医療ニュース

2013年6月29日 土曜日

2013年4月1日(月) 自殺が多いのは、男性は公務員、女性は医療・福祉

 2013年3月6日に厚労省が公表した「平成22年度 人口動態職業・産業別統計の概況」というものがあり、ここに産業別の死因のデータがあります。この調査は、平成22年4月1日から平成23年3月31日までの期間に死亡し届出がおこなわれたものが解析されています。尚、この調査は5年に一度おこなわれています。

 勤労者の自殺が依然多いことがよく指摘されますが、この調査では産業別の自殺者の割合が算出されています(注1)。

 女性で自殺が最も多い産業は「医療・福祉」で全死亡の11.4%に相当します。(医療・福祉に従事する全死亡者数が1,604人で、そのうち自殺が183人) 2位が「公務員」の9.9%です。

 男性では、最も自殺の割合が高いのは公務員で16.6%です。(公務員の全死亡者数が2,012人で、そのうち自殺が333人) 2位が「複合サービス業」の14.3%(「複合サービス業」が何を指すのかについてはよく分かりません)、3位が「電気・ガス・熱供給・水道業」の11.1%です。「医療・福祉」は8.7%(217人)でこれは13位になります。

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 ちなみに、前回の2005年度の調査では、「医療、福祉」関係者の死因が「自殺」だった割合は、女性が10.8%、男性が8.0%です。上記で述べたように、今回(2010年)は、女性、男性それぞれが11.4%、8.7%ですから、自殺で死亡する人の割合は男女とも増えているということになります。

 この数字だけをみると、医療・福祉の現場では女性の方に自殺者が多いように感じてしまいますが、自殺者数でみると、女性183人、男性217人と男性の方が多くなっています。

 就職が困難と言われるなか、女性は医療・福祉関連の職種を目指す人が増えています。最近では30代で看護学校に入学する人がまったく珍しくなくなっていますし、介護関連は40代からのチャレンジも少なくありません。また、新卒者の最も人気のある職種が公務員であるとする調査もあります。一方で、自殺が多いのがその「医療・福祉」と「公務員」というのは何やら皮肉な感じがします・・・。

(谷口恭)

注1:このデータは厚労省の下記のURLでみることができます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/10jdss/dl/03.pdf

参考:医療ニュース
2013年1月31日「自殺者が3万人を切ったものの・・・」
2012年5月11日「20代女性の3人に1人は「自殺」を・・・

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2013年6月29日 土曜日

2013年4月2日(火) 座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク

 座っている時間の長い人が糖尿病や心疾患といった慢性疾患のリスクになるという情報は過去何度かお伝えしていますが(下記医療ニュースも参照ください)、新たに研究が発表されましたので報告いたします。

 一日に座っている時間が長いほど、糖尿病や高血圧、心疾患、ガンなどに罹患しやすい・・・。

 これは、医学誌『International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity』2013年2月8日(オンライン版)に掲載された論文(注1)によるものです。

 この研究は、オーストラリアのニューサウスウェールズ州に在住する45~65歳の男性63,048人を対象とし、慢性疾患の有無と一日に座って過ごす時間との関係が調べられています。

 結果は、座っている時間が1日4時間以下の人は、毎日4時間以上座って過ごす人に比べて、ガン、糖尿病、心疾患、高血圧などの慢性疾患を有する率が大幅に低い、というものです。特に糖尿病については、1日6時間以上座って過ごす人はリスクが大幅に増加するようです。

 尚、対象者の運動の程度や所得、教育レベルなどを勘案しても結果に変わりはなかったようです。

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 この研究で興味深いのは、「運動の有無にかかわらず座りっぱなしの生活が慢性疾患のリスクを上げる」、としていることです。座りっぱなしの時間が長い人、と聞くと、運動が嫌いで1日中テレビを見て、どちらかと言うと低所得者のイメージを持ってしまいますが、そのような人だけではなく、座る時間が長ければ他の条件に関わりなく生活習慣病やガンになりやすい、ということをこの研究は語っています。

