医療ニュース

2022年9月4日 日曜日

2022年9月5日 血圧が高くても毎日コーヒーを飲めば血管がしなやかに

 太融寺町谷口医院では高血圧の患者さんを診ない日はありません。全員に毎回、というわけではありませんが、血圧は計測する以外にも私自身がときどき血管を触らせてもらうことがあります。なかには触っただけで血管がガチガチに硬くなっている人もいます。

 高血圧が進行し、血管が硬くなると、血管はしなやかさを失い全身の動脈硬化が進行します(触った血管が硬くなっていること自体が動脈硬化であることを示しています)。

 しかし、血圧が高くても血管をしなやかに保つ(=動脈硬化を防ぐ)方法があるとすればどうでしょう。しかも、ごく簡単な方法で。

 毎日コーヒーを飲む習慣がある人は血圧が高くても血管の機能が良好。

 このようなコーヒー好きには嬉しい研究発表が日本人によっておこなわれました。医学誌「Nutrients」2022年6月29日に掲載された論文「高血圧患者における日々のコーヒー摂取量と血管機能との関係(Relationship of Daily Coffee Intake with Vascular Function in Patients with Hypertension )」に掲載されています。

 研究の対象者は広島大学付属病院で2016年4月~2021年8月に健診を受けた高血圧患者462人です。受診者にはコーヒーをどれほど飲むかを尋ね、その量と血管のしなやかさが測定され関係が算出されました。

 結論を言えば、「コーヒー摂取量が多いほど血管がしなやかになる」という結果が出たのですが、もう少し詳しく解説しましょう。本研究では血管のしなやかさを2つの指標で調べています。

 1つは「血流再開時に血管がどれくらい拡張するか」です。血圧を測るときには駆血帯を上腕に巻いて強くしばり、いったん血液の流れを止めます。解放したときに血管が拡張します。このときの拡張の度合いを「血流再開による血管拡張反応(flow-mediated vasodilation)」と呼びます。

 もう1つの指標は、ニトログリセリン(血管を拡張させることができる薬品)を投与したときにどれだけ血管が拡張するかで、これを「ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation)」と呼びます。

 「血流再開による血管拡張反応」の成績が悪い(血流を再開しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは45%低下することが分りました。

 「ニトログリセリン投与による血管拡張反応」では、成績が悪い(ニトログリセリンを投与しても血管が拡張しにくい)下位3分の1のグループに、コーヒーを毎日摂取している人が含まれるリスクは50%低下することが分りました。

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 コーヒー好きには朗報ですが、飲めば飲むほど血管がしなやかになるとは言えないでしょう。効果のある上限(何杯までが有効か)が気になるところですが、この研究からは分かりません。

 また、当然のことながら、コーヒーに期待しすぎるのは禁物です。昔からはっきりしているのは「血管のしなやかさを保つのに最も大切なのは運動」という事実です。 

参考:医療ニュース
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
2018年11月30日 コーヒーで酒さ予防
2018年4月5日 コーヒーの発がん性をLA高等裁判所が認定
2016年12月9日 コーヒー1日3杯以上で脳腫瘍のリスクが低下
2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下
2015年12月26日 コーヒーを飲んで長生き、自殺も予防!

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2022年8月28日 日曜日

2022年8月28日 「10秒間の片足立ち」ができなければ死亡リスク増

 大変分かりやすくて興味深い論文を一流誌から見つけましたので報告しておきます。医学誌「British Journal of Sports Medicine」2022年6月21日号に掲載された「10秒間の片足立ちができるかどうかが中高年の生存リスクを予測する(Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals)」です。

 この研究の対象はブラジル人です。2009年2月10日~2020年12月10日に医療機関を受診した51~75歳の合計1,702人(平均年齢61.7歳、男性67.9%)を調査しました。「10秒間片足立ち」ができなかった割合は次の通りです。

全体       20.4%
51~55歳      4.7%
56~60歳      8.1%
61~65歳    17.8%
66~70歳       36.8%
71~75歳       53.6%     

