医療ニュース

2016年4月4日 月曜日

2016年4月4日 最強のダイエット飲料は「普通の水」

 普通の水(plain water)こそが最強のダイエット飲料だ・・・

 医学誌『Journal of Human Nutrition and Dietetics』2016年2月22日号(オンライン版)に掲載された論文が主張していることです。

 この研究の対象者は米国在住18歳以上の合計18,311人です。対象者が飲食したものとその量を分析した結果、普通の水の摂取量を1%増やすと、1日の総摂取カロリーが8.58Kcal減少し、さらに脂肪0.21グラム、砂糖0.74グラム、塩9.80ミリグラム、コレステロール0.88グラム、それぞれの摂取量が減少するという結果が出ました。

 これは、対象者の人種・民族、教育レベル、収入、体重に関わらず同じように言えることのようです。女性や高齢者より、若年から中年の男性に顕著に認められたようです。

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 普通の水を1%増やしたときの数字が算出されていますが、これではわかりにくいと思います。そこで例を挙げて考えてみましょう。毎日朝食前にコップ1杯の水を飲む人がいたとして、この人が夕食前にも飲んだとしましょう。水の摂取量は100%の増加となります。論文の数字にあてはめてみると、総摂取カロリーは8.58キロカロリーx100=858キロカロリー減少、塩は9.8ミリグラムx100=980ミリグラム≒1グラムの減少となります。

 もしもコップ1杯の水を増やすことでこれだけ摂取カロリーが低下し、塩分を減らすことができるなら、世の中のほとんどの肥満と高血圧がなくなることになります。いくらなんでもそこまでの効果はないだろうと思えますが、比較的大規模な調査ですからこの研究は注目に値します。そして「普通の水」なら低コスト(日本ではほぼ無料)であり、度をこさなければ安全です。

 ところでこの研究の恩恵に最も預かれる国はどこでしょうか。それは日本を含む水道水が飲める国です(注2)。この研究はアメリカ人を対象としています。アメリカではほとんどの地域で水道水が飲めませんから、おそらくこの研究でいう「普通の水(plain water)」とはコンビニやスーパーで売られているミネラルウォーターのことを指していると思われます。

 海外に行けば誰もがすぐに実感することですが、日本のように食堂や喫茶店に着席した時点で無料の飲料水を持ってきてくれる国はほぼありません。しかも日本の水は軟水で味もいいのです。(ヨーロッパの一部の国では水道水が飲めますが、硬水であることが多く、美味しくありません。ただし北欧の水は日本よりも美味しいという声もあります)

 これからは、たとえばファミリーレストランに着席したときは、まず出されたコップ1杯の水を飲みながらメニューを眺め、水を飲み終えてから注文するような習慣を身につければどうでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Plain water consumption in relation to energy intake and diet quality among US adults, 2005-2012」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jhn.12368/abstract

注2:水道水が飲める国というのはほとんどありません。しかも美味しく飲めるとなると、日本を除けば、ニュージーランドと北欧くらいだと思います。国土交通省が公表している平成16年度の「日本の水資源」のなかに報告あります(下記URL参照。ページ40)。(平成26年度版ではなぜか言及されていません)

http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/hakusyo/h16/1.pdf

参考:
メディカルエッセイ第94回(2010年11月)「水ダイエットは最善のダイエット法になるか」
医療ニュース2016年2月29日「水道水には多数の「良い細菌」」

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2016年3月29日 火曜日

2016年3月29日 帯状疱疹予防にワクチンを

 一般財団法人阪大微生物病研究会(通称「ビケン」)が製造する水痘(みずぼうそう)のワクチンが、2016年3月18日より50歳以上の帯状疱疹予防のために接種することができるようになりました。

 帯状疱疹は、治療開始が遅れた場合、あるいは早期に開始した場合でも、その後長年にわたり強烈な痛みに苦しめられる「帯状疱疹後神経痛」という疾患に悩まされることがあります。原因は水痘(みずぼうそう)のウイルスで、新たに感染するのではなく、子供のとき(成人の感染も珍しくはありません)に感染して体内に潜んでいるウイルスが活性化することによって起こります。

