医療ニュース

2016年3月1日 火曜日

2016年2月29日 水道水には多数の「良い細菌」

 水道水には多数の細菌が存在している、と言われればどう感じるでしょうか。意外ですが、これはどうも事実のようです。

 水道水には1mLあたり8万もの細菌が存在している・・・

 このような衝撃的な知見が発表されました。スウェーデンの名門大学ルンド大学が2015年12月16日付けのプレスリリース(注1)で公表しました。

 従来、細菌の観察は顕微鏡を用いておこなう方法が主流でしたが、現在は「DNAシーケンシング」(DNA sequencing)といって遺伝子レベルで細菌を検出する方法や、フローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれるレーザー光を流体に当てることにより生じる蛍光を検出する方法などが用いられるようになってきました。同大学では、これら最新の器機を用いて水道水及び水道管の内側にできる”膜”(「バイオフィルム」と呼ばれます)を分析しました。その結果、多数の「良い細菌(good bacteria)」が存在していることが判ったのです。

 この見解は、大学のプレスリリースだけでなく医学誌『Microbes and Environments』2015年2月21日号(オンライン版)(注2)に掲載され、研究の詳しい手順も紹介されています。

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 水道水は無菌とは言えないけれど飲めるくらいには菌の量が少ない、と従来は考えられていました。実際、厚労省の「水質基準項目と基準値」(注3)には、水道水は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」にしなければならないと規定されています。ここでいう「集落数」とは「細菌の塊」で、顕微鏡で観察されるレベルのものです。

 ところで、この研究で見落としてはならないことは、これはスウェーデンの水道水を対象としているということです。世界で水道水を飲める国というのはごくわずかしかありません。この研究では「良い細菌」が水道水に多数存在していることが明らかになりましたが、同じ研究を世界の大半の国でおこなえば違った結果になるはずです。日本もスウェーデンと同様、水道水が飲める稀な国ですから、おそらく今回の研究と似たものになると予想されます。

「良い細菌」がいてくれるおかげで「悪い細菌」が存在しづらくなり水道水がきれいな状態を保てているのでしょう。似たようなことは我々の腸内細菌についても言えます。どうやら我々は「良い細菌」に感謝しなければならないようです。

注1:このニュースリリースのタイトルは「WATCH: Our water pipes crawl with millions of bacteria(注目:水道管には大量の細菌)」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.lunduniversity.lu.se/article/our-water-pipes-crawl-with-millions-of-bacteria

注2:この論文のタイトルは「Bacterial Community Analysis of Drinking Water Biofilms in Southern Sweden」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/30/1/30_ME14123/_article

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

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2016年2月27日 土曜日

2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険

「座りっぱなし」が糖尿病や生活習慣病のリスクになるということをこのサイトでは2013年頃から繰り返し伝えています。世界中で様々な研究がおこなわれ論文が発表され、いまや「座りっぱなし」は生活習慣病の最もホットなトピックスのひとつといってもいいと思います。

「座りっぱなし」のリスクが注目に値するのは、「運動してもリスクは軽減しない」と考えられているからです。これに反対する研究、つまり運動や歩行を適度におこなうことでリスクは軽減すると結論づけた論文(下記注参照)もありますが、最近、新たに発表された論文では、やはり運動とは関係なく「座りっぱなし」そのものがリスクとされています。

 1日あたりの座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の発症リスクが22%、メタボリックシンドロームのリスクが39%上昇する・・・

 これは医学誌『Diabetologia』2016年2月2日(オンライン版)に掲載された論文(注1)の研究結果です。

 研究の対象者はオランダ在住の成人男女約2,497人(平均60歳)です。対象者に加速度計(accelerometer)を24時間、8日間装着してもらい、座って過ごした時間の長さ、立ち上がった回数などを計測し、血糖値が測定されています。

 対象者の55.9%が血糖値正常で、15.5%は耐糖能異常(糖尿病予備群)を示し、残りの28.6%が2型糖尿病でした。採血データと加速度計の計測結果を分析した結果、立ち上がった回数や座っていなかった時間の長さと糖尿病との間に関連性は認められませんでしたが、座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクがそれぞれ22%、39%上昇していたことが判ったそうです。

