Depression in US Adults)」というタイトルの論文が掲載されました。
この研究の対象者は、2020年5月から2021年5月の間に合計13回にわたって実施されたオンライン調査に参加した米国の成人5,395人(平均年齢55.8歳、女性65.7%)で、ソーシャルメディアの使用と抑うつとの関係が解析されています。抑うつ状態の評価にはPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)と呼ばれるスケールが用いられています。対象となったソーシャルメディアは、Facebook、Instagram、LinkedIn、Pinterest、TikTok、Twitter、Snapchat、YouTubeです。
結果、調査期間中に対象者の8.9%(482人)がPHQ-9スコアが5点以上となり「抑うつ状態」と判定されました。特にうつ状態が悪化したのがSnapchat、Facebook、TikTokです。
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私はソーシャルメディアをほとんど利用しません。LINEは行政からの連絡や(大阪府の医療者の場合)コロナワクチンの予約の連絡などにも必要ですから使わないわけにはいきませんが、本音を言えば使いたくありません。複数の知人から「LINEくらい見といてよ」とよく言われますから1週間に一度くらいはチェックするよう心がけてはいますが、それも面倒くさくて1週間以上知人からの連絡を放っていることもよくあります。だから近しい知人は、電話か電子メールで連絡を寄せてきます。
それでもたまにTwitterやFacebookを覗いてみることがあるのですが、はっきり言うと気持ち悪くなります。Twitterは有名人もけっこう書き込んでいるようですが、「えっ、この人がこんな汚い言葉使うの?」と驚き、そして幻滅することの連続です。Facebookは、「これ、自慢以外の何?」と言いたくなるような写真やコメントのオンパレードに嫌気がさします。
「最も恥ずべき話が自慢と悪口」ではなかったでしょうか。
医師の掲示板もひどいものです。匿名なのをいいことに罵詈雑言の嵐です。そして、こういうページに人気があることが私には不思議でなりません。そもそも他人の悪口を聞かされれば不快な気分にならないでしょうか。
私は「言葉」というものは人間にとって非常に大切なものだと思っています。言葉をなくせば人間が人間として存在し続けることができなくなります。だから、我々はもっと言葉を大切にし、自分の言葉に責任を持つべきだと信じています。ただし、このような考えを他人に強要するつもりは毛頭なく、匿名で他人を罵り合ったり、自慢したりすることを楽しいと思う人たちとは住む世界が違うだけだと思っています(実際はすぐ近くに住んでいるのでしょうが)。
話を戻しましょう。私が思うに、自慢話や他人への罵詈雑言が飛び交うソーシャルメディアを見ていると抑うつ状態になるのは至極当然の帰結であり、まともな精神状態を維持したければそんな世界とは縁を切って、言葉に責任を持つという考えの人とのコミュニケーションを重視すればいいのです。
ところで、冒頭で述べたように、私はスマホ自体はとても貴重なツールだと思っています。私が最も使うアプリは英英辞典(LONGMANを最も多用し、頻繁に発音させています)、英和・和英辞典(Weblioの使用が最多)、類義語辞典/シソーラス(こちらもWeblioが多い)、漢和辞典などで、コミュニケーションを上達させるための言葉の学習にもはやスマホは欠かせないアイテムです。
最後にドイツの医学者フーフェランドが著した医師の倫理要綱とも呼べる『扶氏医戒之略』から一部を紹介します。
人の短所を言うのは聖人君子のすべきことではない。他人の過ちをあげることは小人のすることであり、一つの過ちをあげて批判することは自分自身の人格を損なうことになろう(馬場茂明著『聴診器』より)
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|2022年1月4日 火曜日
2022年1月4日 円形脱毛症は認知症と網膜疾患のリスク
円形脱毛症の患者さんから尋ねられる最も多い質問は「原因は何ですか?」です。興味深いことに、この後に続くのは「ストレスが多いからですかね?」と「私にはストレスがないのですが……」と正反対のコメントです。
円形脱毛症が起こる理由は「免疫系の細胞が(大切な)毛根を敵と勘違いして攻撃してしまうから」と言えます。ストレスが原因かどうかという問いに対して私はしばしば「半分イエスです」と答えています。ストレスそのものが直接脱毛につながるわけではありませんが、強烈なストレスにより免疫系が乱れることがあるからです。「ストレスがない」という人は我々からみると要注意です。
社会生活を営んでいれば何らかのストレスがない方がおかしいわけで「ストレスがない」と言う人のいくらかは過酷な環境にいます。例えば過重労働が月に100時間を超えているのに「こんなの平気です。勉強させてもらって給料までもらえて幸せなんです。僕には何のストレスもありません」というような人は注意が必要なのです。例えばある日突然うつ病を発症するようなことがあります。