 全体として7年間(中央値)を追跡した結果、合計123人が死亡しました。内訳は、がん、心血管疾患、呼吸疾患、新型コロナウイルス関連が、それぞれ、32%、30%、9%、7%でした。

 死亡率をみてみると、「10秒間片足立ち」が「できたグループ」の死亡率が4.6%なのに対し、「できなかったグループ」では17.5%と大きく差がつきました。

 両グループの既往(持病)は次のようになります。

      できたグループ   できなかったグループ
肥満      22.6%        40.2%
冠動脈疾患   30.0%        40.5%
高血圧     43.5%        65.3%
脂質異常症   52.7%        63.0%
糖尿病     12.6%        37.9%

 年齢、性、BMI、どのような病気を持っているかを調整した後の解析結果は、「できなかったグループ」は「できたグループ」に比べて「10年以内の全死亡リスクは84%高い」と推定されました。

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 この研究からは少なくとも次の3つのことは言えそうです。

・加齢と共に「10秒間片足立ち」ができなくなっていく

・「10秒間片足立ち」ができない人は生活習慣病を持っていることが多い

・生活習慣病があっても「10秒間片足立ち」ができれば死亡リスクは低くなる

 ということは、日ごろから生活習慣病の予防に努めるとともに、日々「10秒間片足立ち」をおこないリスクの確認と(片足立ちすることによる)ワークアウト(筋トレ)をすべきだ、という結論が導かれます。

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2022年8月18日 木曜日

2022年8月18日 国税庁が若者にアルコール飲料を勧める日本

 医学的というよりも社会的な話になります。

 「Enjoy SAKE! プロジェクト」というイベントをご存知でしょうか。これは、日本産のアルコール飲料の販路拡大及び消費喚起に向けた事業であり、企画しているのは国税庁です。なぜ国税庁がこのような事業を立てるのか不思議な感じがしますが、おそらく税収を上げるためにアルコール飲料を売り込もうという考えなのでしょう。

 国税庁は他にも「サケビバ!」というビジネスコンテストを実施しています。同庁によると、日本産酒類の発展・振興を考えるコンテストだそうで、応募資格者は20歳以上39歳以下の個人またはそのグループとされています。

 税収が増えるのは国にとっていいことなのでしょうが、国税庁が飲酒を促すこういう企画に違和感を覚えないでしょうか。世界ではアルコールは”悪”とみなされ、飲酒しない人がスマートな人とみなされる傾向にあります。

 例えば、New York Timesは(ちょっと古いですが)2019年6月15日に「新しい「シラフ」~今や、みんながシラフ。ちょっとだけ飲む人もシラフ~(The New Sobriety ~Everyone’s sober now. Even if … they drink a little?~)」というタイトルの記事を載せ、記者は「シラフでいても取り残される心配はなく、かっこ悪いと思う必要はない(No longer do you have to feel left out or uncool for being sober.)」と述べています。

 医学的にみれば、たしかに飲酒は適度であれば生活習慣病のリスクを軽減するとされています。しかし、過去の記事で紹介したように「飲酒は少量でも認知症のリスクを高める」とする研究がありますし、そもそもアルコールは依存性がとても強い物質です。

 あなたの周り(やその知人)にも「アルコールで人生を台無しにした人」がいるのではないでしょうか。実際、アルコール依存症になると治療するのは極めて大変です。アルコールの危険性は周知の事実であり、それを知っているからこそ大麻愛好家はもちろん、他の違法薬物を摂取している人たちのなかにも「自分は依存性の強いアルコールはやらない」などとうそぶく人もいます。

 ゆえに、アルコールの危険性を知っている医療者からすれば国税庁のこういった試みはたいへん滑稽に見えます。日本のメディアはそういったことを報じませんが、世界のメディアは放っておかないようです。

 英紙Financial Timesは2022年8月18日「日本の最新のアルコールに関する助言は『もっと飲んでください』(Japan’s latest alcohol advice: please drink more)」という記事を掲載しました。