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 研究者は、さらなる研究が必要とコメントしていますが、やはりこの結果は注目に値します。運動してもリスクが減らない「座りっぱなし」。今後新たな知見が発表されることになるかもしれませんが、現在のところ、運動で帳消しできないほどハイリスクと認識しておくべきでしょう。

 ところで、私が「座りっぱなし」と訳しているのは「sedentary」という単語です。この言葉、私は数年前まで使ったことがなく、また今も日本人からはほとんど聞いたことがないのですが、最近外国人から日常会話のなかでよく聞きます。どうやら医学的な用語ではなく一般的な単語になっているようです。

注1:この論文のタイトルは「Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s00125-015-3861-8

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」

 

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2016年2月8日 月曜日

2016年2月8日 ジカウイルスでギラン・バレー症候群

 2015年12月25日の「医療ニュース」で、ブラジルでジカ熱がアウトブレイクしていること、ジカウイルスに妊娠中の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんが「小頭症」といって成長障害や知的障害を伴う状態になる可能性があることをお伝えしました。

 今回はその続編です。2016年2月1日、WHO(世界保健機関)は、ジカウイルス感染症に対し、いわゆる「緊急事態宣言」を発表しました。日本政府も、この発表を受けてなのか、2月5日、ジカ熱を感染症法の「4類感染症」に指定することを決めました。医師がジカウイルスに感染している患者を診察すれば、保健所に届け出ることが義務付けられます。

 ジカ熱自体は、発症してもたいした症状がでずに、日頃健康な人であれば何もしなくても自然に治ることがほとんどです。問題はジカウイルスに感染したときに生じるかもしれない「小頭症」、そして現在もうひとつ指摘されているのが「ギラン・バレー症候群」です。

 ギランバレー症候群は、「はやりの病気第73回(2009年9月)」で紹介しましたから、ここでは詳しく取り上げませんが、女優の大原麗子さんが長年患っていた全身の神経が障害される死亡することもある疾患です。

 現時点では、小頭症もギランバレー症候群も100%ジカウイルスが原因と断定されたわけではありません。しかし、その可能性は極めて強く、リオデジャネイロ五輪観戦を楽しみにしている人は注意が必要です。

 ワクチンも予防薬も治療薬もありません。蚊対策(注1)が唯一の対策です。

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 ジカ熱及びジカウイルス感染症については、毎日新聞ウェブサイト版「医療プレミア」の私が書いているコラムでも取り上げます。2月10日11日に公開予定です。

注1:下記を参照ください。

トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
→3) その他蚊対策など

参考:
医療ニュース2015年12月25日「ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク」
はやりの病気第73回(2009年9月)「ギラン・バレー症候群」

 

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2016年2月5日 金曜日

2016年2月5日 受動喫煙も不妊や早期閉経の原因

 自らの喫煙が不妊や早期閉経の原因になることは以前から指摘されていましたが、他人のタバコ、いわゆる「受動喫煙」がこれらのリスクになるのかどうかの大規模研究は(私の知る限り)ありませんでした。しかし、ついに疫学的な研究が発表されました。

・タバコを吸わない女性に比べると、現在の喫煙者または元喫煙者は不妊のリスクが14%上昇し、早期閉経のリスクは26%も上がる。

・タバコを吸わない女性のうち受動喫煙がある人(同居人が喫煙者など)は、不妊のリスク、早期閉経のリスクが共に18%上昇する。

 これらは医学誌『Tobacco Control』2015年12月14日(オンライン版)に掲載された論文(注1)で紹介されています。

 この研究の対象は50~79歳の閉経後の女性93,676人。1993年から1998年にWHI(the Women’s Health Initiative Observational Study)という研究に参加したアメリカ人女性です。

 早期閉経はリスクのパーセント表示だけでなく、期間でも示されています。喫煙経験者は、喫煙も受動喫煙もない人に比べると、閉経が22ヶ月早くなり、受動喫煙があった人はない人にくらべて13ヶ月閉経が早かったそうです。

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 この研究は「後ろ向き研究」と呼ばれるもので、すでに閉経した人から聞き取り調査をしたものです。研究の信憑性がより高いのは、まだ閉経が来ていない人を対象とし、喫煙者、受動喫煙者、非喫煙で受動喫煙もない者の3つのグループにわけて追跡する調査で、これを「前向き研究」と呼びます。

