医療ニュース

2016年4月27日 水曜日

2016年4月27日 ダイエットには充分なタンパク質を

  最近、水が最強のダイエット飲料であるという情報を紹介しました(注1)。これは、ほとんどコストゼロでできる簡単で(度を超さなければ)安全なダイエット法であり、体重が気になる人はすぐにでも実践すべきでしょう。今回お伝えするのも、比較的簡単にできて、しかも苦痛を伴わない方法です。

 タンパク質の豊富な食事は満腹感を早くに得られる・・・

 医学誌『Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics』2016年3月3日号(オンライン版)にこのような研究結果が報告されています(注2)。

 この研究は、米国インディアナ州Purdue大学のRichard D. Mattes氏らによっておこなわれました。研究の方法は、新たに被験者を募ったわけではなく、これまでに発表されている多くの論文を総合的に解析するというものです。(これをメタ解析と呼びます)

 結果、タンパク質を豊富に取れば、タンパク質が少ないときよりも満腹感が早く得られることが分かったそうです。この理由について、研究者は、タンパク質がいわゆる「満腹ホルモン」の分泌を促しているのではないかと推測しています。どのくらいのタンパク質を摂取すれば満腹感を得られるのかについては、はっきりと言及していません。

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 体重が気になる人がいればすぐにでも試してみるべきかもしれません。水が有効という研究もあるわけですから、食事前にまず水を飲み、その後野菜のみならずタンパク質も積極的に摂るようにして、満腹ホルモンの分泌が終わってから、少量の脂肪、最後に少量の炭水化物という流れがダイエットには理想ということになります。

注1:下記を参照ください。
医療ニュース2016年4月4日「最強のダイエット飲料は「普通の水」」

注2:この論文のタイトルは「The Effects of Increased Protein Intake on Fullness: A Meta-Analysis and Its Limitations」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.andjrnl.org/article/S2212-2672%2816%2900042-3/abstract

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2016年4月26日 火曜日

2016年4月26日 睡眠不足で食欲亢進はカンナビノイドが原因

 睡眠時間が短いとダイエットの効果が乏しくなるという研究を以前お伝えしたことがあります(注1)。この研究は、同じ食事量でも睡眠不足があるとやせにくい、とするものです。そして、睡眠不足がダイエットに不向きな理由はまだあります。睡眠時間が短いと食欲が亢進することを実感したことのある人は多いのではないでしょうか。今回お伝えしたい研究はそのメカニズム解明につながるかもしれない興味深いものです。

 睡眠不足になるとカンナビノイドが増加する・・・

 カンナビノイドと聞いて分からないという人もいるかもしれませんが、これは誰もが知っている物質です。それは「大麻」です。多幸感をもたらす大麻の成分がカンナビノイドなのです。(正確にはカンナビノイドにもいくつかの種類があり、多幸感と無縁のものがありますがここではその説明に踏み込みません)

 大麻は日本では今も違法であり、世界各国でも前世紀までは一部の国と地域を除いて違法でしたが、ここ10年くらいで合法とする国が一気に増えました。南米、ヨーロッパでは多くの国が合法になり、アメリカでもいくつかの州ですでに合法です。また、日本を含む違法の国であっても入手するのはそうむつかしくありませんから、興味本位で試したことがあるという人もいるでしょう。大麻には依存性もありますし(大麻推進派は「ない」と言いますが、ないわけではありません)、副作用も少なくありませんから安易に手を出すべきではないと私は考えています。そして大麻フリークの人たちも「これだけは困る・・・」と口をそろえて言う”副作用”があります。それが「食欲亢進」です。

 今回紹介する研究は米国シカゴ大学が運営している『SCIENCE Life』と名前のウェブサイト(注2)に報告されています。

 この研究の対象者は20代の健常なボランティア男女14人です。最初の4日間は8.5時間、残りの4日間は4.5時間の睡眠時間が与えられました。(実際の平均睡眠時間は7.5時間と4.2時間) 全日程において1日3食の食事が与えられ、定期的な血液検査がおこなわれました。

