医療ニュース

2013年10月29日 火曜日

2013年10月29日 ダイエット用健康食品で死亡例

 およそ1ヶ月前、ダイエット用健康食品「デキサプリン」で副作用が相次ぎ、中には心停止にいたった例もあるということを紹介しましたが(下記医療ニュース参照)、新たに別の健康食品で重篤な副作用が報告されています。

 厚生労働省は2013年10月9日「健康食品(OxyElite Pro)に関する注意喚起について」というタイトルの注意喚起(注1)を発表しました。これは前日の10月8日、米国CDC(疾病予防管理センター)と米国FDA(食品医薬品局)が、「OxyElite Pro」と言う名のダイエット用健康食品で死亡例を含む急性肝炎の被害が多数報告されたことを発表(注2)したことを受けてのものです。

 これら当局の発表によりますと、「OxyElite Pro」はダイエットと筋肉増強を目的につくられた健康食品で、重篤な肝障害をきたす例が相次いでいるようです。発表の時点で合計29名が薬剤性急性肝炎を発症し、2名は肝移植が必要になり、そのうち1名が死亡にいたったそうです。
 
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 OxyElite Proをインターネットで調べてみると、次の6種類の成分から構成されていることがわかりました。

①Bauhinia Purpurea L. (Leaf And Pod) Extract
②Bacopa (Leaf) (Bacopa Monnieri) Extract
③1,3-Dimethylamylamine HCL
④Cirsium Oligophyllum (Plant) Extract
⑤Yohimbe (Pausinystalia Johimbe) Bark Extract
⑥Caffeine 

 ①②は聞いたことのないものですが、天然の葉から抽出したもののようで、説明文(注3)によると、甲状腺ホルモンの1つであるT3を増大させる効果があるそうです。③⑤⑥は交感神経を活性化させる作用があります。④についてはよくわかりませんが、単純に考えて、この健康食品を摂取すると、代謝がかなり活発となり、結果として体重減少が起こるはずです。しかし、このようなものが安全であるはずがなく、血圧上昇、動悸、発汗、イライラなどの副作用が起こることは容易に想像できます。

 今回問題となったのは肝機能障害です。どの成分が肝機能障害をおこしたのかはCDCやFDAの報告をみてもよくわかりませんが、死亡例を出すほどのものですからこのようなものは絶対に摂取してはいけません。日本でも個人輸入で購入できるようですから一度でも飲んだことがあるという人は、たとえ症状がなくても医療機関に相談すべきでしょう。

 また、最近日本でも別のダイエット用健康食品で被害の報告がありました。共同通信2013年10月10日号(オンライン版)によりますと、千葉県在住の2人の女性がそれぞれ「ヴィクトリアスレンダー」、「GLAMOROUS LINE」という名前の健康食品を摂取し頭痛などの副作用が生じたそうです。1人は回復したものの、もう1人は現在も通院中だそうです。

 千葉県はすでに、薬事法に基づき販売業者らを所管する名古屋市、横浜市、大阪市に通報し、現在はサイト上からこれら健康食品は削除されているそうです。

  サプリメントや健康食品はどのようなものであれ、かかりつけ医を持っている人は摂取前に相談すべきでしょう。

谷口恭

注1:厚労省の注意喚起は下記URLで閲覧できます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000025767.html

注2:CDCのレポートのタイトルは「Acute Hepatitis and Liver Failure Following the Use of a Dietary Supplement Intended for Weight Loss or Muscle Building」で、下記のURLで読むことができます。
http://emergency.cdc.gov/HAN/han00356.asp 

FDAのレポートのタイトルは「OxyElite Pro: Health Advisory – Acute Hepatitis Illness Cases Linked To Product Use」で、下記のURLで読むことができます。
http://www.fda.gov/Safety/Medwatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm370857.htm

注3:下記のURLがOxyElite Proについて比較的説明が多いようです。
http://www.oxyelite-pro.com/oxyelite-pro-ingredients

参考:医療ニュース
2013年9月30日「デキサプリンを飲まないで!」
2007年3月23日「ダイエット用食品から未承認医薬品検出」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2013年10月28日 月曜日

2013年10月28日 超低用量ピルでの2人目の死亡例

  以前、超低用量ピル(ヤーズ)の副作用で20代の女性が死亡したという例をお伝えしました。(下記医療ニュース参照) 主治医がヤーズを処方してからわずか13日後、この女性は頭蓋内静脈洞血栓症という、頭の中の血管が血の塊で詰まってしまう病態となり死亡しました。