 同記事では、日本人の飲酒量が減っていることを指摘し、上述した国税庁の企画を紹介しています。同記事によると、日本の成人1人当たりの年間平均飲酒量は、1995年が100リットルだったのに対し、2020年には75リットルにまで減少しています。WHOによると、2018年の日本人の1人あたりの年間飲酒量 (純粋なアルコールに換算した量)は8リットルです。中国は7.2リットル、英国は11.4リットルです。

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 飲酒量が増えて税収が増えるのはそれだけを考えると歓迎すべきことかもしれません。ですが、アルコール依存症となる人が増えれば、生産性が低下し消費が減ります。また、依存症の治療には税金が費やされます。依存症が進行すれば、家庭が崩壊し人間関係が破綻します。自殺者も増えます。

 国税庁はきっと「適量なら大丈夫」というのでしょう。厚労大臣の見解を聞いてみたいところです。

参考:医療ニュース
2017年6月26日「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」

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2022年7月28日 木曜日

2022年7月28日 1日43分の早歩きで認知症の「リスク」が3割低下

 いい薬があるとは言えず、確実な予防法があるわけでもないのが認知症です。運動は有効とする意見は昔からありますが、過去のコラム「認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」で紹介したように、認知症になった人に運動をしてもらっても進行を遅らせることができないという研究があります。

 今回紹介するのは「明るい話題」です。「中等度の強さの運動は認知症を発症するリスクを27%下げる」が結論です。

 医学誌「Journal of Alzheimer’s disease」2022年4月号に掲載された論文「日本人高齢者の身体活動強度と認知症:8年間の縦断研究に基づいた用量反応分析(Physical Activity Intensity and Suspected Dementia in Older Japanese Adults: A Dose-Response Analysis Based on an 8-Year Longitudinal Study)」を紹介します。

 研究の対象者は3,722人の日本人の高齢者。8年間の追跡期間中に「認知症の疑い(suspected dementia)」と診断されたのが全体の12.7%でした。「中等度の強さの運動」を週あたり300分以上続けていた高齢者は、そうでない高齢者と比べると、「認知症の疑い」と診断されるリスクが27%減少していました。

 「中等度の強さの運動」の実施時間と「認知症の疑い」のリスク減少は直線的な関係となりました。つまり、「運動をすればするほどその分だけ認知症のリスクが下がる」となります。

 興味深いことに、「強度の強さの運動」と「認知症の疑い」には有意な関係はありませんでした。

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 結論としては、「中等度の強さの運動を週に300分しましょう」、ということになるわけですが、「中等度」と言われてどのようなことをすべきか分かるでしょうか。東京都健康長寿医療センター研究所のウェブサイトに分かりやすい説明があるので、それをここでさらに簡単にまとめて紹介したいと思います。

 中強度(中等度の強さ)の運動とは、安静時(椅子に座ってじっとしている状態)の3.0~5.9倍の強度を指します。普通歩行なら3.0倍、速い速歩きは5.0倍の強度に相当します。

 高強度(高度の強さ)の運動とは、安静時の6.0倍以上の強度を指します。ゆっくりとしたジョギングがちょうど安静時の6.0倍に相当します。山登りは6.5倍、ランニングは8.3-9.8倍、水泳なら10.0倍です。

 今回紹介した論文の結論は「中等度の強さの運動を週に300分」ですから、「1日43分の早歩きかゆっくりのジョギングを毎日しましょう」ということになります。

参考:
医療ニュース2021年1月29日 1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消
はやりの病気第215回(2021年7月) アルツハイマー病の新薬が期待できない理由