 結果、睡眠時間が短ければ、血中カンナビノイド値が、充分な睡眠時間のときに比べて33%も上昇していました。さらに、睡眠時間が充分なときは、血中カンナビノイドは昼食後にピークとなり、その後次第に下降していくのですが、睡眠不足があれば、血中カンナビノイド値の立ち上がりが遅く、午後の遅い時間から上昇し、夕方から夜遅い時間まで高値を維持したままであることが分かりました。

 そして、実際に血中カンナビノイドが高いままの睡眠不足になると、空腹を訴え続け、差し出されたスナック菓子を、睡眠時間が充分なときに比べ2倍近い量を食べたそうです。そして、カロリー摂取量は睡眠時間が充分なときに比べ50%も上昇し、摂取脂肪量にいたっては2倍にもなったそうです。

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 睡眠不足があれば、同じカロリー摂取であっても太りやすいだけでなく、食欲が大幅に亢進するというわけです。

 現在、日本でも大麻を解禁すべきという意見が増えてきているようですが、太ることに敏感な日本人の性格を考えると、太るなら大麻なんていらない、という声が上がり、意外にも世論が「大麻解禁反対」となるかもしれません。

 それにしても多幸感をもたらすカンビノイドが体内で合成されるというのは興味深いと言えます。ヘロイン(麻薬)やメタンフェタミン(覚醒剤)も、なぜ多幸感や興奮をもたらすかというと、これらに似た物質が体内でつくられるからです。ならば、いわば天然の大麻、麻薬、覚醒剤などを思いのままに脳内で作り出せることができれば随分精神状態が安定するのではないか、というのは私が長年考えていることです。いずれ、このことについても詳しく述べたいと思います。

注1:はやりの病気第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」の中で紹介しています。

注2:このレポートのタイトルは「Sleep loss boosts hunger and unhealthy food choices」で、下記URLで読むことができます。

https://sciencelife.uchospitals.edu/2016/02/29/sleep-loss-boosts-hunger-and-unhealthy-food-choices/

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2016年4月25日 月曜日

2016年4月25日 ノロウイルスの有効な予防法

 毎年冬から春にかけてノロウイルスを代表とする感染性胃腸炎(注1)が流行します。ノロウイルスには一応は周期があるとされており、たしかに統計学的な数字をみれば流行したのは2002年、2006年、2010年と規則性があるように見受けられます。しかし、私の実感としては少なくともここ数年間は「数年毎の流行」ではなく、「毎年の流行」のような印象があります。

 なぜノロウイルスがやっかいなのか。それは感染力が非常に強く、通常のアルコール消毒では効果が不十分だからです。ただし、アルコールがまったく無効というわけではありません。しかし、アルコールはまったく無効と考えている人が(医療者の中にも)います。実は、アルコールの効果に対する考え方は少しずつ変わってきており、厚労省の正式な文章でも表現が改訂されています。また、ノロウイルスに対して有効と思われる新しい消毒液が発売されましたので、これについても紹介したいと思います。

 2004年2月4日に厚労省が発表した「ノロウイルスに関するQ&A」(注2)には、「ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありません。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱があります」と書かれています。これを素直に読めば、アルコール(エタノール)は使うべきでなく、ノロウイルスの対策には化学薬品としては次亜塩素酸ナトリウム以外にはない、となります。

 このQ&Aは2015年6月30日に改訂(注3)されました。消毒については「一般的な感染症対策として、消毒用エタノールや逆性石鹸(塩化ベンザルコニウム)が用いられることがありますが、ノロウイルスを完全に失活化する方法としては、次亜塩素酸ナトリウムや加熱による処理があります」、とされています。「(エタノールには)あまり効果がありません」という文言が消えています。

 2004年の表現と2015年の改訂文書は似ているようにみえるかもしれませんが全く異なります。先に述べたように2004年の文書では「アルコールは効果なし」と読めるのに対し、2015年版では「アルコールは完璧ではないですが使うべきです」と解釈できるからです。

