医療ニュース
2014年3月31日 月曜日
2014年3月31日 ビタミンCやEの摂りすぎで膝を悪くする
日本人はビタミン剤が大好きですが、なかでもビタミンCとビタミンEは「抗酸化作用」という言葉が一人歩きして、若さを維持できる、と思っている人がいまだに少なくないような印象があります。ビタミンEについては、最近は有害性がしばしば指摘されるようになり、以前に比べるとやみくもに摂取する人は減っているようですが、ビタミンCは依然人気があります。若さを維持する、だけでなく膝などの関節にもいいとする説が流布されており、たしかにそのようなことを主張する医学的意見が過去にあったのも事実です。しかし、最近次のような研究が発表されました。
ビタミンCとビタミンEの摂りすぎは、膝にいいどころか、むしろ変形性膝関節症のリスクを増大させる・・・
これは医学誌『Osteoarthritis and cartilage』2014年2月9日(オンライン版)に掲載された研究結果(注1)です。
この研究はUCSF(米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の研究者らが、多施設共同変形性関節症研究(Multicenter Osteoarthritis Study、MOSTと呼ばれます))の参加者(男女合計3,026人)を対象として、変形性膝関節症の発症とビタミンC及びビタミンEの血中濃度との関係を調べています。
研究開始時に変形性膝関節症がなかった対象者を分析した結果、ビタミンCの血中濃度が最も高いグループは、最も低いグループに比べ、変形性膝関節症の発症率が有意に高かったようです。ビタミンEについても同様の結果が出ています。
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この研究では、ビタミンCとビタミンEの摂取量を血中濃度で調べています。したがって摂取方法は、食事からの摂取なのか、サプリメントから摂ったのか、あるいは注射からなのか、といったことが分かりません。
冒頭でも述べましたが、ビタミンCやビタミンEの効果を盲目的に信じて驚く程多量のサプリメントを摂っている人がいます。水溶性だから摂りすぎても大丈夫、と言われていたビタミンCの有害性も最近は指摘されるようになってきており、この研究もその一例になると思います。
現代でもビタミンが不足している人は皆無とまではいえませんが、通常の食事をしていればビタミン不足になることはまずありえません。いずれ改めて述べたいと思いますが、ビタミンのサプリメントはほとんどの人が摂るべきではないと私は考えています。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「High plasma levels of vitamin C and E are associated with incident radiographic knee osteoarthritis」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.oarsijournal.com/article/S1063-4584%2813%2901013-3/abstract
参考:医療ニュース
2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」
2011年11月14日「ビタミンEの発ガンリスク」
2012年3月13日「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」
2011年8月26日「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
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|2014年3月30日 日曜日
2014年3月30日 禁煙は心の健康にも有効
ここ数年で、禁煙をおこなう人が急増し、医療機関での禁煙治療も随分普及してきています。基本的にほとんどの医師は、”ほとんどすべての”患者さんに禁煙をすすめています。今私が、”すべての”でなく”ほとんどすべての”としたのは、禁煙を必ずしもすすめていないケースも医師によってはあるからです。
それは精神疾患を有している患者さんの場合です。精神疾患がある人に対する禁煙治療については意見が分かれるのです。最近では、禁煙すべき、という意見が増えてきてはいますが、例えば大病院のなかには、一般病棟は全面禁煙だけれども精神科病棟のみは喫煙室があるようなところもありますし、精神科専門病院では全面禁煙にしているところの方が今でも少ないのではないかと思われます。この理由は「精神症状の緩和に喫煙が役立っている」という意見があり、また「禁煙治療をおこなうことで精神症状が悪化する可能性」を指摘する声があるからです。
