はやりの病気
第257回(2025年1月) 「超加工食品」はこんなにも危険
「超加工食品」という言葉が日本語として正しいのかどうか分かりませんが、海外メディアではここ数年「ultra-processed foods」という言葉が繰り返し登場しています。ここではとりあえず「超加工食品」という言葉を採用して、これがどれだけ魅力的か、そしてどれだけ危険かを振り返ってみたいと思います。
まずは言葉からみていきましょう。超加工食品という言葉は、2009年、ブラジルのCarlos Monteiro医師によって提唱されました。Monteiro医師はすべての食品を加工の程度によって分類することを試みました。この分類を「NOVA分類(≒新分類)」と呼びます。
NOVA分類は当初は3つのカテゴリーでした。
<グループ1>加工されていない、または最小限に加工された食品(unprocessed or minimally processed foods):野菜、米、牛乳、卵、魚など
<グループ2>加工された原材料(processed ingredients):砂糖、小麦粉など
<グループ3>超加工食品(ultra-processed food products):パン、ソーセージ、チーズ、缶詰など
2017年に4つのカテゴリーに再分類されました。
<グループ1>加工されていない、または最小限に加工された食品(unprocessed or minimally processed foods):果物、野菜、ナッツ、種子など
<グループ2>加工された料理用原材料(Processed culinary ingredients):砂糖、植物油、バター、塩など
<グループ3>加工食品(Processed foods):缶詰野菜、チーズ、できたてのパン(freshly made breads)など
<グループ4>超加工食品(Ultra-processed foods):スナック菓子、ソーダ、即席ラーメン、冷凍ピザ、大量生産のパン(mass-produced packaged breads)など
2017年分類の「グループ4=超加工食品」を毎日のように食べている人も少なくないのではないでしょうか。日本人がグループ4をどれくらい摂取しているのかを示したデータは見当たりませんが、米国では食品の約60%を占めていて、子供や10代の若者に限ればその割合はさらに高く、食べているものの約3分の2が超加工食品だとされています。
では、超加工食品を摂取すれば何が悪いのでしょうか。第二次トランプ政権で保健関連の要職につくとされているロバート・F・ケネディ(RFK)・ジュニアは「反ワクチン派」であることから科学者や医療関係者からは否定的にみられていますが、以前から超加工食品を「毒」とみなしていて、この点は世界中で評価されています。
「毒」という表現が適しているかどうかは別にして、超加工食品を否定的にみているのはRFKジュニアだけではありません。
コロンビアは2023年11月、超加工食品に課税することを発表しました。ブラジル、カナダ、ペルーなどは超加工食品の摂取を制限するよう勧告しています。
では超加工食品のいったい何が悪いのでしょうか。
まず、超加工食品の摂取割合が増えれば確実に太ります。それを示した研究もあります。
肥満でない20名の被験者(平均年齢31.2歳、BMI27)を2つのグループに分け、一方のグループには超加工食品を、もう一方のグループには未加工食を2週間食べてもらいました。食事は、カロリー、主要栄養素、糖分、ナトリウム、繊維質が一致するように設計されました。どれだけ食べるかは被験者の自由とされました。
結果、超加工食品摂取のグループは毎日500Kcal多く摂取していました。炭水化物と脂肪を多く摂っていて、蛋白質は未加工食のグループと差がありませんでした。超加工食品のグループは体重が0.9kg増え、対照的に未加工食のグループでは0.9kg減っていました。
では、なぜ我々は超加工食品をたくさん食べてしまうのでしょう。当然すぎる答えですが「美味しいから」です。超加工食品には「脂肪と糖分」「脂肪と塩分」「炭水化物と塩分」のいずれかの組み合わせが多く、これを英紙「エコノミスト」は「”超嗜好性”ミックス(”hyper-palatable” mixes)」と呼んでいます。