 実は、アルコールに対する効果が過小評価されていないか、ということは以前からしばしば指摘されていました。実際には、アルコールはノロウイルスにもある程度は有効です(注4)。ノロウイルスの予防に最も有効なのは「徹底的な手洗い」です。石けんについては、他のウイルスほど有効ではありません。一般に、エンベロープといって”殻”のようなものを持つタイプのウイルス(インフルエンザウイルスやHIVが代表です)には石けんは有効ですが、エンベロープを持たないタイプのウイルスは効果が劣ります。しかし石けんはアブラを落とすのが得意ですから、アブラに付着したノロウイルスを洗い流すことはできます。ですから石けんは効果が不十分とはいえ使った方がいいのです。

 アルコールに話を戻すと、病原体の予防を考えたとき、(特に日本人は)「完璧さ」を求めます。このため、「アルコールで完全に死滅させることができないならもっと強力なものはないのか」と考えたくなります。そして、その「もっと強力なもの」が次亜塩素酸ナトリウムです。実際、次亜塩素酸ナトリウムであれば、ほとんどすべての微生物を完璧に防ぐことができます。

 しかし、欠点もあります。まず刺激が強すぎて皮膚に直接付けることができず手洗いには使えません。金属に塗布すると腐食するという欠点もあります。木材や有機物と接触すると消毒のパワーが減弱することも指摘されています。このため、木製の椅子や手すりなどの消毒には不十分となる可能性があります。パルプを原料とした紙も同様で、以前は、嘔吐物に新聞を載せてその上から次亜塩素酸ナトリウムをかけることが推薦されていましたが、最近はこの方法を疑問視する声もあります。

 最近、ノロウイルスを効果的に予防することのできる改良型の消毒薬が相次いで登場してきています。価格が高いことなどもあり、現時点ではまだそれほど普及していませんが、医療機関のみならず一般企業や家庭でも今後使われるようになっていくかもしれません。下記はその一例です。

〇ルビスタ(R)(キョーリンメディカルサプライ社) 
http://www.rubysta.jp/

〇ラビショット(健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/344/

〇ザルクリーン (健栄製薬株式会社)
http://www.kenei-pharm.com/medical/336/

  
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注1:ノロウイルスに感染しているかどうか調べてほしい、という要望がときどきありますが、原則として成人の場合は保険適用もなく現実的ではありません。ノロウイルスは成人であればほとんどのケースで入院は不要ですし、そもそも特効薬がありませんから、検査することにあまり意味がありません。一方、小児や高齢者で入院が必要になる場合は院内感染のリスク管理の意味もあり検査がおこなわれることが多いといえます。

注2:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/040204-1.pdf

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html

注4:消毒に用いるアルコールには「エタノール」と「イソプロピルアルコール」があります。ノロウイルスを含むエンベロープを持たないウイルスにはイソプロピルアルコールでは有効性が乏しいため、エタノールを用いるべきです。

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2016年4月4日 月曜日

2016年4月4日 最強のダイエット飲料は「普通の水」

 普通の水(plain water)こそが最強のダイエット飲料だ・・・

 医学誌『Journal of Human Nutrition and Dietetics』2016年2月22日号(オンライン版)に掲載された論文が主張していることです。

 この研究の対象者は米国在住18歳以上の合計18,311人です。対象者が飲食したものとその量を分析した結果、普通の水の摂取量を1%増やすと、1日の総摂取カロリーが8.58Kcal減少し、さらに脂肪0.21グラム、砂糖0.74グラム、塩9.80ミリグラム、コレステロール0.88グラム、それぞれの摂取量が減少するという結果が出ました。

 これは、対象者の人種・民族、教育レベル、収入、体重に関わらず同じように言えることのようです。女性や高齢者より、若年から中年の男性に顕著に認められたようです。

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 普通の水を1%増やしたときの数字が算出されていますが、これではわかりにくいと思います。そこで例を挙げて考えてみましょう。毎日朝食前にコップ1杯の水を飲む人がいたとして、この人が夕食前にも飲んだとしましょう。水の摂取量は100%の増加となります。論文の数字にあてはめてみると、総摂取カロリーは8.58キロカロリーx100=858キロカロリー減少、塩は9.8ミリグラムx100=980ミリグラム≒1グラムの減少となります。

