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2025年11月27日 「コーラ1本で寿命が12分縮まる」は本当か

 コーラを代表とする加糖飲料が非常に危険であることが次第にクローズアップされるようになってきました。もっとも、1970年頃には虫歯を起こしやすいことや、1980年代には骨が脆くなることも繰り返し指摘されてきました。しかし、そのような警告にも関わらず甘い飲み物は若い世代のみならず、高齢者の一部の人たちにも支持されてきました。

 ところが数年前から、加糖飲料の危険性を指摘する声が次第に大きくなってきています。これはおそらくコカ・コーラ社が多大な金額を投資して、コーラは有害であることを隠蔽していたことが明るみに出たことと関係しています。同社はお抱え学者に巨額の資金を渡し、同社にとって都合のよい研究報告をさせ、甘い飲み物の有害性を隠すための学術団体もつくっていたことが発覚したのです。

(このあたりについては毎日メディカルのコラム「がん、認知症、心血管疾患のリスクが上がる!? 虫歯、肥満だけじゃない砂糖の有害性」にまとめました)

 最近、「コーラ1本で寿命が12分縮まる」という噂がまことしやかに広がっているようです。これが事実かどうかを調べてみると、エビデンスと呼べるようなものはありませんでした。しかし、有害性を指摘する調査は複数存在します。

 医学誌「nature medicine」2025年1月6日号に掲載された論文「184か国における加糖飲料に起因する2型糖尿病および心血管疾患の負担(Burdens of type 2 diabetes and cardiovascular disease attributable to sugar-sweetened beverages in 184 countries)」を紹介しましょう。

 2020年には、世界中で新たに2型糖尿病を発症した220万人、新たに心血管疾患を発症した120万人は加糖飲料が原因であることがわかりました。これは全発症例の、それぞれ9.8%、3.1%に相当します。加糖飲料でこれら疾患を発症するのは、女性より男性、高齢者よりも若年者、低学歴者よりも高学歴者、地方在住者よりも都心部居住者に多いことがわかりました。特に「低学歴者よりも高学歴者」は注目に値します。一般に、高学歴者の方が健康に関する知識量が多いと考えられているからです。

 次に、AAAS(American Association for the Advancement of Science=米国科学振興協会)が発信するニュースサイト「EurekAlert!」に掲載された記事「人工甘味料入り飲料と加糖飲料は、いずれも肝疾患のリスク増加と関連していることが研究で明らかに( Artificially sweetened and sugary drinks are both associated with an increased risk of liver disease, study finds)」をみてみましょう。

 研究の対象者は英国のデータベース「バイオバンク」に登録された123,788人で、食事質問票を用いて人工甘味料いり飲料と加糖飲料の摂取量が評価され、脂肪肝や肝疾患での死亡リスクが検証されました。結果、人工甘味料いり飲料と加糖飲料の摂取量が多い場合(1日250g以上)、脂肪肝(正確にはMASLD=Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease=代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の発症リスクがそれぞれ60%、50%上昇していました。中央値10.3年間の追跡調査期間中、1,178人が脂肪肝を発症し、108人が肝臓関連の原因で死亡しました。

 では、加糖飲料の何が問題なのでしょうか。まずカロリーはさほど高くありません。

 350mL1本のカロリーは150キロカロリー程度です。例えば、カフェ・オ・レ1杯(150mL)で100キロカロリー以上あることを考えると、単純計算でコーラはカフェ・オ・レの同量の4割程度しかありません。人工甘味料飲料ならカロリーはほぼゼロです。ですから、カロリーが問題ではありません。

 加糖飲料の問題はカロリーではなく砂糖です。350mLのコーラ1本に含まれる砂糖は約40グラム、角砂糖13.5個に相当します(角砂糖1個は約3g)。尚、英国NHS(National Health Service)は、成人の1日の砂糖許容量を30g(NHSは角砂糖7個としていますが、これは日本とサイズが異なるからでしょう)。

 日中に身体がだるくなる人は加糖飲料が原因かもしれません。これだけ大量の砂糖を一気に摂取すると、血糖値が急上昇し、このときには気分がよくなりますが、その後急降下します。このときにだるさや眠気、あるいはイライラや不安感が生じるのです。そして、一気に大量に吸収された砂糖は肝臓に運ばれ、脂肪肝を形成することになります。

 コーラに依存性があるのはその過剰な糖分だけではありません。カフェインが急激に吸収されることも原因です。過剰な糖分+カフェインのコンビネーションが脳の報酬系、あるいは「快楽中枢」とも呼ばれる側坐核を活性化させます。これが、単なる砂糖水にはないコーラに強い依存性がある理由です。カフェインといえばコーヒーを思い出す人が多いでしょうが、たいていコーヒーはゆっくりと飲まれます。コーラとの大きな違いです。

 人工甘味料には砂糖は使用されていませんが、上述したように、脂肪肝のリスクは加糖飲料よりも高くなります。砂糖であろうが、人工甘味料であろうが、甘い飲み物は可能な限り控えるべきであることが分かります。どうしても飲みたいときには食事と共にゆっくりと味わうのがいいでしょう。

 

 

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