 座りっぱなしが健康に悪いというのは常識的に理解しやすいことですが、私個人の印象は、座る時間が長かったとしても定期的に運動している人は生活習慣病になりにくい、というものです。しかし、今回の論文もそうですし、過去に紹介した研究(下記医療ニュース参照)でも、「運動の有無に関係なく座りっぱなしがマズイ」としています。

 今後は「テレビをみるときもインターネットをするときも立ったままで」が健康の秘訣となるかもしれません。さらに、「デスクワークをするときも車を運転するときも定期的にお尻を上げて空気椅子を」と言われるようになるかもしれません・・・。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Chronic disease and sitting time in middle-aged Australian males: findings from the
45 and Up Study」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.ijbnpa.org/content/10/1/20

参考:医療ニュース
2010年7月30日 「座っている時間が長い人は短命?」
2010年1月25日 「テレビの見すぎが寿命を縮める?」
2011年8月30日 「テレビの見過ぎで寿命が短く」
2011年1月14日 「2時間以上のテレビやパソコンは心臓病のリスク」

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2013年6月29日 土曜日

2013年4月18日(木) コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減

 コーヒーが健康にいい、とする研究については過去何度もご紹介していますが、日本でも同様の研究結果が発表されましたのでお知らせいたします。

 1日に1杯以上コーヒーを飲む人は脳卒中リスクが約20%低い…。

 これは医学誌『Stroke』2013年3月14日号(オンライン版)で発表されたもので、国立循環器病研究センターの小久保喜弘医師による研究です(注1)。

 この研究では、1990年代後半に東北から沖縄の9箇所に在住していた45~74歳の男女約82,369人が対象とされ、コーヒー摂取量と脳卒中との関連が調べられています。追跡期間は平均で13年間となり、期間中に3,425が脳出血、脳梗塞、くも膜下出血といった脳卒中を発症しています。解析の結果、1日1杯以上のコーヒーで脳卒中の発症リスクがおよそ20%減少することが判ったそうです。

 この調査では緑茶と脳卒中との関係も調べられています。

 結果は、1日に2~3杯緑茶を飲む人は、ほとんど飲まない人に比べ、脳卒中リスクが14%低く、4杯以上飲む人では20%低かった、というものです。

 本当にコーヒーや緑茶の効果で脳卒中が減るのかどうかを確証させるため、研究では、年齢、性別、体重、喫煙の有無、飲酒、食事、運動などの因子も考慮されています。これらを考慮しても、コーヒー、お茶が有効であったと結論づけられています。尚、緑茶を飲んでいた人は、飲まない人に比べ運動をする比率が高いことも今回の調査で判ったそうです。

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 コーヒーについては、脳卒中の他、生活習慣病やガンの予防にもなるという研究が相次ぐなか、緑茶については否定的なものが最近は多いような印象がありました。(下記医療ニュースも参照ください) 今回、このような結果が出たことは我々日本人にとっては朗報でしょう。

 では、なぜコーヒーや緑茶で脳卒中のリスクが減るのでしょうか。ひとつには、血圧を下げ糖尿病を予防する効果があるから、と考えられるかと思います。また、コーヒーや緑茶をよく飲む人は日頃から健康に関心が高い、とは言えないでしょうか。緑茶をよく飲む人に運動する比率が高いということがそれを示唆しているように思えます。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「The Impact of Green Tea and Coffee Consumption on the Reduced Risk
of Stroke Incidence in Japanese Population: The Japan Public Health
Center-Based Study Cohort」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://stroke.ahajournals.org/content/early/2013/03/14/STROKEAHA.
111.677500.abstract?sid=c88f3a4c-79f6-4e3c-b5a7-acf2bf18446b

参考:
医療ニュース2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
医療ニュース2012年12月3日 「コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効」
医療ニュース2012年10月1日 「コーヒーは消化管疾患と無関係」
医療ニュース2010年5月24日 「紅茶で大腸ガンのリスクが上昇?」
医療ニュース2010年11月4日「緑茶に乳ガンの予防効果なし」
医療ニュース2007年6月19日「緑茶をよく飲む人はカロリー過多!?」
はやりの病気第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