 もしもコップ1杯の水を増やすことでこれだけ摂取カロリーが低下し、塩分を減らすことができるなら、世の中のほとんどの肥満と高血圧がなくなることになります。いくらなんでもそこまでの効果はないだろうと思えますが、比較的大規模な調査ですからこの研究は注目に値します。そして「普通の水」なら低コスト(日本ではほぼ無料)であり、度をこさなければ安全です。

 ところでこの研究の恩恵に最も預かれる国はどこでしょうか。それは日本を含む水道水が飲める国です(注2)。この研究はアメリカ人を対象としています。アメリカではほとんどの地域で水道水が飲めませんから、おそらくこの研究でいう「普通の水(plain water)」とはコンビニやスーパーで売られているミネラルウォーターのことを指していると思われます。

 海外に行けば誰もがすぐに実感することですが、日本のように食堂や喫茶店に着席した時点で無料の飲料水を持ってきてくれる国はほぼありません。しかも日本の水は軟水で味もいいのです。(ヨーロッパの一部の国では水道水が飲めますが、硬水であることが多く、美味しくありません。ただし北欧の水は日本よりも美味しいという声もあります)

 これからは、たとえばファミリーレストランに着席したときは、まず出されたコップ1杯の水を飲みながらメニューを眺め、水を飲み終えてから注文するような習慣を身につければどうでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Plain water consumption in relation to energy intake and diet quality among US adults, 2005-2012」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jhn.12368/abstract

注2:水道水が飲める国というのはほとんどありません。しかも美味しく飲めるとなると、日本を除けば、ニュージーランドと北欧くらいだと思います。国土交通省が公表している平成16年度の「日本の水資源」のなかに報告あります(下記URL参照。ページ40)。(平成26年度版ではなぜか言及されていません)

http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/h16/1.pdf

参考:
メディカルエッセイ第94回(2010年11月)「水ダイエットは最善のダイエット法になるか」
医療ニュース2016年2月29日「水道水には多数の「良い細菌」」

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2016年3月29日 火曜日

2016年3月29日 帯状疱疹予防にワクチンを

 一般財団法人阪大微生物病研究会(通称「ビケン」)が製造する水痘(みずぼうそう)のワクチンが、2016年3月18日より50歳以上の帯状疱疹予防のために接種することができるようになりました。

 帯状疱疹は、治療開始が遅れた場合、あるいは早期に開始した場合でも、その後長年にわたり強烈な痛みに苦しめられる「帯状疱疹後神経痛」という疾患に悩まされることがあります。原因は水痘(みずぼうそう)のウイルスで、新たに感染するのではなく、子供のとき(成人の感染も珍しくはありません)に感染して体内に潜んでいるウイルスが活性化することによって起こります。

 ウイルスが活性化するのは免疫状態が低下するからです。ならばワクチンを接種してウイルスに対する抵抗力を上げるという考えは理にかなっており、米国などでは随分前から水痘ワクチンによる帯状疱疹の予防が普及しています。高齢になると免疫状態が低下しますから、厚労省が50歳以上に接種を認めたことは適切です。

 しかし、です。免疫力が低下するのは加齢だけではありません。疲労、睡眠不足などでも低下します。実際、太融寺町谷口医院の患者さんの例でいえば、帯状疱疹の患者さんは50歳以上よりもむしろ40代に多いですし、30代でも珍しくありません。なかには20代の患者さんもいます。

 ということは、50歳まで待たなくてももっと早い段階で接種すべきと考えられます(注1)。(実際、私も少し前に接種しました) ただ、50歳未満でワクチンを接種して何らかの副作用(副反応)がでた場合に補償されないという問題はあります(注2)。