しかしながら、禁煙は、心疾患や悪性腫瘍のリスクを下げるだけでなく、どうやら精神症状をも改善してくれるようです。
禁煙すると、喫煙を続けた場合に比べ、うつ症状や不安症状、ストレス症状が有意に軽減し、肯定的な感情や精神的なQOLが有意に向上する・・・。
これは医学誌『British Medical Journal』2014年2月13日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注1)。
この研究は、これまでに公表された禁煙と精神状況に関する合計26個の研究を総合的に解析(メタ解析)することによっておこなわれています。対象集団は、一般人口に加え、慢性の身体性疾患を有する人、精神疾患を有する人も含まれています。年齢の中央値は44歳で性別は男性48%です。平均喫煙本数は1日あたり20本で、ニコチン依存度は中等度とされています。
その結果、禁煙をおこなったグループでうつ症状や不安症状が有意に改善し、肯定的な感情が芽生えやすくなり、精神的なQOLの向上につながったそうです。さらに、抑うつ症状や不安症状を有している人が禁煙すると、抗うつ薬を用いたときと同等かそれ以上の効果がある、と研究者らは述べています。
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さて、では問題はどのように禁煙をしていくかですが、承認されている禁煙補助薬で成功率の高いチャンピックス(一般名はバレニクリン)を考えたいところです。ただし、精神症状を有している人に対する禁煙治療は上にも述べたように反対意見があるのも事実です。
しかし最近は、精神症状を有する症例へのチャンピックスを用いての禁煙治療を推進するような研究発表が増えてきています。例えば、医学誌『Biological Psychiatry』2011年2月8日(オンライン版)(注2)では、チャンピックスを内服しても精神症状が悪化しないという結論が導かれていますし、医学誌『British Medical Journal』2013年10月11日号(オンライン版)(注3)にも、チャンピックス内服で自殺のリスクは増えないという研究結果が掲載されています。
太融寺町谷口医院では、他院(精神科)で抗うつ薬などを処方されている患者さんが禁煙治療目的で受診されたときは必ずその精神科の主治医に、チャンピックスを用いての禁煙治療をおこなっていいかどうかの確認をとるようにしています。以前は「禁煙治療は望ましくない」と言われることもあったのですが、ここで紹介した研究の影響もあるのかどうかは分かりませんが、ここ1年間くらいは積極的に禁煙治療を推奨する精神科医が増えてきているような印象があります。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g1151
注2:この論文のタイトルは、「A Double-Blind Randomized Placebo-Controlled Pilot Study of Neuropsychiatric Adverse Events in Abstinent Smokers Treated with Varenicline or Placebo」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/PIIS000632231001276X/abstract
注3:この論文のタイトルは、「Smoking cessation treatment and risk of depression, suicide, and self harm in the Clinical Practice Research Datalink: prospective cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f5704
参考:
トップページ 禁煙外来
はやりの病気第66回 2009年2月号 「メンソールの幻想と私の禁煙」
はやりの病気第56回 2008年4月号 「ついに登場! 飲む禁煙薬」
はやりの病気第32回 2006年5月第2週号「そろそろ本格的な禁煙を!① 」
はやりの病気第33回 2006年6月第1週号「そろそろ本格的な禁煙を!② 」
はやりの病気第34回 2006年6月第2週号「そろそろ本格的な禁煙を!③(最終回)」
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|2014年3月17日 月曜日
2014年3月17日 AGAにはプロペシアよりアボルブが有効?