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2022年7月3日 日曜日

2022年7月4日 東アフリカでは2千万人が飢餓

 「医療ニュース」のほとんどは、医学誌に掲載された新しい論文を紹介することが多いのですが、今回は一般紙の社会ニュースに掲載された記事を取り上げたいと思います。

 結論からいえば、現在世界は大変なことになっていて「救える命が救えない」状態です。

 「The New York Times」2022年6月12日に掲載された記事「『あの子を埋葬し、歩き続ける』餓死するソマリアの子供たち(’We Buried Him and Kept Walking’: Children Die as Somalis Flee Hunger)https://www.nytimes.com/2022/06/11/world/africa/somalia-drought-hunger.html」によると、現在東アフリカでは干ばつが進んでいて、その結果、食料が不足し、2022年末までにケニア、エチオピア、ソマリアの三国で最大2千万人が飢餓に苦しむと試算されています。

 記事によれば、ソマリアの人口は推定1600万人で、そのうち約700万人が深刻な食料不足に直面しています。ユニセフの報告によれば、2022年に入ってから少なくとも448人の子供が重度の栄養失調で亡くなっています。

 なぜこの地域では食料が不足しているのか。最大の原因は干ばつです。調査機関によれば、ソマリアでは2021年の中盤からすでに300万頭の家畜が死んでいます。ソマリアは、度々干ばつの被害に苦しんでいます。2011年には干ばつによる死亡者数がなんと26万人にも上りました。そして、今回の干ばつは来年(2023年)まで続く見通しです。

 尚、欧州紙「Euronews」に2022年6月14日に掲載された記事「サイレントキラー:熱波に備えれば毎年数千人の命を救うことができると赤十字が警告(’Silent killers’: Preparing for heatwaves could save thousands of lives every year, warns Red Cross )」によると、毎年世界では48万人もが熱波が原因で死亡しているそうです。

 さらに、食料不足の要因は干ばつだけではありません。ウクライナ戦争が影響を及ぼしているのです。つまり、ウクライナやロシアから小麦が輸入できなくなったことで食力不足に拍車がかかっているのです。

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 食品ロスが社会問題となっているこの国で暮らす者としてはどう考えればいいのでしょうか。

 さらに、我が国の医療費について考えてみましょう。

 脊髄性筋委縮症の治療薬ゾルゲンスマ(注射薬)は1本1億6707万7222円です。以前に比べると随分安くなったとはいえ、がんの治療薬のオプジーボは1人あたり年間1千万円以上します。

 ちなみに、ソマリアの一人当たりのGDPは1,815ドル(約20万円)です。

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2022年6月30日 木曜日

2022年6月30日 乳製品の摂り過ぎは前立腺がんのリスクか

 「乳製品は前立腺がんと乳がんのリスクを上げるのではないか」という問題は以前から議論になっていました。最近、「乳製品は前立腺がんのリスクを上げる」という報告が出ましたので報告します。

 医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」2022年6月8日号に掲載された論文「『Adventist Health Study-2』における乳製品、カルシウム摂取量、および前立腺がんの発症リスク(Dairy foods, calcium intakes, and risk of incident prostate cancer in Adventist Health Study-2 )」の紹介です。

 研究の対象者は、米国とカナダのセブンスデー・アドベンティスト教会の男性信者28,737人で、平均7.8年間の追跡調査期間中に合計1,254人が前立腺がんを発症しました。うち190人は進行がんでした。

 乳製品の摂取量が上位1割の男性は下位1割に比べると、前立腺がんのリスクが27%上昇していました。上位1割の男性は、乳製品をまったく摂らないグループと比べると62%も上昇していました。

 発がんの原因が乳製品に含まれるカルシウムにあるのか、とった点も検討されています。乳製品以外でのカルシウム摂取量が少ないグループと多いグループの間で発がんリスクの差は認められませんでした。ということは、乳製品が前立腺がんのリスクを高めるのは、乳製品に含まれるカルシウム以外の成分が原因ということになります。

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 研究の対象となったセブンスデー・アドベンティスト教会は、過去のコラム「メディカルエッセイ第126回(2013年7月)我々はベジタリアンの道を進むべきか」でも紹介しました。同協会では菜食主義が勧められており、信者にはビーガン(肉魚だけでなく、卵も乳製品も一切摂らない菜食主義者)も少なくありません。