 帯状疱疹を起こすような免疫力の低下として、「免疫力を低下させる疾患」があります。悪性腫瘍が多いのですが、谷口医院の例でいえば、若い患者さんの場合は膠原病とHIVが多いようです。したがって、膠原病やHIVがある人は年齢が若くても積極的にワクチンをうつべきです。(ただし、HIVのコントロールが不良な場合や膠原病でステロイドの内服を続けている場合は接種できません)(注3)

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注1:帯状疱疹の予防以前に、水痘にかかったことのない人は、早急にワクチン接種をすべきです。水痘は子供のときに罹患すれば、大多数は後遺症もなく治癒しますが、成人になってから感染すると、命にかかわるような状態にはならないものの、醜い皮膚症状が残り、なかには人目が気になり外出できなくなる人もいます。

注2:よく誤解されるのは、厚労省が承認すれば保険適用になる、というものです。「承認」というのは、保険適用になるわけではなく、ワクチンの被害がでたときに補償の対象になるということです。

注3:これら以外には、臓器移植後や重症のアトピー性皮膚炎などで免疫抑制剤を内服している場合も接種できません。

参考:
はやりの病気第71回(2009年7月)「帯状疱疹とヘルペスの混乱」

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2016年3月28日 月曜日

2016年3月28日 900万人以上もいる「隠れメタボ」に注目すべき

 肥満でないのに高血圧や高血糖などの異常を複数持つ「隠れメタボリックシンドローム」の患者が全国で914万人に上ることを厚生労働省研究班(代表=下方浩史・名古屋学芸大教授)がまとめた。

 これは、2016年3月7日の読売新聞(オンライン版)の報道です。隠れメタボがあると、ない人に比べて心臓病を発症するリスクが1.23倍になるそうです。(なぜか他の全国紙、朝日、毎日、日経、産経などでは報道されていません)

「隠れメタボ」とはどのようなものなのか。簡単にまとめておきます。通称「メタボ」、正式名称「メタボリック症候群」は、一言でいえば、「肥満の程度や健診の数値はたいしたことがないけれど、将来心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系疾患にかかりやすい状態」のことをいいます。

 具体的な診断基準として、まず「腹囲」をみます。男性は85cm以上、女性は90cm以上の腹囲があれば「メタボの可能性あり」とされます。そして、①血圧、②血糖値、③中性脂肪またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)のうち2つ以上で軽度でも異常(注1)があればメタボの確定診断となります。

 今回厚労省研究班が発表した「隠れメタボ」とは、腹囲の基準を満たしておらず、BMI(体重÷身長の2乗)(注2)が25未満であるものの、上記①②③の2つ以上が該当している状態のことを指します。研究班によれば隠れメタボは全国で914万人にも上るそうです。

 この報道、あまり盛り上がっていないようですが(読売新聞以外は報じていません)、私は非常に重要な「問題提起」だと考えています。

 メタボリック症候群という概念を普及させることの意味はたしかにあります。行政としては何らかの診断基準を示して国民に注意を促す必要があるからです。しかし現状は正確な情報が伝わっておらず誤解が蔓延しています。

 最も問題だと思われるのが腹囲の基準です。メタボの基準には「身長」が加味されません。身長を考えずに腹囲だけで判断するわけですから当然正確さは劣ります。次に筋肉量が考えられていないことが問題です。たとえば、同じ腹囲85cmだったとしても、おなかだけポッコリでている人と柔道選手ではまったく異なるわけです。身長も筋肉量も考慮しない「腹囲」にどれだけの意味があるのか、というのが日々生活習慣病の患者さんを診ている私の実感です。

 メタボリック症候群は元々「内臓脂肪症候群」と呼ばれていました。それほど見た目には肥満でなくても内臓脂肪が蓄積し、血圧や血糖などに軽度の異常が伴えば心血管疾患を起こしやすいことから命名された病名であり、重要なのは「内臓脂肪を減らすこと」です。

 内臓脂肪を的確に評価するには腹部CTが適しています。しかしCT撮影で大量の被爆をしてまで計るべきではありません。そこで代替として「腹囲」が採用されているのです。しかし腹囲を絶対視しすぎると内臓脂肪の正確な評価ができなくなります。

