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2019年1月31日 慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか

 私が現在最も懸念している米国の医療問題は「麻薬」です。昨年(2018年)はカナダで嗜好用大麻が合法化されたこともあり大麻の報道が目立ちますが、(違法)薬物で世界が今最も考えなければならないのは大麻ではなく「麻薬」です。米国の「麻薬汚染」は極めて深刻な状態です。

 米国の平均寿命が3年連続で低下しているのは麻薬が原因と言われており、これは数字を見れば頷けます。具体的な数字をみていく前に言葉の確認をしておきましょう。文脈によってはコカインやLSDなども含めて、あるいは覚醒剤や大麻などすべての(違法)薬物を含めて”麻薬”というような呼び方をすることもありますが、ここで述べているのは本来の麻薬すなわちオピオイドです。ここからは言葉の混乱を避けるために「オピオイド」で通します。オピオイドとはケシの実から抽出された物質やそれに近い合成化合物で、具体的には、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、フェンタニルなどを指します。

 報道によると、2017年1年間で米国でオピオイドによる死亡者は72,000人で毎日200人が死亡していることになります。1999年には16,849人でしたから18年で4倍以上に増えています。2018年の時点でオピオイド依存症は200万人以上と言われています(参考:The Crisis Next Door)。2017年の米国の他の死因をみてみると、交通事故が40,100人、銃での殺人が15,549人、他殺が17,284人(このうちいくらかは銃によるものも含まれているとのこと)、自殺は約45,000人です。

 要するにオピオイドによる死亡は銃による被害や交通事故などよりもはるかに多いということです。

 なぜ、こんなにもオピオイドが消費されるのか。それは関節痛や神経痛といった慢性の痛みにもオピオイドが処方されだしたからです。従来オピオイドはがんの末期に起こる疼痛や手術直後の一次的な痛みに対して用いるものでした。それが、次第に日常的な慢性の痛みにも使われるようになり一気に広がったのです。この原因として製薬会社の責任が指摘されています(下記文献参照)。

 さて、神経痛などの痛みにオピオイドが効果があり、他に手立てがないのなら、注意しながらの使用は検討されるべきでしょう。しかしながら、「効果はあるにしてもそれは極めて小さい」という研究が発表されました。

 医学誌『JAMA』に掲載された論文「Opioids for Chronic Noncancer Pain (A Systematic Review and Meta-analysis)」によると、「オピオイドががん以外の痛みに効くのは事実だが、その効果は他の痛み止めとほとんど変わらない」ようです。

 この研究はこれまでに報告された合計96の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。結果、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛薬)、三環系抗うつ薬(日本でも痛み止めとして使われます)、抗けいれん薬(これも日本でも使われています)との差はわずかしかないという結果がでました。

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 日本でも過去10年ほどでオピオイドの使用が急激に増えています。米国と同様、がんの末期での使用のみならず、神経痛や関節痛といった慢性の痛みに処方されています。

 太融寺町谷口医院を初めて受診する人に「今飲んでいる薬は?」と尋ねると、オピオイドの名前(トラマール、ワントラム、トラムセットなど)を挙げる人が年々増えています。しかも「危険性を知っていますか」と尋ねて、副作用のリスクや依存性について答えられる人はほとんどいません。

 「日米社会20年遅延説」と呼ばれる説があります。米国で起こったことは20年後に日本で流行するというものです。オピオイドがこれに該当しなければいいのですが…。

参考:GINAと共に
第137回(2017年11月)「痛み止めから始まるHIV」
第151回(2019年1月)「本当に危険な麻薬(オピオイド)」

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