 ただし、そんなに厳密な研究をしなくても、この研究が示していることは明らかです。喫煙する人はタバコの影響をよく考えるべきでしょう。

注:この論文のタイトルは「Associations between lifetime tobacco exposure with infertility and age at natural menopause: the Women’s Health Initiative Observational Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://tobaccocontrol.bmj.com/content/early/2015/11/19/tobaccocontrol-2015-052510.abstract?sid=5e425fd7-02c6-4406-aa82-171c7fe3af84

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2016年1月29日 金曜日

2016年1月29日 ポテト食べすぎで糖尿病

 すべての医師が認めているわけではないものの、「糖質制限」は糖尿病の新しい食事療法になりつつあります。極端な糖質制限に対してはほとんどの医師は警告を促していますが、マイルドなものであれば注意点を充分理解した上で実践してもらうことに反対する医療者は少数でしょう。

 糖質というのは、甘いものの他、コメやコムギ(パン、パスタ、うどんなど)を指しますから従来「主食」と呼ばれてきたほとんどのものが該当してしまいます。そしてときどき落とし穴になっているのが「ポテト」です。日本ではサツマイモを常食にしている人はあまりいないと思いますが、ジャガイモはいろんな料理で日常的に食べている人は少なくないでしょう。

 ポテトは糖質そのものと考えていいのですが、肥満や糖尿病とどの程度相関するのかを検証した大規模研究というのはあまりありませんでした。この度、大規模研究の結果が報告されましたのでお伝えしたいと思います。結論は、もちろん「ポテト食べすぎると糖尿病」です。

 論文(注1)は、医学誌『Diabetes Care』2015年12月17日号(オンライン版)に掲載されたもので、この研究の対象者は米国人ですが、論文を執筆したのは日本人の研究者です。

 研究の対象者は全員医療者で合計20万人近くになります。内訳は、「NHS(Nurses’ Health Study)」と命名された1984~2010年におこなわれた調査に参加した70,773人の女性看護師、1991~2011年の「NHSⅡ」に参加した87,739人の女性看護師、「HPFS(Health Professionals Follow-up Study)」という名前の1986~2010年に実施された調査に参加した40,669人の男性医療従事者です。ジャガイモの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ, Food frequency questionnaire)というものが使われて4年ごとに調査されています。

 まず調査開始時点の解析で、ジャガイモの総摂取量が多ければ多いほど、カロリー摂取量、肉や清涼飲料水の摂取量が多く、身体活動度(つまり運動量)が少ないという結果が出ています。
 
 追跡機関中に合計15,362人が糖尿病を発症しています。解析の結果、ジャガイモ摂取量が多ければ多いほど糖尿病のリスクが高いことが明らかになっています。ジャガイモ摂取が週に一度未満の人に比べると、週に2~4回食べる人でリスクが7%上昇し、毎日食べる人では33%もリスクが増加しています。

 料理の仕方にも差があるようです。週に3回食べている人でみてみると、ベイクドポテト、ボイルドポテト、マッシュポテトでは糖尿病リスクが4%高いのに対して、フレンチフライでは19%も高いことが分かったそうです。

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 我々日本人からするとポテトは穀物でありコメやパンと同じ、という感覚ですが、欧米人は「野菜」と思っている人が少なくありません。以前私はイギリス人から、「我々はコメも野菜と考えている」という言葉を聞いて驚いたことがあります。彼(女)らによると、ポテトもコメも畑(コメは田なのですが・・・)から採れるから野菜だというのです。

 しかし、日本でも糖質制限をおこなっている人で、ついついポテトを食べ過ぎている人はいないでしょうか。たとえば、糖質制限をしている人に人気のあるステーキを食べるとき、付け合わせのポテトを食べている人はいないでしょうか。その横にあるニンジンもそれなりに糖質をたくさん含んでいます。そしてステーキにかかっているソースが甘くてこってりしたものであったとしたら・・・。これでは糖質制限をおこなっていることになりません。

注1:この論文のタイトルは「Potato Consumption and Risk of Type 2 Diabetes: Results from Three Prospective Cohort Studies」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://care.diabetesjournals.org/content/early/2015/12/09/dc15-0547.abstract?sid=8d7b15ff-969b-41e1-9a8b-786cb93567e5

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2016年1月29日 金曜日

2016年1月28日 夜勤あけは交通事故を起こしやすい

 夜勤が肥満や生活習慣病のリスクになるということは過去にも述べました(下記「医療ニュース」参照)。今回は、夜勤勤務者が交通事故に遭遇しやすいという研究を紹介したいと思います。

