医療ニュース

2015年1月17日 土曜日

2015年1月16日 イソフラボンが潰瘍性大腸炎のリスクに

  潰瘍性大腸炎という疾患は、厚労省から「難病」に指定されており、年々患者数が増加しています。現在日本では約12万人の罹患者がいると言われています。それほど珍しい疾患ではありませんが、安倍晋三氏が一度目の首相を退陣せざるをえなくなった原因疾患として報道されたときは世間の注目を浴びました。

 潰瘍性大腸炎とは下痢や血便をきたす慢性の大腸の炎症性疾患ですが、原因はいまだにはっきりしていません。自己免疫が関与していると言われていますが、決定的な要因は不明です。しかし、万人が認めるわけではありませんが、女性ホルモンのエストロゲンが潰瘍性大腸炎発症に関与することが指摘されています。(このため、低用量ピルの内服を開始しだして下痢が生じれば一度は疑わなければなりません)

 エストロゲンは更年期障害のホルモン補充療法の薬剤として用いられていますから、女性にとってはときに有用なホルモンということになります。ただし、ホルモン補充療法(つまりエストロゲンの投与)には副作用のリスクもあり、特に乳癌のリスクには充分注意しなければなりません。

 エストロゲンのようなホルモンそのものを内服することには抵抗があるけれど、もっと安全なかたちでなら摂取したい、と考える人たちの間では大豆などに含まれる「イソフラボン」が人気です。イソフラボンは分子レベルでの構造がエストロゲンと似ているため、エストロゲンと同じような効果が期待でき、しかも安全性も高いのではないかと期待されていたのです。しかし、イソフラボンのサプリメントには有効とするデータはほとんどなく、摂取するなら大豆などを積極的に食べることを考えるべきです。(下記「医療ニュース」も参照ください)

 さて、前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは「イソフラボンの摂取で潰瘍性大腸炎のリスクが上昇する」というものです。

 医学誌『PloS one』2014年10月14日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、「日常の食事におけるイソフラボンの摂取が、とくに女性における潰瘍性大腸炎リスクを上昇させる」可能性があるようです。

 研究の対象となったのは、合計126例の潰瘍性大腸炎を新たに発症した症例です。自己記入式質問票を用いて過去の食事内容を検討しています。その結果、潰瘍性大腸炎を発症していない人に比べて、発症した人は日頃の食事からイソフラボンの摂取量が多いことが判ったそうです。

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 潰瘍性大腸炎を発症した人は、イソフラボンのサプリメントでなく、大豆など通常の食事からイソフラボンをたくさん摂っていたということになります。大豆は高タンパクで栄養価に富んだすぐれた食品で、ほとんどの人が積極的に食べるべきです。しかし、積極的に食べると潰瘍性大腸炎のリスクが上昇するなら皮肉なものです。

 ただし、この研究は、エストロゲンがリスクならイソフラボンもリスクになるとしているわけで、理論的には正しいといえるかもしれませんが、症例数がさほど多くないことと、「後ろ向き研究」でありますから、この論文を読んで大豆を控えるのは時期尚早でしょう。(より信憑性が高いのは「前向き研究」といって、発症していない人を数年にわたり追跡して食事と疾患のリスクを調べる研究です)

 どれほど健康にいいとされているものも「ほどほどに」して、バランスよく多くのものを食べるのが重要です。今さら言うことでもありませんが・・・。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Pre-Illness Isoflavone Consumption and Disease Risk of Ulcerative Colitis: A Multicenter Case-Control Study in Japan」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0110270

参照:
はやりの病気第101回(2012年1月20日)「増加する炎症性腸疾患」
医療ニュース2011年9月5日「イソフラボンは骨密度にも更年期にも無効」
医療ニュース2010年2月8日「イソフラボンで肺ガンのリスクが低下」
医療ニュース2008年3月12日「イソフラボンで乳がん減少」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2015年1月9日 金曜日

2015年1月9日 食塩摂取の朝日新聞報道の混乱

  2014年12月8日、朝日新聞は「日本人が1日にとっている食塩量は約13グラムとする推計を厚生労働省研究班がまとめ、英国の専門誌に論文が掲載された」と報道しました(注1)。
 
 日本人の食塩摂取量については厚生労働省が毎年1 2月に発表しています。2013年12月19日に同省の健康局がん対策・健康増進課が公表したデータによりますと、「(2012年の)成人の食塩摂取量の平均値は男性11.3g、女性9.6gであり、前年と比べて、男女とも変わらない」とされています。