現在AGA(男性型脱毛症)の治療に最も多く使われているのはプロペシアですが、数年前よりアボルブの方が有効ではないのか、という議論があり、最近興味深い研究が報告されましたので紹介したいと思います。
しかしその前にこの「アボルブ」について簡単にまとめておきたいと思います。アボルブは2009年に「前立腺肥大症の治療薬」として国内で処方できるようになった薬です。前立腺肥大症の薬には様々なものがありますが、アボルブは5αリダクターゼ阻害薬と呼ばれるものです。ジヒドロテストステロンという男性ホルモンが前立腺肥大に関与していることがわかっており、5αリダクターゼ阻害薬はこのホルモンの合成を抑制するのです。
一方で、プロペシアも5αリダクターゼ阻害薬(注1)です。しかしプロペシアは初めからAGAの治療薬として開発され承認されたものであり、前立腺肥大症の薬としては承認されていません。その反対に、アボルブは前立腺肥大症に対して承認されているものでAGAに対しては承認が取得されていません。
しかし当局に「承認」されるかどうかというのは社会的な課題であり、AGAや前立腺肥大症に悩んでいる人たちからすれば、「承認なんてどうでもいいから効く方を処方してくれ」となるのは当然でしょう。
さて、プロペシアとアボルブのどちらがAGAに効くかというのは以前から研究者の間でも関心が持たれていました。小規模の比較検討しかなかったなかで、2006年に比較的大規模な研究結果が医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』に発表されました(注2)。この研究では合計416人の男性が、フィナステリド(プロペシアの一般名)5mg、デュタステリド(アボルブの一般名)0.05mg、0.1mg、0.5mg、2.5mg、プラセボ(偽薬)のいずれかに振り分けられ発毛の効果が比較検討されています。結果は、デュタステリド2.5mgが有意にフィナステリドより効果があった、というものでした。
ただ、この研究が残念なのが、デュタステリドが2.5mg、フィナステリドが5mgでの検討であるということです。実際の製品のアボルブは0.5mg、プロペシアは1mgです。これでは、アボルブがプロペシアより有効と断定することはできません。
同じ医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2014年1月10日号(オンライン版)(注3)に、(私が知る限り)初めてのプロペシアとアボルブのAGAへの有効性を比較検討した大規模研究が報告されました。
この研究では合計917人の20~50歳の男性が、デュタステリド0.02mg、0.1mg、0.5mg、フィナステリド1mg、プラセボ(偽薬)のいずれかに振り分けられ半年後(24週後)に効果判定がおこなわれています。
結果は、デュタステリド0.5mg(つまりアボルブと同じもの)がフィナステリド1mg(プロペシアと同じもの)よりも有意に発毛効果があった、というものです。毛髪数、髪の太さのいずれもが有意に増大し、写真での評価もより改善していたそうです。また、副作用は同程度であったようです。
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この研究結果を受けて、現在プロペシアを服用している人のなかにもアボルブへの変更を希望する人が増えてくることが予想されます。アボルブの販売元のグラクソ・スミスクライン社は現時点ではAGAの承認を取得する予定はないそうですが、AGAで悩んでいる人たちのなかには、承認が取れているかどうかは関係ないと考える人もいるに違いありません。実際、太融寺町谷口医院の患者さんのなかにも2~3年前から、「プロペシアでなくアボルブを処方してほしい」という患者さんが少しずつ増えてきています。
(谷口恭)
参考:薄毛・抜け毛を治そう
Q6 アボルブがプロペシアよりもいいって聞いたんですが・・・
注1:もう少し詳しくいえば、5αリダクターゼには1型と2型があり、プロペシアは5αリダクターゼの2型のみ阻害しますが、アボルブは1型にも2型も作用します。
注2:この論文のタイトルは「The importance of dual 5α-reductase inhibition in the treatment of male pattern hair loss: Results of a randomized placebo-controlled study of dutasteride versus finasteride」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.jaad.org/article/S0190-9622%2806%2901287-4/abstract
注3:この論文のタイトルは「A randomized, active- and placebo-controlled study of the efficacy and safety of different doses of dutasteride versus placebo and finasteride in the treatment of male subjects with androgenetic alopecia」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.jaad.org/article/S0190-9622%2813%2901171-7/abstract