 医学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』2015年12月22日号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。

 研究の対象者は夜勤勤務の16人です。閉鎖されたコースで2時間の運転テストが2回行われています。1回目のテストは、夜勤をせずに平均7.6時間の睡眠をとった後に実施され、2回目のテストは夜勤あけにおこなわれています。

 結果、夜勤あけの運転テストでは、37.5%が急ブレーキを使用し、43.8%が運転テストを続けることができずテストを中断しています。また、運転能力の低下は、運転開始から15分以内に出現していたようです。

 米国では労働者の15%に相当する950万人以上が夜勤勤務に従事しており、居眠り運転は交通事故死の21%を占め、重大な障害事故の13%に関連しているそうです。

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 以前から何度も述べているように、最も健康的なライフスタイルは「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」ということです。夜勤の有害性はこれからも報告が相次ぐでしょう。しかし、夜勤は誰かがやらねばならないわけです。日本では、高齢者が「他に仕事がない」という理由で、シフト勤務のガードマンやメンテナンスの仕事をおこなっている人が少なくありませんが、健康リスクの高い高齢者にこのような仕事をやってもらっていいのか、一度社会全体で考えてみるべきだと思います。

注1:この論文のタイトルは「High risk of near-crash driving events following night-shift work」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.pnas.org/content/113/1/176.full?sid=7c894e9b-bb67-472b-b8e3-5078982453c2

参考:
メディカルエッセイ第128回(2013年8月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」
医療ニュース2014年12月26日「夜勤は肥満のリスク」

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2016年1月9日 土曜日

2016年1月9日 妊婦のダイエットで子供が脂肪肝

 無理なダイエットなどでやせている妊婦から生まれてくる子供は脂肪肝になりやすいことが以前から指摘されていました。このメカニズムを分子レベルで解明し、さらに改善させる方法についても言及している論文が医学誌『Scientific Reports』2015年11月19日(オンライン版)に掲載されました(注1)。日本人による研究です。

 エサを40%少なくすることで栄養不良にした妊娠マウスから生まれた子供マウスの肝臓が調べられています。肝臓には、異状な形態をした役に立たないタンパク質が蓄積し、これを除去するために免疫をつかさどるマクロファージの一種が増え、結果として炎症が生じ脂肪肝となっているようです。

「シャペロン」という最近注目されている物質があります。これは、わかりやすく言えば、形状がおかしくなって本来の機能が発揮できなくなったタンパク質に働きかけ、おかしくなった形を元に戻してあげることのできる物質で、形が元に戻ったタンパク質は機能を取り戻すことができるのです。

 今回の研究では、このシャペロンを脂肪肝の子供マウスに投与しています。結果、タンパク質が本来の機能を取り戻し、脂肪肝が大きく改善したそうです。

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 シャペロン(chaperon)の元々の意味は「若い女性が社交界にデビューするときに付きそう年上の女性」のことです。形が崩れて正常の機能を無くしてしまったタンパク質(若い女性)に働きかけ元に戻すことができる(シャペロン)ことからこの名前が付けられたと言われています。

 (ヒトの)若い妊婦さんから生まれた子供(もしくは妊婦)にシャペロンを投与すれば、脂肪肝が防げるのではないかという意見もあるようですが、シャペロンに過度の期待をするのは筋違いでしょう。

 つまらない正論に聞こえるかもしれませんが、妊娠中こそ、過度なダイエットを避け、適正な体重を維持することに努めなければなりません。

注1:この論文のタイトルは「Undernourishment in utero Primes Hepatic Steatosis in Adult Mice Offspring on an Obesogenic Diet; Involvement of Endoplasmic Reticulum Stress」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.nature.com/articles/srep16867

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2016年1月8日 金曜日

2016年1月8日 デング熱ワクチン、ついに実用化へ

 2014年の東京での流行以来、デング熱に対する世間の関心は高まっており、最近は海外渡航前に診察室で相談される人も増えてきました。もちろんこれは好ましいことで、デング熱はマラリアと異なり、日中に人の多いプールサイドやビーチでも被害に遭いますから、我々医療者からみると、これまでの関心が低すぎた、というのが実情です。