 厚労省の表現では「男女とも変わらない」とされていますが、掲載されたグラフをみてみると過去10年間でゆるやかに減少していることが分かります(注2)。朝日新聞の報道は、タイトルに「1日2g多かった」としていますから、減少傾向が一転して増加したということになります。

 ところが、です。朝日新聞の発表の翌日の2014年12月9日に厚労省が「平成25年「国民健康・栄養調査」の結果」をウェブサイト上で公開したのですが(注3)、食塩摂取量については、なんと「(2013年の)成人の1日の食塩摂取量の平均値は、男性11.1g、女性9.4gであり、男女ともに、10年間で減少傾向にある」、としているのです。

 朝日新聞は、厚労省の研究班が「食塩摂取量が増加したことをまとめた」と報道し、厚労省のウェブサイトでは「減少傾向にある」とされています。いったいどちらが正しいのでしょうか・・・。

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 厚労省は朝日新聞の報道に対して公的なコメントはしていないようですが、翌日という発表のタイミングを考えると、朝日新聞に抗議をしているのではないかと勘ぐりたくなります。

 その後朝日新聞は(私の知る限り)この件になんのコメントも発しておらず、また「英国の専門誌」がなんと言う専門誌なのかについても発表していません。

 閑話休題。私は報道のあり方や政治的な駆け引きをここで言いたいわけではありません。世界的には食塩摂取の基準は5~6グラムですし、国によっては3グラムを目標としているところもあります。それに比べて日本は11グラムでも13グラムでも高値であることには変わりません。

 ですからみなさん、がんばって塩分を減らしましょう・・・、となるわけですが、事は簡単ではありません。和食中心の食生活では極めて困難なのです。私はこれまで何人もの栄養士に効果的な減塩レシピについて尋ねていますが、カロリーを減らすこと、野菜を摂る工夫、効果的な糖質制限、などについては熱弁をふるってくれますが、1日6グラム以下の食塩となると自信を持って答えてくれた人はいません。

『食塩1日6グラム未満でも美味しいレシピ』というタイトルで分かりやすい本を書いてくれる人が現れないでしょうか・・・(注4)。

注1:この記事のタイトルは「日本人の食塩摂取、1日2g多かった 尿測定で13g」で、下記URLで閲覧することができます。
http://www.asahi.com/articles/ASGD35SKCGD3ULBJ011.html

注2:この発表は下記URLで閲覧することができます。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000032813.pdf

注3:この発表は下記URLで閲覧することができます。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000068070.pdf

注4:分かりやすい本は見たことがありませんが、「塩を減らそうプロジェクト」というウェブサイトは有用だと思います。下記URLをご参照ください。
http://www.shio-herasou.com/

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2014年12月27日 土曜日

2014年12月17日 認知症に効くサプリメント

 サプリメントというのは以前考えられていたほど有用なものではなく、有効であることを示した研究はほとんどなく、逆に有害性の報告は少なくないために、摂取するメリットはほとんどないですよ、ということを私はよく患者さんに伝えています。私自身もサプリメントの摂取は10年以上前にやめています。

 ただし私は、気に入って飲んでいるという人に対して「やめましょう」とまでは言いませんし、もしも有効であるとされる研究が出てくれば検討したいと考えています。

大豆レシチンから生成されたホスファチジルセリンとホスファチジン酸を配合したサプリメントが、高齢者の記憶・気分・認知機能を改善し、アルツハイマー病の症状改善にも有効である・・・

 医学誌『Advances in Therapy』2014年11月21日号(オンライン版)にこのようなことを主張する論文(注1)が掲載されました。サプリメントを摂取したグループとしていないグループ(対照グループ)にわけて3ヶ月間の調査がおこなわれています。研究結果をまとめると以下のようになります。

・サプリメントを摂取したグループ(31人)は対照グループ(26人)に比べると、記憶力が改善し冬季うつ病の症状が改善した。

・アルツハイマー病の患者でサプリメントを摂取したグループ(53人)は日常生活機能が維持されたのに対し、対照グループ(39人)では生活機能が低下した。

・サプリメント摂取グループでは、日常生活機能が安定していたのは90.6%で、悪化したのが3.8%。一方、対照グループでは、安定が79.5%で悪化が17.9%。

・サプリメント摂取グループで全身状態の改善を自覚したのは49%で、対照グループでは26.3%。

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 論文の著者は、このサプリメントで、「気分や認知機能が改善しアルツハイマー病の症状改善にも有効」としていますが、調査の規模がそれほど大きくなく、調査期間も短いために、これを普遍的なものと捉えるのは時期尚早と思われます。