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|2014年3月3日 月曜日
2014年3月3日 麻疹(はしか)が増加中
昨年(2013年)と2012年は風疹が増加し、マスコミの報道や、行政が妊婦さんやその配偶者にワクチン接種の補助をおこなったことなどもあり、社会的な関心が高まり、抗体検査やワクチン接種をおこなう人が増えました。
一方、世間の関心が非常に低くなっているのが麻疹(はしか)です。麻疹は2007年に国内で流行し、修学旅行でカナダに旅行中の高校生が発症しカナダ当局により学生と教師が隔離されるという出来事があり、また米国では日本から遠征に来ている男子生徒が麻疹の感染源になっていることをCDCが公表し随分と問題になりました。世界中から「日本は麻疹の輸出国」と嘲笑され、日本の行政も麻疹のワクチンをきちんと接種するよう広く呼びかけました。(ちなみに先進国で麻疹が流行するような国は他にはなく、韓国では2006年にWHO(世界保健機構)から「麻疹撲滅国」と認定されています)
私の印象でいえば2009年の年明けくらいまではまだ麻疹に対する社会的関心はありましたが、ちょうど新型インフルエンザが流行りだした頃からピタッとなくなりました。太融寺町谷口医院でも、その頃から麻疹のワクチンを希望する人が激減していました。
風疹がじわじわと広がりだし、風疹ワクチンが底をつくと「MRワクチン」の需要が増え出しました。MRワクチンというのは麻疹と風疹の混合ワクチンであり双方に効果がありますから大変有用なものなのですが風疹単独ワクチンに比べて値段が高いのがネックになります。しかし風疹単独ワクチンがない状態であればMRワクチンを接種するしか風疹を防ぐ方法はありません。「麻疹も同時に防げるならMRワクチンの方がいいですね」と話す人もいましたが、大半の人は「風疹だけでいいんだけれどMRワクチンしかないなら高くても仕方ないですね」という感じでMRワクチンを”仕方なく”接種していたのです。
2013年秋頃より、長らく生産が追いついていなかった風疹ワクチンの供給が再開されました。すると再開されたとたんにMRワクチンの需要はすっかりと鳴りを潜め、谷口医院では風疹ワクチンを希望する人の半数以上が風疹単独ワクチンを選んでいます。
さて、前置きが長くなりましたが、現在麻疹が再び増加傾向にあるようです。国立感染症研究所の2014年2月7日のレポート(注1)によりますと、海外での感染が推定される輸入例が増加しているそうです。2013年11月25日から2014年1月26日の国内における麻疹報告数は61例で、前年同時期の26例と比べると2.3倍に増加しています。
61例の内訳をみてみると、感染者は男性32例女性29例で、輸入例が24例です。輸入元の内訳は、フィリピンが17例と最多、スリランカ2例、インドネシア2例で、グアム、インド、オーストラリアが1例ずつです。このうち、グアムとオーストラリアは国民全員がワクチン接種を適切にしているはずですから、観光客からの感染の可能性が強いでしょう。
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日本には「麻疹のようなもの」という慣用句があり、意味は「誰でも経験するささいなこと」といった感じです。しかし、実際には麻疹というのは死亡することもありますし、SSPEと呼ばれる認知症や植物状態となる大変やっかいな合併症もあります。(詳細は下記はやりの病気第46回を参照ください)
日本は多くの感染症でワクチン接種率が低いことがよく指摘されます。麻疹もその代表ですが、麻疹の場合は、単に国民の意識が低いからというだけでなく、この悪しき慣用句のせいで軽症のイメージが日本人の潜在意識にすり込まれているのではないか、と私はみています。
麻疹はワクチン接種(2回接種)をして抗体をつくっておけば100%防げる感染症です。ワクチンを2回接種していない人や不明な人は、一度抗体検査をしておくべきでしょう。
(谷口恭)
注1:このレポートは下記URIで読むことができます。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc/656-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/idsc/idwr-topic/4359-idwrc-1404.html
参考:はやりの病気
第46回(2007年6月)「はしかの予防接種率はなぜ低いのか」
第119回(2013年7月)「VPDを再考する」
第109回(2012年9月)「これからの風疹対策」
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|2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇
数年前から、「長時間の座りっぱなしは生活習慣病の危険因子となり死亡リスクを上昇させる。そしてこの弊害は運動をしても解消されるわけではなく、危険性は喫煙に匹敵する」ということがしばしば指摘されています。
今回紹介する研究も似たような結論が導かれています。医学誌『American Journal of Preventive Medicine』2014年2月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、座って過ごす時間が長い高齢女性は、活動的な女性に比べ、早期死亡のリスクが有意に高いそうです。
