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2024年6月30日 マルチビタミンで死亡率上昇?

 2007年の開院以来、谷口医院には数多くのサプリメントに関する相談が寄せられています。当院の方針としては、ほとんどのサプリメントにおいて「必ず摂取してください」とも「してはいけません」とも言いません。その時点で分かっているエビデンスについて説明するだけです。

 ですが、例外的に「摂取してください」とするものと「摂取してはいけません」と伝えているものがいくつかあります。

 最も「摂取してください」と助言しているのはビタミンDです。2007年の時点でははっきりしていませんでしたが、その後、食事からの摂取では限度があることがよりはっきりしてきました。谷口医院のスタッフの健診でもビタミンDのサプリメントを摂取していない人で基準量に達していた人はほぼゼロです。日本人を対象とした疫学データをみても、8~9割の日本人は規定量に達していません。

 他方、「摂取してはいけません」の代表は、小林製薬の事件にもなった「紅麹」です。これはそもそも国によっては禁止されているスタチンですし、高いお金を出さなくても安全なスタチンが保険で処方できるからです。わざわざ高いお金を出して危険なスタチンを内服する意味がないわけです。

 紅麹ほどではないにせよ、質問されれば「やめた方がいいのでは?」と助言することが多いのがウコンです。使用者の数を考えれば割合は少ないとは言えますが、肝不全を起こすことがあり海外では死亡例も出ています。米国豪州イタリアでは危険性が公表されています。

 さて、前置きが随分と長くなりましたが、今回お伝えしたいのは「マルチビタミンは死亡率を減らさない」とした論文、医学誌「JAMA」2024年6月26日号に掲載された「3つの米国前向きコホートにおけるマルチビタミンの使用と死亡リスク(Multivitamin Use and Mortality Risk in 3 Prospective US Cohorts)」です。

 この研究は対象者の数が多いため、エビデンスレベルは高いと言えます。米国の健康な成人390,124人を対象に20年以上追跡され、「マルチビタミンを毎日摂取しても死亡率が減らない」ことが分かりました。

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 マルチビタミンは意味がないのになぜビタミンDは必要なのか、と疑問に感じる人もいるでしょう。実は、当院では推奨しているビタミンDも「摂取すれば死亡リスクが減る」ことを示したエビデンスレベルの高い研究があるわけではありません。

 それに、ビタミンDはかつては骨折や骨粗しょう症を予防するとされていましたが、この考えは現在では完全に否定されています。では、ビタミンDは何に役立つのでしょう。アレルギー疾患を予防する、感染症を予防する、コロナ後遺症のリスクを減らす、などいろいろと言われますが、これらを証明した大規模研究があるわけではありません。

 ではなぜ必要なのか。骨折を例にとれば、ビタミンDのレベルが少なければ骨が脆くなるのは事実です。しかし、大規模調査でみればビタミンD摂取が骨折を減らすわけではありません。これはどういうことでしょうか。「社会全体でみればみんながビタミンDを摂取しても全体の骨折が減るわけではないけれど、個人でみればビタミンDが少ない人は骨折しやすいですよ」と解釈するしかありません。

 摂取の適正基準値が本当に正しいのか、という問題もありますが、決められた量に達していなければ不安になります。えらそうに言っている私自身もその程度の知識しかないことをここで告白しておきましょう。

参考:はやりの病気
第248回(2024年4月) 危険なサプリメント
第188回(2019年4月) ビタミンDが混乱を招く2つの理由

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