医療ニュース
2014年1月27日 月曜日
2014年1月28日 やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害
過剰な宣伝効果のせいか、マルチビタミンやミネラルはいまだによく売れているそうですが、USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force、米国予防医療研究チーム)は、すでに2003年に、「ビタミンA、C、E、葉酸入りマルチビタミン、抗酸化物質は推奨する根拠がない(だから推奨しない)」と公表しており、さらにβカロテン(カロチン)については、「喫煙者などの肺ガンのリスクを高める」ことを指摘しています。
新たに系統的な分析をおこなった結果、やはりサプリメントには心血管疾患予防やガンの予防、死亡リスクを低減する効果はなかった。また、やはりβカロテンは喫煙者などの肺ガンのリスクを高める可能性があることがわかった・・・
これは、医学誌『Annals of Internal Medicine』2013年12月17日号(オンライン版)に掲載された論文の結論です(注1)。
研究者は、2003年の上記USPSTFの発表後に報告されたサプリメントの利益と害に関するいくつかの文献を系統的に解析することによってこの結論を導いています。
一部の研究では、長期間マルチビタミンを摂取していた男性は発ガンリスクが低下するというものもあったようですが(下記医療ニュース2012年11月3日参照)、他の良質な研究も交えて総合的に解析すると、ビタミンやミネラルのサプリメントが心血管疾患やガンのリスクを下げる効果はない、という結論が出たそうです。
有害性については、一部の研究で、ビタミンAが肺ガンと股関節骨折のリスクを上昇させる可能性が指摘されています。別の研究では、葉酸が前立腺ガンのリスクを上昇させるというものもあったようです。また、カルシウム摂取が大腸ガンのリスク上昇を示唆したものもあり、ビタミンDとカルシウムの併用で腎結石リスクが上昇することを示した研究もあります(これは以前から何度も指摘されていました)。βカロテンは、喫煙者などの肺ガンのリスクを上昇させることが確認されたようです。
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私は権威に対して盲目的に従うタイプの人間ではありませんが、2003年のUSPSTFの「ビタミン・ミネラルのサプリメントは効果なくむしろ有害性がある」という発表を受けて、個人的にこういったサプリメントの摂取を一切やめました。科学系の雑誌やネットなどでも少しはこのようなことが報じられましたが、もうひとつ世間には伝わっていないように思えます。
なぜか大手のマスコミはサプリメントが有益でないことや有害性があることについての報道をあまりおこないません。薬やワクチンの副作用を大きく取り上げるのとは対照的です。これはなぜなのでしょう。サプリメントのメーカーがスポンサーになっているからではないのか、と疑われても仕方がないのではないでしょうか。
ただ「サプリメントを飲み出してから身体の調子がいい」と言う人がいるのも事実です。私自身はやみくもにサプリメントを否定するつもりはありませんが、長期摂取で有害性が出れば問題です。サプリメントを摂取している人は一度主治医に相談した方がいいでしょう。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Vitamin and Mineral Supplements in the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: An Updated Systematic Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1767855#Abstract
参考:
メディカルエッセイ第123回(2013年4月)「カルシウムのサプリメントは危険か」
医療ニュース
2011年11月14日「ビタミンEの発ガンリスク」
2012年3月13日「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」
2011年8月26日「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
2012年11月3日「マルチビタミン摂取でわずかながらもガン減少」
2012年6月30日「カルシウムのサプリで心筋梗塞のリスクが2倍」
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|2014年1月27日 月曜日
2014年1月27日 デング熱は本当に日本で感染したのか
2014年1月10日、厚生労働省は「日本国内でデング熱ウイルスに感染した可能性のある症例」について発表をおこないました(注1)。
同省によりますと、この症例はドイツ人で、2013年8月下旬に日本を周遊したときにデング熱ウイルスに感染しドイツ帰国後に発熱や発疹などの症状を発症したと考えられているそうです。調査はドイツのロベルト・コッホ研究所でおこなわれたとのことです。同研究所からの情報提供を受けて、厚生労働省が検討したところ、日本での感染が否定できないという結論となったそうです。
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日本にいた時期がはっきりしているわけですから、このドイツ人が日本のどこを訪問して、ということはある程度細部にわたるまで把握できるはずです。私は、厚労省のこの1月10日の発表に次いで、例えば、どこの県のどの地域での感染の可能性があるのか、といった情報が出てくるとみていたのですが、1月27日の時点でまだ情報提供がありません。
