医療ニュース

2025年1月9日 木曜日

2025年1月9日 じんましんを放っておけば死亡リスクが2倍に

 2021年5月から開始したメルマガ「谷口恭の『その質問にホンネで答えます』」は、はや3年半を超え、この間様々な質問をいただいています。もともと谷口医院は2007年の開院以来メールでの質問を常に受け付けているので、以前から全国から(ときには海外からも)多くの相談が寄せられていたのですが、最近はさらに質問の幅が広がっています。メルマガで読者の質問に回答すると、さらに相談が増えることがあります。最近、メルマガ公開後に質問が増えているのが「じんましん(以下、蕁麻疹)」についてです。そのメルマガで紹介した研究についてここで取り上げたいと思います。

 この研究の対象者は米国の慢性蕁麻疹の患者264,680人(及び同数の対象者)です。蕁麻疹があれば、調査開始から3ヵ月後、1年後、5年後の全死因死亡率が、なんと2.09倍、1.77倍、1.69倍にもなるというのです。特に目立つのが若年者(18~40歳)で、死亡リスクは2.14倍にもなります。

 死因としては自殺が多く、自殺念慮/自殺企図は蕁麻疹がない人に比べて3.14倍にもなります。がん(悪性腫瘍)に罹患するリスクも2.09倍とされています。脳血管疾患は2.27倍、糖尿病は2.05倍です。

 興味深いことに、この研究は「治療でリスクが下がる」ことを示しています。まとめると下記のようになります。

 (内服)ステロイドで治療 → リスクは低下せず
 抗ヒスタミン薬で治療 → リスクは低下する
 抗ヒスタミン薬+オマリズマブ(ゾレア)で治療 → リスクはさらに低下

 対象者の薬の使用もとても興味深いものとなっています。

 (内服)ステロイド使用:117,372人
 抗ヒスタミン薬使用:113,334人
 (抗ヒスタミン薬+)オマリズマブ使用:1,414人
 シクロスポリン使用:356人

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 この研究、蕁麻疹が(特に若年者の)死亡リスクになるということにかなり驚かされるのですが、それと同じくらいに衝撃的なのは米国ではこんなにもステロイドが使われているのか、ということです。

 内服(または点滴の)ステロイドは確かに蕁麻疹には”劇的に”効きます。ですから(例えば薬の副作用などで起こる)急性の蕁麻疹には使うことがあります。しかし、慢性蕁麻疹には原則としてステロイドは使うべきでありません。そんなことをすれば取り返しのつかない副作用が生じることは必至だからです。にもかかわらず抗ヒスタミン薬よりも多く使われていることに驚かされます。”雑な治療”と言われても仕方がないでしょう。

 オマリズマブ(ゾレア)は副作用もほとんどなく極めて優れた薬だと言えます。費用が高くつくのが欠点ではありますが、蕁麻疹の死亡リスクがこれだけ高いのならば比較的早い段階から積極的に使用してもいいかもしれません。

 尚、冒頭で触れたメルマガでの相談は「ザイザルを1日2回飲んでも治らない」というものでした。重症例であっても、たいていは、ステロイドでない安全な飲み薬を4~5種類組み合わせれば症状は消えます。その後少しずつ減らしていけば完全に治すことができます。4~5種の内服薬を使っても完全に消えないときにはゾレアを検討することになります。

参考:湿疹・かぶれ・じんましん

 

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2024年12月26日 木曜日

2024年12月26日 認知症の遺伝リスクが高くても心肺を鍛えれば低下する

 認知症の最大のリスクは「遺伝」であることはこのサイトで繰り返し述べています。世間では、脳の専門家でさえも「認知症は遺伝しない」というようなことをしきりに言いますが、これは正しくありません。

 ApoE遺伝子をε4で持っている人が認知症のリスクが上昇するのはすでに自明であり、日本人での割合は、ε4/ε4、ε4/ε3、ε4/ε2で持つ人の割合がそれぞれ1%、21%、5%と言われています。日本人の3割以上(31%)はε4を持っているのです。リスクの高さについては、日本人の6割が持つε3/ε3に比べて、ε4/ε4は11.6倍、ε4/ε3とε4/ε2は3.2倍だとする研究があります。

 ですから「認知症は遺伝しません」などと事実と異なることを訴えるよりも、「ε4を持っている3割以上の人は認知症のリスクが高いのは自明なのだから、残り7割弱の人よりもしっかりと予防をしましょう」と現実を見据えるべきです。