 ウイルスが活性化するのは免疫状態が低下するからです。ならばワクチンを接種してウイルスに対する抵抗力を上げるという考えは理にかなっており、米国などでは随分前から水痘ワクチンによる帯状疱疹の予防が普及しています。高齢になると免疫状態が低下しますから、厚労省が50歳以上に接種を認めたことは適切です。

 しかし、です。免疫力が低下するのは加齢だけではありません。疲労、睡眠不足などでも低下します。実際、太融寺町谷口医院の患者さんの例でいえば、帯状疱疹の患者さんは50歳以上よりもむしろ40代に多いですし、30代でも珍しくありません。なかには20代の患者さんもいます。

 ということは、50歳まで待たなくてももっと早い段階で接種すべきと考えられます(注1)。(実際、私も少し前に接種しました) ただ、50歳未満でワクチンを接種して何らかの副作用(副反応)がでた場合に補償されないという問題はあります(注2)。

 帯状疱疹を起こすような免疫力の低下として、「免疫力を低下させる疾患」があります。悪性腫瘍が多いのですが、谷口医院の例でいえば、若い患者さんの場合は膠原病とHIVが多いようです。したがって、膠原病やHIVがある人は年齢が若くても積極的にワクチンをうつべきです。(ただし、HIVのコントロールが不良な場合や膠原病でステロイドの内服を続けている場合は接種できません)(注3)

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注1:帯状疱疹の予防以前に、水痘にかかったことのない人は、早急にワクチン接種をすべきです。水痘は子供のときに罹患すれば、大多数は後遺症もなく治癒しますが、成人になってから感染すると、命にかかわるような状態にはならないものの、醜い皮膚症状が残り、なかには人目が気になり外出できなくなる人もいます。

注2:よく誤解されるのは、厚労省が承認すれば保険適用になる、というものです。「承認」というのは、保険適用になるわけではなく、ワクチンの被害がでたときに補償の対象になるということです。

注3:これら以外には、臓器移植後や重症のアトピー性皮膚炎などで免疫抑制剤を内服している場合も接種できません。

参考:
はやりの病気第71回(2009年7月)「帯状疱疹とヘルペスの混乱」

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2016年3月28日 月曜日

2016年3月28日 900万人以上もいる「隠れメタボ」に注目すべき

 肥満でないのに高血圧や高血糖などの異常を複数持つ「隠れメタボリックシンドローム」の患者が全国で914万人に上ることを厚生労働省研究班(代表=下方浩史・名古屋学芸大教授)がまとめた。

 これは、2016年3月7日の読売新聞(オンライン版)の報道です。隠れメタボがあると、ない人に比べて心臓病を発症するリスクが1.23倍になるそうです。(なぜか他の全国紙、朝日、毎日、日経、産経などでは報道されていません)

「隠れメタボ」とはどのようなものなのか。簡単にまとめておきます。通称「メタボ」、正式名称「メタボリック症候群」は、一言でいえば、「肥満の程度や健診の数値はたいしたことがないけれど、将来心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系疾患にかかりやすい状態」のことをいいます。

 具体的な診断基準として、まず「腹囲」をみます。男性は85cm以上、女性は90cm以上の腹囲があれば「メタボの可能性あり」とされます。そして、①血圧、②血糖値、③中性脂肪またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)のうち2つ以上で軽度でも異常(注1)があればメタボの確定診断となります。

 今回厚労省研究班が発表した「隠れメタボ」とは、腹囲の基準を満たしておらず、BMI(体重÷身長の2乗)(注2)が25未満であるものの、上記①②③の2つ以上が該当している状態のことを指します。研究班によれば隠れメタボは全国で914万人にも上るそうです。

 この報道、あまり盛り上がっていないようですが(読売新聞以外は報じていません)、私は非常に重要な「問題提起」だと考えています。

 メタボリック症候群という概念を普及させることの意味はたしかにあります。行政としては何らかの診断基準を示して国民に注意を促す必要があるからです。しかし現状は正確な情報が伝わっておらず誤解が蔓延しています。