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2013年6月29日 土曜日

2013年4月26日(金) ドライバーのカフェイン摂取で事故減少

 車を運転する人、とりわけ長距離ドライバーにとって最もやっかいなものは突然襲ってくる眠気でしょう。眠気にはカフェインを摂ると効果的、とは昔から言われることですが、本当に眠気対策になるのでしょうか。そして事故は減るのでしょうか。

 お茶やコーヒー、カフェイン錠剤など、合法的なカフェイン添加物は、交通事故のリスクを6割以上減少させる…

 これは、オーストラリアのジョージ国際保健研究所(George Institute for Global Health)のLisa N Sharwood氏らによる研究結果で、医学誌『British Medical Journal』2013年3月18日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)。

 2008年12月から2011年5月の間、オーストラリアのニューサウスウェールズ州(人口730万人)とウェスタンオーストラリア州(230万人)の長距離ドライバー(走行距離200km以上)で、過去12ヶ月以内に事故を起こした530人と、事故を起こしていない517人が研究の対象とされています。

 対象者から、年齢、健康状態、睡眠障害の有無、走行距離などを聞き取り、これらが影響を与えないように調節した上で、カフェイン摂取と事故との関係を解析した結果、カフェイン摂取により事故が63%減少するという結果が導かれています。

 もう少しデータをみてみると、事故をおこしたグループの方が平均年齢が若く(44.2歳vs46.1歳)、事故を起こしていないグループの方が運転経験の年数が長いという結果がでていて、これらは頷けます。興味深いのは、事故を起こしていないグループに肥満者が多いということです。この理由については論文では言及されていません。

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 太融寺町谷口医院の患者さんのなかにも長距離ドライバーが何人かおられ、過去に何度か眠気対策について聞かれたことがあります。カフェイン飲料について最も重要なことは、滋養強壮・栄養補給と謳われてカフェインが入っているドリンク剤にはけっこうな割合でアルコールが加えられている、ということです。加えられているアルコールはごく微量だとは思いますが、お酒に弱い人が飲むと、カフェインで眠気覚ましを期待したのに、結果としてアルコールで眠くなった、ということが起こるかもしれません。

 ですから、ドライバーがカフェイン含有のドリンク剤を選ぶときは、カフェインの濃度よりもまずはアルコールの有無を確認すべきです。

 ところで、長距離ドライバーの眠気覚ましと言えば、カフェインよりも覚醒剤を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。今はもちろん違法ですが、以前は「ヒロポン」という名前で正式に薬局で販売されていました。長距離ドライバーを含む夜間に働く人たちから大変重宝されていたそうです。(この話題はこのサイトで何度も触れているので省略しますが、日本には覚醒剤が合法であった時代があったのです。ちなみにサザエさんにはヒロポンを飲んでハイテンションになるタラちゃんが登場するものもあります。興味のある方は下記エッセイも参照してみてください)

 今回取り上げた論文にも違法薬物についての言及があります。事故を起こさなかったグループで覚醒剤などの違法薬物を使用していたのはわずか3%だったとされています。しかし、回答者がどこまで真実を伝えているかは疑問です。論文のなかでは、オーストラリアの長距離ドライバーの違法薬物摂取率は19~32%と調査によってばらつきがあることにも触れられています。

 この研究結果を「眠気覚ましにカフェインを摂ろう」と解釈すべきではありません。規則正しい生活や疲労を蓄積させない努力の方がはるかに重要なのは自明です。安易にカフェインに(まして覚醒剤などに)頼るべきではありません。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Use of caffeinated substances and risk of crashes in long distance drivers of
commercial vehicles: case-control study」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/346/bmj.f1140

参考:
マンスリーレポート2012年6月号 「酒とハーブと覚醒剤」

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2013年6月29日 土曜日

2013年5月13日(月) 男性型脱毛症(AGA)は心筋梗塞のリスク

 女優の天海祐希さんが突然心筋梗塞で倒れたというニュースが2013年5月8日に報道され話題となりました。天海祐希さんのようにスリムな女性で、(おそらく)喫煙もされておらず、(報道によると)糖尿病や高血圧、高脂血症などの虚血性心疾患のリスクのない方が、軽度とはいえ心筋梗塞を発症したということに私自身も驚きました。おそらく想像を絶するほどの仕事量で相当なストレスを抱えられていたのでしょう。