 この論文を読めば、「乳製品を止めようかな……」と思う人もいるかもしれませんが、そう思い込むのは早そうです。論文で紹介されている乳製品摂取上位1割は1日あたりの摂取量が430グラムにもなります。一方、国立健康・栄養研究所によると、日本人男性の乳製品摂取量の平均は166.1グラムと4割以下です。

 乳製品はカルシウムを効率よく摂ることができるだけではありません。蛋白質も効率よく摂取できる貴重な食品です。よって、極端に摂りすぎなければむしろ健康及び長生きに寄与する食品と考えるべきです。

 ところで、乳製品は乳がんのリスクになるという説もありますが、現在ではほぼ否定されています。日本乳癌学会は、乳製品摂取はむしろ乳がんのリスク低下になるとしています。

 尚、前立腺がんは男性にしか起こりませんが(女性は持っていないのですから)、乳がんは女性だけでなく男性にも起こります(男性にも乳房はありますから)。乳がんのリスクが喫煙、アルコール、糖尿病であることをここで確認しておきましょう。

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2022年6月12日 日曜日

2022年6月12日 「16時間断食ダイエット」に効果なし

 数年前から世界的に「16時間断食ダイエット」が流行しています。これは、24時間のうち連続16時間は何も食べないようにすれば体重が減っていくという夢のようなダイエット法です。例えば、午後8時から翌日の正午までの16時間何も食べなければ正午から午後8時には無制限に何を食べても減量できるというのです。8時間の間は好きなものをいくら食べてもいいというのですから試さない手はないと考えた人も多いのではないでしょうか。

 しかし、結論から言えばこのダイエットはどうも有効ではないようです。

 医学誌「The New England Journal of Medicine」2022年4月21日号に「カロリー制限をしたときに時間制限を併用するときとしないとき(Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss)」という論文が掲載されました。
 
 研究の対象者は139人で、ランダムに2つのグループに分けられました。一方は、カロリー制限に加え時間制限(食事をしていいのは午前8時から午後4時まで)もおこない、もう一方はカロリー制限のみをしました。

 結果、時間制限を加えたグループでは平均8㎏、カロリー制限単独のグリープでは6.3kgの体重減少が認められました。8㎏と6.3kgですから、時間制限に効果があったのかと思えますが、統計学的には有意差と呼べる差ではありませんでした。

 また、腹囲や体脂肪、血圧などにも差異はありませんでした。

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 残念な結果ですが、現実は現実として受け止めるほかありません。ただ、まったく無効というわけではないと思います。太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、このダイエット法を実践している人のほとんどはある程度は効果が出ています。

 その理由はおそらく「寝る前に食事(やお菓子)を摂らなくなったから」、という単純なからくりではないかと思われます。

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2022年5月26日 木曜日

2022年5月26日 胃腸の病気と片頭痛の関係

 総合診療を実践する太融寺町谷口医院では2007年の開院当初から「健康上のことで困ったことがあれば何でも相談してください」と言い続けています。そのため、一人の患者さんがいくつもの症状の悩みを話されます。アトピーと花粉症と喘息というのは最も多いパターンのひとつですが、これは「共通のアレルゲンが複数の症状をもたらす」わけですから当然と言えば当然です。また、不眠と頭痛、抑うつ感と下痢、なども精神症状が持病を悪化させることはよくあるわけでこれも当然です。

 ですが、じんましんと倦怠感、とか、関節痛と便秘、となると関連があるのかないかがすぐには判断できません。そのようなよくある組み合わせの一つに「頭痛と下痢」というものがあります。そして、これはどうやら関係がありそうです。

 医学誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」2022年3月28日号に「胃腸疾患と片頭痛との関連(Association between Gastrointestinal Diseases and Migraine)」という興味深い論文が掲載されました。結論から言えば、「胃腸疾患と片頭痛には関連がある」ということを韓国のこの研究は示しています。

 研究は、通称「HIRA」と呼ばれている「健康保険審査評価サービス(Health Insurance Review & Assessment Service)」のデータが用いられています。韓国の保険制度は日本と同様、国民皆保険、つまり韓国民の(ほぼ)全員が加入しています。つまり、このデータベースにアクセスすれば、すべての国民の健康状態が把握できるというわけです。