 ε4を持っていても必ずしも発症するわけではないのは事実ですが、ε4/ε4を持つ1%の日本人(約120万人でしょうか)は若くして認知症を発症しやすいことを受け入れるべきですし、ε4/ε3、ε4/ε2の人もリスクを認識して老後の生活を考えるべきだと私は思います。

 今回紹介するのは、そのε4を持っている31%の日本人に嬉しい研究です。論文は医学誌「British Journal of Sports Medicine」2024年11月19日号に掲載された「遺伝的素因の異なるレベルにおける心肺機能と認知症リスクの関連性:大規模な地域ベースの縦断的研究(Association of cardiorespiratory fitness with dementia risk across different levels of genetic predisposition: a large community-based longitudinal study)」です。

 この論文では認知症の遺伝的リスク因子としてApoEではなく、多遺伝子リスクスコア(=Polygenic Risk Scores in Alzheimer’s Disease=PRSAD)を用いています。研究の対象者は、調査開始時点で認知症のない39~70歳の61,214人、追跡期間は最長12年間です。

 追跡期間中に553人(0.9%)が認知症を発症しました。解析の結果、心肺機能の能力(=cardiorespiratory fitness=CRF)が高い人は低い人に比べて、認知症の発症リスクが40%低く、認知症の発症が1.48年遅れることが示されました。

 PRSADが中程度から高い人でみると、CRFが高い人は低い人に比べて、全認知症のリスクが35%低いという結果が得られました。

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 認知症の遺伝リスクが高くても、心肺機能の能力が高ければリスクを35%も低下できるという研究結果は有難い知らせです。リスクが高い人(≒ApoE遺伝子をε4で持つ人)にとって、この結果をみて運動しないという選択肢はないでしょう。

 では、まだ自分のApoE遺伝子のタイプを知らない人はまずはε4の有無を調べればいいか、というと、ここは慎重になるべきです。なぜなら、遺伝子というのは生涯変わることがなく一度知ってしまえばその現実を必ず受け入れなければならないからです。当院では若い人(≒これから子供を持つ可能性がある人)からの依頼は原則断っています。

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2024年12月12日 木曜日

2024年12月12日 砂糖はうつ病のリスク

 最近発表されたメタ解析(これまでに発表された論文で質の高いものだけを集めて総合的に解析しなおした研究)で「砂糖摂取がうつ病のリスク」であることは間違いなさそうです。

 そのメタ解析が発表された論文は医学誌「Frontiers in Nutrition」2024年10月16日号に掲載された「砂糖摂取とうつ病および不安症のリスクとの関連:系統的レビューとメタ解析(Association of sugar consumption with risk of depression and anxiety: a systematic review and meta-analysis)」です。

 これまでに発表された合計40の研究が解析され、対象者は1,212,107例になります。砂糖摂取でうつ病のリスクが21%増加していました。一方、不安症のリスクとの関連については「11%増加する」となりましたが、こちらは統計学的に有意な結果ではありませんでした。

 尚、うつ病のリスクは男性よりも女性で高いことも明らかとなりました。

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 なぜ、砂糖摂取でうつ病のリスクが上昇するのかについてはこの論文からは分かりません。おそらく血糖値の急激な上昇(最近よく「血糖値スパイク」と呼ばれるものです)に続いて生じる下落が原因のひとつではないかと推測されます。

 いずれにしても「甘いもの」が好きな人は今一度おやつの摂り方を見直した方がいいかもしれません。

 

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2024年11月22日 金曜日

2024年11月22日 アメリカンフットボール経験者の3分の1以上がCTEを自覚、そして自殺

 いまだに日本ではほとんど取り上げられることのない慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy=CTE、以下「CTE))に関する新しい論文が医学誌「JAMA」2024年9月23日号に掲載されていましたのでここに報告します。

 論文のタイトルは「元プロアメリカンフットボール選手における慢性外傷性脳症の自覚と自殺傾向(Perceived Chronic Traumatic Encephalopathy and Suicidality in Former Professional Football Players)」で、ポイントは次の通りです。

・元プロアメリカンフットボール選手の34%がCTEを自覚している

・研究の対象者は1960年から2020年までプロリーグと契約していた元選手4,180人のうち、調査に協力した1,980人(47.4%、平均年齢57.7歳)。このうち681人(34.4%)が「CTEがある」と答えた

・調査されたのは、ポジション、キャリアの期間、現在の健康問題(不安、注意欠陥/多動性障害、うつ病、糖尿病、感情および行動のコントロールの困難さ、頭痛、高脂血症、高血圧、テストステロンレベル、痛み、睡眠時無呼吸、主観的認知機能など)

