医療ニュース

2013年7月2日 火曜日

2012年5月1日(火) ついにポリオ不活化ワクチン導入へ

 ようやくポリオウイルスの不活化ワクチンが全国どこでも接種できることになりそうです。4月23日に開かれた厚労省の検討会議で決定されました。実施は、2012年9月1日からとなる見込みです。

 生ワクチンは2回接種が基本ですが、不活化ワクチンの場合は4回接種となります。すでに生ワクチンを1回接種している場合は、不活化ワクチンを3回接種することになると思われます。費用については、予防接種法に基づくことになりますから、不活化ワクチンも生ワクチンと同様、乳児は公費負担で無料となります。

 厚労省は、ワクチンの製造者であるサノフィパスツール社のポリオ単独の不活化ワクチンを近日中に正式に承認するそうです。

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 これまで厚労省は(なぜか)単独の不活化ワクチンに消極的で、(なぜか)4種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風の3種混合ワクチンに不活化ポリオを加えたもの)の開発にこだわっていたのですが、ここにきて方向転換したようで、これは評価されるべきだと思われます。(遅すぎる、という声もありますが・・)

 ポリオウイルスは、日本国内には存在しないとされており、海外でもほとんど絶滅寸前ではあります。しかしながら、(2010年の時点では)インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの4ヶ国で報告があり、2011年7月には中国で4例の発症がありました。こういったことを考えると、やはりすべての乳児がワクチン接種しておくべきですし、成人の場合もこういった地域に渡航する人は接種すべきでしょう。成人の場合は、生ワクチンでも問題ないとされていますが、海外では不活化ワクチンが標準的ですから、今後成人への接種も不活化ワクチンが主となることが予想されます。

(谷口恭)

参考:はやりの病気第100回(2011年12月)「不活化ポリオワクチンの行方」

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2013年7月2日 火曜日

2012年5月11日(金) 20代女性の3人に1人は「自殺」を・・・

 2012年5月1日、内閣府は自殺対策に関する意識調査の結果を公表しました。この調査は、2012年1月、全国の20歳以上の男女3,000人を対象として実施されたものです。(有効回収率は67.2%)
 
 結果は、過去に自殺を考えた経験がある人は全体の23.4%で、これは前回調査(2008年2月)より4.3ポイント増えています。

 年代別でみてみると、20代が最多で28.4%となっています。さらに20代の女性だけでは33.6%に上り、20代女性の3人に1人以上が自殺を考えたことがある、ということになります。前回の調査では自殺を考えたことのある20代女性は21.8%でしたから、実に11.8ポイントの大幅な増加です。さらに、自殺を考えたことがあると答えた20代女性の44.1%が「最近1年以内に考えたことがある」と回答しています。
 
 他の年代をみてみると、30代で25.0%、40代で27.3%、50代で25.7%となっています。

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 自殺を考えたことのある人が全体の23.4%というのも驚くべき数字ですが、20代女性で急激に上昇していることに注目すべきでしょう。この2年の間に自殺を考える20代女性が11.8ポイントも増えている原因は何なのでしょうか。たしかに、太融寺町谷口医院を受診している20代の女性の患者さんのなかにも、うつ状態から自殺を考えている・・・、と話される人がときどきいますが、その原因はそれぞれであり、全体でこんなにも急増している理由が私には見当がつきません。
 
 このニュースが報道されたとき、私は東南アジアのある国に滞在していたのですが、現地の新聞にもこの記事が掲載されていました。私は海外にいくと現地の英字新聞を読むのを楽しみにしているのですが、その理由のひとつが「日本の記事がどのように報道されていて日本がどのように見られているか」が分かるからです。この日の新聞で日本に関する記事はこの話題だけでした。海外、特に東南アジアからみれば、まだまだ日本というのは大変豊かで夢のような国であり、一般のアジア人からすれば、なぜ日本のような国で若者が自殺をするのかが分からない、とよく言われます。
 
 自殺対策というのは本当にむつかしいものではあるのですが、なんとかしなければなりません・・・。

(谷口恭)