 デング熱は日本人がよく行くリゾート地、たとえばハワイやプーケットやバリ島などでも被害は少なくありません。水着になるときは日焼け止めの上からDEETの塗布が必要です。しかし、水に濡れる度に何度も塗り直すのはけっこう大変です。

 デング熱は感染症ですからワクチンの登場が長年望まれていました。昨年(2015年)には医学誌『The New England Journal of Medicine』に開発中のワクチンに有効性があるとした論文(注1)が掲載され、秒読み段階に来ていました。

 そして、ついに2015年12月9日、メキシコでこのワクチンが世界で初めて承認されました(注2)。さらに12月22日、ワクチン製造者のSanofiはフィリピンで(注3)、12月28日にはブラジルでも承認されたことを発表しました(注4)。

 一方、デング熱で年間9万人以上の感染者と200人近くの死亡者を出しているインドでは、このワクチン導入に慎重な姿勢をみせています(注5)。有効性と安全性が充分に検証されていないのではないかとする意見があるようです。

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 冒頭で述べたように、プールサイドやビーチでDEETを完璧に塗るというのは思いのほか困難です。有効で安全なワクチンがあれば接種を希望する人が大勢いるでしょうし、私自身も接種します。しかし、デング熱ウイルスを媒介するネッタイシマカ(やヒトスジシマカ)は、チクングニア熱ウイルスや最近注目されているジカ熱ウイルスも媒介します。そしてこれらに対してデング熱ワクチンは無効です。

 ということは結局これまでと同様の蚊対策は必要ということになります。ワクチンではなく、蚊の発生自体を抑制する工夫が必要かもしれません。しかし仮に抑制できたとしても、今度は「生態系が乱れる」という問題が出てきます。なんとも悩ましいものです・・・。

注1:この論文のタイトルは「Efficacy and Long-Term Safety of a Dengue Vaccine in Regions of Endemic Disease」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1506223

注2:下記URLでメキシコでの承認の詳細が読めます。

http://www.sanofipasteur.com/en/articles/dengvaxia-world-s-first-dengue-vaccine-approved-in-mexico.aspx

注3:下記はフィリピンでの承認についてです。

http://www.sanofipasteur.com/en/articles/sanofi-pasteur-dengue-vaccine-approved-in-the-philippines.aspx

注4:下記はブラジルについてです。

http://www.sanofipasteur.com/en/articles/Dengvaxia-First-Dengue-Vaccine-Approved-in-Brazil.aspx

注5:インドのオンライン新聞「The Indian Express」に「Dengue fever vaccine Dengvaxia: Hope but with caution」というタイトルで報道されています。下記URLを参照ください。

http://indianexpress.com/article/explained/dengvaxia-dengue-vaccine-delhi-health-deaths-india-fever/

参考:旅行医学・英文診断書 → 〇海外で感染しやすい感染症について → 3) その他蚊対策など

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2015年12月26日 土曜日

2015年12月26日 コーヒーを飲んで長生き、自殺も予防!

 否定的な研究がないわけではないものの、ここ数年コーヒーが健康に良いとする研究が相次いでおり、このサイトでも何度か紹介しています。今回も「コーヒーを飲めば長生きできる」とする研究です。

 医学誌『Circulation』2015年11月16日号(オンライン版)に報告されています(注1)。

 この研究は米国ハーバード大学公衆衛生学教室が、NIH(米国立衛生研究所)の資金援助を受けておこなったものです。対象者は、米国の医師や看護師など合計20万人以上の医療従事者で、調査期間は30年以上にも及びます。この間に約32,000人が死亡しています。

 結果、調査開始時点で1日1~5杯のコーヒーを飲んでいた人は、死亡リスクが低く、病名でみてみると、心血管疾患、神経疾患(パーキンソン病など)による死亡が少なく、、また自殺も少ないという結果が出ています。

 さらに喫煙を除外してコーヒー摂取量の検討をおこなうと、1日3~5杯のコーヒーを飲んでいる人は死亡リスクが0.85に低下(15%減少)し、5杯以上では0.88(12%減少)とされています。

 なぜ死亡率が低下するかについて、はっきりとしたことは判っていませんが、コーヒーの抗酸化作用、抗炎症作用、血糖調節作用などが有力視されています。

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 これまで発表された研究では、コーヒーは生活習慣病や悪性腫瘍のリスクを下げるとするものが多かったわけですが、全体の死亡率を下げ、さらに神経疾患や自殺のリスクも下げるとした今回の研究は特筆に値すべきと言えます。