 最も問題だと思われるのが腹囲の基準です。メタボの基準には「身長」が加味されません。身長を考えずに腹囲だけで判断するわけですから当然正確さは劣ります。次に筋肉量が考えられていないことが問題です。たとえば、同じ腹囲85cmだったとしても、おなかだけポッコリでている人と柔道選手ではまったく異なるわけです。身長も筋肉量も考慮しない「腹囲」にどれだけの意味があるのか、というのが日々生活習慣病の患者さんを診ている私の実感です。

 メタボリック症候群は元々「内臓脂肪症候群」と呼ばれていました。それほど見た目には肥満でなくても内臓脂肪が蓄積し、血圧や血糖などに軽度の異常が伴えば心血管疾患を起こしやすいことから命名された病名であり、重要なのは「内臓脂肪を減らすこと」です。

 内臓脂肪を的確に評価するには腹部CTが適しています。しかしCT撮影で大量の被爆をしてまで計るべきではありません。そこで代替として「腹囲」が採用されているのです。しかし腹囲を絶対視しすぎると内臓脂肪の正確な評価ができなくなります。

 さらに輪を掛けてここ数年私が問題だと考えているのは「ちょいメタボが長生きする」という誤解です。これについては過去のコラムで述べたように大変危険な考えです。少し太っている方が長生きというのは西洋人を対象としたものです。実際、ADA(米国糖尿病学会)は、糖尿病のスクリーニング検査を推奨するBMI値を従来は25としていましたが、「アジア系アメリカ人」の住民については23に設定しなおしています。これは、多くのアジア系米国人が一般的なアメリカ人に比べると、BMIが低くても糖尿病を発症していることを示すデータがあるからです。

 大切なことは「診断基準にとらわれない」ということです。行政はいつも国民全体に目を向けていますから最大公約数としての指針を示します。国民ひとりひとりのことを考えているわけではありません。あなたにとって大切なのは国が発表する基準ではなく、あなた自身とあなたの家族の健康です。腹囲にとらわれない、ちょいメタボが長生きするといったデマにだまされない、今回の発表にあったように隠れメタボが900万人以上もいる、といったことを理解して、気になることがあればかかりつけ医に相談するのが最善です。

注1:正確には、①血圧が収縮期130mmHg以上または拡張期85mmHg以上、②血糖値110mg/dL以上、③中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、です。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が含まれていないことに注意してください。LDLコレステロールは他の値がすべて正常であったとしても、つまり単独で高いだけでも心血管系疾患のリスクとなります。

注2:体重はkg(キログラム)、身長はm(メートル)で算出します。たとえば身長2メートル、体重88kgの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。一般的には25以上を過体重としますが、本文で述べているように、日本人の場合はこれよりも少ない基準で考えるべきです。

参考:医療ニュース2015年1月31日「やはりアジア人は太るべきでない」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下

 このサイトでは過去10年以上にわたり、コーヒーがいかに健康に良いかということを繰り返し伝えています。これは私がコーヒー好きだからではなく(それもあるかもしれませんが)、一流の医学誌に掲載されたきちんとした研究を紹介している結果です。もちろん否定的な研究が報告されればそれも伝えていますが、おしなべて言えば、コーヒーは多くのがんや生活習慣病の予防に有効であることを、いくつもの大規模調査が示しています。今回紹介するのは「コーヒーが膀胱がんのリスクを低下させる」というものです。

 研究は日本の学者によりおこなわれています。宮城県の住民を対象とした2つの大規模調査のデータを解析しコーヒーが膀胱がんのリスクを低下させるという結論が導かれています。論文は医学誌『European journal of cancer prevention』2016年2月12日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 2つの大規模調査とは「宮城コホート研究」と「大崎コホート研究」で、それぞれの追跡期間は17.6年、13.3年です。対象者は合計73,346人、調査期間中に膀胱がんを発症したのは274人です。

 コーヒーを時々飲む人、1日1~2杯飲む人、1日3杯以上飲む人は、まったく飲まない人に比べて、膀胱がんの発症リスクが、1.22、0.88、0.56という結果です。これは、コーヒーを時々飲めば22%リスクが上昇するものの、毎日1~2杯飲めば12%低下し、3杯以上飲めば44%も低下するということを意味します。