 教科書的なことを述べておくと、心筋梗塞を含む虚血性心疾患は、肥満、喫煙、糖尿病、高血圧、高脂血症などが大きなリスクと考えられています。これら以外には、男性、加齢、高尿酸血症、過労などがあります。

 たしかに、元々肥満があって過労が重なり心筋梗塞を発症というケースは20代ですらときどきありますが、天海祐希さんのように過労だけで、というのは、過労は過労でも、相当なものだったのだと思われます。

 前置きが長くなりましたが、今回お伝えしたいのは、男性型脱毛症(AGA)もまた心筋梗塞などの虚血性心疾患になる、という研究についてです。

 東京大学のTomohide Yamada氏らのグループによる研究結果が医学誌『BMJ open』2013年4月3日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 この研究は過去に公表された多数の論文を解析(メタ解析)することによっておこなわれています。対象者を11年以上追跡している米国などの3件の研究を解析すると、AGA男性の心疾患のリスクがAGAでない男性よりも33%高く、これが55~60歳になると44%にもなるという結論がでたそうです。

 また、別の3件の研究を解析すると、AGA男性の心疾患リスクは70%も高く、これが若年時からAGAを発症している男性でみるとなんと84%も高い、というのです。また、脱毛の程度が重症であればあるほどリスクが高いという結論も導き出されたそうです。

 興味深いことに、心疾患のリスクが上昇するのは頭頂部に生じるAGAのみで、生え際が後退するタイプのAGAではリスク上昇は認められないそうです。

 この研究結果から、研究者らは、AGAの男性は心疾患のリスクを減らすために、禁煙、低脂肪食、運動、ストレスの軽減など、生活習慣を見直すべき、と述べています。

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 信ぴょう性はさほど高くないものの、似たような研究は過去にいくつかあったような記憶があります。AGAの男性は心筋梗塞など心疾患に罹患しやすい、というのは、日頃患者さんをみていると、なんとなく正しいような気がします。(このように感じているのは私だけではないと思います)

 これについて私はある「仮説」を持っています。その仮説とはこういうことです。以前より心筋梗塞などの心疾患のリスクとして「A型気質」というものが指摘されています。

 A型気質というのは性格のことですが、血液型のA型とはまったく関係ありません。A型気質とは、Active(活動的)、Aggressive(攻撃的)、Ambitious(野心的)、Angry(怒りっぽい)といった性格で、わかりやすく言えば「頑張り屋で積極的。いわゆる”やり手”で出世するタイプ」です。さらに私の印象を付け加えれば「真面目で努力家」とも言えます。そして、こういう人が心疾患になりやすいのです。

 太融寺町谷口医院にもAGAの患者さんは大勢来られていますが、患者さんの職業を思い出してみると、会社社長や重役、税理士、医師など社会的地位の高い人が多い印象があります。

 つまり私の「仮説」とは、ちょっと乱暴に言ってみると、「AGA=A型気質→心疾患のリスクが高い」ということです。この私の仮説を証明するために、AGAとA型気質の関係を検証した研究はないかと調べてみたのですが見つかりませんでした。どなたか、この仮説に同意してくれる方がおられたら、研究してもらえないでしょうか…。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Male pattern baldness and its association with coronary heart
disease: a meta-analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://bmjopen.bmj.com/content/3/4/e002537.full.pdf+html?sid=0a6bd83a
-014c-448b-87e2-380277c8e792

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2013年6月29日 土曜日

2013年5月14日(火) 米国のファイザー社がバイアグラの通販開始

 バイアグラを含むED改善薬の「ニセ物」がインターネットで大量に出回っていることが以前より指摘されています。これに対抗するためなのか、米国ファイザー社は、なんと、バイアグラのネット通販を開始することを2013年5月6日に公表しました。