この研究の対象は米国の閉経後の女性92,334人です。対象者は調査開始時点で50~79歳であり追跡期間の中間値は12年です。座りっぱなしで「非活動の時間」(注2)が、①4時間以下、②4~8時間、③8~11時間、④11時間以上の4つのグループに分けて死亡リスクが検討されています。
分析した結果、④の1日11時間以上座っている女性は、①の4時間以下の女性に比べると、全原因による死亡リスクが12%高いということが判ったそうです。疾患ごとにみてみると、脳血管疾患、心疾患、ガンによる死亡率が、それぞれ13%、27%、21%高かったようです。
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この研究でも、定期的な運動をしていたとしても長時間座りっぱなしのリスクを帳消しにはしてくれない、といったことが述べられています。これまで発表されている座りっぱなしが危険であることを示す研究は比較的大規模のものが多く、座りっぱなしが早期死亡のリスクになることはほぼ間違いないでしょう。我々ひとりひとりの対策が必要になります。
(谷口恭)
注1 この論文のタイトルは「Sedentary Behavior and Mortality in Older Women」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797%2813%2900594-1/abstract
注2:原文ではsedentary timeとされています。
参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
医療ニュース2010年7月30日「座っている時間が長い人は短命?」
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|2014年2月28日 金曜日
2014年2月28日 ビタミンDのサプリメントに有益性なし
ビタミン剤のサプリメントは健康にいいどころか危険性が多く、安易に使用されるべきでないことが指摘されるようになってきていますが(それでもいまだに過剰な宣伝は一向におさまらず使用者は多いようです・・・)、そのビタミン剤のなかで比較的有益ではないか、とされていたのがビタミンDです。
しかしそのビタミンDへの期待も”幻想”に過ぎなかったようです。
医学誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』2014年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、ビタミンDのサプリメントによる健康上の有益性はほとんどないそうです。
この研究はニュージーランド、オークランド大学のMark J Bolland氏らによっておこなわれています。研究者は、これまでに発表されたビタミンDのサプリメントの効果を評価した複数の調査を総合的に分析(メタ分析)し、ビタミンDの有益性を改めて検討しています。
分析の結果、虚血性心疾患(患者総数48,647例)、脳血管障害(患者総数46,431例)、ガン(患者総数48,167例)、骨折(患者総数76,497例)におけるビタミンDのサプリメントの効果は、カルシウムの併用をしていてもしていなくても、有意な効果は認められなかったそうです。別の見方をすると、ビタミンDのサプリメントを摂取しても、これら疾患のリスクは15%以上は減少しないことが判ったそうです。
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ビタミンDのサプリメントの効果が「15%以上は減少しない」ということは「15%近くは減少する」ということでそれならば有益ではないか、という見方をしたくなりますが、これは効果を多く見積もって15%未満ということであり、実際は効果はほとんどないとみるべきでしょう。また、ビタミンDを過剰摂取したときの副作用にも注意しなければなりません。
ただしビタミンDは危険なものでは決してなく人間には必要なものです。肉や卵に豊富に含まれていますからバランスよく食事をしていれば欠乏することはないのですが、ベジタリアンの人たちは不足しがちになります(注2)。ですから、ベジタリアン(特にヴィーガン)の人たちは肉や卵が食べられないならサプリメントでの摂取も検討すべきです。
まとめると、ビタミンD欠乏症になればサプリメントも含めてビタミンDの積極的摂取を検討すべき、一方欠乏症でない人はサプリメントに有益性はほとんどないことを理解し、有害性に注意すべき、となると思います。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「The effect of vitamin D supplementation on skeletal, vascular, or cancer outcomes: a trial sequential meta-analysis」で下記の論文で概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587%2813%2970212-2/abstract
注2:ベジタリアンについては下記も参照ください。
メディカルエッセイ第126回(2013年7月)「我々はベジタリアンの道を進むべきか」
参考:医療ニュース
2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
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|2014年2月8日 土曜日
2014年2月8日 HPVワクチンの副作用は「心身の反応」のせい??