 しかし、有害性の報告もないようですから、度を超さない程度にこのホスファチジルセリンとホスファチジン酸のサプリメントを日常摂取することには問題ないと思います。ただし、サプリメントではなく大豆をいろんな料理から積極的に摂取する方がはるかに安全で美味しいのは間違いありません。これは大豆由来のイソフラボンについても同様です。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Positive Effects of Soy Lecithin-Derived Phosphatidylserine plus Phosphatidic Acid on Memory, Cognition, Daily Functioning, andMood in Elderly Patients with Alzheimer’s Disease and Dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12325-014-0165-1#page-1

参考:医療ニュース
2011年9月5日「イソフラボンは骨密度にも更年期にも無効」
2010年2月8日「イソフラボンで肺ガンのリスクが低下」
2008年3月12日「イソフラボンで乳がん減少」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2014年12月26日 金曜日

2014年12月26日 夜勤は肥満のリスク

「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことの重要性はこのサイトで何度か述べていますし、日々太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診される患者さんにも伝えています。

「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことがなぜ重要かというと、まず生活習慣病の予防になります。規則正しい生活をするだけで血糖値やコレステロールの値が改善していく人は少なくありません。また、片頭痛が劇的に改善する人もいますし、うつ病は早起きして早寝するということを実践するだけで改善する人も少なくありません。

 ただ、世の中には「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ことをしたくてもできない人もいます。それはシフト勤務の人です。谷口医院には片頭痛の患者さんが少なくありませんが、治療に難渋する代表的な職業が2つあります。それは(病院勤務の)看護師と客室乗務員です。この2つの職業はどうしても夜勤(や時差)を避けるわけにはいかず、片頭痛のコントロールがむつかしいのです。

「早寝早起き」という言葉は、私は小学生には用いますが、成人に対しては「早起き早寝」という表現を使います。成人の「早寝」は簡単でない場合があり、寝ようと思うと余計にプレッシャーになって眠れないということがよくあります。そこで、私は「まず早起きしましょう。前の晩眠れなかったとしても無理矢理にでも起きてみてください」とよく言います。その日1日は睡眠不足になりますが、そのおかげでその晩は早寝ができます。そして次の日も多少無理してでも早起きするのです。

 前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは「夜勤をすると代謝が遅くなる」、つまり「夜勤は肥満の元」であることを示した論文です。

 医学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』2014年11月17日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究者らはボランティア14人に6日間研究所で暮らしてもらっています。最初の2日間は正常なスケジュール(朝起床夜就寝)で過ごしてもらい、その後、夜勤スケジュールに変更し、夜間に起きて日中に眠ってもらっています。食事は厳格に管理し毎日同じカロリーを摂取してもらっています。

 その結果、夜勤スケジュールの日は消費カロリーが平均で3%低下したそうです。

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 この研究は、被験者が少なく、調査期間が短いようですが、おそらく「シフト勤務が肥満を招く」というのは私が患者さんを診ている経験からいって間違いないと思います。

 ただし夜勤シフトのある職場で働いている人が「太りたくないから夜勤のシフトから外してください」とは言えないでしょう。それに、看護師や客室乗務員だけでなく夜に働いてくれる人がいなければ社会は回らないわけで、誰かがやらねばなりません。

 今やるべきことは、夜勤がどれだけ健康に害を与えるかという研究を広げ、ひとりあたりの夜勤の量を最小限にして、夜勤勤務者は日頃健康のことでどのようなことに注意すべきかについての指導を受ける、といったことだと思います。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Impact of circadian misalignment on energy metabolism during simulated nightshift work.」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.pnas.org/content/111/48/17302.abstract?sid=4c4f3230-a9ae-4ffc-926a-535c2eac38ba

参考:メディカルエッセイ第128回(2013年8月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」

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2014年12月25日 木曜日

2014年12月25日 「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!

 食物アレルギーの患者数がここ10年ほどで大幅に増加しているのは間違いありません。2010年頃から注目されだした「茶のしずく石鹸」を使用したことにより発症した小麦アレルギーの被害者は2,100人以上に及びました。2012年12月には東京都調布市の市立小学校で小学5年生の女子生徒がチジミを食べてアナフィラキシー(食物アレルギーの最重症型)を発症し死亡するという痛ましい事故が起こりました。これらはマスコミでも大きくとりあげられました。

 原因のはっきりしない蕁麻疹(じんましん)や湿疹が生じると、その原因が食べ物のアレルギーなのではないか、と考える人は少なくなく、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にもよく受診されます。食物アレルギーを患う患者さんが増えているのは紛れもない事実であり、重症化すると死亡することもあると聞けば、不安になるのも無理はありません。