 尚、膀胱がんの最大のリスクのひとつに「喫煙」がありますが、この調査は喫煙の有無を考慮して解析しても同様の結果となっているようです。

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 研究ではコーヒーをときどき飲めば逆にリスクが高くなっています。この理由は分かりませんが、3杯以上で44%もリスクが下がっていたというのは注目に値します。コーヒー好き(私も含めて)には嬉しい結果です。紅茶や日本茶との関係も気になるところであり、今後そういった研究も待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「The association between coffee consumption and bladder cancer incidence in a pooled analysis of the Miyagi Cohort Study and Ohsaki Cohort Study.」であり、下記URLで概要を読むことができます・

http://journals.lww.com/eurjcancerprev/pages/results.aspx?txtkeywords=The+association+between+coffee+consumption+and+bladder+cancer+incidence+in+a+pooled+analysis+of+the+Miyagi+Cohort+Study+and+Ohsaki+Cohort+Study.

参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月7日 「睡眠12箇条」の指導手引きが公開

 不眠を訴えて受診される患者さんは少なくありません。そのなかの、全員とは言いませんが多くの方は、「不眠の対処法」について誤った考えを持っています。その代表は「眠くならなくても同じ時間にベッドに入るべき。眠れなくても横になっているだけで健康に良い」というもので、これは間違いです。

「健康日本21推進全国連絡協議会」という民間の団体をご存知でしょうか。この協議会は、2000年に国が開始した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の趣旨に賛同した民間団体が集合した協議会です。この協議会が2016年2月2日、「健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~ に基づいた保健指導ハンドブック」というものをウェブ上で公開しました(注1)。

 このハンドブックは、2014年3月に厚労省が「健康づくりのための睡眠指針2014」というタイトルで公表していた睡眠の指針をイラストやグラフをふんだんに取り入れて分かりやすく解説したものです。序文に、「この手引きは、 保健師等、睡眠の保健指導に携わる方々が、健康相談や健康教育などの機会に活用することを想定して作成されている」と書かれていますが、かなり分かりやすく編集されているので、指導に携わる人でなく、指導を受ける人、つまり不眠に悩んでいる人が直接読んでも充分に役立つものです。

 手引きのメインは「睡眠12箇条」で、下記のとおりです。

第1条 良い睡眠で,からだも心も健康に
第2条 適度な運動,しっかり朝食,ねむりとめざめのメリハリを
第3条 良い睡眠は,生活習慣病予防につながります
第4条 睡眠による休養感は,こころの健康に重要です
第5条 年齢や季節に応じて,ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
第6条 良い睡眠のためには,環境づくりも重要です
第7条 若年世代は夜更かしを避けて,体内時計のリズムを保つ
第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに,毎日十分な睡眠を
第9条 熟年世代を朝晩メリハリ,昼間に適度な運動で良い睡眠
第10条 眠たくなってからふとんに入り,起きる時刻は遅らせない
第11条 いつもと違う睡眠には,要注意
第12条 眠れない,その苦しみをかかえずに,専門家に相談を

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 12箇条は「当たり前じゃないの?」と言いたくなるような内容のものもありますが、最後の3つは重要です。特に第10条は注目に値します。冒頭で述べたように、眠れないのにベッドに入り不眠と戦っている人は少なくありません。眠れないときはベッドから起き上がり、好きなことをするべきです。そして眠くなってから眠り、睡眠時間がかなり短くなったとしても翌朝は同じ時間に起きるのが基本です。

 第11条も要注意です。以前にはみられなかった激しいいびきや呼吸停止、手足のぴくつき、足のむずむず感、また眠れているはずなのに日中に眠気や倦怠感が継続する場合は早めに受診した方がいいでしょう。

 最後に、睡眠薬の不適切な使い方をしている人が少なくない、ということを強調しておきたいと思います。多くの睡眠薬は「依存性」と「反跳性不眠」(睡眠薬を飲むことによって飲み始める前よりも不眠の程度が悪化すること)があります。