 このデータベースから、片頭痛または胃腸疾患の診断が年に2回以上認められた患者781,115例が解析の対象とされました。胃腸疾患は、消化性潰瘍、消化不良、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、胃食道疾患が選ばれました。

 解析の結果、1つ以上の胃腸疾患があれば片頭痛の発症が約3.5倍高くなることが分かりました。さらに胃腸疾患の数が増えるほど、片頭痛の発症率が高くなることも分かりました。

 反対の視点からみると、片頭痛の予防薬及び急性期の治療薬(鎮痛剤)の双方を使用していると、予防薬か急性期の治療薬のどちらかだけを使用している場合よりも胃腸疾患に罹患していることが多いことも分かりました。

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 補足しておくと、片頭痛の予防薬と急性期の治療薬の双方を使用しているということは、それだけコントロール不良、つまり重症の片頭痛ということです。

 重症の片頭痛があれば重症の胃腸疾患がある、という現象は珍しくありません。おそらく、自律神経系の不調がベースにあるのでしょう。片頭痛も胃炎も過敏性腸症候群もストレスだけでは発症しませんが、ストレスが増悪因子になるのは確実です。

 谷口医院が開院して今年で16年目です。次第に、複数の症状を訴える人が増えてきています。というより、谷口医院を長年かかりつけ医にしている人はたいていは複数の症状・疾患の相談をされます。

 やはり、人間を診るのはトータルでなければならないのでしょう。総合診療はこれからさらに普及することを私は確信しています。

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2022年5月15日 日曜日

2022年5月16日 寝室が明るいと血糖値と心拍数が上昇する

 睡眠が健康に重要なのは疑いようがなく、少しでもいい睡眠が取れるようにできることは何でもしたいと考える人が大勢います。過去の医療ニュース「2021年2月28日 睡眠環境の見直しで人生が変わる」では緑の多い地域に住めばいい睡眠がとれるという研究を紹介しました。

 緑の多い地域に引っ越すのは大変ですが、今回紹介する方法は誰もが本日から実践できます。医学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」2022年3月14日号に「睡眠中に光に当たると心臓の機能が損なわれる(Light exposure during sleep impairs cardiometabolic function)」という論文が掲載されました。

 論文の結論は「照明を付けたまま睡眠をとると、インスリン抵抗性が亢進し(つまり血糖値が高くなり)、心拍数が高くなり、心拍変動が低下する(緊張状態が続く)」です。
 研究の対象者は20人の健康な若年成人で2晩施設に泊まってもらっています。10人ずつ2つのグループに分け、第1グループは2晩連続で3ルクスの暗い部屋で眠ってもらい、第2グループは最初の晩は第1グループと同様3ルクスの部屋で、翌晩は100ルクスの明るい部屋で眠ってもらい、その差が比較検討されました。

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 この研究が物語っているのは、人間は暗いところでリラックスできる(緊張状態が緩和され交感神経が落ち着く)ということです。就寝時には電気を消す(暗くする)べきなのは当然です。

 私は個人的には朝早く起きることを推奨していますが、谷口医院の患者さんのなかには「夜型人間(night person)」もいます。職業でいえば、作家や芸術家の人たちです。こういう人は自分のペースを維持すればいいと思いますが、日中の就寝時に暗くする工夫を促したいと思います。

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2022年4月30日 土曜日

2022年4月30日 適切な睡眠時間で心房細動を予防

 心房細動というのは年齢と共に発症率が上昇する不整脈のひとつで、頻度は比較的高いものです。全年齢では日本人の1~2%ですが、年齢と共に増加し、70代で3%を超え、80代になると1割以上になると言われています。よく、「昔に比べて増えている」と言われるのは、時代と共に何か特別な出来事があったわけではなく、単に平均寿命が延びていることが最大の要因でしょう。

