医療ニュース

2013年7月2日 火曜日

2012年7月13日(金) カンボジアの難病は手足口病の可能性

 カンボジアで原因不明の病気が流行り大半が死亡している、という情報を先日お伝えしましたが、その後の調査で、この原因は「手足口病」かもしれない、との発表がありました。

 東南アジアで高熱と呼吸症状で死亡、と聞くと、まず考えたいのが高病原性鳥インフルエンザ(A/H5N1)とSARS(重症急性呼吸器症候群)ですが、これらはすでに否定されています。また、高病原性鳥インフルエンザ以外のインフルエンザウイルも否定されています。

 一方、罹患者の一部からエンテロウイルス71(EV71)が検出されたことが判り、手足口病によるものではないか、との見方がでてきました。

 しかし、どうも全例から検出されたわけではないようで、また、一部の罹患者からはデング熱、さらにチクングニヤが検出されたという情報もあり、現時点では原因となる病原体の特定はできていません。

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 手足口病と言えば、昨年(2011年)は日本でも大流行し、子供だけでなく大人も発症し、重症例も相次ぎました。手足口病をきたすウイルスは複数ありますが、昨年日本で猛威をふるったのはコクサッキーA6です。現在、カンボジアで流行している(可能性のある)手足口病の病原体はエンテロウイルス71で、これは日本でも以前から多いタイプのものです。

 しかし、日本ではこれほどの重症化はおこりませんから、エンテロウイルス71が何らかの変異を起こした可能性は否定できないでしょう。ただし、これだけ死亡者が多いのは、カンボジアの劣悪な医療環境が関係していることもありえます。

 はっきり言うと、カンボジアの医療機関は、ごく一部を除き、衛生状態に問題があります。私はNPO法人GINAの関係でタイの医療機関をある程度見てきましたが、公立の病院では何度も驚かされてきました。病室は、体育館のような広さがあり、そこに100人以上の患者さんが所狭しと寝かされているのです。なかには息が絶え絶えの患者さんもいて、これでは院内感染が容易に起こってもおかしくありません。

 しかし、そこで働いている医療者やボランティアに聞くと、カンボジアではこの比ではないそうです。タイで知り合ったあるヨーロッパ人のボランティアによると、タイでは医師は英語ができるが、カンボジアの医師はフランス語はできても英語ができないことが多く、外国人はまともに診てもらえないそうです。

 感染症は急速に広まる可能性があります。そろそろ夏休みですが、子供をつれてのカンボジア旅行は可能な限り避けるべきでしょう。またベトナムやカンボジアと国境を接するタイの東北地方なども充分な注意が必要です。仕事などでどうしても行かなければならない人は海外旅行傷害保険の見直しをすべきでしょう。

 尚、エンテロウイルス71にはワクチンがありません。デング熱にもチクングニヤにもワクチンはありません。ただし、デング熱とチクングニヤは蚊に刺されて発症しますから、虫除けスプレーやクリーム(これらは現地で買った方がいいです)を忘れないようにしましょう。

参考: 医療ニュース2012年7月7日(土) 「カンボジアで原因不明の難病が発生」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月29日(日) 若者の自殺が原因で平均寿命短く?

 厚生労働省は毎年7月末頃に平均寿命を公表します。2011年の平均寿命は、女性が85.90歳、男性が79.44歳とされています(注1)。

 前年(2010年)の平均寿命が女性・男性それぞれ、86.30歳、79.55歳ですから、男女とも前年を下回ったことになります(注2)。

 2012年7月27日の日経新聞で国際比較がおこなわれています。同紙によりますと、女性は香港に抜かれ27年ぶりに2位に転落し、男性は前年の4位から8位に後退したそうです。男女とも1位は香港だそうです。
 