 同社のウェブサイト(注1)によりますと、インターネットでバイアグラなどの売買をおこなっている業者は1万件以上あり、そのなかで合法的なサイトはわずか3%しかないそうです。

 同社の調査によれば、「buy Viagra」のキーワードで検索上位に表示された「オンライン薬局」からバイアグラを購入したところ10件中8件がニセ物だったそうです。また、米国内で2012年に押収されたニセ物の薬の総額は約8,300万ドル(約83億円)にものぼり、さらに、こういったニセ物からは、殺鼠剤、道路用の塗料、床用のワックスやホウ酸なども検出されるそうなのです。

 そこで同社がとった対抗措置が、バイアグラ通販の専用サイト(注2)というわけです。ユーザーは必要事項を入力するだけで”本物の”バイアグラを通販で入手することができるようです。ただし、実際にサイトをみてみると、医師の発行する処方箋は必要になるようです。

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 同社のサイト(注1のURLです)には、ニセ物のバイアグラの写真も掲載されているのですが、横に掲載されている本物とまったくと言っていいほど見分けがつきません。これでは消費者(患者)が本物かニセ物かの見分けがつかないのも無理はありません。

 インターネットで簡単に買える医薬品にニセ物が多いというのは随分前から指摘されているとおりで、太融寺町谷口医院にも患者さんから被害の声を聞くことがしばしばあります。幸いなことに、バイアグラなどのED改善薬の副作用で入院が必要になったという話はありませんが「まったく効かなかった」という声は少なくありません。

 しかし、ニセ物のED改善薬が効かなかった、という「被害」であれば健康を損ねるわけではありません。困るのは副作用に苦しめられるときです。谷口医院では経験がありませんが、ファイザーの報告にあるように、殺鼠剤や道路用の塗料が検出されるなら、バイアグラのニセ物で致死的な副作用が出ることも起こりえます。

 バイアグラなどのED改善薬は初回処方時には充分な問診と、場合によっては心臓の検査(心電図やエコーなど)も必要になりますが、特に持病もなくて副作用も出ない人であれば、毎回の診察は不要ではないかと私は考えています。(この考えに反対する医師もいるかとは思いますが…)

 このバイアグラ通販のサイトを実際にみてみると、医師の名前を入力したり医師の発行する処方箋を送ったりしなければならず、すごく手軽に購入できるというわけではありません。しかし、それでもインターネットで購入できるなら多くのユーザーに喜ばれることは間違いないでしょう。医療機関を受診する手間が省けて、なおかつニセ物をつかまされるリスクがゼロになるわけですから、このウェブサイトは大変ありがたいものとなるに違いありません。

 私個人としては、日本でも同様のシステムを取り入れるべきだと思います。今のところ、日本のファイザー製薬は、こういったウェブサイトに対するコメントを発表していませんが、今後の動向に期待したいと思います。もっとも、現在の法律(医師法及び薬事法)ではメーカーがインターネットを通してユーザーに直接販売することはできないでしょうから、法律の改正から考えなくてはならず、相当時間がかかるかとは思いますが…。

(谷口恭)

注1:この発表は下記のURLで読むことができます。ページの下の方にはニセ物のバイアグラの写真や、ニセ物を製造するときの様子をうつした写真も掲載されています。

http://pfizer.newshq.businesswire.com/press-release/facing-against-
counterfeit-online-pharmacies-pfizer-launches-new-purchasing-website-he

注2:バイアグラ通販の専用サイト「Viagra.com」のURLを下記に記します。ただし、日本からは購入できないと思います。

http://www.viagra.com/

参考:医療ニュース
2008年2月18日 「ニセ薬がインターネット上に大量に流通」
2007年2月20日 「ネット販売薬の半分はニセモノ」

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2013年6月29日 土曜日

2013年5月27日(月) 新型コロナ、人から人への感染がほぼ確実・・・

 2013年の4月末から5月初旬にかけて、世界中で最も注目された感染症は中国で流行した鳥インフルエンザ(H7N9)でしょう。5月末のこの時点で振り返ってみると、流行は収束した様子で、現時点ではこの鳥インフルエンザの人から人への感染は極めて低いと考えられています。