 さらに輪を掛けてここ数年私が問題だと考えているのは「ちょいメタボが長生きする」という誤解です。これについては過去のコラムで述べたように大変危険な考えです。少し太っている方が長生きというのは西洋人を対象としたものです。実際、ADA(米国糖尿病学会)は、糖尿病のスクリーニング検査を推奨するBMI値を従来は25としていましたが、「アジア系アメリカ人」の住民については23に設定しなおしています。これは、多くのアジア系米国人が一般的なアメリカ人に比べると、BMIが低くても糖尿病を発症していることを示すデータがあるからです。

 大切なことは「診断基準にとらわれない」ということです。行政はいつも国民全体に目を向けていますから最大公約数としての指針を示します。国民ひとりひとりのことを考えているわけではありません。あなたにとって大切なのは国が発表する基準ではなく、あなた自身とあなたの家族の健康です。腹囲にとらわれない、ちょいメタボが長生きするといったデマにだまされない、今回の発表にあったように隠れメタボが900万人以上もいる、といったことを理解して、気になることがあればかかりつけ医に相談するのが最善です。

注1:正確には、①血圧が収縮期130mmHg以上または拡張期85mmHg以上、②血糖値110mg/dL以上、③中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、です。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が含まれていないことに注意してください。LDLコレステロールは他の値がすべて正常であったとしても、つまり単独で高いだけでも心血管系疾患のリスクとなります。

注2:体重はkg(キログラム)、身長はm(メートル)で算出します。たとえば身長2メートル、体重88kgの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。一般的には25以上を過体重としますが、本文で述べているように、日本人の場合はこれよりも少ない基準で考えるべきです。

参考:医療ニュース2015年1月31日「やはりアジア人は太るべきでない」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下

 このサイトでは過去10年以上にわたり、コーヒーがいかに健康に良いかということを繰り返し伝えています。これは私がコーヒー好きだからではなく(それもあるかもしれませんが)、一流の医学誌に掲載されたきちんとした研究を紹介している結果です。もちろん否定的な研究が報告されればそれも伝えていますが、おしなべて言えば、コーヒーは多くのがんや生活習慣病の予防に有効であることを、いくつもの大規模調査が示しています。今回紹介するのは「コーヒーが膀胱がんのリスクを低下させる」というものです。

 研究は日本の学者によりおこなわれています。宮城県の住民を対象とした2つの大規模調査のデータを解析しコーヒーが膀胱がんのリスクを低下させるという結論が導かれています。論文は医学誌『European journal of cancer prevention』2016年2月12日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 2つの大規模調査とは「宮城コホート研究」と「大崎コホート研究」で、それぞれの追跡期間は17.6年、13.3年です。対象者は合計73,346人、調査期間中に膀胱がんを発症したのは274人です。

 コーヒーを時々飲む人、1日1~2杯飲む人、1日3杯以上飲む人は、まったく飲まない人に比べて、膀胱がんの発症リスクが、1.22、0.88、0.56という結果です。これは、コーヒーを時々飲めば22%リスクが上昇するものの、毎日1~2杯飲めば12%低下し、3杯以上飲めば44%も低下するということを意味します。

 尚、膀胱がんの最大のリスクのひとつに「喫煙」がありますが、この調査は喫煙の有無を考慮して解析しても同様の結果となっているようです。

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 研究ではコーヒーをときどき飲めば逆にリスクが高くなっています。この理由は分かりませんが、3杯以上で44%もリスクが下がっていたというのは注目に値します。コーヒー好き(私も含めて)には嬉しい結果です。紅茶や日本茶との関係も気になるところであり、今後そういった研究も待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「The association between coffee consumption and bladder cancer incidence in a pooled analysis of the Miyagi Cohort Study and Ohsaki Cohort Study.」であり、下記URLで概要を読むことができます・

http://journals.lww.com/eurjcancerprev/pages/results.aspx?txtkeywords=The+association+between+coffee+consumption+and+bladder+cancer+incidence+in+a+pooled+analysis+of+the+Miyagi+Cohort+Study+and+Ohsaki+Cohort+Study.