 男女とも寿命が短くなった原因として、厚労省は東日本大震災の影響の他に、20代の自殺が増加したことも一因としています。一方、「三大死因」のガン、心臓病、脳卒中での死亡は減少傾向にあり、同省は、将来日本人が三大死因で死亡する確率を女性49.45%、男性52.83%としています。

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 平均寿命とは、簡単に言えば「生まれたばかりの赤ちゃんが平均してどれくらい生きるか」を意味します。ですから、乳幼児期に死亡することが多い国では、例えば平均寿命が60歳であなたがすでに成人していれば、60歳よりも長生きする可能性が高いわけです。日本のような先進国では乳幼児期の死亡率は小さいですから、成人していても実際の寿命は平均寿命とそれほど隔たりはないはずです。しかし、厚労省が指摘しているように若者の自殺が今後も増えるようであれば、平均寿命が短くなり、ある程度の年齢まで生きた人の死亡年齢との差が大きくなっていくことになります。

注1:詳しくは厚労省のウェブサイト(下記)を参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life11/index.html

注2:2010年の女性・男性の平均寿命は、速報値ではそれぞれ86.39歳、79.64歳でしたから(下記医療ニュース参照)、最終的に男女とも少し短くなったことになります。

参考:医療ニュース
2011年8月1日 「女性の寿命は5年ぶりに短く、男性は過去最高」
2010年7月28日 「日本人の寿命がさらにさらに長く」
2009年7月18日 「日本人の寿命がさらに長く」
2008年8月4日 「長寿記録更新!女性は23年連続世界一」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月30日(月) 運動不足解消で11ヶ月寿命が延びる!

 健康のために運動しましょう、というのは聞き飽きた言葉で、言われたときには「わかっとるわい!」と言い返したくなりますが、では、運動すればどれだけ健康になれるのか、という問いに数字を使って答えるのはなかなか困難です。

 日本人は運動不足を解消すると平均寿命が0.91年(約11ヶ月)延びる!

 このようなことが、米国ハーバード大学ブリガムアンドウイメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)のI-Min Lee博士らの研究で導き出され、医学誌『Lancet』2012年7月21日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)で述べられています。

 研究者は、運動不足(inactivity)が各疾患にどれくらいの影響を与えるかを算出しています。その結果、全世界でみたときには、心筋梗塞などの心疾患の5.8%、糖尿病の7.2%、乳ガンの10.1%、結腸ガンの10.4%が運動不足によるものであることがわかったそうです。

 この研究が興味深いのはこれを世界中の国や地域で分析していることです。日本では、心疾患、糖尿病、乳ガン、結腸ガンの運動不足が関与する割合が、それぞれ10.0%、12.3%、16.1%、17.8%とされています。

 さらに研究者は、もしも運動不足が解消されたとすると平均寿命がどれだけ延長するか、という試算もしています。結果は、世界中では平均寿命が0.68年延長することになり、日本の場合は0.91年(約11ヶ月)の延長となるそうです。

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 この研究は公衆衛生学的な研究ですから、すべての人が運動不足を解消すればこれらの疾患に罹患しなくなり平均寿命が伸びるという意味ではありません。つまり、いくら運動しても、結腸ガンになる人はなるわけです。

 しかし、だからといって運動不足のままでいるのはもったいないと考えるべきです。この論文によりますと、運動不足が寿命に与える影響は、喫煙や肥満とほぼ同等だそうです。がんばりすぎてストレスが貯まるのは問題ですが、運動・禁煙・減量は「長生きするための3原則」と考えるべきでしょう。

注1:この論文のタイトルは、「Effect of physical inactivity on major non-communicable diseases worldwide:
an analysis of burden of disease and life expectancy」で、下記のURLで概要を読むことができます。また、全文を読むことも可能です。その場合はユーザ登録が必要ですが無料でおこなえます!(医師でなくとも誰もが無料で登録できます)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2961031-9/abstract