話を円形脱毛症に戻しましょう。この疾患に対して「原因は?」と尋ねる人は多いのですが、「円形脱毛症はどのような疾患のリスクになりますか?」と聞く人はほとんどいません。今回紹介したいのは、円形脱毛症は「認知症」そして「網膜疾患」のリスクになるという話です。
医学誌「The Journal of Clinical Psychiatry」2021年10月26日号の論文「円形脱毛症と認知症のリスクの関連:全国コホート研究 (Association of Alopecia Areata and the Risk of Dementia: A Nationwide Cohort Study)」によると、円形脱毛症は認知症のリスクとなります。
研究の対象者は45歳以上の円形脱毛症を有する台湾の男女2,534人です。対照には、年齢、性別、収入、疾患などを合わせた25,340人が選ばれています。結果、円形脱毛症があればどの年齢、性別でもすべての認知症のリスクが対照者に比べて3.24倍、アルツハイマー病については4.34倍にも上昇していました。特に65歳以上の男性のアルツハイマー病のリスクが高かったようです。
次に医学誌「Journal of the American Academy of Dermatology」2021年11月1日号の論文「円形脱毛症と網膜疾患の関連:全国的コホート研究 (Association between alopecia areata and retinal diseases: A nationwide population-based cohort study)」を紹介しましょう。
研究の対象者は台湾の円形脱毛症の男女9,909人です。対照にはやはり条件を合わせた99,090人が選定されています。結果、対照者と比較して、円形脱毛症があれば網膜疾患に罹患するリスクが3.10倍に上昇していました。具体的には、網膜剥離(retinal detachment)が3.98倍、網膜血管閉塞症(retinal vascular occlusion )が2.45倍、網膜症(retinopathy)が3.24倍です。
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円形脱毛症は軽症の場合、標準的な治療で治りますし、場合によっては何もしなくても自然に治癒します。ですが、他方、重症化するとかなり難渋することもあります。入院してもらいステロイドを大量に点滴すれば治ることは治るのですが、この方法はすぐに再発するケースが多々あります。脱毛専門の医療機関を紹介することもあるのですが、結果としてうまくいかないケースもそれなりにあります。
かといって、特に予防する方法もありません。漢方薬もほとんど効果がありませんし、認知行動療法も無力です。医師泣かせの疾患のひとつです。
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|2021年12月27日 月曜日
2021年12月27日 安静時の心拍数上昇が認知症のリスク
高齢者の安静時心拍数の上昇は認知症のリスクとなる……。
医学誌「Alzheimer’s Dementia」2021年12月3日号(オンライン版)の論文「安静時心拍数と高齢者の認知機能低下および認知症との関連:人口ベースのコホート研究 (Association of resting heart rate with cognitive decline and dementia in older adults: A population-based cohort study)」でこのような発表がおこなわれました。
研究の対象者はスウェーデンの認知症がない60歳以上の成人で、2001~2004年から2013~16年まで追跡できた2,147人(平均年齢70.6歳、女性が62%、86人が心疾患の既往歴あり)。安静時心拍数は心電図で測定され、60回/分未満、60~69回/分、70~79回/分、80回/分以上の4つのグループに分類されました。
対象者のなかで、追跡期間中に認知症の診断がついたのは289人でした。心拍数で解析した結果、60~69回/分のグループに比べて80回/分以上のグループでは認知症の発症リスクが55%上昇していたことが判りました。
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安静時心拍数の上昇が心血管疾患のリスクであることは広く知られています。今回の研究が興味深いのは、心血管疾患を発症した人たちに認知症のリスクが高いのではなく、心血管疾患に関係なくただ安静時心拍数が高いというだけで認知症のリスクが上昇することを示したからです。
次に知りたいのは、「では、若いうちから心拍数を下げる薬(βブロッカーなど)を用いて安静時心拍数を下げることに努めていれば認知症のリスクを下げられるのか」ということですが、これを調べた研究は見当たりません。
ではどうすればいいか。安静時心拍数は日ごろから有酸素運動をしていれば下がってきます。有酸素運動で認知症のリスクが下がることは以前から指摘されています。この理由は、運動により安静時心拍数が低下するからなのかもしれません。
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