 一方で、人から人への感染がほぼ確実となり、世界規模で要注意とされているのが、2012年秋から少しずつ報告が増えていた新種のコロナウイルスです。この新種のコロナウイルス、中東を中心に流行し、中東に渡航したヨーロッパ人の感染も報告されています。2013年5月17日のWHOの発表によれば、これまでの感染者は40人、死亡者はそのうち半数の20人にものぼります。

 2013年2月の時点では、イギリス当局は、完全には否定していないものの「ヒトからヒトへの感染のリスクは極めて低い」との見解を発表しています。

 しかし、多数の国で同時多発している2013年5月の現状から、WHO(世界保健機関)は、「ヒト・ヒト感染は限定的で、今のところ、ウイルスが大規模な感染を引き起こす能力を持っている証拠は見つかっていない」としながらも、「密接な接触があれば、人から人への感染はありうる」との警告を発表しました(注1)。

 現時点で人から人への感染が発覚しているのは家族内や同じ病室内、それに医療者(2名の看護師と報告されています)です。

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 あまり一般紙には報道されないと思いますが、致死的な新型のウイルスが立て続けに2名の看護師に感染したことを受けて、世界中の医療者は、このウイルスの動向と今後の院内感染予防対策に大変注目しています。

 2003年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)もコロナウイルスの1種です。現在コロナウイルスに対しては特効薬もワクチンもありません。現時点では外務省は、渡航制限は出していないものの、中東に渡航するときの注意勧告をおこなっています(注2)。

 あまり不安を煽りたくはありませんが、フランスでは第1例と同じ病室に入院していた患者1人も感染したそうです。中東では国にもよりますし、その病院の衛生レベルにもよるでしょうが、もしも中東諸国で入院する事態になったときは院内感染のリスクにも注意すべきでしょう。

(谷口恭)

注1:WHOの発表「Novel coronavirus summary and literature update ? as of 17 May 2013」は下記のURLで参照できます。
http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/update_20130517/en/index.html

参考:
○新種のコロナウイルス感染症について(更新15)(検疫所ホームページ)
http://www.forth.go.jp/topics/2013/05161025.html  
○コロナウイルス(HCoV-EMC)重症感染症(国立感染症研究所ホームページ)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ka/hcov-emc/2186-idsc/2686-novelcorona2012.html

医療ニュース
2013年2月15日「新種のコロナウイルス、世界10例目と11例目」

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2013年6月29日 土曜日

2013年5月31日(金) SFTS、マダニからウイルス検出される

 山口県の成人女性が2012年の秋に死亡した原因がSFTS(重症熱性血小板減少症候群)であることを厚生労働省が公表したのは2013年1月30日で、これが国内1例目の報告です。

 発表によれば、この女性の体内からSFTSウイルスが検出されたものの、女性の皮膚にはダニの刺し傷がなく、また中国で報告されているSFTSウイルスとは遺伝子の配列が異なることから、私は本当にダニが媒介したのかどうか疑問に思っていました。

 その後SFTS感染が複数の県で発症していることが判り、2013年5月の時点で、合計10県で15人が感染したことが確定しており、そのうち8人は死亡しています。

 これまでの報道で私が疑問を払拭できなかったのは、感染者はSFTSが流行している中国への渡航歴がなく、また、山に行ったという人はいるものの、ダニの刺し傷が見当たらない例が多いからです。人の皮膚に吸い付くダニは肉眼でも充分見える大きさです。そしてダニに刺されたと言って医療機関を受診する人は、たいていは刺し傷が見つかります。

 ですから、私は、本当にダニが媒介しているのか、本当はSFTSウイルスの変異型が人から人に感染しているのではないか、と疑っていたというわけです。

 しかし、ついにダニそのものからウイルスが検出されました。2013年4月、SFTSを発症した山口県の60代の女性患者の皮膚にはタカサゴキララマダニというマダニが付着しており、そのマダニからSFTSウイルスが検出されたことが発表されました。これが国内初のマダニからのウイルス検出例ということになります。