参考:医療ニュース
2011年12月28日 「体重が減らなくても有酸素運動で長寿に」  
2007年2月21日 「運動する男性は大腸がんの危険度が30%低い」

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2013年7月2日 火曜日

2012年8月1日(水) 喫煙者率、2011年も過去最低だが・・・

 JT(日本たばこ産業)は毎年「全国たばこ喫煙者率調査」をおこなっています。今年は全国の成人男女約32,000人を対象に5月に実施されました。回答を得たのは19,897人からで回収率は62%ということになります。以下の結果が7月30日に発表されました(注1)。

 男女合計21.1%(前年から0.6ポイント低下)
 男性のみ32.7%(前年から1.0ポイント低下)
 女性のみ10.4%(前年から0.2ポイント低下)

 JTは、高齢化の進行、健康意識の高まり、2010年10月に実施されたタバコ税増税などが喫煙者率減少の要因とみているようです(注1)。

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 JTはいくつかの理由で喫煙者率が減少したことを強調したいようですが、今回の低下率は0.6ポイントですから、2010年から2011年の低下率が2.2ポイント(下記医療ニュース参照)だったことを考えると低下率は鈍くなっていることがわかります。

 結果の解釈については「過去最低になって良かった」ではなく、「禁煙を試みる人が減り喫煙者の減少率が鈍くなり好ましくない状態」とみるべきではないか、と私は考えています。

注1:JTのウェブサイトで詳しく紹介されています。下記URLを参照ください。

http://www.jti.co.jp/investors/press_releases/2012/0730_01.html

参考:医療ニュース
2011年10月15日 「喫煙者率が男女とも過去最低に」
2010年8月16日 「喫煙率、男性は過去最低、女性は再び増加」

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2013年7月2日 火曜日

2012年8月6日(月) ポリオワクチンに伴う混乱

 すでにマスコミで報道されているように、今年(2012年)9月1日より、定期の予防接種に不活化ポリオワクチンが導入されることになりました。さらに、4種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオワクチン)が7月27日に薬事承認されました。4種混合ワクチンは2種類のものが登場するようです。ひとつは「テトラビック皮下注シリンジ」(阪大微生物病研究会)、もうひとつは「クアトロバック皮下注シリンジ」(化学及血清療法研究所)です。

 不活化ポリオワクチンが定期接種に組み入れられたのはもちろん歓迎すべきことなのですが、すでに混乱が生じているようです。話がややこしいのは

・単独の不活化ワクチンと、2種類の4種混合ワクチンが登場することになり、それぞれ接種開始日が異なる

・すでに、生ワクチンを1度接種している場合はどうすればいいのか

・生ワクチンでなく、特殊なクリニックで輸入物の不活化ワクチンを1回、もしくは2回接種している場合はどうすればいいのか

・ポリオ接種は見合わせており、3種混合ワクチンの1回目をすでに接種している場合は?

といった問題がでてくるからです。これらに対し厚労省は、様々な状況でどのようにすべきかの指針を公表しています(注1)。

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 厚労省が公表している各状況でどのようにすべきかの指針は大変わかりにくいものとなっていますが、これは厚労省が悪いわけではなく、ワクチンの移行期には必然的について回る問題です。

 では、接種対象者(その父兄)はどうすればいいのでしょうか。厚労省のウェブサイトなどで確認してももちろんかまわないわけですが、かかりつけ医に相談するのが一番正確だと思われます。

 尚、太融寺町谷口医院には成人の方から不活化ワクチンの問い合わせがしばしばありますが、しばらくの間は見合わせたいと考えています。ここ数年の経緯からみて、ワクチン不足になる可能性があると思われるからです。(2年前のHibワクチン、昨年のHPVワクチンが供給不足になったのは記憶に新しいところです。現在はA型肝炎ワクチンの入手が困難になっていますし、狂犬病ワクチンは入荷の目処すらたちません)

(谷口恭)

注1:厚労省が公表している指針を下記に紹介します。(何度読んでもややこしいです・・・)

