医療ニュース
2014年4月28日 月曜日
2014年4月28日 MERS、感染者も死亡者も着実に増加
このサイトで何度かお伝えしているMERS(中東呼吸器症候群)は、まだ日本人の発症者がいないこともあり日本のマスコミではほとんど報道されていないようですが、医療者の間では次第に注目度が高くなってきています。ビジネスや観光で中東に渡航する人も少なくありませんから、太融寺町谷口医院でも中東方面に渡航する人には注意を促すようにしています。
前回MERSについてお伝えしたのは2013年12月ですが、この時点での世界での感染者は160人でそのうち死亡者は68人でした。この数字が着実に増加しています。WHOの発表によりますと、2014年4月24日現在までに報告された感染者数は243人で死亡は93人に昇っています(注1)。
MERSの原因はコロナウイルスの一種で発生源は中東です。これまでの感染者は中東諸国の人々とヨーロッパ人でした。ヨーロッパ人の感染者の大半は中東に渡航したときに感染していますが、渡航していないヨーロッパ人にも感染例があります。感染力は弱いもののヒトからヒトへの感染もあるからです。またサウジアラビアでは患者からの院内感染で看護師や別の患者に感染した例も報告されています。
中東とヨーロッパに限られていたMERSの報告ですが、今月(2014年4月)にはマレーシアでの感染が報告されています。50代のマレーシア人男性が2014年3月にサウジアラビアに旅行に行き、帰国後発症し医療機関を受診してから1週間以内に死亡したようです。この男性はサウジアラビア渡航中にラクダと接触していたことが判っており、そのラクダからの感染が疑われているようです。
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同じコロナウイルスが原因のSARS(重症急性呼吸器症候群)がアウトブレイクしたのは2002年ですが、その後1年もたたない間に(なぜか)終息しその後は鳴りを潜めています。ちなみにSARSでは合計8,069人が感染しそのうち775人が死亡しています。死亡率は9.6%ということになります。
一方、MERSは2012年9月に初の報告があり、それから1年半以上が経過し、じわじわと着実に増えています。SARSの感染力は大変強く、ヒトからヒトに一気に広がったのに対し、MERSはヒトからヒトへの感染力は強くなく感染者数の増加のスピードはゆるやかです。しかし死亡率は4割近くに昇ります。
MERSの動物の感染源は、ラクダはほぼ確実のようですが、他の動物も安心はできません。また感染力が弱いとはいえヒトからヒトへの感染もある以上、人混みは危険かもしれませんし、何らかの事情で中東の病院を受診することになったときには院内感染の可能性もでてきます。MERSにはワクチンがありませんし治療薬もありません。中東方面に渡航される方はWHOのサイトや外務省の「海外安全ホームページ」(注2)などを参照し、情報収集と充分な対策が必要でしょう。
注1:WHOの下記ページを参照ください。
http://www.who.int/csr/don/2014_04_24_mers/en/
注2:外務省の「海外安全ホームページ」の該当ページは下記URLを参照ください。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo.asp?infocode=2014C143
参考:医療ニュース
2013年12月2日「MERSの最新情報」
2013年6月28日(金)「新型コロナ(MERS)の最新情報」
2013年5月27日(月)「新型コロナ、人から人への感染がほぼ確実・・・」
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|2014年4月28日 月曜日
2014年4月28日 豆類がコレステロールを下げる
「まごわやさしい」というのは、愛媛大学の吉村裕之医師が提唱された健康にいい食事の覚え方です。簡単に解説しておくと、ま(マメ)、ご(ゴマ)、わ(ワカメ)、や(野菜)、さ(魚)、し(しいたけ)、い(イモ)をバランスよく食べることが健康につながる、というものです。
食事に関する最近の流行りは「糖質制限」で、一部の患者さんは、あたかも糖質を「毒」のように考えていて、いかに食事から糖質を除去するかに躍起になっていて驚かされます。糖質制限はたしかにダイエットにも糖尿病にも効果がありますが、極端な制限は危険であり、いったん成功した人も長続きせずに元の木阿弥に・・・、ということも少なくありません。