子宮頸がんや尖圭コンジローマのワクチン(以下、HPVワクチン)について、厚生労働省は、2013年6月、「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」というタイトルの注意勧告(注2)を出し、「現在、子宮頸がん予防ワクチンの接種を積極的にはお勧めしていません」と記載されています。
なぜこのような注意勧告がおこなわれたかというと、HPVワクチンを接種した女子生徒に副作用の出現が相次いだからです。なかには持続的な痛みに悩まされ、日常生活もままならない生徒もいるそうです。しかし、一方ではHPVワクチンは世界の多くの国で定期接種に組み込まれるようになってきており日本だけが遅れるのはいかがなものか、という意見もあります。
2014年1月20日、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全調査会は合同会議を開き、HPVワクチンの副作用は、「心身の反応により惹起された症状が慢性化したものと考えられる」と結論付けて、これを公表しました(注1)。
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さて、ここから先は報道されていませんが、この結論が発表された直後から多くの反対意見が寄せられたことが推測されます。なぜならいったん発表したサイトが現在は閲覧できなくなっているからです。
毎日耐えがたい痛みと戦っている女子生徒やその親御さんからすれば、これだけの苦しみが「心身の反応」と言われて納得できるはずがありません。このような発表をするならば、たとえ心身の反応が原因であったとしても、被害者の方への配慮が絶対に必要です。被害にあった女子生徒の学校の友達はどう思うでしょうか。「な~んだ。ワクチンのせいで学校に来れなくなって気の毒だと思ってたけど、ずる休みだったのか」と誤解される可能性も考えられます。
私自身はHPVワクチンが普及することに賛成の立場です。ワクチンを接種しても絶対に子宮頚ガンにならないわけではなく定期的な検診が必要であることには変わりありませんが、それでも7割程度のガンは予防できるのです。それに4価ワクチン(ガーダシル)であれば尖圭コンジローマというやっかいな病気をかなりの確率で防ぐことができるわけです。私自身はHPVワクチンというのは医学の歴史に残る画期的なワクチンだと思っています。
しかし女子中学生全員に接種するという考えには同意できません。なぜなら性交渉を介してしかHPVは感染しないからです。中学を(あるいは高校を)卒業するまでカレシができてもプラトニックラブを通す(だからワクチンは不要)と考えている生徒がいるとすれば、その考えを尊重すべき、というのが私の考えです。
このサイトで何度も述べていますが、B型肝炎ウイルス(HBV)や水痘(みずぼうそう)や流行性耳下腺炎(これら3つはいずれも性交渉のような緊密なコンタクトがなくても感染します)のワクチン接種が不十分であるこの国の状況のなかで、なぜHPVだけを急いで全員に接種しなければならないのか、私にはその理由がどうしても理解できないのです。
(谷口恭)
注1:この発表のURLは下記のとおりでした。「でした」というのは現在見られなくなっているからです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000035220.html%20target=
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|2014年2月3日 月曜日
2014年2月3日 車の運転に注意しなければならない薬
この薬を飲めば車を運転してはいけません。
薬の説明を受けるときにそのようなことを言われたことがある人も多いと思います。代表的な薬は「風邪薬」です。これは医療機関で処方されるものよりも薬局で買える薬の方がむしろ注意が必要です。医療機関で処方される薬で運転に注意しなければならない代表は精神安定剤や抗うつ薬の類です。また、ここ数年は禁煙治療薬であるチャンピックス処方時に運転できないことを聞いたという人も少なくないでしょう。実際、チャンピックス服用で意識低下が起こり交通事故につながったケースが何例か報告されているそうです。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が最近立て続けに、これまであまり注意を払われていなかった薬について運転時の注意勧告をおこないました。勧告は2013年11月26日と2014年1月7日におこなわれており、該当する薬は下記の通りです。(かっこの中が商品名です)
アルツハイマー型認知症治療薬 ドネペジル(アリセプト)