参考: 医療ニュース2012年3月21日 「日本の自殺者、14年連続で3万人超」

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2013年7月2日 火曜日

2012年5月18日(金) 「アクトス」は膀胱癌のリスクを上げない

 2011年6月9日、フランス当局(Afssaps)は、糖尿病治療薬のアクトス(一般名はピオグリタゾン)が膀胱癌のリスクを上昇させるために新規処方をしないよう通達をおこないました。さらに、フランスの決定を受けてドイツも同様の通達をおこないました。その後、欧州医薬品庁(EMA)は、膀胱癌のリスクに注意しながらであれば処方を認める、つまり使用継続は可能、との決定をおこないました。
 
 これは、膀胱癌のリスクを勘案したとしても、アクトスの治療効果に期待すべき症例が多く、ベネフィト(治療により得る利益)がリスクを上回る、と判断されたことを意味します。
 
 そして、この度イギリスでおこなわれた約21万例の2型糖尿病患者を対象とした大規模研究の結果が医学誌『British Journal of Clinical Pharmacology』2012年5月11日号(オンライン版)に掲載されました(注)。
 
 その結果は、アクトス投与患者と他の糖尿病治療薬投与患者の間に膀胱癌増加の有意な差はなかった、つまり、アクトスと膀胱癌には何の関係もない、というものです。

 少し数字を詳しくみてみると、アクトスを内服している患者100,000人あたり膀胱癌を発症したのは80.2人で、他の糖尿病治療薬投与患者では81.8人だったそうです。
 
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 では、なぜフランス当局の研究では、アクトスが膀胱癌のリスクになる、という結果がでたのでしょうか。はっきりしたことは分かりませんが、アクトス内服者に喫煙、肥満などの膀胱癌のリスクとなる要因を抱えた人が(フランスでは)多かったのかもしれません。
 
 太融寺町谷口医院ではフランス当局の発表を受けて、アクトスを処方している患者さんに個別に話をさせていただきました。また、アクトスの新規処方はこの約1年間控えてきましたが、なかなか血糖値の下がらない患者さんにはこれからは検討すべきかと思われます。いずれにしても、個別に話をさせていただきます。
 
(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Pioglitazone and bladder cancer: A propensity score matched cohort study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2125.2012.04325.x/abstract

参考:
医療ニュース
2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」
2011年6月15日 「糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起」

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2013年7月2日 火曜日

2012年5月28日(月) コチニールのアレルギーに注意!

 コチニールという赤色の着色料をご存知でしょうか。

 コチニールとは、コチニールカイガラムシ(別名エンジムシ)という赤い色の虫(カメムシの仲間です)を乾燥させて抽出した色素のことで、染色用色素や食品着色料、化粧品などに用いられています。コチニールは「カルミン酸」と呼ばれることもありますし、「カルミン」と表示されていることもあるそうです。
 
 そのコチニールが重症のアレルギー(アナフィラキシー)をおこしうることが分かり、厚生労働省は2012年5月11日、各都道府県衛生主管部(局)長宛に通達をおこなっています(注1)。
 
 通達によりますと、コチニール(カルミン酸)及びカルミンについて、不純物として含有するタンパク質に起因すると推定されるアナフィラキシー反応を起こすことが判明しているそうです。したがって、これらを含む医薬品、医薬部外品、化粧品、食品などの摂取の際には充分注意し、少しでも異変を感じれば直ちに医療機関を受診しなければなりません。
 
 医薬品のなかでコチニールが使われているのは下記のものです。

・エバステルOD錠(抗ヒスタミン薬、花粉症、じんましん、湿疹などに用います)
・LL配合シロップ小児用 (小児用の風邪薬です)
・ワイドシリン細粒 200 (抗生物質です)
 
 尚、この件に関しては、厚労省だけでなく、消費者庁も注意喚起をしています(注2)。同庁が食品添加物のアレルギー発症で注意を喚起するのは初めてだそうです。

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 化粧品(特に口紅)を使うときは、成分表示をみてコチニールの有無を確認すべきでしょう。

 食べ物では、赤マカロンやカンパリ(ソーダ)、ハム、かまぼこなどに含まれているそうです。アナフィラキシーの報告もあるようですし、そこまでいかなくてもじんましんや、口腔内アレルギー症候群(OAS)といって口の中がこそばくなるような症状が出るアレルギー疾患がおこることもあるようです。これらを口にしてもまったく症状のない人は、直ちにやめなければならない、ということはありませんが、気になる症状が出現したときは医療機関を受診するようにしましょう。
 
