医療ニュース

2013年7月2日 火曜日

2012年12月29日(土) プロペシアの性機能低下と発ガンリスク

 男性型脱毛症(AGA)治療薬のプロペシアを長期で内服すると、性欲低下(リビドー減退)や勃起不全などの副作用が起こるということがしばしば指摘されます。

 たしかに一定の割合でこういった副作用を訴える人がいます。私の印象で言えば、10人に1人いるかどうか、という感じです。プロペシアの添付文書には、リビドー減退は「1~5%未満」、勃起機能不全や射精障害は「1%未満」とされています。
 
 プロペシア(一般名はフィナステリド)の性欲低下に関する研究で興味深いものが報告されたので紹介したいと思います。

 医学誌『BJU International』2012年11月16日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、プロペシアを内服している右利きの男性は、性機能は影響されないか低下がおこることがあるのに対し、左利きの男性は、影響されないか性機能の改善があるそうなのです。
 
 左利きの男性はAGAも性機能も共に改善する、ということが事実であれば世界中の左利きの男性にとって朗報でしょう。

 ただし、この研究は対象者がわずか33人のルーマニア人男性で、調査期間は4週間だけです。この研究は「パイロットスタディ」として行われただけであり、本格的な調査は先の話です。
 
 もうひとつ、プロペシアの副作用を報告しておきたいと思います。

 通常、プロペシアは1日1回1錠内服します。1錠は1mgです(日本では0.2mgというものもありますがあまり処方されていないそうです(注2))。通常の5倍に相当する5mgを内服したときにどのような副作用が出現するかという研究が海外でおこなわれました。
 
 結果は、5mgを7年間内服したグループはプラセボ(偽薬)を同期間内服したグループに比べ、高悪性度前立腺ガンの発現率が1.7倍高くなったそうです。(5mg投与群が1.8%、プラセボ投与群が1.1%とされています)
 
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 本文でも述べたように、左利きなら性機能改善、と断定するには時期尚早かと思います。左利きの人は過剰な期待をしない方がいいでしょう。

 後半で述べた前立腺ガンのリスクについては、今までも可能性を指摘されていましたがメーカーは否定してきました。それが一転して添付文書に記載されたわけですが、通常の5倍量での調査ですし、相対リスクが1.7ですから、通常の1mgを1日1回であればあまり気にしなくてもいいのではないかと思われます。しかし、AGAというのは本来「病気」ではありませんから、わずかでもリスクがあるならあえて飲む必要もないのではないか、とも思われます。
 
 私がプロペシア処方に慎重になるのは、(wifeの)妊娠・出産を検討されている人に対してです。下記医療ニュースも参照ください。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「A pilot study on the sexual side effects of finasteride as related to
hand preference for men undergoing treatment of male pattern baldness」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1464-410X.2012.11580.x/abstract

注2:太融寺町谷口医院でもプロペシアは1mgのみで、現在0.2mgの処方はおこなっていません。

参考:医療ニュース2012年1月20日 「プロペシアで男性不妊症の可能性」

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2013年7月2日 火曜日

6/30 皮膚の老化は「日焼け止め」で防ぎましょう

 紫外線が皮膚のいくつかのガンの原因になるというのは次第に知られてきていると思います。また、化粧品業界などでは「効果的な日焼け止め対策が皮膚の老化を防ぎます」などという表現を使い、我々医療者の実感としても、きちんと紫外線対策をしている人の皮膚は若く見える、という印象があります。しかし皮膚の老化を長期間に渡り調査した研究というのはそう多くはありません。

 日焼け止めを毎日使うと皮膚の老化が24%抑制できる・・・
 しかしβカロテンのサプリメントを摂取しても老化は防げない・・・

 これは、オーストラリアのクイーンズランド州ナンブア(Nambour)に在住の55歳未満の男女約900人を対象とした研究結果で、医学誌『Annals of Internal Medicine』2013年6月4日号(オンライン版)(注1)に発表されています。調査期間は1992年から1996年で、調査では日焼け止めの使用の他にβカロテンのサプリメントの効果も調べられています。