【3 種混合ワクチン未接種かつポリオワクチン未接種の者】
 ⇒ 4種混合ワクチン未導入の時点で開始する者:3種混合ワクチン+単独の
   不活化ポリオワクチン
 ⇒ 4種混合ワクチン導入後に開始する者:原則として4種混合ワクチン

【以下のいずれかのワクチンを接種している者】
 ・生ポリオワクチン1回
 ・単独の不活化ポリオワクチン1回以上
 ・3種混合ワクチン1回以上
 ⇒ 4種混合ワクチンの導入にかかわらず:原則として3種混合ワクチン
   +単独の不活化ポリオワクチン

・4種混合ワクチンの標準的な接種期間は以下の通り(3種混合ワクチンと同じ)。
 ・初回接種は、生後3か月から12か月に、20~56日の間隔をおいて3回
  ※3種混合ワクチンと4種混合ワクチンの間隔も20~56日までとする。
  (単独の不活化ポリオワクチンと異なり、接種間隔の上限は56日までと
   する)。
 ・追加接種は、初回接種から12か月~18か月後(最低6か月後)に1回。
  ※この年齢を超えた場合、これまで通り、7歳6か月に至るまでの間であ
   れば定期接種を実施できる。
  (単独の不活化ポリオワクチンと異なり、定期導入時点で追加接種も含まれる。)

参考
厚労省の <ポリオワクチン> (このサイトはわかりやすく解説されています)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/ 

医療ニュース:2012年5月1日 「ついにポリオ不活化ワクチン導入へ」
はやりの病気第100回(2011年12月) 「不活化ポリオワクチンの行方」

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2013年7月2日 火曜日

2012年8月27日(月) 太っているだけなら早死にしない?

 数年前から、単に太っているだけなら寿命が短くなるわけではない、あるいは、少し太っている方が長生きする、という研究が相次いでいますが、新たに「肥満は短命のリスクでない」とする研究が、医学誌『JABFM(Journal of the American Board of Family Medicine)』2012年7-8月号(オンライン版)(注1)で発表されました。

 この研究は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校によりおこなわれています。研究の対象者は、2000~2005年に実施された「Medical Expenditure Panel Survey(MEPS)」という調査に参加した18~90歳の男女約51,000人です。身長と体重から算出したBMI、糖尿病・高血圧の有無を調べ、6年間の追跡調査がおこなわれています。追跡期間中に死亡したのは全体の3.1%だったそうです。

 この研究では対象者を5つのグループに分けています。BMI20未満(注2)の「低体重群」、BMI20~25未満の「普通体重群」、BMI25~30未満の「過体重群」、BMI30~35未満の「肥満群」、BMI35以上の「超肥満郡」の5つです。

 分析の結果、「普通体重群」「過体重群」「肥満群」では、糖尿病・高血圧の有無に関わらず寿命に差はありませんでした。「超肥満群」では、死亡のリスクが高いという結果がでていますが、糖尿病や高血圧の患者を除いて分析すると有意差が消失したそうです。つまり、太っているからといって必ずしも短命というわけではなく、超肥満であっても糖尿病や高血圧がなければ早死にするわけではない、ということになります。

 さらに、糖尿病や高血圧を持っていない「肥満群」では、6年間の平均余命に及ぼすリスクが「普通体重群」に比べ低くなる(0.81倍)という驚くべき結果もでています。また、糖尿病で早死にするリスクは、「肥満群」や「超肥満群」よりも「低体重群」の方が高いという、これまた意外な結果となっています。

 「低体重群」にとって好ましくないデータはまだあります。「低体重群」のグループは、糖尿病や高血圧に関係なく、「普通体重群」に比べ死亡リスクが1.8~1.9倍にもなったというのです。

 この研究が発表されたのとほぼ同時期に、医学誌『JAMA』2012年8月8日号(オンライン版)(注3)に似たような研究が発表されました。その研究では、「糖尿病発症時に正常体重であれば、過体重・肥満であった場合と比べると、死亡リスクが約2倍となる」、としています。