抗不整脈薬 ピルジカイニド(サンリズム)
抗不整脈薬 ベプリジル(ベプリコール)
抗不整脈薬 プロパフェノン(プロノン)
動脈閉塞症・肺高血圧症治療薬 ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン、ケアロード、ベラサス)
抗菌薬 アジスロマイシン(ジスロマック)
抗菌薬 オフロキサシン(タリビッド)
抗菌薬 メシル酸ガレノキサシン(ジェニナック)
抗菌薬 レボフロキサシン(クラビット)
抗ウイルス薬 アシクロビル(ゾビラックス)
抗ウイルス薬 バラシクロビル(バルトレックス)
抗ウイルス薬 ファムシクロビル(ファムビル)
抗ウイルス薬 テラプレビル(テラビック)
糖尿病治療薬 アカルボース(グルコバイ)
糖尿病治療薬 ボグリボース(ベイスン)
糖尿病治療薬 ミグリトール(セイブル)
糖尿病治療薬 ピオグリタゾン(アクトス)
糖尿病治療薬 シタグリプチン(ジャヌビア,グラクティブ)
糖尿病治療薬 アログリプチン(ネシーナ)
糖尿病治療薬 アログリプチン・ピオグリタゾン配合剤(リオベル)
糖尿病治療薬 リナグリプチン(トラゼンタ)
糖尿病治療薬 アナグリプチン(スイニー)
糖尿病治療薬 サキサグリプチン(オングリザ)
糖尿病治療薬 リラグルチド(ビクトーザ)
糖尿病治療薬 リキシセナチド(リキスミア)
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少し解説しておくと、糖尿病治療薬は薬が効きすぎて低血糖発作を起こす可能性があるからで、抗菌薬や抗ウイルス薬は稀ですが意識低下の副作用の報告があるからです。
これらを少しでも服用すれば絶対に車の運転ができないか、と問われれば、そうするのが望ましいのは事実ですが、実際には主治医と相談して決めることになります。
もう少し補足しておくと、上記薬剤のなかには注射薬もあるということ(注射のときにはその後運転していいかどうかを尋ねる必要があるでしょう)、かっこのなかの名前は先発品の商品名であり、上記のいくつかは後発品が普及していること、があげられます。
副作用がない薬はなく、どのような薬を飲むときにも注意は必要です。しかし、軽度のむかつきや下痢などであれば大きな問題にはなりませんが、運転中に意識低下が起こり交通事故を起こすようなことは避けなければなりません。上記以外の薬についても、医療機関で薬を処方してもらっている人は主治医に確認しておいた方がいいでしょう。
(谷口恭)
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|2014年1月27日 月曜日
2014年1月28日 やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害
過剰な宣伝効果のせいか、マルチビタミンやミネラルはいまだによく売れているそうですが、USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force、米国予防医療研究チーム)は、すでに2003年に、「ビタミンA、C、E、葉酸入りマルチビタミン、抗酸化物質は推奨する根拠がない(だから推奨しない)」と公表しており、さらにβカロテン(カロチン)については、「喫煙者などの肺ガンのリスクを高める」ことを指摘しています。
新たに系統的な分析をおこなった結果、やはりサプリメントには心血管疾患予防やガンの予防、死亡リスクを低減する効果はなかった。また、やはりβカロテンは喫煙者などの肺ガンのリスクを高める可能性があることがわかった・・・
これは、医学誌『Annals of Internal Medicine』2013年12月17日号(オンライン版)に掲載された論文の結論です(注1)。
研究者は、2003年の上記USPSTFの発表後に報告されたサプリメントの利益と害に関するいくつかの文献を系統的に解析することによってこの結論を導いています。
一部の研究では、長期間マルチビタミンを摂取していた男性は発ガンリスクが低下するというものもあったようですが(下記医療ニュース2012年11月3日参照)、他の良質な研究も交えて総合的に解析すると、ビタミンやミネラルのサプリメントが心血管疾患やガンのリスクを下げる効果はない、という結論が出たそうです。
有害性については、一部の研究で、ビタミンAが肺ガンと股関節骨折のリスクを上昇させる可能性が指摘されています。別の研究では、葉酸が前立腺ガンのリスクを上昇させるというものもあったようです。また、カルシウム摂取が大腸ガンのリスク上昇を示唆したものもあり、ビタミンDとカルシウムの併用で腎結石リスクが上昇することを示した研究もあります(これは以前から何度も指摘されていました)。βカロテンは、喫煙者などの肺ガンのリスクを上昇させることが確認されたようです。