(谷口恭)

注1:この通達の宛名は「各都道府県衛生主管部(局)長殿」とされていますが、下記のURLで誰でも閲覧することができます。
(2014年11月19日現在閲覧不可)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T120514I0020.pdf

注2:消費者庁の注意勧告は下記のURLで閲覧することができます。
http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120511kouhyou_9.pdf

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2013年7月2日 火曜日

2012年5月28日(月) 2011年の「いきなりエイズ」は過去最多

 2012年2月24日に厚生労働省のエイズ動向委員会が公表した「いきなりエイズ」(HIV感染がエイズを発症して初めて発覚した症例)の速報値が467人と過去最高レベル、というニュースを過去にお伝えしましたが(下記「医療ニュース」参照)、最終の数値が2012年5月24日に発表されました。
 
 2011年の1年間に報告のあった「いきなりエイズ」は473人にのぼり、これは1984年の調査開始以来最多となります。これで2年連続記録を更新ということになります。(2010年は469人で過去最多でした) まだエイズを発症していない段階でHIV感染が発覚した症例は1,056人で、これは過去4位となります。(1位は2008年の1,126人、2位が2007年の1,082人、3位が2010年の1,075人です。検査数が大幅減少した2009年は1,021人でした)
 
 先日お伝えしましたように(下記「医療ニュース」参照)、東京都では「いきなりエイズ」が大きく減少しています。にもかかわらず、全国では「いきなりエイズ」が過去最多ということは、それ以外の地域での増加が東京での減少を打ち消している、ことに他なりません。
 
 実際、東京都周辺の関東甲信越地方では横ばいもしくは増加傾向にあり、東海地方、九州地方での増加が目立っています。

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 これからは地方都市での検査の充実が課題となるでしょう。しかし、減少傾向にある東京でも依然感染者数は少ないとは言えませんし、横ばいにある大阪でも減っているわけではありません。実際、太融寺町谷口医院でもピーク時の2008年に比べると新たにHIV感染が判るケースは減少傾向にはありますが、決して大幅に減っているわけではありません。
 
 また、以前にも指摘しましたが、最近は、何らかの症状で当院を受診したがまさかその原因がHIVとは思ってもみなかったという「いきなりHIV」が増加しています(下記コラムも参照ください)。
 
(谷口恭)

参考:
医療ニュース2012年4月13日 「東京では「いきなりエイズ」が大きく減少」
医療ニュース2012年3月2日 「減らない「いきなりエイズ」」  

NPO法人GINA GINAと共に第64回(2011年10月) 「増加する「いきなりHIV」」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月1日(金) 風疹が過去最多の勢い

 風疹(ふうしん)が流行っています。

 国立感染症研究所感染症情報センターの報告によりますと、2012年1月から5月20日までに感染が届けられた患者数は205人(速報値)で、これは全数報告が始まった2008年以降の同時期で過去最多となります。昨年(2011年)の同時期は126人でしたから、昨年からみると1.6倍の増加となります。
 
 2011年を1年間でみると患者数は369人で、これは2008年以降で最多となりますが、2010年の89人からみると約4倍となっています。そして、今年(2012年)は2011年を上回る勢いで推移しているということになります。
 
患者数を都道府県別でみてみると、最多は兵庫県の62人で、大阪府46人、東京都28人、京都府12人、と続きます。

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 風疹は、飛沫感染(他人のくしゃみなどで感染します)で、2~3週間の潜伏期間を経て、発疹、発熱、リンパ節の腫れなどの症状が出現します。子どもに感染した場合は比較的軽症ですみますが、それでも脳炎など重篤な合併症を起こすこともあります。
 
 また、風疹で最も問題になるのが、妊娠初期の女性がかかった場合で、こうなると先天性風疹症候群といって、胎児が難聴、心疾患、白内障などの障害を持って生まれることがあります。このため中絶せざるを得ない妊婦さんもいます。
 