 コーヒーを飲んで自殺を予防しよう!と言ってしまうのは時期尚早でしょうが、自殺の多い我が国で自殺とコーヒーの大規模研究をおこなう価値はあるのではないでしょうか。

注1:この論文のタイトルは「Association of Coffee Consumption With Total and Cause-Specific Mortality in 3 Large Prospective Cohorts 」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://circ.ahajournals.org/content/132/24/2305.abstract?sid=6b9e4651-d92d-4c5f-a5d3-a06d4be29d94

参考:

はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」

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2015年12月26日 土曜日

2015年12月25日 ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク

 蚊が世界一恐ろしい生物であることは過去に紹介しました(注1)。最大の理由は蚊(ハマダラカ)がマラリアを媒介するからであり、マラリアは世界三大感染症のひとつで毎年50万人以上が死亡しています。しかし「蚊が媒介する死に至る病」はマラリアだけではなく、黄熱やウエストナイル熱、日本脳炎などは致死率が高い感染症ですし、デング熱やチクングニア熱もときに激しい症状に苦しめられます。

 今年(2015年)後半になり、ブラジルでジカウイルス感染症が急増しています。ジカウイルスというのは生物学的にデング熱や日本脳炎の仲間のウイルスで、やはり蚊(ネッタイシマカ)が媒介します。

 実は、2015年5月7日、汎米保健機関(PAHO)がジカウイルス感染症に対する注意喚起情報を発表していました(注2)。このときは、まだ死亡例は出ていなかったのですが、熱帯の各地方で報告が増加していることから注意喚起がおこなわれたのです。2007年にはミクロネシアで、2013年にはプランス領ポリネシアで流行がおこり、2014年にはニューカレドニアとクック諸島、さらにチリのイースター島での報告がありました。

 そして2015年になりブラジルで大流行が生じ、ついに死亡例も報告されました。ジカウイルス熱は1週間程度の潜伏期を経た後、発熱、頭痛、筋肉痛、皮疹などをきたしますが、通常は自然治癒し後遺症はほぼないとされていました。ところが、ブラジルでは小児への感染が爆発的に広がり、同国保健省の2015年11月30日の報告では、疑い例も含めればジカウイルスに感染し小頭症を発症した患児は1,248人、うち7人は死亡しています。

 これまでは感染してもすぐに治癒すると考えられていたジカウイルスは、小児に感染すると頭蓋骨や脳の発育障害から小頭症が生じ、成長障害や知的障害を伴い死に至ることもあるということです。

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 この時期にブラジルでジカウイルスが大流行というのは、なんとも皮肉というか、こうなるとオリンピックが無事開催されるかどうかの心配もでてきます。少なくとも、小さい子供を連れてのブラジル渡航は自粛すべという勧告が出されることになるでしょう。

 ブラジルに行かない人は安心かというとまったくそんなことはなく、実際2014年にはタイのサムイ島から帰国した日本人の感染が報告されています。ジカウイルスはネッタイシマカが媒介するということは、ネッタイシマカが生息する地域ではいずれ流行する可能性が強いといえます。ですから、今後タイやシンガポールを含む東南アジアから、さらに香港・台湾あたりにまで流行が広がる可能性は充分にあります。実際、デング熱の流行は北上しており現在では台湾でも珍しい感染症ではなくなっています。そのうち沖縄で、デング熱やチクングニア熱のみならずジカウイルス熱も流行する可能性もなくはありません。

 しかし蚊を恐れて(亜)熱帯の渡航をやめるというのもナンセンスです。DEETや蚊取り線香を中心に対策を立てれば(注3)それほど恐れることはありません。

注1:下記コラムを参照ください。

メディカルエッセイ第149回(2015年6月)「世界で最も恐ろしい生物とは?」

注2:下記URLを参照ください。

http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&Itemid=270&gid=30075&lang=en

注3:下記を参照ください。

トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
3) その他蚊対策など

参考:はやりの病気
第133回(2014年9月)「デングよりチクングニアにご用心」
第126回(2014年2月)「デング熱は日本で流行するか」
第63回(2008年11月)「日本脳炎を忘れないで!」

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