 心臓の病気の代表と呼べる虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)は、生活習慣病の1種と考えられています。ですから、肥満、喫煙、高血圧、糖尿病などがあればリスクは急上昇します。心房細動も、こういったものがリスクになるのですが、何の基礎疾患もない(年齢以外にリスクのない)人でも起こります。長嶋茂雄さんもその一人だと思います。

 心房細動になって最も困ること。それは、心臓の中で血の塊(血栓)ができて、それが脳の血管まで飛んでいき、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を起こすことです。こうなると、よほど治療が迅速かつ的確におこなわれない限りは、多少なりとも後遺症を残します。私を含めて多くの医師は、この説明をする際に長嶋茂雄さんの話をさせてもらっています。

 よって、心房細動が見つかったならまったく何の症状もなかったとしても、脳梗塞を予防するために血栓溶解薬(血をサラサラにする薬)を飲みましょう、となるわけですが、この「決断」は簡単ではありません。なにしろ、そのような薬を飲むということは、今度は血が固まりにくくなるリスクが上昇するわけです。たいていのスポーツは慎まねばなりません。転倒して頭をうてば、それが重篤な脳出血を招くおそれがあります。

 これまで私が診てきた患者さんのなかにも、「現時点では血栓溶解薬は飲まない」という決断をしている人もいます。たしかに、心房細動があれば全員が脳梗塞を発症するわけではなく、そのリスクは年間5%程度と言われています。興味深いのは、「5%もあるのならすぐに(血栓溶解薬を)飲みます」と言う人もいれば、その逆に「その程度ならもう少し様子をみます」と答える人もいることです。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは「長すぎても短すぎてもダメで、適切な睡眠時間(6~8時間)が最も心房細動のリスクが低い」という研究です。この研究は「吹田研究」と呼ばれる、国立循環器病研究センターが実施した大阪府吹田市民を対象とした、主に循環器疾患に関する調査を解析したものです。医学誌「EPMA Journal」2022年2月26日に「予測医療、予防医療、個別化医療の文脈における睡眠時間と心房細動のリスク:吹田研究と前向きコホート研究のメタアナリシス(Sleep duration and atrial fibrillation risk in the context of predictive, preventive, and personalized medicine: the Suita Study and meta-analysis of prospective cohort studies)」というタイトルで掲載されています。

 対象とされたのは吹田研究に参加した30~84歳の、それまでに心房細動を発症したことのない6,898人(男性3,244人、女性3,653人)で、追跡期間中(中央値14.5年)にどれだけの人が心房細動を発症するかが調べられ、さらに、睡眠時間との相関関係が検討されました。対象者は睡眠時間で次のように分類されました。

#1 6時間以下(短時間群)
#2 6~8時間未満(標準群)
#3 8時間以上(長時間群)
#4 不規則(不規則群)
 
 追跡期間中に合計313人(対象者の4.5%)が新たに心房細動を発症しました。#2標準群の6~8時間を基準とすると、#1の短時間群で発症リスクが1.36倍上昇、#4の不規則群では1.62倍上昇していました。#3の長時間群も数字の上ではリスクが上昇していたのですが、有意差は認められていません。

 しかし、年間人口千人あたり何人が心房細動を発症するかを解析すると、#2の標準群では2.53人なのに対し、#1は3.11人、#4は6.70人、#3も3.97人と高くなっています。

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 過去にも述べたように、私自身が睡眠に関してはかなりの期間無関心で(というよりも、むしろショートスリーパーであることを誇りに思っていたほどで)、40歳を超えるまではまともな睡眠をとっておらず、今では後悔しています。

 この社会で生きていく以上、ある程度は睡眠は不規則になりますが、それでも規則的な生活、適度な睡眠時間(6~8時間)が大切であることは忘れてはいけないと自分自身をも戒めています。

医療ニュース
2017年8月31日 長時間労働で心房細動発症のリスクが大幅上昇
2021年11月25日 ω3系脂肪酸は心房細動のリスク
2015年7月31日 運動は心房細動のリスクを上げる?下げる?

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