今は冬で蚊がいませんから余裕がありますが、蚊が登場する季節までにはもっと正確な情報提供をしてもらわなければなりません。場合によってはその地域では外出するときに必ず虫除けスプレーを露出部に使用する、といった対策が必要になるかもしれません。
デング熱はネッタイシマカもしくはヒトスジシマカが人を刺したときに蚊の体内にいたデング熱ウイルスが侵入してくることで感染が起こります。日本では太平洋戦争中に現地から人と一緒に船に乗ってやってきた蚊による流行が起こったとされていますが、それ以降国内での感染はないはずです。しかし、海外で感染して日本帰国後に発症というケースが年間100-200例あります。
今後の厚労省の発表に注目したいと思います。
(谷口恭)
注1:厚労省のこの発表については下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140110-01.pdf
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|2014年1月14日 火曜日
2014年1月14日 ピル(OC)の長期使用は緑内障のリスク
ピル(OC、経口避妊薬)を3年間以上服用している女性は緑内障のリスクが2倍に増大する・・・
2013年11月18日、米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)はこのような発表をおこないました(注1)。
この発表に基づく研究は、米国のカリフォルニア大学、デューク大学、及び中国江西省南昌市の南昌大学(Third Affiliated Hospital of Nanchang University)の研究者らによっておこなわれています。
この研究の対象となったのは、2005~2008年に実施された国民健康栄養調査(NHANES)に登録された参加者のなかでピルに関する問診と眼科検診を受けている40歳以上のアメリカ人女性3,406人です。
調査の結果、ピルの種類にかかわらず3年以上服用していると緑内障と診断される可能性が2.05倍高かったそうです。
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ピルの副作用で最も注意しなければならないのは血栓症(血が固まって血管がつまる状態)であり、眼科的な副作用でいえば網膜の血管が詰まることによっておこりうるものは指摘されたことがありますし、実際そういったことはピルの添付文書にも書かれています。
緑内障とピルの関係についてはこれまではあまり指摘されていませんし、薬の添付文書にも記載がありません。しかし、3年以上の服用でリスクが2.05倍というのは決して小さな数字ではありません。
以前から「40歳を超えれば眼科検診を」ということが言われることがありましたが、ピルを飲んでいる人はより積極的に考えるべきでしょう。
(谷口恭)
注1:この発表は米国眼科学会のウェブサイトで公表されています。タイトルは「Long-Term Oral Contraceptive Users are Twice as Likely to Have Serious Eye Disease」で、下記のURLで閲覧することができます。
https://www.aao.org/newsroom/news-releases/detail/longterm-oral-contraceptive-users-are-twice-as-lik
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|2014年1月6日 月曜日
2014年1月6日 ナッツを毎日食べると健康で長生き
ナッツを食べるべきか食べないべきか、については意見が分かれるところだと思います。ナッツはビタミンやミネラルが豊富に含まれており、地中海ダイエットのメイン食品のひとつですから、健康に、あるいはダイエットに積極的に摂取する、という人がいます。
一方、ナッツはカロリー過多で太る、あるいはナッツは肌荒れやニキビの原因になると考えて、健康とダイエットのためにあえて避けている、という人もいます。私の知る限り、ナッツで肌荒れやニキビを起こすと書かれた論文などは見たことがなく、これは単なる「噂」だと思うのですが、実際にナッツを食べる(食べ過ぎる)とニキビができやすくなると言う患者さんがいるのも事実です。
最近、ナッツ摂取量と死亡率、さらにいくつかの疾患の罹患率との関係について大規模調査がおこなわれましたので報告します。医学誌『New England Journal of Medicine』2013年11月13日号(オンライン版)によりますと、ナッツ摂取の頻度が多ければ多いほど(つまり毎日食べるほど)総死亡率やガンなどの疾患による死亡リスクが低下することが判ったそうです(注1)。
この調査は、米国の女性看護師121,700人を対象とした健康調査(The Nurses’ Health Study (NHS)と命名されています)と、 男性の医療従事者51,529人を対象とした調査( The Health Professionals Follow-up Study (HPFS) と命名されています)の2つを分析することによっておこなわれています。対象者から、ナッツの摂取量が不明な人、心疾患や脳卒中などを起こしたことがある人などが除かれ、最終的には女性76,464人と男性42,498人の分析がおこなわれています。追跡期間中に死亡したのは女性16,200人、男性11,229人だったそうです。