 死亡したこの20代の女性は、肥満や喫煙など血栓症を起こす要因ほとんどなく、ヤーズを含めてピルのリスクは小さかったと言えます。頭蓋内静脈洞血栓症がピル内服で起こるのは内服開始後数週間以内とされてはいますが、血栓症のリスクのほとんどない20代女性が(中用量ピルでなく)超低用量ピル服用開始のわずか13日後に死亡したというのは注目に値します。

 そして、1人目の死亡例が報告された4ヶ月後の2013年10月、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がヤーズによる国内2人目の死亡を発表しました。

 この女性は10代後半で、ヤーズの内服を開始しておよそ1年半後(526日目)に肺動脈塞栓症で死亡しています。女性が外出して下宿に帰宅した後に連絡が途絶え、その3日後に死亡しているところを発見されています。解剖の結果、肺動脈に血栓(血の塊)がみつかったそうです。

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 このような事件を聞くとまず気になるのが血栓症を起こすリスクがなかったのかということですが、バイエル薬品株式会社の発表(注1)によると、喫煙はなく、肥満もなく(BMIは22.7)、血が固まりやすくなるような病気をした人が家族にいるわけでもありません。

 これまでは死に至るような重篤な血栓症の副作用は、ピルを飲み出して数週間以内に起こることが多いとされていました。しかしこのケースでは飲み出して1年半が経過してからの発症です。しかも血栓症のリスクがほとんどないのにもかかわらず、です。

 今後ピルを飲むすべての人は、血栓症の予兆(ふくらはぎの痛みや赤み、胸の痛み、息苦しさ、頭痛など)があれば直ちに主治医に相談すべきでしょう。もちろん禁煙をおこない、肥満があれば減量を試みるべきなのは言うまでもありません。

谷口恭

注1(2019年10月27日):バイエル薬品株式会社は事故があった直後に詳細をウェブサイトで報告していましたが、現在そのページは削除されています。下記は医療サイト「m3」の記事です。
https://www.m3.com/clinical/news/182534

参考:
医療ニュース2013年8月30日「超低用量ピルでの死亡例」
はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2013年10月5日 土曜日

2013年10月5日 電子タバコは本当に有効なのか

 電子タバコの危険性については、このサイトでも取り上げたことがありますし(下記医療ニュース参照)、厚労省は何度か注意喚起を促しています(注1)。しかし、国内外を問わず電子タバコで禁煙を試みる人は増加しており(イギリスでは禁煙に取り組む人の27%が利用しているという報告もあるほどです)、あらためて科学的な危険性と有用性の検証が急がれます。

 そんななか、ニュージーランドのオークランド大学で電子タバコの有効性と安全性についての評価試験がおこなわれ、医学誌『Lancet』2013年9月9日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注2)。

 研究の対象者はオークランドの18歳以上の禁煙希望者で、調査期間は2011年9月6日~2013年7月5日です。対象者は、電子タバコ(16mgニコチン入り)使用グループ、ニコチンパッチ(21mg/日)使用グループ、プラセボ(ニコチンなし電子タバコ使用)グループの3つのグループに無作為に分けられて検討されています。

 その結果、6ヶ月が経過した時点で禁煙できていた人は、電子タバコのグループで7.3%(21/289例)、ニコチンパッチのグループで5.8%(17/295例)、プラセボでは4.1%(3/73例)だったそうです。数字だけでみると、電子タバコで禁煙成功率が高いように思われますが、統計学的に分析すると有意差はでなかったようです。

 危険性については、それぞれの有害イベント(副作用)の発生は、電子タバコのグループで137例、ニコチンパッチのグループで119例、プラセボでは36例で、これもまた数字だけみると電子タバコで危険性が高そうですが、統計学的には有意差はないようです。

 この研究からは、電子タバコは危険性があるとは言えないけれども、有効性も統計学的にはあるとは言えない、ということになります。

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 この研究結果をみて私が最もひっかかったのは、電子タバコであろうがニコチンパッチであろうが禁煙成功率が低すぎる、ということです。

 厚労省が平成21年度に調査し公表している「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」(注3)によりますと、ニコチンパッチでの治療終了9ヶ月の時点で禁煙を継続しているのが49.2%ですから、今回のニュージーランドの調査とあまりにも数字がかけ離れています。

 日本での禁煙治療はパッチよりも飲み薬(チャンピックス)が用いられることが多いのですが、厚労省のこの報告書によれば、飲み薬を用いての治療終了9ヶ月の時点の禁煙維持率は50.1%とされています。