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 これら2つの研究をまとめると、①やせていれば寿命は短い。逆に少々の肥満があっても問題ない、②「超肥満」であっても糖尿病や高血圧がなければ問題ない、③肥満がない状態で糖尿病に罹患すれば死亡リスクが上昇する、となります。

 しかし、肥満は糖尿病や高血圧を導きやすい、というのもまた事実です。特に日本人は欧米人に比べると、肥満に耐えられない、つまり、肥満になる前に糖尿病などを発症しやすい、と言われています。

 あまりこういった研究には影響を受けずに、太らないことに注意する方が賢明だと私は考えています。

(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは、「Body mass index, diabetes, hypertension, and short-term mortality:
a population-based observational study, 2000-2006」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.jabfm.org/content/25/4/422.full.pdf+html?sid=33ede6ef-8e8b-4a69-b03a-945955974e11

注2 BMIとは体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数字です。この研究のグループで考えると、身長を170cmとすれば、
低体重群:57.8kg未満
普通体重群:57.8kg~72.75kg
過体重群:72.75~86.70kg
肥満群:86.70~101.15kg
超肥満群:101.15kg以上
となります。

注3 この論文のタイトルは、「Beyond the Obesity Paradox in Diabetes, Fitness, Fatness, and Mortality」で、下記のURLで概要を読むことができます。(しかし、この概要には重要なことがほとんど書かれていません・・・)

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1309157

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2013年7月2日 火曜日

2012年8月31日(金) 血液型で心疾患のリスクが異なる

 今も昔も「B型の性格は・・・」「だからAB型のやつは・・・」といった話が好きな人は少なくないようですが、血液型による性格診断が科学的に実証されたことはありません。しかし、血液型により(心筋梗塞や狭心症といった)虚血性心疾患のリスクが異なる、という興味深い研究が、医学誌『Arteriosclerosis,
Thrombosis and Vascular Biology』2012年8月14日(オンライン版)に掲載されました(注)。

 この研究は米国ハーバード大学公衆衛生学教室によっておこなわれています。研究の対象者は米国看護師健康調査(the Nurses’Health Study, NHS)に参加した62,073人の女性と、米国医療従事者追跡調査(the Health Professionals Follow-up Study, HPFS)に参加した27,428人の男性です。20年以上にわたり追跡調査をした結果、NHSでは2,055人が、HPFSでは2,015人が虚血性心疾患を発症しています。

 そこで発症者を血液型で分析してみると、O型の人のリスクが最も低いという結果がでています。最も高いのはAB型で、O型の人に比べると23%も心疾患のリスクが高くなっています。B型では11%、A型では5%のリスク上昇が認められています。

 虚血性心疾患の明らかなリスクに喫煙、体重、病歴(高血圧や高コレステロール血症)などがありますが、今回の研究ではもちろんこのような他のリスクは除外してあります。なぜ、このように血液型で差が出るかについて、研究者は「O型には血をサラサラにして固まりにくくする未知の因子があるのではないか」と推測しているようです。

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 今回の研究の対象者はほとんどが白人であるために、他の人種でも同様の結果がでるかどうかは不明です。したがって日本人であてはまるかどうかは分かりません。仮に日本人でも同様のことが言えるとしても、虚血性心疾患のリスクが血液型よりも、喫煙、体重、運動不足、糖尿病、高血圧などの方がはるかに高いのは自明です。

 自分はO型だから安心・・・、などとは決して考えないように・・・。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「ABO Blood Group and Risk of Coronary Heart Disease in
Two Prospective Cohort Studies」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://atvb.ahajournals.org/content/32/9/2314.abstract?sid=839f8123-6b58-4f41-9b4b-ac4acefa33fd