総死亡率については、ナッツをまったく摂取しない人と比較すると、週に1回未満の摂取で7%の低下、週に1回の摂取で11%、週2~4回で13%、週5~6回で15%、週7回以上の摂取で20%と、摂取する頻度が高ければ高いほど総死亡リスクが低下していることがわかります。
ガンによる死亡については、ナッツをまったく摂取していない人と比べて、週7回以上の摂取で11%低下しており、心臓病による死亡については25%の低下、呼吸器疾患による死亡では24%低下しています。
さらに、体重増加との関係についても、ナッツの摂取量が多い人ほど体重は減少していたそうです。論文の著者が「ナッツの食べ過ぎは体重増加の心配があるだろうが」と書いていますから、アメリカでも多くの人がナッツは太ると考えているのでしょう。
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ナッツを食べると肥満を防げて、病気にもならずに長生きできるとなるといいことばかりです。しかも、この研究は対象者が少なくありませんから説得力があります。
ナッツと聞いて気になるのは塩分との兼ね合いです。塩辛い味が好みの我々日本人は塩分摂取量には注意すべきでしょう。気になる人は塩分無添加のナッツを考えてみてもいいかもしれません。(ただし、完全な食塩無添加ナッツを美味しく食べられるか、というところが気になりますが)
ちなみに、何を食べるとどれだけ太るかという研究が同じ医学誌『New England Journal of Medicine』2011年6月23日号(オンライン版)に掲載されており(注2)、ここでもナッツは4年間で0.57ポンド(258グラム)の体重減少とされています。最も体重が増えたとされているのがポテトチップスの1.69ポンド(766.57グラム)です。
ということは、ソファーに座りながら、あるいは新幹線の座席でビールのつまみにポテトチップスを食べているという人はナッツに変更すべき、となるのかもしれません。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Association of Nut Consumption with Total and Cause-Specific Mortality」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307352#t=articleTop
注2:この論文のタイトルは「Changes in Diet and Lifestyle and Long-Term Weight Gain in Women and Men」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1014296#t=articleTop
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|2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 ワールドカップに出かける前に黄熱ワクチンの検討を
2014年の最大の楽しみにサッカーのワールドカップをあげる人も少なくないと思います。今月からチケットが発売されましたから席の確保に奔走している人もいるのではないでしょうか。
さて、開催地がブラジルとなるといくつか注意しなければならない感染症があります。今年話題になったシャーガス病(カメムシに刺されて感染)や、マラリアなどにも注意が必要ですが、ブラジルで忘れてはいけない感染症に黄熱があります。
黄熱はアフリカが有名ですが、アマゾンなどブラジルの奥地にも生息しています。ネッタイシマカと呼ばれる蚊に刺されることにより感染し、致死率は10%にも及ぶ大変危険な感染症なのですが幸いなことにワクチンがあります。
現在厚生労働省は黄熱ワクチンの接種をよびかけていますので、ブラジル渡航の予定がある人は目を通しておいてください(注1)。黄熱ワクチンはどこででも接種できるわけでなく全国25カ所の機関でのみとなります。
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ただし、ではブラジルに渡航する誰もが黄熱ワクチンを接種すべきなのか、と言えばそういうわけでは決してありません。都心部だけの渡航であれば特に接種する必要はないでしょう。黄熱ワクチンは、ワクチンのなかでは比較的副作用が強いことも知っておくべきです。
では、どのような人が黄熱ワクチンを接種すべきなのか、ですが、例えば「せっかくブラジルに渡航するんだからアマゾンまで行ってみよう」などと考えている人は積極的に接種を検討すべきでしょう。
また、国によっては、ブラジルから入国する場合、黄熱ワクチンを接種した証明書が必要になる場合があります。例えば、ブラジルからアフリカ経由で帰国しようとしたときに、サンパウロ→ケープタウンというのはポピュラーな経路ですが、南アフリカ共和国ではブラジルから入国する場合、黄熱ワクチン接種の証明書が必要になります。(日本で接種したときに交付される証明書を携帯していなければなりません)
詳しくは、注1の厚労省の案内のなかにある「黄熱ワクチン接種を行っている機関」に直接相談されるのがいいかと思います。また、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイト(注2)も参考になります。
ブラジル渡航では黄熱だけに気をつけていればいいというわけではもちろんありません。上に述べたシャーガス病、マラリアにも注意すべきですし、他にも、デング熱、フィラリア、リーシュマニア、狂犬病、ワイル病など日本にない感染症がたくさんあります。もちろん水道水は飲めませんし、食べ物にも注意が必要で、A型肝炎ウイルスなどにも注意しなければなりません。黄熱以外のワクチンとしては、B型肝炎ウイルスはもちろん、A型肝炎ウイルス、狂犬病、破傷風なども考慮すべきでしょう。