興味深いことに、これらの組み合わせは自然界には存在しません。そして食べやすい形と柔らかさが特徴です。超加工食品はたいてい袋をあければすぐに食べられますし、やわらかいですから食べるスピードが早くなります。早く食べてしまうと、満腹中枢が働き始めるころにはすでに後の祭り、となってしまっているわけです。
超加工食品は太るだけではありません。寿命も縮めます。米国の健康な男性の医療者39,501人と女性看護師74,563人を対象とした興味深い研究を紹介しましょう。
30年以上に渡る調査期間で死亡したのは男性18,005人と女性30,188人。超加工食品の消費量でグループを4つにわけると、最も多い1/4のグループは最も少ない1/4のグループに比べ、全死亡率が4%高くなっていました。がんと心血管疾患を除くと9%高くなっていました(つまり、意外ではありますが、超加工食品を摂取してもがんと心血管疾患の死亡は増えなかったのです)。
肉/鶏肉/魚介類(Meat/poultry/seafood)をベースにした調理済み製品(加工肉など)は、死亡率との強い関連性を一貫して示し、6~43%の死亡リスク上昇が認められました。砂糖や人工甘味料を加えた飲料では9%、乳製品ベースのデザートでは7%上昇していました。
肥満と死亡リスクの上昇以外にも様々なリスクがあります。食事中の超加工食品摂取量が多い上位10%の人は、不眠を抱えるリスクが男性で9%、女性で5%上昇するという研究があります。
不眠が生じるなら「うつ病」も起こしそうです。そしてそれを示した研究もあります。米国の42~62歳(平均52歳)の女性看護師31,712人を対象とした研究を紹介しましょう。まず、超加工食品摂取量が多ければ、BMIが高く、喫煙率が高く、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの併存疾患の有病率が高く、定期的に運動する可能性が低いことがわかりました。そして、うつ病については、狭義のうつ病発症者は2,122人、広義では4,840人が該当しました。
超加工食品摂取量で対象者を5つのグループに分けたとき、最も摂取量の多い1/5のグループは、最も少ない1/5のグループと比較して、狭義のうつ病発症リスクが49%、広義のうつ状態の発症リスクは34%上昇していました。興味深いことに、この研究ではどのような超加工食品がうつ病のリスクとなるかも検討されています。特に顕著だったのが人工甘味料入り飲料で37%、人工甘味料も26%のリスク上昇が認められました。
超加工食品の摂取を1日3回以上減らした人は、摂取量を変えなかった人に比べてうつ病発症のリスクが16%低下していました。
超加工食品は不眠やうつ病だけでなく認知症のリスクにもなります。医学誌「Neurology」に発表された研究は米国の全国規模の2つのデータベースを解析しています。加工赤身肉の摂取量を1日あたり0.25サービング以上摂取している人は、1日あたり0.10サービング未満の人と比較して、認知症のリスクが13%高く、SCD(Subjective Cognitive Decline=主観的認知機能低下)は14%高くなっていました。SCDとは最近提唱された概念で「試験では認知症ではないが、本人が認知症かもしれないと考えている段階」のことです。サービングについては「1サービング=一皿」と考えてOKです。加工赤身肉の摂取量が多いと、全般的な認知能力の老化が加速することも分かりました。1日1サービングの増加につき1.61歳老化が加速します。言語記憶の能力(単語や文章を理解して記憶する能力)は1.69歳老化します。
興味深いことに、一日一食分の加工赤身肉をナッツ類や豆類に置き換えると、認知症のリスクが19%、SCDのリスクが21%低下することが分かりました。また、加工されていない赤身の肉であれば、認知症のリスクを上げないことも分かりました。
英国のデータベースを用いて実施された研究もあります。結果は米国のものと同じようなもので、加工肉の摂取量が1日あたり25g増えるごとに、全認知症発症リスクが44%、アルツハイマー病発症リスクが52%増加します。対照的に、未加工の赤身肉の摂取量が1日あたり50g増加すると、全認知症発症リスクが19%、アルツハイマー病発症リスクが30%低下します。加工(赤身)肉とは、ベーコン、ホットドッグ、ソーセージ、サラミ、ボローニャソーセージなどです。
どうやら心身ともに健康で長生きするには「いかに超加工食品の誘惑を断ち切るか」が鍵になりそうです。
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