一方、「まごわやさしい」のようにバランスよく身体にいいものを食べるという方法には危険性がありませんし、長続きさせることも可能です。「まごわやさしい」は、伝統的な和食から摂取できるものばかりですし、実際に提唱者の吉村医師はそれを主張されているそうです。
2013年12月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により和食が「無形文化遺産」に登録されました。これは日本人としてもちろん喜ばしいことでありますが、最近の世界の医学界では日本料理が<健康食>ともてはやされたのはすでに過去の話であり、現在ではそれほど注目されていないような印象が私にはあります。
そして日本料理よりもずっと健康であると位置づけられているのが地中海料理です。その地中海料理についてはいずれ詳しく取り上げたいと思いますが、ここでは、和食と同様に材料に「ごまわやさしい」が豊富に使われていることと、ナッツ(豆類)については日本料理以上に使われていることを指摘しておきたいと思います。
前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは「豆類がコレステロールを下げる」ということです。
医学誌『Canadian Medical Association Journal』2014年4月7日(電子版)に掲載された論文(注1)に豆類がコレステロールを下げるという研究結果が掲載されています。もっとも、豆類のコレステロール低下効果については以前から指摘されていました。今回の研究では、過去に豆類摂取とコレステロール低下について調査された研究を総合的に分析(メタ分析)することにより検証がおこなわれています。
研究者は、これまでに発表されている合計26件の疫学調査を分析しています。対象者は合計1,037人です。豆類を摂取したグループ(摂取量の中央値は130グラム/日)は、摂取しなかったグループに比べてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値が有意に低下していたそうです。グループ間でのLDLコレステロールの差は平均で6.58mg/dL(0.17mmol/L)だったそうです。
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豆やナッツは油分が多いので太るとか肌荒れをするとか言う人がいますが、おそらくこれらは都市伝説のようなものではないかと私はみています。少なくとも私自身は豆やナッツで肥満になるとか肌荒れを起こすとかいった科学的な論文をみたことがありません。しかし、アーモンドやピーナッツを食べ過ぎると翌日に必ず肌荒れをおこす、という人はけっこう多い印象があります・・・。
コレステロールを下げるには「スタチン」と呼ばれるグループの薬を使うのが最も一般的な方法で、副作用がないわけではありませんがスタチンの有用性はかなり社会に浸透してきており、欧米ではまだコレステロールが高くない人も予防的に内服すべきではないか、という議論もある程です。(いずれスタチンについても詳しく取り上げたいと思います)
しかし、スタチンがいくら安全で有用性の高いものであったとしても、食事でコレステロールを安定させることの方が重要なのはあきらかでしょう。日本料理でも地中海料理でも豆類やナッツを積極的に加えてみてはどうでしょう。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Effect of dietary pulse intake on established therapeutic lipid targets for cardiovascular risk reduction: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials」で、下記のURLで概要を読むことができます。ちなみに「豆」の英語は一般的にはbeanを使いますが、「豆類」というときには(dietary) pulseと言います。私は以前このことを知らなくてpulseを「脈拍」もしくは「パルス療法(薬剤を大量の投与する治療法)」のことと思い込んで論文がまるで理解できなかったことがあります。
http://www.cmaj.ca/content/early/2014/04/07/cmaj.131727
参考:
医療ニュース2014年1月6日「ナッツを毎日食べると健康で長生き」
メディカルエッセイ第133回(2014年2月)「スタチンの功罪とリンゴのことわざ」