 対象者は次の4つのグループにわけられて解析がおこなわれています。

①日焼け止め毎日使用+βカロテン30mg摂取
②日焼け止め毎日使用+βカロテン摂取せず
③日焼け止め毎日使用せず+βカロテン30mg摂取
④日焼け止め毎日使用せず+βカロテン摂取せず

 皮膚の老化をどのようにして評価しているかというと、対象者の左手背に薄いシリコンシートを貼り付けて剥し、表皮の凹凸やしわの型がついたそのシートを解析したようです。

 日焼け止めを毎日使用していたグループでは皮膚の老化が1.18倍となり、日焼け止めを毎日使っていないグループでは老化が1.54倍で、日焼け止めを毎日使うことによって皮膚の老化が抑制できるという結果となっています。これを統計学的に解析すると「皮膚の老化を24%抑制できる」となるようです。

 一方、βカロテン摂取では有意差がでていません。摂取したグループとしていないグループで、それぞれ老化が1.31倍、1.38倍ですから、いずれの皮膚も老化が進行していることになります。

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 ナンブア(Nambour)という都市を地図(Google MAP)で調べてみると、州都のブリスベンの北およそ100kmに位置し、南緯は26度で、海にも近く、いかにも暑そうな(しかし魅力的な)地域です。また(インターネットで調べた即席の情報ですが)それほど都市機能が集中しておらず自然を満喫できるような地域のようです。つまり住民の多くは紫外線を日常的に浴びている地域であり、こういった研究にはうってつけの場所といえるでしょう。

 この文章を書くのに「sunscreen」を「日焼け止め」としました。最近は「サンスクリーン」という言葉が少しずつ浸透してきており、皮膚科関連の学会などでは「サンスクリーン」と表現されるのが一般的です。しかし、日々診察室で「サンスクリーン」と言っても患者さんに伝わらないことが多く、まだまだ「日焼け止め」という言葉の方が一般的なのだと思います。

 しかしsunscreenは、日焼けを止めることのみを目的としているわけではありません。この研究にあるように、まさに「老化を防ぐ」ためのものです。したがって、日本でも特に4月から9月頃の紫外線が強くなるシーズンには誰もがサンスクリーンを使用すべきと私は考えています。

 それから、この研究にあるように安易にサプリメントに頼らないことも重要です。サプリメント以外にも「シミに効く薬をください」などと言われることも多く、そういった薬がないわけではありませんが、一番大切なのは日頃の紫外線対策であることは言うまでもありません。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Sunscreen and Prevention of Skin Aging: A Randomized Trial」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://annals.org/article.aspx?articleid=1691733#Abstract

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2013年7月1日 月曜日

2011年11月14日(月) ビタミンEの発ガンリスク

 ビタミンE摂取は前立腺ガンの発症リスクを上昇させる・・・

 これは医学誌『JAMA』2011年10月12日号で発表された論文の趣旨です(注)。ビタミンEには抗酸化作用があることから、ガンの予防になるのではないか、と言われていた時代もありましたから、長年摂取していたという人にはショッキングな研究かもしれません。
 
 この研究が開始されたのは2001年で、研究途中の2009年の時点で「ビタミンE摂取(及び発ガン抑制に期待されていたセレン摂取)で前立腺ガン発症のリスクを減少しない」ということがすでに確認されていました。今回発表されたのは、ビタミンEは前立腺ガンの発症リスクを下げないどころか、逆に前立腺ガンになりやすくなる、という結果についてです。
 
 この研究を少し詳しく紹介すると、対象者は、調査開始時点で前立腺ガンになっていなかった米国、カナダ、プエルトリコ在住の男性35,533人です。対象者は4つのグループに分けられています。①ビタミンEを摂取するグループ(8,737人)、②セレンを摂取するグループ(8,752人)、③ビタミンEとセレンの両方を摂取するグループ(8,702人)、④両方とも摂取しないグループ(8,696人)の4つです。対象者は、2011年7月5日まで追跡調査がおこなわれ、前立腺ガンの発症率について比較されています。追跡期間は7~12年です。
 