 太融寺町谷口医院でも、昨年は2~3ヶ月にひとりくらいの割合で風疹の患者さんがこられました。成人の場合、高熱が続きリンパ節の腫れがなかなか引かないこともあります。
 
 風疹は予防接種(ワクチン)をしていればほぼ完全に防ぐことができるのですが、していない人があまりにも多い、というのが我々医療者の印象です。実際、2004年に国立感染症研究所が発表したデータによりますと、20~30歳代の風疹に対する免疫をもたない人(ワクチンをうっていなくて過去にかかったこともない人)は530万人にも上るそうで、また、私の印象を述べれば(患者さんには失礼ですが)、過去にかかったことがあると思いこんでいて実際にはかかっていなくて成人してから感染した、という人も少なくありません。
 
 風疹ワクチンも他のワクチンと同様、誤解の多いワクチンで、副作用を極端に恐れている人が少なくありません。たしかにワクチンに伴う副作用はゼロではありませんが、副作用のリスクと接種せずに罹患してしまったときのリスクをしっかりと比較検討すべきです。
 
 風疹ワクチンは麻疹(はしか)ワクチンとセットになったMRワクチンというものが定期接種に分類されています。つまり無料で接種できるということです。現在は1歳代で1回(1期)、小学校入学の前年に1回(2期)の合計2回の接種が基本です。また、特例措置として、2008年から5年間(2012年まで)は、中1と高3に相当する年齢でうつことができます。(注)
 
 定期接種の年齢に該当しない人は自費となりますが、これだけ流行してきましたからよほどの理由がない限りは全員が接種すべきと思われます。(特にこれから妊娠を考えている人) まずはかかりつけ医に相談するようにしましょう。
 
(谷口恭)

注:MRワクチンの「定期接種」は現在太融寺町谷口医院では実施していません。お近くの小児科クリニックにお問い合わせください。成人の風疹ワクチン接種はおこなっていますが、通常はまず抗体の有無を調べますから初診時に接種とはなりません。詳しくは受診時にあるいはお電話にてお問い合わせください。また下記「予防接種」もご参照ください。
 
参考:
トップページ「予防接種」
医療ニュース2007年3月6日「はしか・風しん混合ワクチンの2回目接種率わずか30%」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月11日(月) やっぱり「アクトス」は膀胱癌のリスクか

 いったい、アクトスで膀胱癌のリスクは上がるのか、そうでないのか・・・。

 2012年5月11日号(オンライン版)の『British Journal of Clinical Pharmacology』に掲載された論文では、「アクトスは膀胱癌のリスクにならない」という結論が導かれていました(詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください)。これで安心か、と多くの医療者が感じていたところ、『British Medical Journal』の2012年5月31日号(オンライン版)では、再びこれをくつがえす論文が掲載されました(注1)。
 
 カナダ、モントリオールのJewish General Hospital臨床疫学センターのLaurent Azoulay氏らが、UKのデータベースGeneral Practice Research Database(GPRD)を用いて分析した結果、「アクトスを2年以上服用し、累積服用量が28,000mgを超えると、膀胱癌の発症リスクが2倍に上昇していた」、と結論づけています。
 
 この研究では、1988~2009年に新規に経口糖尿病治療薬を処方された患者115,727例(平均64.1歳)が対象とされています。平均4.6年の追跡調査期間中に膀胱癌と診断されたのは470例(10万人・年当たり89.4)に上ります。
 
 このなかでアクトスが処方されていたのは19例(5.1%)で、対照群では191例(2.9%)だったそうです。これらを統計学的に解析すると、アクトス投与による膀胱癌発症の相対リスク(RR)は1.83となるそうです。さらに、アクトス投与量が多ければ多いほど膀胱癌のリスクが上昇するという結果となり、2年以上かつ累積服用量28,000mg以上では相対リスクは2.54にもなるとのことです。
 
 アクトス(一般名はピオグリタゾン)はチアゾリジン系というグループに分類されるのですが、興味深いことに、同じチアゾリジン系のAvandia(日本では未承認です。一般名はロシグリタゾンといいます)では、膀胱癌のリスク上昇は認められなかったそうです。
 
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 太融寺町谷口医院では、2011年6月からフランス当局の発表を受けて、アクトスの新規処方を見合わせてきました。2012年5月12日の『British Journal of Clinical Pharmacology』の論文が公表されたことで、再び新規処方を検討していたのですが、今回の『British Medical Journal』の発表で、新規処方の見合わせは当分続けざるをえない、と考えています。
 