 谷口医院でも何らかの食物アレルギーの診断がつく患者さんは少なくありません。ただし、食物アレルギーの診断はそう簡単にできるものではありません。血液検査で食物アレルギーの有無が簡単に分かる、と考えている人が多いのですが、これは正しくありません。

 食物アレルギーの診断に最も有用なのは、血液検査ではなく「食物負荷試験」です。これは実際にその食べ物を少量食べてもらい症状が出現するかどうかを調べる方法で、その食べ物を摂取することで重症化する可能性がありますから通常は入院が必要です。

 次に診断に有用なのは、その症状と食べ物のエピソードを念入りに問診する、という方法です。当然のことながらこれには相当の時間がかかります。症状が出現する前に食べていたものを調味料のレベルまで検索しなければなりません。場合によっては(頻度は少ないですが)半日以上前に食べたものを聞くこともあります。

 血液検査で調べる特異的IgE抗体の信頼度はその次となります。つまり、特異的IgE抗体が陽性というだけでは本当にその食べ物にアレルギーがあるのかどうかは分からないのです。特に小児の場合は、その食べ物を食べられないとなると成長に影響がでる可能性がありますし、アレルギーがある場合は、給食のメニューを変えないといけないですから、給食を供給する人たちや担任の先生は大変なのです。最近は学校関係者の方々の知識が豊富になり「特異的IgE抗体が陽性だけでは診断できないですよ」ということを父兄に教えてくれることもあります。実際、何の問題もなく食べているものも血液検査をすれば陽性になることは特に子どもの場合はよくあります。

 谷口医院では現在小児の食物アレルギーは診察しておらず成人のみを診察・治療しています。成人の場合も、特異的IgE抗体の結果はあくまでも「参考」なのですが、小児と比べれば比較的実情を反映していると言えます。

 アレルギーというのは様々なタイプがあり、そのものに触れて(食べて)すぐに症状が出るものもあれば、「遅延性」と呼ばれる2~3日してから症状が出現するものもあります。金属アレルギーや、マンゴーを食べた2~3日後に口の周りに湿疹が生じるアレルギーはこのタイプです。(これは食べたマンゴーが原因なのではなく口の周りに触れたマンゴーが原因であり食物アレルギーではなく「接触皮膚炎」となります) 一部の薬疹のように、薬を飲み終わってしばらくしてから症状が出現するタイプのアレルギーもあります。

 ただし、食物アレルギーは「即時型」、つまり、食べてから数分~1時間程度で症状が出現します(注1)。食べてから丸1日以上が経過してから発症するような「遅延性」はないと考えられています。

 ところが、です。ここ1~2年の間、谷口医院には次のような患者さんがときどき受診されます。

患者:血液検査でIgG抗体が陽性の遅延型食物アレルギーがあるからコメを食べないように言われて食べていないのですが、これからも食べてはいけないのでしょうか。

医師(私):コメを避けて変化はありましたか?

患者:何もありません。ニキビと下痢と湿疹が治るはずだって聞いたんですけど・・・。

医師(私):検査をしたところでは何と言われたのですか?

患者:IgG抗体が陽性だからとにかくコメを避けるべきと言われたのです。あたしが、前は普通に食べていたし、やめてからも何も変わりません、と言うと、じゃあ少しだけ食べますか、って言われました。あたしが、少しだけってどれだけですか、って質問すると、それは自分で考えてください、と言われました・・・。

 この検査をしたところが医療機関かどうか不明ですし、返答したのはおそらく本物の医師ではないでしょう。しかし、このような患者さんが複数人受診されましたからこのような検査を実施しているところがあるのは事実です。

 そもそもこの「IgG抗体が関与した遅延型食物アレルギー」というのは海外では昔から否定されているものです。日本のアレルギー関連の学会は公式な見解を発表していなかったために、そこを狙って悪徳業者が金儲けのために食物アレルギーに不安を抱く日本人をターゲットにしたのでしょう。

 しかしついに2014年11月19日、日本小児アレルギー学会は、この検査を「推奨しない」と発表しました(注2)。日頃患者さんをみている我々医師からすると、「推奨しない」ではなく「禁止する」くらいに言ってほしかったのですが、学会の立場としては、そこまで強い表現はとれなかったのでしょう。(一般に「ない」ことを証明するのは困難だからです)

 アレルギー関連の学会はいくつもありますが、そのなかで日本小児アレルギー学会という比較的小規模な学会がこのような注意喚起を発表したのは、成人よりも小児で被害が相次いでいるからだと思われます。先に紹介したコメ制限を命じられた患者さんのように、食物のIgG抗体は正常な人でも陽性になることがよくあり、IgE抗体のように「参考」にすらなりません。したがって、このようなものを指標にして食事制限するなどというのは愚の骨頂です。小麦や米、卵といった貴重な栄養をとらなくなり成長障害や栄養不良が起これば、いったい誰が責任を取るのでしょうか。