・CTEの自覚に関連していたのは、主観的認知障害、低テストステロン、頭痛、現役時代に蓄積した脳震盪の兆候と症状、抑うつ/感情および行動のコントール困難、痛み、若年

・CTEを自覚している681人のうち自殺傾向(suicidality)があるのは171人(25.4%)。CTEの自覚がない1,299 人のうち自殺傾向があるのは64人(5.0%)。よってCTEの自覚があれば自殺傾向が5倍以上になる

・うつ病などの自殺傾向の予測因子を調整した後でもCTEを自覚していれば自殺傾向を生じるリスクは2.06倍

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 CTEを自覚することによってうつ病のリスクが上昇することも考えられますから、このケースでは「予測因子を調整した後の2.06倍」よりも「CTEの自覚があれば自殺をしやすくなるリスクは5倍以上」と認識すべきだと思います。

 私自身は「こういうデータがあるのだから、アメリカンフットボールを(あるいはサッカーなど他のコンタクトスポーツも)禁止にすべきだ」とまでは考えていませんが、少なくとも競技を始めるとき、つまり小学生から高校生くらいまでの間にこういったリスクがあることを説明すべきだと思います。

<参考>
はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース
2023年4月23日「やはりサッカーは危険」
2021年12月22日「サッカーは直ちにやめるべきかもしれない」

 

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2024年11月17日 日曜日

2024年11月17日 「座りっぱなし」をやめて立ってもメリットはわずか

 このサイトでは「座りっぱなし」のリスクを繰り返し紹介してきました。座りっぱなしは様々な疾患のリスクとなり、「第二の喫煙」と呼ばれることもあり、しかも「運動しても帳消しにならない」とする研究もあり、非常にやっかいな現代人の習慣だと言えます。

 では座りっぱなしをやめて「立てば」いいのか、例えば(バーカウンターのような)スタンディングディスクで仕事をすればいいのか、と考えたくなりますが、残念ながらそうでもないようです。「座りっぱなしをやめて立ってもメリットはほぼない」というショッキングな研究が医学誌「International Journal of Epidemiology」2024年10月16日号に掲載された論文「デバイス測定による静止行動と心血管疾患および起立性循環器疾患の発生率(Device-measured stationary behaviour and cardiovascular and orthostatic circulatory disease incidence)」に報告されたので紹介します。

 研究の対象者は「UKバイオバンク」に登録された83,013人の成人(平均年齢61.3歳、女性55.6%)、追跡期間は6.9年です。

 この間、「心血管疾患」(冠動脈性心疾患、心不全、脳卒中)が6,829件、「起立性循環器疾患」(起立性低血圧、静脈瘤、慢性静脈不全、静脈性潰瘍)が2,042件発生しました。

 「起立性循環器疾患」のリスクは、(座っていても立っていても)じっとしている時間が1日12時間を超えると1時間あたり22%増加しました。座りっぱなしの時間が1日10時間を超えると1時間増えるごとに26%増加しました。1日2時間以上立っていると1日30分増えるごとに11%増加しました。
 
 「心血管疾患」のリスクは、じっとしている時間が1日12時間を超えると1時間あたり13%増加しました。座りっぱなしは、1時間あたり15%増加していました。立っている時間についてはリスク増加を認めませんでした。

 ということは、立っていればとりあえず「心血管疾患」は防げそうです。ですが、「起立性循環器疾患」については立っていても(動かなければ)リスクは上がることが示されています。

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 立っていると、座っているときに比べて疲れますから、なんとなくやせそうな気がしないでしょうか。ですが、2019年に報告された論文によると、その効果はほとんどなく、1時間立っていた人は座ったままでいた人よりもわずか9カロリー多く消費しただけだったそうです。

 健康を維持するには運動が不可欠だと言えそうです。

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2024年10月24日 木曜日

2024年10月24日 ピロリ菌は酒さだけでなくざ瘡(ニキビ)の原因かも

 ヘリコバクター・ピロリ(以下「ピロリ菌」)は酒さの原因になっていることがあります(参考:医療ニュース2017年6月2日「ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善」)。すべての酒さに対していえることではないのですが、ときに治療に難渋していた酒さがピロリ菌を除菌することにより劇的に改善することがあります。興味深いことに、これまで谷口医院で酒さの原因がピロリ菌であった人のほぼ全員が胃の症状はまったくありませんでした。