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|2014年4月14日 月曜日
2014年4月14日 妊婦・授乳婦・乳児のマクロライド系抗菌薬のリスク
前回は、妊婦さんがアセトアミノフェンを服用すると生まれてくる子どものADHDのリスクが上がるかもしれない、という研究結果をお伝えしましたが、今度は抗生物質(抗菌薬)のリスクについて最近発表された研究を紹介したいと思います。
妊婦や授乳婦、乳児がマクロライド系抗菌薬を使うと、幽門狭窄症に罹患するリスクが上昇する・・・
医学誌『British Medical Journal』2014年3月11日号(オンライン版)(注1)にこのような研究が報告されました。幽門狭窄症とは、胃の出口(十二指腸の手前)の筋肉が肥厚して内腔が閉塞し、食べたものがつまってしまう疾患です。食後の嘔吐で発覚されることが多く、徐々に進行することもあれば突然発症することもあります。治療は、飲み薬で治ることもありますが、手術になることが多いといえます。
研究では、1996年から2011年に出産した母親999,378人とその子どもが対象とされ、マクロライド系抗菌薬の使用と幽門狭窄症発症との関係が調べられています。これらの母親のうち30,091人(3.0%)が妊娠中に、21,557人(2.2%)が出産から分娩120日までにマクロライド系抗菌薬を使用し、6,591人(0.6%)の乳児が生後120日までに投薬されていたそうです。
妊婦・授乳婦・乳児のリスクは次のようになったそうです。数字は、マクロライド系抗菌薬を使わなかった場合に比べて幽門狭窄症に罹患するリスクが何倍になるかを示しています。
<乳児>
・生後0~13日に使用 29.8倍
・生後14~120日に使用 3.24倍
<授乳婦>
・分娩0~13日の使用 3.49倍
・分娩14~120日後の使用 リスクなし
<妊婦>
・妊娠0~27週の使用 1.02倍
・妊娠28週から分娩までの使用 1.77倍
この研究の対象となった母子に使われたマクロライド系抗菌薬は、エリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、スピラマイシンだったそうで、最も多く使われたのはエリスロマイシンだったそうです。
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抗菌薬は使わないに超したことはなく、ウイルス性の感冒ではもちろん使いませんし、細菌性のものであっても重症でなければ使うべきではありません。しかし、どうしても使わざるをえないケースもあります。例えば、乳児が百日咳に罹患すると、咳が重症化し呼吸が止まることもありますから抗菌薬が必要になります。百日咳にはマクロライドがよく効きますからこの場合は使わざるを得ないでしょう。百日咳はワクチンで防げる病気ですが、第1回目のワクチン接種は生後3ヶ月以降になります。
妊婦さんでときどき問題になるのが、クラミジア子宮頚管炎が妊婦健診などで発覚する場合です。地域にもよりますが、若い妊婦さんの10%近くが妊婦健診でクラミジアが発覚するという報告もあるくらいですから、決して珍しい感染症ではありません。そして、クラミジア子宮頚管炎が見つかった場合、マクロライド系抗菌薬を使わざるをえません。(クラミジアに有効で、かつ妊婦さんに使える抗菌薬はマクロライド系しかありません)
妊婦さんがクラミジア子宮頚管炎に罹患した場合、早期破水や早産のリスクになることが知られていますし、そもそもクラミジアという細菌が多数増殖した子宮のなかで赤ちゃんを育てるべきでないのは自明でしょう。しかし一方で、治療薬であるマクロライド系抗菌薬を用いると幽門狭窄症のリスクにつながる、というわけです。もちろん、一番いいのは妊娠する前にきちんと検査を受けておくことです。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Use of macrolides in mother and child and risk of infantile hypertrophic pyloric stenosis: nationwide cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g1908
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|2014年4月4日 金曜日
2014年4月4日 妊娠中のアセトアミノフェンがADHDを招く?