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月3日(月) 人間ドックの「異常なし」は過去最低

 すでに各マスコミでも報道されていますが、日本人間ドック学会は、2012年8月24日、2011年に人間ドックを受診した全国の約313万人について、「異常なし」とされた人の割合が7.8%であり、これは過去最低になることを発表しました。

 異常の内訳をみてみると、最多が「肝機能異常」で33.3%、2番目が「高コレステロール」で29.8%、以下、「肥満」27.6%、「血糖値異常」23.2%、「高血圧」21.0%、「高中性脂肪」15.3%と続きます。

 地域別では、異常なしが最も少なかった(異常ありが多かった)のは、順に、近畿(5.2%が異常なし)、北海道(9.8%)、東北(7.2%)、関東甲信越(7.6%)、東海北陸(7.4%)、九州沖縄(8.9%)、中国四国(12.6%)となります。

 人間ドックでみつかった悪性腫瘍は、多い順に胃ガン、大腸ガン、肺ガンとなるようです。

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 企業などでおこなわれる定期健康診断の結果は毎年厚生労働省から公表されます。2011年の結果は「有所見率」が52.7%で、これは「異常なし」が47.3%(100 – 52.7 = 47.3)ということになります。人間ドックで「異常なし」は10%未満で、定期健康診断での「異常なし」は約半数となります。なぜこのような差が生じるのでしょうか。

 定期健康診断での異常は、多いものから、脂質異常、肝機能異常、血圧異常、血糖異常です。なぜ最多が肝機能異常でないのかというと、定期健康診断では「高コレステロール」と「高中性脂肪」を合わせて「脂質異常」として算出しているからだと思われます。定期健康診断には「肥満」という項目がありませんから、もしも「肥満」を「有所見」とすれば、定期健康診断でも異常なしは1割未満となるのでしょうか。

 不健康な人が人間トックを受けて、健康な人は定期健康診断を受けている、といったことがあるのでしょうか・・・。

 人間ドック学会のデータにも定期健康診断のデータにも共通することがひとつあります。それは、年々「異常あり」が増加しているということです。定期健康診断でデータが最も古い1990年(平成2年)は、有所見率が23.6%と2011年の半分以下です。日本人が不健康になる一方、というのは双方のデータから言えることだと思います。

 今後日本人の平均寿命が短くなる、そのような時代が来る日は案外近いかもしれません・・・。

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月15日(土) ダニに刺されて発症する新しい感染症

 2009年、米国ミズーリ州で57歳と67歳の男性が相次いでダニに刺され高熱がでる原因不明の疾患に罹患しました。二人の男性は、命はとりとめましたがその後2年間にわたり頭痛、倦怠感、記憶障害などに苦しめられたそうです。最終的には症状は回復しましたが原因は不明のままでした。

 この疾患の原因となった病原体は新種のフレボウイルスで「ハートランドウイルス(heartland virus)」と命名された。

 医学誌『New England Journal of Medicine』2012年8月30日号に掲載された論文(注1)でこのことが公表されました。

 研究者らは電子顕微鏡検査でこの病原体がブニヤウイルス科のウイルスであることを確認し、いくつかの精密検査を駆使してこのウイルスがフレボウイルス属に属する新種であることを証明しました(注2)。

 この新種のハートランドウイルスについて分かっていることはあまりありません。人から人へ感染するのか、感染すると全員が発症するのか、どのような経過をとるのか、後遺症を残すことがあるのか、といったことは現時点では分かりません。

 媒介するダニは、A. americanumと呼ばれるダニで、背中の1つ星模様が特徴だそうです。

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 ダニに刺されて発症するのは、刺されたときにダニの体内に棲息していた病原体が侵入するからです。このようなダニが媒介する感染症はたくさんあり、日本でも日本紅斑熱、ライム病、ツツガムシ病などは今でもときおり報告があります。
 