 酒さが治りにくい場合、谷口医院ではピロリ菌の検査を実施しているのですが(患者さんが同意すれば、ですが)、これまでざ瘡(ニキビ)についてはピロリ菌との関連を疑ったことがなく検査を勧めたこともありませんでした。しかし、難治性のざ瘡では検査をする価値があるかもしれません。興味深い研究が発表されたからです。

 研究は医学誌「Archives of Dermatological Research」2024年9月14日号に掲載された論文「ヘリコバクター・ピロリ菌と尋常性ざ瘡:関係はあるか?(Helicobacter pylori and acne vulgaris: is there a relationship?)」で発表されました。

 研究の対象者はエジプトの「Ain Shams大学病院」https://www.asu.edu.eg/healthcareの皮膚科外来を2021年11月~2022年10月に受診したざ瘡の患者45人と年齢・性をマッチングさせた健康ボランティア45人です。ざ瘡の有無とピロリ菌の検査結果は次のようになりました。

           ピロリ菌抗原     ピロリ菌抗体       
ざ瘡患者       26人(57.8%)         9人(20%)
健常人        27人(60%)       14人(31.1%)

 この研究はまだ続きます。ざ瘡の重症例でピロリ菌抗原陽性率がどのように変化するかが調べられました。結果は驚くべきものです。

        ピロリ菌抗原陽性率
軽症        4人/16人(25%)  
中等症        10人/16人(62.5%)
重症         12人/13人(92.3%)

 ざ瘡の程度が重症であればあるほど、ピロリ菌陽性率が高いのは興味深いといえます。
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 過去に同様の研究がないかを調べてみたところ見つかりました。2014年に医学誌「Journal of Medical Sciences」に掲載された論文「重度の尋常性ざ瘡はヘリコバクター・ピロリ感染と関連している:初の文献報告(Severe Acne Vulgaris is Associated with Helicobacter pylori Infection: First Report in the Literature)」です。

 研究は2012年から2013年にイランのタブリーズで実施されました。対象者は75人のざ瘡の患者(軽症25人、中等症25人、重症25人)と25人の健常人です。ピロリ菌感染は次の通りです。

健常者   56%
軽症者   60%
中等症者  72%
重症者   88%

 統計学的な有意差は「重症者」と「健常者」でついています(p=0.01)。

 2つの研究のいずれもが「重症であればあるほどピロリ菌に感染している可能性が高い」という結果を示しています。これらの研究では除菌をすればざ瘡が改善するのかどうかが分かりませんが、既存の治療でよくならない場合は試してみる価値はあるでしょう。

 

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2024年10月11日 金曜日

2024年10月11日 幼少期に「貧しい地域に住む」か「引っ越し」がうつ病のリスク

 なんともショッキングな研究が発表されました。幼少時に「貧しい地域に住む」あるいはただ単に「引っ越し」をするかの経験があれば成人してからうつ病を発症しやすくなるというのです。

 医学誌「JAMA Psychiatry」2024年7月17日号に掲載された「時間の経過とともに変化する近隣の所得不足、幼少期の転居、および成人期のうつ病リスク(Changing Neighborhood Income Deprivation Over Time, Moving in Childhood, and Adult Risk of Depression)」です。

 研究の対象者は、1982年1月1日から2003年12月31日までの期間にデンマークで生まれ、生後15年間を同国内で過ごした合計1,096,916人(男性563,864人=51.4%)です。統計分析は2022年6月から2024年1月まで実施されました。分析に使われたのは、「出生から15歳までの各年の居住地における近隣所得欠乏指数(neighborhood income deprivation index )」と、「幼少期全体の平均所得欠乏指数(mean income deprivation index)」で、居住地を移動したかどうかについては、「滞在者」の定義を「幼少期全体を通じて同じゾーンに住んでいた個人」、「移動者」は「そうでない個人」とされています。

 結果、追跡調査中に35,098人(女性23,728人=67.6%) がうつ病と診断されました。幼少期に貧困地域に住んでいた人は、うつ病のリスクが10%上昇しました。所得不足が増加するごとに、うつ病のリスクも上昇していることが分かりました。また、近隣の貧困状態とは無関係に、幼少期の引越しは成人期のうつ病発生率を増加させることが分かりました。2回以上の引っ越しでそのリスクは61%も上昇していました。

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 この研究が正しいとして、それが日本にもあてはまるのならば、親がいわゆる「転勤族」で(あるいはその他の理由で)15歳までに引っ越しを繰り返していた場合、うつ病になりやすいということになってしまいます。