参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月7日 「睡眠12箇条」の指導手引きが公開

 不眠を訴えて受診される患者さんは少なくありません。そのなかの、全員とは言いませんが多くの方は、「不眠の対処法」について誤った考えを持っています。その代表は「眠くならなくても同じ時間にベッドに入るべき。眠れなくても横になっているだけで健康に良い」というもので、これは間違いです。

「健康日本21推進全国連絡協議会」という民間の団体をご存知でしょうか。この協議会は、2000年に国が開始した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の趣旨に賛同した民間団体が集合した協議会です。この協議会が2016年2月2日、「健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~ に基づいた保健指導ハンドブック」というものをウェブ上で公開しました(注1)。

 このハンドブックは、2014年3月に厚労省が「健康づくりのための睡眠指針2014」というタイトルで公表していた睡眠の指針をイラストやグラフをふんだんに取り入れて分かりやすく解説したものです。序文に、「この手引きは、 保健師等、睡眠の保健指導に携わる方々が、健康相談や健康教育などの機会に活用することを想定して作成されている」と書かれていますが、かなり分かりやすく編集されているので、指導に携わる人でなく、指導を受ける人、つまり不眠に悩んでいる人が直接読んでも充分に役立つものです。

 手引きのメインは「睡眠12箇条」で、下記のとおりです。

第1条 良い睡眠で,からだも心も健康に
第2条 適度な運動,しっかり朝食,ねむりとめざめのメリハリを
第3条 良い睡眠は,生活習慣病予防につながります
第4条 睡眠による休養感は,こころの健康に重要です
第5条 年齢や季節に応じて,ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
第6条 良い睡眠のためには,環境づくりも重要です
第7条 若年世代は夜更かしを避けて,体内時計のリズムを保つ
第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに,毎日十分な睡眠を
第9条 熟年世代を朝晩メリハリ,昼間に適度な運動で良い睡眠
第10条 眠たくなってからふとんに入り,起きる時刻は遅らせない
第11条 いつもと違う睡眠には,要注意
第12条 眠れない,その苦しみをかかえずに,専門家に相談を

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 12箇条は「当たり前じゃないの?」と言いたくなるような内容のものもありますが、最後の3つは重要です。特に第10条は注目に値します。冒頭で述べたように、眠れないのにベッドに入り不眠と戦っている人は少なくありません。眠れないときはベッドから起き上がり、好きなことをするべきです。そして眠くなってから眠り、睡眠時間がかなり短くなったとしても翌朝は同じ時間に起きるのが基本です。

 第11条も要注意です。以前にはみられなかった激しいいびきや呼吸停止、手足のぴくつき、足のむずむず感、また眠れているはずなのに日中に眠気や倦怠感が継続する場合は早めに受診した方がいいでしょう。

 最後に、睡眠薬の不適切な使い方をしている人が少なくない、ということを強調しておきたいと思います。多くの睡眠薬は「依存性」と「反跳性不眠」(睡眠薬を飲むことによって飲み始める前よりも不眠の程度が悪化すること)があります。

注1:このハンドブックは下記URLを参照ください。

http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf

参考:
はやりの病気第148回(2015年12月)「不眠治療の歴史が変わるか」
トップページ 「不眠を治そう」

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2016年3月1日 火曜日

2016年2月29日 水道水には多数の「良い細菌」

 水道水には多数の細菌が存在している、と言われればどう感じるでしょうか。意外ですが、これはどうも事実のようです。

 水道水には1mLあたり8万もの細菌が存在している・・・

 このような衝撃的な知見が発表されました。スウェーデンの名門大学ルンド大学が2015年12月16日付けのプレスリリース(注1)で公表しました。

 従来、細菌の観察は顕微鏡を用いておこなう方法が主流でしたが、現在は「DNAシーケンシング」(DNA sequencing)といって遺伝子レベルで細菌を検出する方法や、フローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれるレーザー光を流体に当てることにより生じる蛍光を検出する方法などが用いられるようになってきました。同大学では、これら最新の器機を用いて水道水及び水道管の内側にできる”膜”(「バイオフィルム」と呼ばれます)を分析しました。その結果、多数の「良い細菌(good bacteria)」が存在していることが判ったのです。