まずはかかりつけ医に相談してみてください。
(谷口恭)
注1:厚労省の案内は下記URLを参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11133000-Shokuhinanzenbu-KenekijogyoumuKanrishitsu/leaflet_2.pdf
注2:FORTH(厚生労働省検疫所)の説明については下記URLを参照してください。
http://www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html
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|2013年12月27日 金曜日
2013年12月27日 長期間の失業で老化が促進
長期間失業している男性は老化が早い・・・
フィンランドOulu大学のLeena Ala-Mursula氏らにより、フィンランド人の男女を対象とした研究でこのような分析がおこなわれ、医学誌『PLoS One』2013年11月20日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。
この研究は、フィンランドで1966年に出生した男女5,600人が対象とされています。対象者が31歳となった1997年にDNAが採取され「テロメア」の長さが調べられています。テロメアの先端部の長さを調べると老化の状態を知ることができることがわかっています。つまり、老化とはテロメアが短縮することに他ならない、というわけです。
研究の結果、過去3年間で2年以上失業していた男性は、仕事をしていた男性に比べると、テロメアの短縮が2倍以上多くみられたそうです。これは、テロメア短縮の原因となり得る(つまり他の老化因子である)喫煙、運動、体重、疾患の有無、教育、婚姻状態などの因子の影響を取り除いた上での結果だそうです。
興味深いことに、女性ではこの傾向が認められなかったそうです。ただし、この研究では女性の失業者はそれほど多くなかったことがこうした結果となった可能性が指摘されています。
また、筆者は論文のなかで別の研究を引き合いに出しています。その研究は米国の35~74歳の608人の女性が対象とされており、長時間労働や複数の仕事を持つことがテロメアの短縮と関係がある、つまり老化が早くなるという結果が出ているそうです。
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男性は失業で老化・女性は働き過ぎで老化、と短絡化すべきでないと思います。この線で押し進めて考えると、「男は働いてこそ幸せ、女は仕事をすべきでない」という時代錯誤の結論になってしまいかねません。このようなことを断定するには、もっとたくさんの調査が必要と考えるべきです。
精神的ストレスがテロメア短縮の要因であることは以前から指摘されています。失業期間が長くなったとしても過重労働があったとしても精神的ストレスが蓄積するのは間違いないでしょうから、仕事の有無でテロメアを論じるのではなく、仕事の有無とストレスの関係に注目すべきだと私は思います。
私にとってこの論文が印象的なのは、研究の対象者がフィンランド人、ということです。高負担・高福祉国家のフィンランドでは失業保険が充実していたはずですし、(私の記憶が正しければ)失業後も職業訓練を無料でおこなうことができて次の仕事を見つけるのは他国に比べるとむつかしくないはずです。
同じ研究を日本でおこなえば、さらにテロメアが短くなっている、つまり、日本人で長期にわたり失業している人は精神的ストレスが極めて強くなっている、そして結果として老化が早まり寿命も・・・、ということを危惧します。
(谷口恭)
注1:この研究のタイトルは「Long-Term Unemployment Is Associated with Short Telomeres in 31-Year-Old Men: An Observational Study in the Northern Finland Birth Cohort 1966」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0080094
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|2013年12月6日 金曜日
2013年12月6日 平均寿命2位、自殺ワースト4位、健康自覚度ワースト1位
OECD(経済協力開発機構)は国際経済について統計を出したり協議をしたりする国際組織ですが、医療に関するデータ分析もおこなっています。2013年11月21日、2013年版の医療に関する統計を発表しましたので、かいつまんで紹介したいと思います(注1)。
世界的に平均寿命が延長しており、OECD加盟国全体での平均寿命が80歳を超えています。(正確にいうと、女性では82.8歳、男性は77.3歳です。また、念のために付記しておくと、OECDに加盟しているのは先進国と一部の中進国だけですから、世界全体での平均寿命がこんなに高いわけではありません)
日本の平均寿命は82.7歳でスイス(82.8歳)についで世界第2位です。死因をみてみても三大疾病の2つである虚血性心疾患(心筋梗塞など)と脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)での死亡率は世界平均を下回っています。悪性腫瘍については他国と同様です。