注1:このハンドブックは下記URLを参照ください。

http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf

参考:
はやりの病気第148回(2015年12月)「不眠治療の歴史が変わるか」
トップページ 「不眠を治そう」

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2016年3月1日 火曜日

2016年2月29日 水道水には多数の「良い細菌」

 水道水には多数の細菌が存在している、と言われればどう感じるでしょうか。意外ですが、これはどうも事実のようです。

 水道水には1mLあたり8万もの細菌が存在している・・・

 このような衝撃的な知見が発表されました。スウェーデンの名門大学ルンド大学が2015年12月16日付けのプレスリリース(注1)で公表しました。

 従来、細菌の観察は顕微鏡を用いておこなう方法が主流でしたが、現在は「DNAシーケンシング」(DNA sequencing)といって遺伝子レベルで細菌を検出する方法や、フローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれるレーザー光を流体に当てることにより生じる蛍光を検出する方法などが用いられるようになってきました。同大学では、これら最新の器機を用いて水道水及び水道管の内側にできる”膜”(「バイオフィルム」と呼ばれます)を分析しました。その結果、多数の「良い細菌(good bacteria)」が存在していることが判ったのです。

 この見解は、大学のプレスリリースだけでなく医学誌『Microbes and Environments』2015年2月21日号(オンライン版)(注2)に掲載され、研究の詳しい手順も紹介されています。

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 水道水は無菌とは言えないけれど飲めるくらいには菌の量が少ない、と従来は考えられていました。実際、厚労省の「水質基準項目と基準値」(注3)には、水道水は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」にしなければならないと規定されています。ここでいう「集落数」とは「細菌の塊」で、顕微鏡で観察されるレベルのものです。

 ところで、この研究で見落としてはならないことは、これはスウェーデンの水道水を対象としているということです。世界で水道水を飲める国というのはごくわずかしかありません。この研究では「良い細菌」が水道水に多数存在していることが明らかになりましたが、同じ研究を世界の大半の国でおこなえば違った結果になるはずです。日本もスウェーデンと同様、水道水が飲める稀な国ですから、おそらく今回の研究と似たものになると予想されます。

「良い細菌」がいてくれるおかげで「悪い細菌」が存在しづらくなり水道水がきれいな状態を保てているのでしょう。似たようなことは我々の腸内細菌についても言えます。どうやら我々は「良い細菌」に感謝しなければならないようです。

注1:このニュースリリースのタイトルは「WATCH: Our water pipes crawl with millions of bacteria(注目:水道管には大量の細菌)」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.lunduniversity.lu.se/article/our-water-pipes-crawl-with-millions-of-bacteria

注2:この論文のタイトルは「Bacterial Community Analysis of Drinking Water Biofilms in Southern Sweden」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/30/1/30_ME14123/_article

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

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2016年2月27日 土曜日

2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険

「座りっぱなし」が糖尿病や生活習慣病のリスクになるということをこのサイトでは2013年頃から繰り返し伝えています。世界中で様々な研究がおこなわれ論文が発表され、いまや「座りっぱなし」は生活習慣病の最もホットなトピックスのひとつといってもいいと思います。

「座りっぱなし」のリスクが注目に値するのは、「運動してもリスクは軽減しない」と考えられているからです。これに反対する研究、つまり運動や歩行を適度におこなうことでリスクは軽減すると結論づけた論文(下記注参照)もありますが、最近、新たに発表された論文では、やはり運動とは関係なく「座りっぱなし」そのものがリスクとされています。

 1日あたりの座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の発症リスクが22%、メタボリックシンドロームのリスクが39%上昇する・・・

 これは医学誌『Diabetologia』2016年2月2日(オンライン版)に掲載された論文(注1)の研究結果です。

 研究の対象者はオランダ在住の成人男女約2,497人(平均60歳)です。対象者に加速度計(accelerometer)を24時間、8日間装着してもらい、座って過ごした時間の長さ、立ち上がった回数などを計測し、血糖値が測定されています。

 対象者の55.9%が血糖値正常で、15.5%は耐糖能異常(糖尿病予備群)を示し、残りの28.6%が2型糖尿病でした。採血データと加速度計の計測結果を分析した結果、立ち上がった回数や座っていなかった時間の長さと糖尿病との間に関連性は認められませんでしたが、座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクがそれぞれ22%、39%上昇していたことが判ったそうです。

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 研究者は、さらなる研究が必要とコメントしていますが、やはりこの結果は注目に値します。運動してもリスクが減らない「座りっぱなし」。今後新たな知見が発表されることになるかもしれませんが、現在のところ、運動で帳消しできないほどハイリスクと認識しておくべきでしょう。