 それにしても『British Journal of Clinical Pharmacology』でアクトスの安全性が主張されて1ヶ月もたたないうちにまったく逆の結論の論文が公表されたことは興味深いといえます。しかも、どちらの研究も対象としているのはGPRDという同じデータベースなのです。ではどちらの研究に信憑性があるか、という点については、より権威のある『British Medical Journal』かと考えられますが(より厳しい審査を受けているはずですから)、今後の展開にも注目したいと思います。
 
 現在糖尿病の薬にはすぐれたものがたくさんありますから、アクトスが使えなくなったからといって困窮する患者さんはほとんどいないと思われます。アクトスに限らず薬の副作用にはこれからも注意していきたいと思います。
 

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「The use of pioglitazone and the risk of bladder cancer in people with type 2 diabetes: nested case-control study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://www.bmj.com/content/344/bmj.e3645

参考:医療ニュース
2012年5月18日 「「アクトス」は膀胱癌のリスクを上げない」
2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」
2011年6月15日 「糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月12日(火) 2011年の人口動態;肺炎3位、晩婚+晩産

 2012年6月5日、厚生労働省は2011年の人口動態統計を公表しました。

 今回最も特筆すべきなのは、「三大疾病が変わった」ということです。これまで日本人の死因の三大疾病といえば、悪性腫瘍(癌)、心疾患(心筋梗塞など)、脳血管障害(脳梗塞など)でした。2011年は、1位の悪性腫瘍、2位の心疾患は不動ですが、3位が肺炎となり、脳血管障害は4位となりました。肺炎が死因のトップ3に入るのは1951年以来だそうです。
 
 次に注目すべきは、第1子出産時の母親の平均年齢が30.1歳と、初めて30歳を超えたことでしょう。1975年には25.7歳だった平均年齢は徐々に上昇し、2005年には29.1歳、2010年は29.9歳、2011年についに30歳の大台に乗ったということになります。
 
 2011年に生まれた子供は1,050,698人で、これは前年(2010年)から20,606人の減少となると同時に、統計が開始された1947年以降で最少となります。35歳以上の出産は増加傾向にありますが、34歳以下で減少となっています。
 
 合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)は1.39で前年と同じです。出生数が減って、合計特殊出生率が変わらないのは、女性の人数そのものが減っているからです。
 
 平均初婚年齢は男性が30.7歳、女性が29.0歳で、ともに前年を0.2歳上回り、過去最高を記録しています。

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 肺炎で死亡する人は戦後間もない頃は大勢いて死因の上位を占めていましたが、今回肺炎が増えたのは当時と同じ理由ではもちろんありません。戦後は、衛生状態が悪く抗生物質が普及しておらず、今なら簡単に助けられるような症例でも命を落としていた人が少なくないでしょうし、平均寿命も短かった時代ですから高齢となり癌を発症するまでに亡くなっていた人も多かったからです。
 
 2011年になり肺炎で死亡する人が再び増えたのは、誤嚥性肺炎が増えているからでしょう。高齢となり自分でご飯が食べられなくなり、介護師に食べさせてもらったり胃瘻をつけたことで食べ物が逆流したりすることにより誤嚥性肺炎が増えるのです。
 
 よく生命保険会社は、悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患の「三大疾病プラン」を商品にしていますが、今後はその内容も変わるのでしょうか。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2011年6月3日 「出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に」
2010年6月7日 「2009年の合計特殊出生率は横ばい」

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2013年7月2日 火曜日

2012年6月30日(土) カルシウムのサプリで心筋梗塞のリスクが2倍

 日本人の多くがカルシウム不足と言われており、そのためカルシウムをサプリメントで摂取している人は少なくありません。しかし、

 カルシウムのサプリメントを摂取すると心筋梗塞になるリスクが2倍になる・・・

と、このような研究結果がスイスのチューリッヒ大学社会予防医学研究所の調査により導かれ、医学誌『Heart』(オンライン版)2012年5月23日で発表されました(注1)。

 この論文では、「European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study(ヨーロッパの癌と栄養に関する前向き研究)(注2)」という大規模研究の対象となったドイツ・ハイデルベルク在住の約24,000人(1994~1998年の調査開始時点で35~64歳)のデータが分析されています。食事の内容、ビタミンやミネラルのサプリメントを摂取しているかどうかを確認し、平均11年間の追跡がおこなわれました。その間に、心筋梗塞354例、脳卒中260例、それ以外の心血管系の原因による死亡267例が発生しているそうです。