交通事故死や新生児死亡も日本は他国よりも少ないのですが、日本の死因で問題なのは自殺でワースト4位(人口10万人対20.9)になります。ちなみに、自殺ワースト1位は韓国で(33.3)、2位がハンガリー(22.8)、3位がロシア(22.5)です。
OECDの調査で興味深いのは「健康自覚度(perceived health status)」の調査があることです。健康自覚度がもっとも低いワースト1位の国はなんと我が国で、健康の自覚がある人はわずか30%しかいません。
***************
この統計「Health at a Glance 2013」はたいへん読みやすくて興味深く時間があれば隅から隅まで読みたくなってきます。関心のある方は是非参照してみてください。
上ではポイントをごく簡単に述べましたが、もう少し補足しておくと、自殺については日本が4位であるということよりも、韓国が2位のハンガリーと大きく差をつけて飛び抜けて高いことが興味深いと言えます。「Health at a Glance 2013」の35ページのグラフをみれば韓国の自殺の異常な様子が一目でわかります。
健康自覚度は日本がワースト1位で、韓国がワースト2位です。ちなみに1位はアメリカで、これが私には意外でした。アメリカ人が不健康と断定したいわけではありませんが、アメリカ人には肥満が多く、実際に虚血性心疾患での死亡率はOECD平均よりも高くなっているのです。アメリカ人はのんきというか楽天的なのでしょうか。
虚血性心疾患のデータも興味深く、死亡率が最も少ないのは日本です。2位は韓国で、ここでも日本・韓国の相同性がみてとれます。しかし、興味深いのは1990年からの比較で、日本では32%減少しているのに対し、韓国では逆に60%も増加しているのです。ちなみに虚血性心疾患での死亡第1位はスロバキアで日本の約10倍です。
(谷口恭)
注1:この統計のタイトルは「Health at a Glance 2013」(あえて訳すとすると「一目でわかる医療」とでもなるでしょうか・・)で下記のURLですべてのページを読むことができます。
http://www.oecd.org/els/health-systems/Health-at-a-Glance-2013.pdf
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|2013年11月30日 土曜日
2013年11月30日 バイリンガルは認知症になりにくい可能性
多くの人が「最もかかりたくない病気」にあげるのがアルツハイマー病などの認知症ですが、現在のところ特効薬は存在しません。たしかに数種類の薬が発売されていますが、使い出すタイミングが遅ければ効果はあまり期待できません。
であるならば、なんとかして予防を心がけたいところですが、例えば、COPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコを吸わなければ発症しない、というようなレベルでの決定的な予防法があるわけではありません。
喫煙が認知症のリスクになることはよく言われますが、ではタバコをやめれば認知症を完全に防げるのかと問われればそのようなわけではありません。タバコ以外には、運動や食事(特に地中海ダイエットが有効という報告が多いようです)が予防になる、ということが指摘されますが、どれも”極めて有効”とまでは言えないと思います。
バイリンガルは1ヶ国語しか話せない人に比べると、アルツハイマー病を含めた3種類の認知症を発症するのが4年以上も遅い・・
これは、インドのハイダラーバード(ハイダラーバード県はインド中南部のアーンドラ・プラデーシュ州にあります)の研究所のSuvarna Alladi氏らによる研究結果で、医学誌『Neurology』2013年11月6日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。
今回の研究では、認知症の診断がついたインド人648人が研究の対象とされています。対象者のうち391人が2ヶ国語以上を話すバイリンガルです。アルツハイマー病患者は240人で、その他の認知症として、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、混合型認知症などの診断がついています。被験者の14%は識字能力がないようです。分析の結果、2ヶ国語を話す人は、1ヶ国語しか話さない人に比べ、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症の発症が有意に遅いことが判ったそうです。
興味深いことにこの傾向は識字能力のない人にも認められています。また、3ヶ国語以上を話せても、2ヶ国語の人と有意な差はなかったようです。
*************
バイリンガルは日頃から脳をよく使う仕事をしているから認知症になりにくいのでは?、という疑問がでてきますが、この研究では、対象者の教育、職業などの因子は取り除いて考察されています。
バイリンガルが認知症を遅らせるとする研究は過去にもあるのですが、幼少児から2ヶ国語を自然に学ぶことがいいのか、中学生くらいになってから、あるいは中年になってから語学を勉強しても認知症を遅らせる効果があるのか、そのあたりに触れている研究は私の知る限りありません。
語学の勉強はたいへんですが楽しいものでもありますから、たとえ認知症の予防にならなかったとしても引退後(あるいはいつからでも!)語学を勉強しましょう、というのが私の個人的な考えです。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Bilingualism delays age at onset of dementia, independent of education and immigration status」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/81/22/1938.short?sid=beb1e2d5-62d4-48e4-a782-be8301fb4d5a