 私がこの論文を読んで最初に思ったのは、電子タバコの有効性を論じる前に、「禁煙は薬を飲めばそれだけで成功するわけではない」ということです。この研究では、対象者は禁煙希望者(smokers wanting to quit)とされていますが、本当にやめる意思があったのかどうか、そして医療者は禁煙のサポートをしたのかどうか、という点が疑問なのです。

 研究の目的は「禁煙を支援すること」ではなく「電子タバコの有効性の検討」ですから、例えばカウンセリングなどのサポートはすべきでなかったということかもしれませんが、この研究でよくわかったのは「禁煙で重要なのは何を用いるかではなく禁煙を希望する人の意思と医療者のサポートこそが最重要」ということではないかと私はみています。

 そういう意味で、電子タバコも使うなら本人の強い意志と医療者のサポートがあればOKといえるかもしれません。ただし安全性が確立していれば、です。現時点では厚労省が電子タバコの使用に注意勧告をしていますから、安易な使用は控えるべきでしょう。

(谷口恭)

注1:平成22年12月27日付けで「ニコチンを含有する電子タバコに関する危害防止措置について」というタイトルで発表しています。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000zlvf.html

注2:この論文のタイトルは「Electronic cigarettes for smoking cessation: a randomised controlled trial」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2813%2961842-5/abstract

注3:この報告書は下記URLで読むことができます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0602-3i.pdf

参考:医療ニュース
2009年7月31日「「電子タバコ」はやはり危険!」
2008年9月26日「「電子タバコ」に要注意!」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2013年10月4日 金曜日

2013年10月4日 女性も多量飲酒で脳卒中のリスクが増加

  ビール大ビン1本を毎日飲む女性は脳卒中のリスクが3倍近くに・・・

 これは大阪大学と国立がん研究センターの共同研究の結果で、同センターが2013年9月25日にウェブサイトで公表しています(注1)。大量飲酒で脳卒中になるという研究はこれまでにもありましたが、男性を中心としたものばかりで、日本人女性を対象とした大規模調査では今回の研究が初となるようです。

 研究の対象となったのは40~69歳の日本人女性約47,000人で、平均17年間の追跡調査がおこなわれています。アルコール摂取量を、「飲まない」、「時々飲む」、「週にエタノール換算で1-74g」、「週に75-149g」、「週に150g-299g」、「週に300g以上」の6つのグループに分けて検討されています。

 追跡期間中に1,864人が脳卒中になり、その内訳は、脳内出血532人、くも膜下出血338人、脳梗塞964人、その他12人とされています。これらを飲酒量により分析すると、「時々飲む」を基準としたとき、「週に300g以上」では全脳卒中のリスクが2.30倍、出血性脳卒中(脳内出血+くも膜下出血)で2.38倍、脳内出血では2.85倍、脳梗塞では2.03倍と増加が認められています。

 尚、心筋梗塞などの虚血性心疾患については292人が発症していますが、統計学的には発症例が少なく、飲酒との明らかな関係は認められなかったそうです。

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 同センターのサイト(注1参照)には、6つのグループの飲酒量ごとのリスクが棒グラフで分かりやすく示されています。これをみれば、300gで極端にリスクが上昇することがよく分かります。150-299gでもリスクが1.5倍になっていますから、脳卒中のリスクを減らすためには149g以下にした方がよさそうです(注2)。

 ただ、このグラフをよくみれば、「飲まない」グループの方が、「時々飲む」よりも脳卒中のリスクが高くなっています。昔からよく言われるように「健康維持にはほどほどの飲酒がいい」ということなのでしょうか。

(谷口恭)

注1:「女性における飲酒と循環器疾患発症との関連について」というタイトルで概要が紹介されています。下記URLを参照ください。
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3310.html

また、この研究は医学誌『Preventive Medicine』2013年7月13日号(オンライン版)にも掲載されています。タイトルは、「Alcohol consumption and risk of stroke and coronary heart disease among Japanese women: The Japan Public Health Center-based prospective study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743513002272

注2 150-299gでビール大ビン1~2本、300gで2本以上が目安です。日本酒なら150-299gで1~2合、300gで2合以上になります。(いずれも1日あたりの平均量)

参考:医療ニュース
2009年10月8日「酒飲みの女性は乳ガンになりやすい」
2009年12月28日「ビール週7本で乳癌のリスク急増」
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2010年4月8日「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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