 報道によりますと、この「遅延型食物アレルギー」のキットは3~5万円もするそうです。当たり前ですが当然保険適用はありません。(もちろん、通常のIgE抗体は保険で検査ができます)

注1:食べた後運動をしたときに発症する食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)は運動をする分だけ時間がかかりますが何時間もたってから発症するわけではありません。下記「はやりの病気」も参照ください。また、食物アレルギーに例外がないわけではなく、私の知る範囲では「納豆アレルギー」が遅発性(「遅延性」ではありません)です。この場合は半日くらいたってから発症することが多いと言われています。納豆アレルギーは大豆の特異的IgE抗体は陰性になります(注3)。他には、牛肉アレルギーも数時間経過してから発症すると言われています。

はやりの病気第94回(2011年6月20日)「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」

注2(2019年12月15日付記):現在このページは削除されています。
付記(2015年3月1日):日本小児アレルギー学会に引き続き日本アレルギー学会も注意喚起を発表しています。下記URLを参照ください。
https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51

注3(2016年9月付記):納豆アレルギーはサーファーに起こりやすいことからクラゲが原因と言われています。詳しくは下記を参照ください。

はやりの病気第157回(2016年9月) 最近増えてる奇妙な食物アレルギー

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2014年12月1日 月曜日

2014年12月1日 薬を飲みやすくする2つの方法

 錠剤、カプセル、粉(細粒剤)、シロップと飲み薬には様々な形態があり、その人によって飲みやすさが異なります。誰もが簡単に飲めるのはシロップか口腔内溶解錠(OD錠)でしょうが、すべての薬でそのような形態が用意されているわけではありません。また、錠剤は日頃は飲めるのだけれど吐き気が強いときには飲めない、という人もいます。

 錠剤やカプセルは飲みにくいという患者さんの声はときどき聞くのですが、あまりきちんとした回答を医療者が準備しているわけではありません。しかし、最近、薬を飲みやすくする研究がおこなわれ発表されたので紹介したいと思います。

 この方法は、医学誌『Annals of Family Medicine』2014年11月12月号(オンライン版)に掲載されています(注1)。紹介されている2つの方法を下記に記します。

 1つめの方法は「ペットボトル法」(pop-bottle method)(注2)と命名された方法です。ペットボトルに水を満タン入れ、空気が入らないようにし、錠剤を舌に乗せて、ペットボトルの口を唇でくわえてそのまま水を飲み込む、という方法です(注3)。

 もう1つの方法は、前屈み法(lean-forward technique)と命名された方法で、カプセルを舌にのせて水を一口含み、顎(あご)を胸に付けるように下を向いてその状態で飲み込むというものです(注4)。

 この研究の対象者はドイツ人の男女151人、うち女性が52.3%、平均年齢は45.8歳(18~85歳)です。対象者の55.6%が錠剤やカプセル剤の服用時に困難さを訴えていたそうです。ペットボトル法(錠剤)を用いた59.7%、前屈み法(カプセル剤)を用いた88.6%が、服用しやすさが改善したと答えたそうです。

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 早速私自身がこの2つの方法を試してみたのですが、残念ながらそれほど飲みやすくなったとは感じられませんでした。しかし私は元々、少々大きめの錠剤でも水なしで唾だけで飲めますから、私の実験では参考にならないと思います。それに適当なカプセルの薬がなかったために前屈み法もカプセルではなく錠剤(整腸剤)で試しましたから、私の実験は実験のレベルとしてはかなり低いものと言えます。(しかし、錠剤とカプセルで2つの方法を使い分ける意味はどこにあるのでしょうか。この論文からはそれが分かりませんでした)

 私は効果を感じられませんでしたが、もしもあなたが日頃錠剤やカプセルを飲みにくいと感じているなら一度試してみてもいいかもしれません。(ただし、頸椎などの疾患で首を前に曲げることを禁じられている人や、嚥下障害のある人は試す前に主治医に相談してください)

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Two Techniques to Make Swallowing Pills Easier」で、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。
http://annfammed.org/content/12/6/550.full.pdf+html

注2:ペットボトル(PET bottle)の「ペット」はポリエチレン・テレフタレート(PolyEthylene Terephthalate)の略ですが、私自身の経験では外国人から「PET bottle」という表現はほとんど聞いたことがありません。日常生活でなら「plastic bottle」で問題ないと思います。私は外国人相手にはそのように言います。この論文で使われている「pop-bottle」という表現は初めて聞きましたが一般的な表現なのでしょうか。ちなみにビニール袋は「plastic bag」と言えば英語を話す人にならまず通じます。(日本人には通じないことがありますが・・)