 タカサゴキララマダニは国内最大級のマダニで、関東より西部の山間部に生息しています。春から秋にかけて活動し、イノシシなどの哺乳動物に付着し吸血するようで、成虫は8ミリにもなるそうです。

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 もともとSFTSというのは中国で2011年に初めて報告された感染症であり、中国ではこれまで数百人が罹患し、死亡率は約12%と言われています。ダニが媒介する感染症ですから、中国でも発症は都心部ではなく山間部であるはずです。中国の山間部は日本に比べるとはるかに医療機関へのアクセスが悪いでしょうから、SFTSウイルスに感染しても軽症であれば医療機関を受診していないことが予想されます。ある程度重症になった例だけが医療機関を受診することになりますから、報告されている死亡率(死亡者数/重症になり医療機関を受診せざるをえなかった感染者)は、実際の死亡率(死亡者数/実際の感染者数)よりも高くなると考えられます。つまり実際の死亡率は12%よりも低いというわけです。

 ところが、日本での死亡率は5割以上(死亡者8人/感染者15人)ですから、中国のSFTSよりも日本のSFTSの方が重症化する可能性があります。

 以前も述べたことがありますが、ダニが媒介する感染症はたくさんあり、国内では日本紅斑熱、ライム病、ツツガムシ病などはときおり報告があります。海外では、ロッキー山紅斑熱(北米)、クリミア・コンゴ出血熱(アフリカ・中東など)、ダニ媒介性回帰熱(イベリア半島やアジア西部の半島)、ダニ媒介性脳炎(ロシア春夏脳炎ウイルス、中部ヨーロッパ脳炎ウイルスなど)などがあります。これらには死に至ることもある感染症です。

 あまり不安に思いすぎるのもよくありませんが、野山に行くときはダニに刺されない服装と虫除けスプレーを忘れないようにしましょう。特に西日本でのハイキングやトレッキング時にはSFTSという致死率5割を超える感染症があることを覚えておいた方がいいでしょう。

 それにしても刺し傷の見つからなかったSFTSは、いったいどのように感染したのでしょうか。刺し傷が消えてしまっていただけなのでしょうか。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2013年2月15日「SFTSで新たに2人の死亡が確認」
2013年2月1日「謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症」

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2013年6月29日 土曜日

2013年6月3日(月) 毎日温泉で脳卒中・心臓病が予防可能

 毎日温泉に入ると、脳卒中や心筋梗塞・狭心症といった心臓病が発症しにくくなる…

 これは、温泉の医学的な効能を研究している九州大病院別府病院などが発表した研究結果で、2013年5月24日に開催された第78回日本温泉気候物理医学会で報告されたそうです。(報道は2013年5月22日の読売新聞(オンライン版)など)

 報道によりますと、九州大病院別府病院や地元医師会が2012年11月に65歳以上の市民2万人を対象に健康に関するアンケートを実施し、そのうち全体の55.7%に相当する11,146人から回答を得たそうです。

 毎日1回以上温泉に入る人が約半数を占め、温泉の利用状況と脳卒中・心疾患の関係を解析したところ、毎日入浴する人のうち脳卒中を起こしたことがある人が2%だったのに対し、その他の人では3.4%と高い値が出たそうです。心筋梗塞・狭心症も、毎日入浴する人では6.1%だったのに対し、その他は8.2%と高かったそうです。

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 上記の数字が統計学的にどれくらい意味があるのかについては報道からはわかりませんが、夢のある研究と言えるかもしれません。

 しかし、調査の方法が「毎日入る」か「それ以外」とされていますから、別府のような温泉街に住まない限りは、「毎日入って脳卒中・心臓病を予防する」ということは現実的ではありません。

 日本温泉気候物理医学会という学会のことを私はこの記事を読むまで知らなかったのですが、学術大会が78回も開かれているということは歴史のある伝統的な学会なのでしょう。