 ところで、私が「座りっぱなし」と訳しているのは「sedentary」という単語です。この言葉、私は数年前まで使ったことがなく、また今も日本人からはほとんど聞いたことがないのですが、最近外国人から日常会話のなかでよく聞きます。どうやら医学的な用語ではなく一般的な単語になっているようです。

注1:この論文のタイトルは「Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s00125-015-3861-8

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」

 

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2016年2月8日 月曜日

2016年2月8日 ジカウイルスでギラン・バレー症候群

 2015年12月25日の「医療ニュース」で、ブラジルでジカ熱がアウトブレイクしていること、ジカウイルスに妊娠中の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんが「小頭症」といって成長障害や知的障害を伴う状態になる可能性があることをお伝えしました。

 今回はその続編です。2016年2月1日、WHO(世界保健機関)は、ジカウイルス感染症に対し、いわゆる「緊急事態宣言」を発表しました。日本政府も、この発表を受けてなのか、2月5日、ジカ熱を感染症法の「4類感染症」に指定することを決めました。医師がジカウイルスに感染している患者を診察すれば、保健所に届け出ることが義務付けられます。

 ジカ熱自体は、発症してもたいした症状がでずに、日頃健康な人であれば何もしなくても自然に治ることがほとんどです。問題はジカウイルスに感染したときに生じるかもしれない「小頭症」、そして現在もうひとつ指摘されているのが「ギラン・バレー症候群」です。

 ギランバレー症候群は、「はやりの病気第73回(2009年9月)」で紹介しましたから、ここでは詳しく取り上げませんが、女優の大原麗子さんが長年患っていた全身の神経が障害される死亡することもある疾患です。

 現時点では、小頭症もギランバレー症候群も100%ジカウイルスが原因と断定されたわけではありません。しかし、その可能性は極めて強く、リオデジャネイロ五輪観戦を楽しみにしている人は注意が必要です。

 ワクチンも予防薬も治療薬もありません。蚊対策(注1)が唯一の対策です。

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 ジカ熱及びジカウイルス感染症については、毎日新聞ウェブサイト版「医療プレミア」の私が書いているコラムでも取り上げます。2月10日11日に公開予定です。

注1:下記を参照ください。

トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
→3) その他蚊対策など

参考:
医療ニュース2015年12月25日「ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク」
はやりの病気第73回(2009年9月)「ギラン・バレー症候群」

 

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2016年2月5日 金曜日

2016年2月5日 受動喫煙も不妊や早期閉経の原因

 自らの喫煙が不妊や早期閉経の原因になることは以前から指摘されていましたが、他人のタバコ、いわゆる「受動喫煙」がこれらのリスクになるのかどうかの大規模研究は(私の知る限り)ありませんでした。しかし、ついに疫学的な研究が発表されました。

・タバコを吸わない女性に比べると、現在の喫煙者または元喫煙者は不妊のリスクが14%上昇し、早期閉経のリスクは26%も上がる。

・タバコを吸わない女性のうち受動喫煙がある人(同居人が喫煙者など)は、不妊のリスク、早期閉経のリスクが共に18%上昇する。

 これらは医学誌『Tobacco Control』2015年12月14日(オンライン版)に掲載された論文(注1)で紹介されています。

 この研究の対象は50~79歳の閉経後の女性93,676人。1993年から1998年にWHI(the Women’s Health Initiative Observational Study)という研究に参加したアメリカ人女性です。

 早期閉経はリスクのパーセント表示だけでなく、期間でも示されています。喫煙経験者は、喫煙も受動喫煙もない人に比べると、閉経が22ヶ月早くなり、受動喫煙があった人はない人にくらべて13ヶ月閉経が早かったそうです。

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 この研究は「後ろ向き研究」と呼ばれるもので、すでに閉経した人から聞き取り調査をしたものです。研究の信憑性がより高いのは、まだ閉経が来ていない人を対象とし、喫煙者、受動喫煙者、非喫煙で受動喫煙もない者の3つのグループにわけて追跡する調査で、これを「前向き研究」と呼びます。