注3注4:あまり上手とは言えないと思うのですが(失礼!)、論文(注1参照)のなかにイラストがありますので参照してみてください。

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2014年11月29日 土曜日

2014年11月29日 牛乳1日3杯で死亡リスクも骨折リスクも上昇

  牛乳がタンパク質やカルシウムが豊富で栄養価にすぐれた食品であるのは間違いないのですが、以前から危険性を指摘する声があります。特に乳ガンや前立腺ガンのリスクを上昇させるという指摘は年々増えてきています。

 しかし、日本も含めて世界中の多くの医師は骨粗鬆症の予防に牛乳を薦めており、発ガンのリスクを上昇させるという声があるのは事実ですが、取り過ぎなければ健康増進に寄与するものと考えられています。しかし、です・・・。

 1日3杯の牛乳が全死亡リスクを2倍にし、骨折のリスクも上昇させ、さらにストレスを増悪させる・・・。

 このような研究結果が発表され議論を呼んでいます。医学誌『British Medical Journal』2014年10月28日号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。

 この研究の対象者はウェーデン人の女性61,433人、男性45,339人です。女性は平均20.1年間の追跡調査がおこなわれ、その間に15,541人の死亡、17,252人の骨折が確認されています。男性は平均11.2年間の追跡調査がおこなわれ、10,112人の死亡、5,066人の骨折です。

 男女とも牛乳をたくさん飲むほど死亡リスクが上昇するという結果になっていますが、その傾向は女性で顕著なようです。

 牛乳を1日3杯以上(平均680g)飲む女性を1杯未満(平均60g)の女性と比べると、全死因の死亡リスクは1.93倍となったそうです。心筋梗塞など心血管疾患の死亡でみると1.90倍、ガンのリスクは1.44倍とされています。骨折については1.16倍です。

 男性の場合は、1日3杯以上(平均830g)飲むと1杯未満(平均50g)の男性と比べると、全死亡リスクは1.10倍となったようです。

 さらに意外なことに、ストレスの指標とされている尿中8-iso-PGF2αと血清IL-6についても牛乳摂取量が多いほど高い数値となっています。

 興味深いことに、チーズやヨーグルトなどの発酵乳製品については死亡リスクも骨折のリスクも上昇させないという結果がでています。上昇させないどころか、女性では、逆に死亡も骨折もリスクが低くなっています。男性については関連性が認められていません。

 ストレスについては、チーズでは関連性が認められなかったものの、ヨーグルトでは摂取量が多いほどストレスの指標は低下したそうです。

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 以上をまとめると、

・牛乳はほどほどにしましょう
・乳製品を摂るのなら牛乳ではなくチーズやヨーグルトにしましょう
・ヨーグルト接種でストレス軽減ができるかもしれません

となるかと思います。

 この研究は対象者の多い大規模研究ですから、それなりに信憑性が高いといえるでしょう。しかし、牛乳が栄養学的に優れているのもまた事実であり、いきなり牛乳をやめることは薦められません。

 この論文をよく読んでみると、ハイリスクとされている「1日3杯以上」が女性で680g、男性が830gとされています。日本人の成人で毎日これだけ牛乳を飲んでいる人がどれだけいるでしょうか。牛乳を積極的に飲むべき小児や10代でも毎日これだけ飲んでいる人はそう多くないでしょう。

 私自身の意見としては、他の健康に良いとされている食品と同様に、牛乳も度を超えない程度に摂取する分にはいいかと思います。研究結果を踏まえるとヨーグルトの方がいいかもしれません。ただし、日本のヨーグルト製品はたいてい糖が加えられていますから糖分の摂り過ぎに注意しなければなりません。また、チーズについては、元々塩分摂取量の多い日本人は摂り過ぎに注意する必要があるでしょう。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g6015.full?sid=5d26e743-217d-4798-b31f-391359110b2d

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2014年11月28日 金曜日

2014年11月28日 腰痛もちはギャンブル好き!?