 海外では、ロッキー山紅斑熱(北米)、クリミア・コンゴ出血熱(アフリカ・中東など)、ダニ媒介性回帰熱(イベリア半島やアジア西部の半島)、ダニ媒介性脳炎(ロシア春夏脳炎ウイルス、中部ヨーロッパ脳炎ウイルスなど)があります。これらには死に至ることもあり、発生している地域に渡航する際には注意が必要です。

 また、ダニ刺されは、こういった感染症に罹患しなかったとしても激しい痒み(ときに痛み)に苦しめられますから、野外に出かけるときは、露出部位を減らし、虫除けスプレーをする、などの対策をとるべきです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「A New Phlebovirus Associated with Severe Febrile Illness in Missouri」で、下記のURLで読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1203378

注2:少し補足しておきます。生物の分類は、大きなグループから「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」となります。例えばヒトであれば、動物界・脊椎動物門・哺乳綱・霊長目・ヒト科・ヒト属・ホモサピエンス種となります。新種のハートランドウイルスは「ブニヤウイルス科・フレボウイルス属」ということになります。尚、ブニヤウイルス科は、ブニヤウイルス属、フレボウイルス属、ナイロウイルス属(Nairovirus)、ハンタウイルス属などに分類されます。フレボウイルス属は約30種あるとされています。

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月28日(金) 重症化する新型コロナウイルス

 重症化する新型コロナウイルスが発見された・・・

 WHO(世界保健機関)は2012年9月23日と25日に、肺炎を発症し重体となった40代のカタール人男性から新型のコロナウイルスが検出されたことを公表しました(注1)。

 このカタール人男性は、2012年9月上旬にサウジアラビアとカタールを旅行中に呼吸器症状を発症し、ドーハの集中治療室に入院となり、9月11日にイギリスに航空搬送されています。急性腎不全も併発しているそうです。

 HPA(The Health Protection Agency of the UK、英国健康予防局)の調査により、新種ウイルスが検出され、このウイルスはコロナウイルスの新型と認定されたようです。

 HPAによれば、このウイルスは2012年6月に死亡したサウジアラビア人の肺の細胞から採取されたウイルスと99.5%一致するそうです。このサウジアラビア人の調査はオランダのエラスムス大学がおこなっていました。

 コロナウイルスといえば、よくある風邪の代表的な原因ウイルスのひとつですが、2002年から2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)もコロナウイルスの1種です。WHOの報告によれば、今回カタール人が発症したものはSARSの原因ウイルスとは異なる、まったく新しいタイプのコロナウイルスとなるそうです。

 この新型ウイルスは今後急速に広まる可能性もあります。9月26日、デンマークのオーデンセ大学病院は、このウイルスに罹患した可能性のある5人(うち2人は5歳未満)を病院内に隔離したことを公表しました。同院によりますと、5人のうち4人は同一家族で父親がサウジアラビアへの渡航歴があり、もう1人はカタールへの渡航歴があるそうです。
 
 これら一連の動きを受け、サウジアラビア保健省は、9月26日、感染予防策を講じるとの発表をおこないました。入国者の監視を強化し、感染の疑いのある人に検査を実施していくそうです。サウジアラビアでは、10月に「ハッジ」と呼ばれるイスラム教聖地メッカへの巡礼があり、世界中から200万人以上が集う予定だそうです。

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 現時点では、WHOは旅行規制の推奨はおこなっていないようですし、日本の外務省のウェブサイトにも情報がありませんが(注2)、今後どのような指針が発表されるか分かりません。中東方面に渡航される方は充分注意してください。

(谷口恭)

注1:WHOのこの発表文のタイトルは「Novel coronavirus infection – update」で、下記のURLで閲覧することができます。

http://www.who.int/csr/don/2012_09_25/en/index.html

注2:外務省のウェブサイトには情報がありませんが、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイトには簡単な説明があります。興味のある方は下記を参照ください。

http://www.forth.go.jp/news/2012/09261721.html

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