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|2013年11月29日 金曜日
2013年11月29日 輸血でHIV感染
すでに各マスコミで大きく報道されていますが、HIV感の可能性があった40代男性が献血をし、その血液を輸血された60代男性がHIVに感染した、という事件がありました。現時点で判った情報をまとめておきたいと思います。
・40代男性は危険な性行為が約2週間前にあったのにもかかわらず2013年2月に献血をおこなった。
・献血されたすべての血液はHIVの検査をおこなうが、感染して間もない時期のウイルス量が少ない場合は検査をすり抜けてしまうことがあり今回はすり抜けてしまった。
・その40代の男性は11月上旬に再び献血をおこない、このときにHIV感染が発覚した。
・この男性の2月の献血で輸血を受けた患者は2名いることが判明し、うち1人の60代男性はHIVに感染していたことが発覚した。(注:あとの1人(80代女性)については感染していなかったことが2013年11月30日に報道されました)
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2003年にも同様の事件(事故)があったのですが、世論の注目度は今回の方が高いように見受けられます。ここ2~3年はHIVに対する世間の関心が低下しており、2003年の頃の方がずっとHIVの注目度が高かったように私は思うのですが、今回の方が議論が加熱しているのはおそらくインターネットが当時より普及しているからでしょう。
これから起こりうる問題は2つある、と私はみています。1つは「輸血に対する警戒心」です。ある程度大きな手術になれば、術前に輸血の同意書を書くことになりますが、ここで同意に躊躇する人が出てくるのではないかと思われます。となると、医療側としては手術がおこなえず、結果として手術のタイミングを逃してしまうようなことが起こらないかを危惧します。
もうひとつは、危険な性交渉がありながら献血をした者へのバッシングです。この男性がHIVの検査目的で献血をしたのなら許されることではありませんが、本人としては「それほどリスクのある行為ではない」と感じていて、純粋な善意から献血をしたのであればこの男性だけに責任を押しつけるのは問題です。太融寺町谷口医院のHIVの患者さんのなかにも、「そんなことくらいでまさかHIVに感染するとは思わなかった」という人は少なくありません。この男性に対するバッシングが度を超えないか、私はそれを懸念しています。
(谷口恭)
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|2013年11月11日 月曜日
2013年11月11日 自殺のリスクが低くなる食事とは
自殺のリスクが低くなる食事のパターンについて、日本人を対象とした研究が報告されたので紹介しておきます。
国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine)のAkiko Nanri氏らのグループによるJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study)というものがあり、この研究により得られたデータを分析することによって食事と自殺のリスクとの関係が調べられています。研究結果は医学誌『British Journal of Psychiatry』2013年10月10日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。
この研究の対象者は日本人男性40,752人、日本人女性48,285人です。食物摂取頻度調査票を用いて合計134種類の食品と飲料の消費量が調べられています(この調査は1995年から1998年に実施されています)。自殺をしたかどうかは2005年12月までが調べられています。
これらを分析したところ、男女とも、野菜、果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海藻、魚介類の摂取量が高ければ、自殺のリスクが低いという結果が出たそうです。
***********
食事とうつ病や自殺を調べた調査は過去にもあり、例えばω3系の不飽和脂肪酸を積極的に摂取するのがいいとされるものが有名です。
今回の研究では、結局のところ、日本人が古来から食べている馴染みのあるものをバランスよく食べるのがいい、という結果であり、論文のなかでも、”prudent”な食事パターンがすすめられる、と述べられています。”prudent”とは「常識的な」とか「良識のある」という意味で、伝統的な食事に勝るものはないということを意味しています。
(谷口恭)
注:この論文のタイトルは、「Dietary patterns and suicide in Japanese adults: health centre-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://bjp.rcpsych.org/content/early/2013/09/27/bjp.bp.112.114793.abstract?sid=4041be03-3108-4950-a0f5-e569225da988
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