  脳の研究というのは非常に魅惑的な領域であり、大昔から多くの学者が学者生命をかけて脳機能の究明に取り組んできました。これまで多くの説が提唱され、いくつかは治療にも応用されるようになってきています。しかし、脳には依然未知のことも多く、すべてが解明できているわけではありません。

 そんな脳の研究のなかで「側坐核」と呼ばれる部位がここ数年でクローズアップされてきています。側坐核とは脳の「前脳」と呼ばれる領域に位置しており、報酬、快感、嗜癖などに関与しているのではないかと言われています。

 快感や嗜癖はいいとして、「報酬」という言葉は分かりにくいかもしれませんので補足しておきます。ここでいう「報酬」とは端的にいえばギャンブルのことと考えて差し支えありません。「報酬」への欲求が強くなりすぎると、その人にとって魅力的なもの(お金)を獲得するために大きなリスクをとってしまうのです。

 今回紹介したい研究は「慢性の腰痛があれば、ギャンブルに依存してしまうかもしれない」というものです。医学誌『BMC Research Notes』2014年10月20日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究者らはまず側坐核について研究をおこないました。側坐核が身体のどの部分と関連しているかについて調べると、慢性腰痛がある人では側坐核の機能が変化していることが分かったそうです。

 そこで研究者らは、慢性腰痛があるグループと、健康で腰痛のない対照グループを比較しました。ギャンブルを実践してもらい、fMRI(機能的MRI、通常のMRIに加え脳の血流を評価することができる検査)を用いて側坐核の状態を解析し、報酬行動との関連性を比較検討しています。

 その結果、慢性腰痛があるグループでは、報酬獲得への感受性が有意に高い、つまりギャンブルにのめりこみやすいことが分かったそうです。

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 この研究が興味深いのは、ギャンブル依存という精神的な病態と腰痛という身体的な病態が側坐核という共通項で関連づけられているということです。

 もちろん腰痛には様々な要因があり、例えば腰椎椎間板ヘルニアによる腰痛の人がギャンブル好きとはいえないでしょう。しかしながら、画像検査をいくらおこなっても原因のよく分からない腰痛は非常に多く、最近では腰痛のほとんどが精神的な要因であろう、という考えもでてきています。もしかすると、こういう腰痛もちの人のいくらかは側坐核に問題があるのかもしれません。

 この研究を臨床に応用するのは時期尚早です。先に側坐核に問題があり、その結果としてギャンブル依存や腰痛が生じるのか、腰痛が先にあり側坐核に影響を及ぼしその結果ギャンブル依存になっていくのか、あるいは元々ギャンブル依存があると側坐核が機能的に変性しその結果腰痛が生じるのか、そのあたりは分かりません。

 ですが、重度のギャンブル依存の人がもし腰痛があるなら、先に腰痛の治療を試みるのは価値があるかもしれません。あるいはその逆に、原因不明の難治性の腰痛があるという人でギャンブル依存症があるなら、自助会や患者会などを利用して、ギャンブル依存の克服に努めるのはやってみてもいいかもしれません。

(谷口恭)

注1:この研究のタイトルは「Risky monetary behavior in chronic back pain is associated with altered modular connectivity of the nucleus accumbens」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.biomedcentral.com/1756-0500/7/739

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2014年11月8日 土曜日

2014年11月8日 グレープフルーツでダイエット

  すでに糖尿病がある人や、その予備群の人、あるいは血糖値は正常だけれどもダイエットをしているという患者さんから言われる言葉に「果物は糖分が多いので食べないようにしています」というものがあります。

 また、医療従事者の中にも、果物の摂取が血糖コントロールに悪影響を与えることを懸念する声もあります。

 しかし、果物の制限は不要という意見もありこれを実証した研究があります。医学誌『Nutrition Journal』2013年3月5日号(オンライン版)(注1)に掲載された論文によりますと、肥満があり糖尿病の診断がついている患者に対して、果物摂取を制限しても血糖値や体重減少がみられることはないようです。

 この論文が正しいとすると、肥満があっても糖尿病があっても好きな果物をやめる必要はない、ということになるわけですが、さらに「グレープフルーツで血糖値改善+体重減少」という論文が出ましたので紹介したいと思います。

 医学誌『PLOS one』2014年10月8日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)でマウスにグレープフルーツを与えた実験が紹介されています。実験では12匹のマウスを2つのグループに分け、双方に高脂肪食を与えながら、一方のグループにはグレープフルーツジュースを、もう一方のグループには水を飲ませています。

 100日後、グレープフルーツを与えたグループのマウスは、水のグループに比べ体重増加は18%低く、血糖値も13%低かったそうです。

 研究者は、グレープフルーツに含まれるnaringin(ナリンギン)と呼ばれる成分に血糖値を下げる効果があることを確認したそうです。

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 この研究はマウスを対象としたものでヒトでも同様の効果が得られるかどうかは判りませんし、食事療法の大原則として「同じものばかりを摂取するのはNG」です。間違ってもグレープフルーツジュースを1日1リットルというような日課を課してはいけません。