 「子育て」に議論を呼びそうな研究です。しかし、すでに成人している人は今さら過去を変えられません。ただ、もしかすると「自分は転勤族の親の元で育ったからうつ病のリスクがあるんだ」と把握することは役に立つかもしれません。どのような疾患でも「自身のリスクを知る」は重要だからです。

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2024年9月19日 木曜日

2024年9月19日 忍耐力が強い人は長生きする

 困難にぶつかったときそれに耐えて乗り越えることができる人は長生きする、という研究が発表されました。医学誌「BMJ Mental Health」2024年9月3日号に掲載された論文「健康と退職に関する研究における心理的回復力と全死亡率の関連性(Association between psychological resilience and all-cause mortality in the Health and Retirement Study)」です。
 
 研究の対象者は米国で実施された「The Health and Retirement Study」という調査に2006年から2008年に協力した50歳以上の10,569人(平均年齢66.95歳、58.84%が女性)で、死亡のデータは2021年5月までの記録が使われています。調査期間中に合計3,489人が死亡しています。

 対象者には、忍耐力(perseverance)、落ち着き(calmness)、目的の自覚(a sense of purpose、自立心(self-reliance and the recognition that certain experiences must be faced alone)などの性格を測定する尺度を用いて「忍耐力のスコア」がつけられました。スコアが最も低い(忍耐力がもっとも低い)グループはQ1、最も高いグループはQ4とされ、対象者は4つのグループに分類されました。

 グループごとに死亡率を解析すると、Q1に比べて、Q2は追跡期間の12.3年間で死亡率区が20.2%減少、Q3、Q4はそれぞれ26.8%、38.1%減少していました。10年生存率でみると、Q1~Q4のそれぞれは、61.0%、71.9%、77.7%、83.9%と「忍耐力が強いほど生存率が高い」という結果になりました。Q4はQ1に比べて死亡リスクが53%低いことを示しています。この関連性は、性別、人種、BMIなどの特性を調整した後でも統計的に有意でした。

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 私が研修医の頃にはまったく気づきませんでしたが、医師として長い間大勢の患者さんを診ていると、たしかに忍耐力が強い人は健康な印象があります。高校の同級生で例えていえば、真面目でコツコツと何にでも取り組み決して楽をしようとしないタイプです。

 めったに休まず、遅刻は絶対にせず、宿題をきちんと提出し、苦悩に遭遇しても嫌な顔ひとつせずに決してその苦役から逃げ出さないようなタイプです。こういうタイプの人は高齢になってからも太らず、規則正しい生活を続けています。

 と考えると、1限目の授業には顔を出さず、学校をさぼって親が呼び出され、宿題をした記憶がほとんどない私のような人間は早死にすることになりそうです。

 しかし私の場合、大人になってからいつの間にか忍耐力が出てきたような気がします(そのつもりになっているだけかもしれませんが)。(自分で言うのもなんですが)困難に遭遇しても(まあ、たいした困難ではありませんが)それを困難と感じないようになってきました。こんな私は長生きできるのでしょうか。できたとしてもできなかったとしてもこの年齢になればこれからも忍耐力を維持するしかありません。

 では私に忍耐力がついてきた(つもりな)のはなぜか。たぶん、高校卒業以降の経験です。様々な人との出会いがあり、私の精神は鍛えられてきたのだと思います。そして様々な苦悩(といってもたいしたものではないのですが)を通して「人生は耐え忍ばねばならない」という”真実”を知りました。

 もしもこんな私が長生きできたとすれば、「忍耐力は成人してからも身につく」を誰かに研究で示してほしいな、と妄想しています。

 

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2024年9月16日 月曜日

2024年9月8日 糖質摂取で認知症のリスクが増加

 今月号の「はやりの病気」で、「コレステロールが認知症の(予防できる)最大のリスク因子だ」という画期的な報告を紹介しました。その報告には他にも認知症のリスクが紹介されていて、これらはしっかりとしたエビデンスがある因子と考えて差支えありません。

 今回紹介する認知症のリスクについても「前向き研究」(対象を2つのグループに分け数年後にどれだけ違いがあったかを検証する方法)で検討されていますから、それなりにエビデンスレベルは高いと言えます。医学誌「BMC Medicine」2024年7月18日号に掲載された論文「砂糖摂取と認知症リスクの関連性:210,832人の参加者を対象とした前向きコホート研究(Associations of sugar intake, high-sugar dietary pattern, and the risk of dementia: a prospective cohort study of 210,832 participants)」を紹介します。