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私は権威に対して盲目的に従うタイプの人間ではありませんが、2003年のUSPSTFの「ビタミン・ミネラルのサプリメントは効果なくむしろ有害性がある」という発表を受けて、個人的にこういったサプリメントの摂取を一切やめました。科学系の雑誌やネットなどでも少しはこのようなことが報じられましたが、もうひとつ世間には伝わっていないように思えます。
なぜか大手のマスコミはサプリメントが有益でないことや有害性があることについての報道をあまりおこないません。薬やワクチンの副作用を大きく取り上げるのとは対照的です。これはなぜなのでしょう。サプリメントのメーカーがスポンサーになっているからではないのか、と疑われても仕方がないのではないでしょうか。
ただ「サプリメントを飲み出してから身体の調子がいい」と言う人がいるのも事実です。私自身はやみくもにサプリメントを否定するつもりはありませんが、長期摂取で有害性が出れば問題です。サプリメントを摂取している人は一度主治医に相談した方がいいでしょう。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Vitamin and Mineral Supplements in the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: An Updated Systematic Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1767855#Abstract
参考:
メディカルエッセイ第123回(2013年4月)「カルシウムのサプリメントは危険か」
医療ニュース
2011年11月14日「ビタミンEの発ガンリスク」
2012年3月13日「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」
2011年8月26日「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
2012年11月3日「マルチビタミン摂取でわずかながらもガン減少」
2012年6月30日「カルシウムのサプリで心筋梗塞のリスクが2倍」
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|2014年1月27日 月曜日
2014年1月27日 デング熱は本当に日本で感染したのか
2014年1月10日、厚生労働省は「日本国内でデング熱ウイルスに感染した可能性のある症例」について発表をおこないました(注1)。
同省によりますと、この症例はドイツ人で、2013年8月下旬に日本を周遊したときにデング熱ウイルスに感染しドイツ帰国後に発熱や発疹などの症状を発症したと考えられているそうです。調査はドイツのロベルト・コッホ研究所でおこなわれたとのことです。同研究所からの情報提供を受けて、厚生労働省が検討したところ、日本での感染が否定できないという結論となったそうです。
******************
日本にいた時期がはっきりしているわけですから、このドイツ人が日本のどこを訪問して、ということはある程度細部にわたるまで把握できるはずです。私は、厚労省のこの1月10日の発表に次いで、例えば、どこの県のどの地域での感染の可能性があるのか、といった情報が出てくるとみていたのですが、1月27日の時点でまだ情報提供がありません。
今は冬で蚊がいませんから余裕がありますが、蚊が登場する季節までにはもっと正確な情報提供をしてもらわなければなりません。場合によってはその地域では外出するときに必ず虫除けスプレーを露出部に使用する、といった対策が必要になるかもしれません。
デング熱はネッタイシマカもしくはヒトスジシマカが人を刺したときに蚊の体内にいたデング熱ウイルスが侵入してくることで感染が起こります。日本では太平洋戦争中に現地から人と一緒に船に乗ってやってきた蚊による流行が起こったとされていますが、それ以降国内での感染はないはずです。しかし、海外で感染して日本帰国後に発症というケースが年間100-200例あります。
今後の厚労省の発表に注目したいと思います。
(谷口恭)
注1:厚労省のこの発表については下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140110-01.pdf
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