 この見解は、大学のプレスリリースだけでなく医学誌『Microbes and Environments』2015年2月21日号(オンライン版)(注2)に掲載され、研究の詳しい手順も紹介されています。

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 水道水は無菌とは言えないけれど飲めるくらいには菌の量が少ない、と従来は考えられていました。実際、厚労省の「水質基準項目と基準値」(注3)には、水道水は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」にしなければならないと規定されています。ここでいう「集落数」とは「細菌の塊」で、顕微鏡で観察されるレベルのものです。

 ところで、この研究で見落としてはならないことは、これはスウェーデンの水道水を対象としているということです。世界で水道水を飲める国というのはごくわずかしかありません。この研究では「良い細菌」が水道水に多数存在していることが明らかになりましたが、同じ研究を世界の大半の国でおこなえば違った結果になるはずです。日本もスウェーデンと同様、水道水が飲める稀な国ですから、おそらく今回の研究と似たものになると予想されます。

「良い細菌」がいてくれるおかげで「悪い細菌」が存在しづらくなり水道水がきれいな状態を保てているのでしょう。似たようなことは我々の腸内細菌についても言えます。どうやら我々は「良い細菌」に感謝しなければならないようです。

注1:このニュースリリースのタイトルは「WATCH: Our water pipes crawl with millions of bacteria(注目:水道管には大量の細菌)」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.lunduniversity.lu.se/article/our-water-pipes-crawl-with-millions-of-bacteria

注2:この論文のタイトルは「Bacterial Community Analysis of Drinking Water Biofilms in Southern Sweden」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/30/1/30_ME14123/_article

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

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2016年2月27日 土曜日

2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険

「座りっぱなし」が糖尿病や生活習慣病のリスクになるということをこのサイトでは2013年頃から繰り返し伝えています。世界中で様々な研究がおこなわれ論文が発表され、いまや「座りっぱなし」は生活習慣病の最もホットなトピックスのひとつといってもいいと思います。

「座りっぱなし」のリスクが注目に値するのは、「運動してもリスクは軽減しない」と考えられているからです。これに反対する研究、つまり運動や歩行を適度におこなうことでリスクは軽減すると結論づけた論文(下記注参照)もありますが、最近、新たに発表された論文では、やはり運動とは関係なく「座りっぱなし」そのものがリスクとされています。

 1日あたりの座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の発症リスクが22%、メタボリックシンドロームのリスクが39%上昇する・・・

 これは医学誌『Diabetologia』2016年2月2日(オンライン版)に掲載された論文(注1)の研究結果です。

 研究の対象者はオランダ在住の成人男女約2,497人(平均60歳)です。対象者に加速度計(accelerometer)を24時間、8日間装着してもらい、座って過ごした時間の長さ、立ち上がった回数などを計測し、血糖値が測定されています。

 対象者の55.9%が血糖値正常で、15.5%は耐糖能異常(糖尿病予備群)を示し、残りの28.6%が2型糖尿病でした。採血データと加速度計の計測結果を分析した結果、立ち上がった回数や座っていなかった時間の長さと糖尿病との間に関連性は認められませんでしたが、座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクがそれぞれ22%、39%上昇していたことが判ったそうです。

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 研究者は、さらなる研究が必要とコメントしていますが、やはりこの結果は注目に値します。運動してもリスクが減らない「座りっぱなし」。今後新たな知見が発表されることになるかもしれませんが、現在のところ、運動で帳消しできないほどハイリスクと認識しておくべきでしょう。

 ところで、私が「座りっぱなし」と訳しているのは「sedentary」という単語です。この言葉、私は数年前まで使ったことがなく、また今も日本人からはほとんど聞いたことがないのですが、最近外国人から日常会話のなかでよく聞きます。どうやら医学的な用語ではなく一般的な単語になっているようです。

注1:この論文のタイトルは「Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s00125-015-3861-8

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」

 

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