 研究の対象者は英国のデータベース「UK Biobank cohort」に参加した210,832人で、平均年齢は56.08±7.99歳、116,153人(55.09%)が女性です。食事中の糖質の相対摂取量(%g/kJ/日)がどれだけ認知症のリスクにつながるかが調べられました。結果、糖質の摂取量が多ければ認知症全体では31.7%のリスク上昇、アルツハイマー病では24%リスクが上昇することが分かりました。

 興味深いことに、ApoEε4で調べると、ヘテロでもつ(ApoEε4を1つもつ)場合に、糖の摂取が最もリスクになることが分かりました。なぜ、ホモでもつ(ApoEε4を2つもつ)ときにリスクが低下しているのかは不明ですが、サンプル数が少なくて正確な結果がでない可能性が指摘されています。

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 砂糖を含む製品にもいろいろあり、生のフルーツが本当に認知症のリスクになるのかについては結論を出さない方がいいでしょう。確実にリスクとなる砂糖を含む製品は「砂糖入り飲料」です。

 

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2024年9月6日 金曜日

2024年8月29日 エムポックスよりも東部ウマ脳炎に警戒を

 2年ぶりにエムポックスが大きな流行を見せたということで、一部の世論が大騒ぎしているようですが、たとえ海外渡航が多い人でも現時点ではそう心配する必要はありません。一方、現在米国に渡航するなら最大限の警戒をしなければならないのが東部ウマ脳炎です。

 まずはエムポックスからみていきましょう。「2022年に流行したタイプと異なり、重症型が流行り出した」と世間では言われているようですが、これは必ずしも正しくありません。報道論文から下記にエムポックスを分類してみます。

 「クレード」という言葉は「タイプ」と考えてもらって差支えありません。また、DRCはコンゴ民主共和国のことなのですが、この言い方は西隣のコンゴ共和国と混乱してしまいますから、ここではDRC(=Democratic Republic of the Congo)とします。なお、この国のかつての名称「ザイール共和国」の方が今も名は通っていると思います。

クレードⅠa:DRCの中央部から西部で以前より報告がある。小児に多く重症化する。致死率は10%とも言われている

クレードⅠb:DRCの東部で比較的最近流行が始まり、これが現在世界のメディアで話題になっている。感染者のほとんどが成人で、性感染による。感染者の1/3が女性のsex worker。致死率は0.6%と低い。現在、DRCのみならず隣国の ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、さらに隣国のケニアに広がり、感染した旅行者がスウェーデンとタイで発覚

クレードⅡ:2022年5月ナイジェリアより広がったタイプ。世界116ヵ国で以上約10万人感染し208人が死亡。ゲイが多数。致死率は3.6%とされる

 「2年前のタイプと異なり、今流行しているタイプは恐ろしい」と言われていますが、こうやって数字をみてみると、むしろ2年前のタイプ(クレードⅡ)よりも致死率が低いことが分かります。ただし、この疾患はまだまだ分かっていないことが多く、そもそもアフリカ諸国の統計がどこまで正確か、という問題があります。また、クレードⅠaの致死率が高いのは、死亡者が「不衛生な環境に置かれた小児」であることを考慮しなければなりません。

 目下のところ、エムポックスは、性的接触などヒトとの濃厚な接触に注意していれば充分だと思われます。ただし、2年前とは異なり「男性・男性間」だけでなく、その他の”組み合わせ”の場合も気を付けた方がいいでしょう。

 あまり注目されていないようですが、現在最も注意しなければならない感染症のひとつが(米国に渡航した場合ですが)、東部ウマ脳炎です。この感染症、感染すれば極めて重症化します。致死率は33%、助かっても何らかの後遺症を残すと言われています。

 感染経路は「蚊」です。蚊対策といえば東南アジアや中南米でのデング熱などの対策が重要なことは有名ですが、実は北アメリカの東部でも必要になります。

 最近、米国マサチューセッツ州で夜間外出禁止令(curfew)が発令されました。同州は東部ウマ脳炎の好発地区で、報道によると、同州で2019年から2020年にかけて東部ウマ脳炎を発症したのは17人、うち7人が死亡しています。
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 新型コロナウイルスの流行が終わり、入れ替わるようにデング熱が猛威をふるっています。蚊対策は思いのほか面倒で「蚊対策が大変だから渡航先を変える」という人もでてきています。米国は安心だと思われていますが、一部の地域では蚊のせいで「夜間外出禁止令」が出されているのが現状です。

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