 食事から摂取するカルシウムが中程度(1日820mg)のグループは、摂取が少ない人よりも心筋梗塞リスクが低いという結果がでており、女性の方がこの傾向が顕著となっています。しかし、摂取量が1,100mgを超えるとリスク低下は認められていません。

 問題はここからです。

 カルシウムのサプリメントを摂取している人は、まったくサプリメントを摂っていない人に比べると、心筋梗塞のリスクが1.86倍になり、さらにカルシウムのサプリメントだけ(おそらく他のサプリメントは摂らずに、という意味だと思います)を摂取している人では、2.39倍にもなる、と導かれています。

 尚、この研究ではカルシウムと脳卒中のリスクも調べられていますが、こちらは相関関係がなかったそうです。

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 日本のような高齢化社会では、骨粗しょう症のリスクを下げるためにカルシウム摂取の重要性がよく指摘されます。まず、この研究で最も大切なことは、「カルシウムが必要なことは変わらないわけで、摂取方法は食事からにすべきであって、サプリメントはまずい」ということです。

 このサイトで何度か指摘していますが、ここ数年間はサプリメントに関する研究結果はほとんどが否定的なものです。摂取して何も変わらない、であればいいのですが、摂取すると病気のリスクが高まる、とされるものが目立ちます。(下記「医療ニュース」も参照ください)

 けれども、サプリメント好きな人は意外に多く、診察室で患者さんからよく質問を受けます。「どうしても何かサプリを摂りたい」という患者さんがいて、私にはこの心理がよくわからないのですが、どうしても、という人には、「それなら厚労省のデータで不足しているとされているカルシウムのサプリメントを考えてみればどうでしょう」、と返答してきました。

 しかし、これからはそんなことは言っていられないでしょう。我々はサプリメントに対する認識を「摂取しても効果がないもの」から「摂取すれば危険なもの」と変えるべきかもしれません(注3)

注1:この論文のタイトルは、「Associations of dietary calcium intake and calcium supplementation
with myocardial infarction and stroke risk and overall cardiovascular mortality in the Heidelberg
cohort of the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study (EPIC-Heidelberg)」で、下記のURLで概要(abstract)を読むことができます。

http://heart.bmj.com/content/98/12/920.abstract

注2:「前向き研究」というのは、分かりやすく言えば、対象者をあらかじめ決めておいて、その後どのような病気になるかを追跡していく調査のことです。これに対して「後向き研究」というのは、病気になった人を集めて、過去にどのような食生活をしていたか、喫煙や飲酒はどうだったか、などを聞き取って調べる調査のことです。一般的には「前向き研究」の方がより正確とされています。

注3:ビタミンやミネラル、その他健康食品の有効性を検証したサイトとしては、国立健康・栄養研究所の下記のものがおすすめです。

「 健康食品 」の安全性・有効性情報

参考:医療ニュース
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」
2011年5月6日 「カルシウムサプリメントが女性に危険かも・・・」
2012年3月13日 「ビタミンE過剰摂取で骨粗しょう症に」

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2013年7月2日 火曜日

2012年7月7日(土) カンボジアで原因不明の難病が発生

 カンボジアで原因不明の病気が発生。62人が罹患し61人が死亡。

 これは、検疫所のウェブサイトに2012年7月5日付で掲載された情報です。WHOが世界に向けて7月4日に公表したものを受けての情報です。

 報告によりますと、この原因不明の病気の大多数はカンボジアの南部で発生していますが、特定の地域に集中しているわけではないようです。症状は、高熱と呼吸困難、さらに神経症状も出現するようです。

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 現在入手できる情報からは詳しいことは分かりませんが、一斉に発生していることから感染症である可能性が高いと言えるでしょう。現時点では罹患者は子供に限定されているようですが、今後成人に発症しないとも限りません。

 カンボジアに渡航する人、さらにベトナムやタイ東北地方のカンボジアと国境を接する地域に渡航する人は当分の間、この原因不明の病気の動向に注意する必要があるでしょう。下記の検疫所のサイトを参照ください。

http://www.forth.go.jp/topics/2012/07050941.html

(谷口恭)

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