 私の個人的な興味ですが、本物の温泉ではなく「天然温泉入浴剤」ではどうなのか、毎日ではなく週3回ではどうなのか、予防だけではなく例えば「脳卒中や心臓病の再発予防」には有効なのか、温泉によっては温度が様々ですが最適温度はどれくらいなのか(心臓病には熱すぎる温度は良くないと思うのですが…)、などについても研究してほしいと思います。今後のこの学会に注目したいと思います。

(谷口恭)

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2013年6月29日 土曜日

2013年6月7日(金) 近所にファストフード店が多いと肥満リスク増大

自宅の近くにファストフード店があれば肥満のリスクが上昇する・・・

 このような研究結果がアメリカで報告され話題を呼んでいます。医学誌『American Journal of Public Health』(2013年5月16日号オンライン版)(注1)に詳細が報告されています。

 この研究の対象は、米国テキサス州ヒューストン在住の黒人成人約1,400人で、自宅から、0.5マイル(約800m)、1マイル(約1.6km)、2マイル(約3.2km)、5マイル(約8km)内にあるファストフード店の数が調べられています。その結果、対象者の自宅から800m以内に2.5軒、1.6㎞以内に4.5軒、3.2㎞以内に11.4軒、8km以内に71.3軒のファストフード店があったそうです。

 ファストフード店の数と肥満の程度を分析した結果、自宅から店までの近さと肥満には有意な関連が認められ、ファストフード店からの距離が1.6㎞離れるごとにBMI(注2)は2.4%低下したそうです。

 興味深いことに、この研究ではファストフード店の数だけではなく対象者の所得も調べられています。年収が4万ドル(約400万円)以上かそれ未満かで2つのグループに分けて解析すると、低所得群(年収4万ドル未満)では、自宅から800m、1.6㎞、3.2㎞の範囲内にあるファストフード店の数が多ければ多いほどBMIが高かったそうです。

 一方、高所得群では、このように近距離にファストフード店が多いほど肥満になるという傾向は認められなかったそうです。

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 この研究をまとめると、「自宅近くにファストフード店があれば肥満になりやすい。さらに低所得者の場合は、近くにファストフード店の数が多ければ多いほどそのリスクが高くなる」、ということになります。

 なぜ年収でこのような差がでるのかについて推測すると、ひとつには低所得者の活動圏は自宅近くに限られている可能性があります。この理由としては、低所得者は労働が不安定で(つまり仕事がなく)、自家用車などの移動手段を持っておらず、休日にも遠くに出かけることができない、といった理由が考えられるでしょう。

 この調査は黒人に限ってのことですが、同様のことが白人やアジア人にも言えるのでしょうか。アメリカでは、ファストフード店での食事が肥満や糖尿病に影響を与えるのは白人よりも黒人で顕著であると言われています。そして、これは黒人だけでなくアジア人でも同様です(注3)。

この次引越しするときはファストフード店から遠いところを選ぶ・・・、そんなことを考える人がこれから増えてくるかもしれません。

(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは、「Density and Proximity of Fast Food Restaurants
and Body Mass Index Among African Americans」で、概要を下記URLで読むことができます。

http://ajph.aphapublications.org/doi/abs/10.2105/AJPH.2012.301140?prevSearch=[Contrib%3A+Lorraine+Reitzel]&searchHistoryKey=

注2 BMIとはBody Mass Indexの略で、体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出します。例えば体重120kgで、身長2mなら、120÷2の2乗=30となります。この人がファストフード店から1.6km離れたところに引っ越すとすると(この仮定が、最寄りのファストフード店から1.6km離れるという意味なのか、複数のファストフード店から平均1.6km離れるという意味なのかは論文からはよくわかりませんが)、BMIが2.4%減少するということは、体重は2.88kg減って117kgになることになります。(120kg-30x(1-0.024)x2x2)=2.88)

注3:アジア人を対象とした研究で、「週2回のファストフード店の利用で、糖尿病発症リスク、心筋梗塞による死亡のリスクが上昇する」、というものがあります。興味のある方は下記コラムを参照ください。

参考:メディカルエッセイ第114回(2012年7月)「糖質制限食の行方」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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