 しかしながら、過剰な効果は期待しない方がいいとは思いますが、グレープフルーツが好きな人は積極的に摂取してもいいと思います。糖尿病(予備軍も含めて)のある人や体重を気にしている人たちのなかには、日頃から食事制限で辛い思いをしている人も少なくありません。グレープフルーツが好きな人はどんどん食べればいいと思います。

 ところで、以前私はある患者さんから「あたしはマンゴーとドリアンが大好きなんですけど食べ過ぎると太りますか?」と質問されて答えに困ったことがあります。この患者さん(女性)は東南アジアが大好きで年に4~5回は短期旅行にでかけるそうです。

  熟れたマンゴーやドリアンはたしかにかなり糖分が多そうで、グレープフルーツとは同じように考えられないかもしれません。このようないかにも糖分が多そうな果物の研究について知っている人がいれば教えてください。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Effect of fruit restriction on glycemic control in patients with type 2 diabetes – a randomized trial」で下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nutritionj.com/content/12/1/29

注2:この論文のタイトルは「Consumption of Clarified Grapefruit Juice Ameliorates High-Fat Diet Induced Insulin Resistance and Weight Gain in Mice 」で下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0108408

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2014年11月7日 金曜日

2014年11月7日 米国のA型肝炎流行は輸入ザクロが原因

  このサイトの「はやりの病気」の第127回(2014年3月号)「A型肝炎に要注意、可能ならワクチンを」でお伝えしましたように、日本では今年(2014年)A型肝炎が流行しました。米国では2013年に複数の州でA型肝炎がアウトブレイクしたのですが、その感染経路が特定され医学誌『The Lancet Infectious Diseases』2014年9月4日号(オンライン版)(注1)に掲載されましたので紹介します。

 2013年3月31日から8月12日に米国の10の州で合計165人がA型肝炎を発症しています。このうち153人(93%)がA店のBという商品(イチゴ、ラズベリー、ブルーベリー、チェリー、ザクロの実を含む冷凍ミックスベリー)を摂取していたことが判りました。合計69人(42%)が入院し、2人(1%)が劇症肝炎を発症し、そのうち1人は肝移植まで実施したそうです。幸いなことに死亡者はなかったようです。

 A型肝炎を発症した人から採取した検体を用いて遺伝子解析をおこなった結果、トルコから輸入されたザクロが疑わしいことが判明しました。

 A店は顧客カードに基づいて商品Bを購入した約25万人の顧客に電話で連絡し、Bを食べないように指導したそうです。さらにA店は、1万人を越える顧客のワクチン代金を支払っています。

 尚、アメリカでは2006年より生後12~23ヶ月の小児全員にA型肝炎ウイルスのワクチン接種をしており、小児での感染者はゼロだったようです。

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 この論文を読んで私が驚いたのは、A店及び行政の対応です。25万人に電話連絡し謝罪するのも大変だと思いますし、1万人以上のワクチン代金を負担したということに驚きました。また、暴露後(商品Bを食べた後)2週間以内の人にワクチンと免疫グロブリンを速やかに投与した州や地域の保健局の対応も見事です。

 同じことが日本で起こったとき、果たして今回のアメリカと同様の対応ができるでしょうか。

 A型肝炎ウイルスが混入したザクロを輸出したトルコがけしからん!と感じる人、あるいは、輸入時に検疫をすべき、と考える人もいるかもしれません。しかし、A型肝炎ウイルスというのは、日本や欧米を除いた地域ではいくらでもありますから、私自身の考えをいえば、国に頼るのではなく対策は個人でおこなうべきです。

 日本でのA型肝炎の発症の原因で最も多いのは生ガキの摂取です。次いで多いのは海外(特にアジア)で屋台などの現地料理を食べての感染です。タイの大洪水以降、A型肝炎ウイルスのワクチン接種希望者が増えていますが、無関心の人も依然少なくありません。

 ワクチン後進国のこの日本で、米国のようにA型肝炎ウイルスのワクチンが定期接種に組み入れられるのは現時点では絶望的だと私は思っています。ならば自分の身は自分で守るしかありません。

 劇症肝炎を起こしたアメリカ人は肝移植で救われたようですが、日本ではアメリカほどスムースに肝移植がおこなえるわけではありません。生ガキを食べたい人(ただし生ガキはノロウイルスのリスクもあることをお忘れなく)、海外(特にアジア方面)に行く人は、自分の身を守るためにワクチン接種を検討すべきです。

(谷口恭)

参考:はやりの病気第127回(2014年3月号)「A型肝炎に要注意、可能ならワクチンを」

注1:この論文のタイトルは「Outbreak of hepatitis A in the USA associated with frozen pomegranate arils imported from Turkey: an epidemiological case study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099%2814%2970883-7/abstract

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