 ただし、そんなに厳密な研究をしなくても、この研究が示していることは明らかです。喫煙する人はタバコの影響をよく考えるべきでしょう。

注:この論文のタイトルは「Associations between lifetime tobacco exposure with infertility and age at natural menopause: the Women’s Health Initiative Observational Study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://tobaccocontrol.bmj.com/content/early/2015/11/19/tobaccocontrol-2015-052510.abstract?sid=5e425fd7-02c6-4406-aa82-171c7fe3af84

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2016年1月29日 金曜日

2016年1月29日 ポテト食べすぎで糖尿病

 すべての医師が認めているわけではないものの、「糖質制限」は糖尿病の新しい食事療法になりつつあります。極端な糖質制限に対してはほとんどの医師は警告を促していますが、マイルドなものであれば注意点を充分理解した上で実践してもらうことに反対する医療者は少数でしょう。

 糖質というのは、甘いものの他、コメやコムギ(パン、パスタ、うどんなど)を指しますから従来「主食」と呼ばれてきたほとんどのものが該当してしまいます。そしてときどき落とし穴になっているのが「ポテト」です。日本ではサツマイモを常食にしている人はあまりいないと思いますが、ジャガイモはいろんな料理で日常的に食べている人は少なくないでしょう。

 ポテトは糖質そのものと考えていいのですが、肥満や糖尿病とどの程度相関するのかを検証した大規模研究というのはあまりありませんでした。この度、大規模研究の結果が報告されましたのでお伝えしたいと思います。結論は、もちろん「ポテト食べすぎると糖尿病」です。

 論文(注1)は、医学誌『Diabetes Care』2015年12月17日号(オンライン版)に掲載されたもので、この研究の対象者は米国人ですが、論文を執筆したのは日本人の研究者です。

 研究の対象者は全員医療者で合計20万人近くになります。内訳は、「NHS(Nurses’ Health Study)」と命名された1984~2010年におこなわれた調査に参加した70,773人の女性看護師、1991~2011年の「NHSⅡ」に参加した87,739人の女性看護師、「HPFS(Health Professionals Follow-up Study)」という名前の1986~2010年に実施された調査に参加した40,669人の男性医療従事者です。ジャガイモの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ, Food frequency questionnaire)というものが使われて4年ごとに調査されています。

 まず調査開始時点の解析で、ジャガイモの総摂取量が多ければ多いほど、カロリー摂取量、肉や清涼飲料水の摂取量が多く、身体活動度(つまり運動量)が少ないという結果が出ています。
 
 追跡機関中に合計15,362人が糖尿病を発症しています。解析の結果、ジャガイモ摂取量が多ければ多いほど糖尿病のリスクが高いことが明らかになっています。ジャガイモ摂取が週に一度未満の人に比べると、週に2~4回食べる人でリスクが7%上昇し、毎日食べる人では33%もリスクが増加しています。

 料理の仕方にも差があるようです。週に3回食べている人でみてみると、ベイクドポテト、ボイルドポテト、マッシュポテトでは糖尿病リスクが4%高いのに対して、フレンチフライでは19%も高いことが分かったそうです。

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 我々日本人からするとポテトは穀物でありコメやパンと同じ、という感覚ですが、欧米人は「野菜」と思っている人が少なくありません。以前私はイギリス人から、「我々はコメも野菜と考えている」という言葉を聞いて驚いたことがあります。彼(女)らによると、ポテトもコメも畑(コメは田なのですが・・・)から採れるから野菜だというのです。

 しかし、日本でも糖質制限をおこなっている人で、ついついポテトを食べ過ぎている人はいないでしょうか。たとえば、糖質制限をしている人に人気のあるステーキを食べるとき、付け合わせのポテトを食べている人はいないでしょうか。その横にあるニンジンもそれなりに糖質をたくさん含んでいます。そしてステーキにかかっているソースが甘くてこってりしたものであったとしたら・・・。これでは糖質制限をおこなっていることになりません。

注1:この論文のタイトルは「Potato Consumption and Risk of Type 2 Diabetes: Results from Three Prospective Cohort Studies」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://care.diabetesjournals.org/content/early/2015/12/09/dc15-0547.abstract?sid=8d7b15ff-969b-41e1-9a8b-786cb93567e5

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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