妊婦さんが風邪をひいて受診、妊婦さんが耐えられない頭痛で受診、ということは太融寺町谷口医院でもよくあるのですが、妊婦さんに対する薬にはいくら注意してもしすぎることはありません。妊婦さんに薬を処方することもありますが、「絶対に何も問題がありません」と言って出せる薬はありません。妊婦さんに処方することのある薬も、伝統的に妊婦さんにも使われていて特に副作用の報告がないようなものに限られます。
風邪をひいたときの発熱や咽頭痛に、あるいは慢性の頭痛や関節痛のある妊婦さんに処方できる薬といえばアセトアミノフェンになります。アセトアミノフェンは新生児にも使うことがありますし、あらゆる解熱鎮痛剤のなかでもっとも安全だと言われています。(アセトアミノフェンの詳細については下記コラム「鎮痛剤を上手に使う方法」を参照ください) アセトアミノフェン以外では漢方薬を用いることもありますが、インフルエンザを含む風邪症状によく用いる麻黄湯は動悸を生じることがあるため、妊婦さんには少し処方しにくいと言えます。葛根湯あたりであれば比較的処方されやすいですが、それでも動悸などの副作用がないわけではありません。
そのアセトアミノフェンについて、妊婦さんが内服すると出生児がADHD(注意欠陥多動性障害)を発症するリスクが上昇するという研究が米国UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のZeyan Liew氏らによりおこなわれ、医学誌『JAMA Pediatr』2014年2月24日(オンライン版)(注1)に掲載されました。
この研究は、デンマークの周産期母児合併症に関する調査(Danish National Birth Cohort)に参加した合計64,322人の妊婦さんが対象です。妊娠中のアセトアミノフェン内服と、出生児のADHDリスクとの関連性が検討されています。
調査の結果、まず妊婦さんの半数以上(56%)がアセトアミノフェンを妊娠中に内服していたことが判りました。妊娠中にアセトアミノフェンを内服していた場合、内服していなかった場合に比べて、子どもがADHDの診断を受けたり、薬物療法が開始されたりする割合が有意に高かったようです。(具体的には、出生児が多動性障害(hyperkinetic disorder、HKD)と診断されるリスクが1.37倍、ADHDの薬物療法が開始されるリスクが1.29倍、7歳の時点でADHDを疑う問題行動を生じるリスクが1.13倍とされています)
また、妊婦さんがアセトアミノフェンを内服した期間が長いほど、内服量が多いほど、これらのリスクは上昇したそうです。
このような結果に対し、研究者らは、アセトアミノフェンが胎盤関門を通過できることを指摘し、アセトアミノフェンに内分泌攪乱作用があり、性ホルモンや甲状腺ホルモンといった母体から分泌されるホルモンに影響を与えるのではないか、あるいはアセトアミノフェン自体が何らかの神経毒性があるのではないか、と考察しています。そして、「アセトアミノフェンを妊娠中の安全な薬と考えるべきではない」と述べています。しかし同時に、「さらなる研究が必要である」とも述べています。
この研究に対し、英国ウエールズのCardiff UniversityのMiriam Cooper氏は、同じ医学誌にコメントを載せています(注2)。Cooper氏は、妊娠中のアセトアミノフェンと神経発達異常との関連性について否定はしていませんが、「因果関係を断じるには時期尚早であり、現時点で臨床を変えてはならない、つまり、慎重さは必要だが従来通りアセトアミノフェンを必要な症例においては使用すべき」、という見解を述べています。
*****************
激しい痛みや高熱を我慢すれば、その我慢が母体にストレスを与え胎児に影響を及ぼす可能性が出てきます。もちろん薬は安易に使うべきではありませんが、内服するメリットと薬の副作用のリスクをよく考えた上で、必要と判断されれば使うべきです。
今後のさらなる研究を待ちたいと思います。
(谷口恭)
参考:メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
注1:この論文のタイトルは「Acetaminophen Use During Pregnancy, Behavioral Problems, and Hyperkinetic Disorders」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1833486&resultClick=3
注2:この論文(論評)のタイトルは「Antenatal Acetaminophen Use and Attention-Deficit/Hyperactivity DisorderAn Interesting Observed Association But Too Early to Infer Causality」で、下記URLで一部を読むことができます。
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1833483&resultClick=3
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