 その結果、追跡期間中に前立腺ガンを発症したのは、①のグループで620人、②、③、④はそれぞれ575人、555人、529人でした。これらを統計学的に分析すると、ビタミンEを摂取すると前立腺ガンの発症リスクが上昇する、という結果が出たというわけです。尚、セレン単独摂取やセレン+ビタミンE摂取では、ガンの予防効果はもちろんありませんが、統計学的にガンのリスクが上昇するとまではいえなかったようです。
 
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 ビタミンEの発ガンリスクと言えば肺ガンが有名です。2008年3月に医学誌『American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine』で、サプリメントでのビタミンE摂取量が1日100mg増加するごとに、肺ガンのリスクが7%上昇するという結果がでました。
 
 また、肺ガンのリスクと言えば、ビタミンE以外にベータカロチンのサプリメントが有名です。ベータカロチンは、元々は大腸ガンの予防になるのではないかと期待されていたのですが、大腸ガンを予防しないどころか肺ガンのリスクを高めることが分かり、これが発表された頃からサプリメントの有害性や効能がないことが次々に指摘されだしたような印象があります。米国ガン協会(American Cancer Society)も「ガン予防のためのビタミン剤のサプリメントは推奨しない」、としています。
 
 ただし、誤解のないように付記しておくと、ビタミン剤のサプリメントが有害(もしくはガンの予防に無効)なのであって、ビタミンEやベータカロチンが豊富に含まれている食品を積極的に摂取すること自体はガンの予防に効果があり推奨されています。結局は常識的な話になってしまうのですが、「栄養のあるものをバランスよく食べましょう」ということに尽きるというわけです。
 
(谷口恭)

注:この論文のタイトルは「Vitamin E and the Risk of Prostate Cancer」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://jama.ama-assn.org/content/306/14/1549.abstract?sid=b60d5330-ce80-445f-9a52-
3420ddea32c2

 
参考:医療ニュース
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」

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2013年7月1日 月曜日

2011年11月16日(水) 「茶のしずく石鹸」で66人が重症

 過去に何度かお伝えしてきました「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギーに関して新たな発表がありました。

 2011年11月14日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会は、2011年10月17日までに株式会社悠香から報告のあったアレルギー反応を起こした症例が471人にのぼり、そのうち66人は救急搬送や入院が必要な重篤な症例で、一時意識不明に陥った例もあったそうです。
 
 しかし、これは株式会社悠香が現時点で把握している件数であり、実際にアレルギー反応を起こした人はこの何倍にもなるのではないかとみられています。

 以前お伝えしたように、このアレルギーの原因物質は「加水分解コムギ」ではありますが、すべての加水分解コムギで反応がでるのではなく、アレルギー反応を起こすのは「グルパール19S」と命名された物質であることがわかっています。グルパール19Sを含む石鹸は株式会社悠香の「茶のしずく石鹸」を入れて合計18種類あります。そのすべてを下記に紹介いたします。
 
薬用 悠香の石鹸(茶のしずく石鹸)   株式会社悠香
薬用フェイスソープP(茶のしずく石鹸)   株式会社フェニックス
アルケー   ヴィーヴィック化粧品株式会社
梅の花 化粧石鹸   株式会社フェニックス
FY石鹸   株式会社 ピカソ美化学研究所
AU サボンクリア   株式会社シー・ビー・エィ
LVJ フェイシャルソープ   株式会社 東洋新薬
花蜜精はちみつクレンジングソープ   株式会社フェニックス
蔵人純米ソープ   ヴィーヴィック化粧品株式会社
クルクベラ サボンクリア   株式会社シー・ビー・エィ
クレンジングソープPF   株式会社フェニックス
化粧石鹸LH   日成興産株式会社
 (旧 日本メドック株式会社)
化粧石けんAB   株式会社フェニックス
化粧石けんHEP   株式会社フェニックス
化粧石けんHN   株式会社フェニックス
化粧石けんKI-5   株式会社フェニックス
化粧石ケンOB   株式会社フェニックス
化粧石けんSD   株式会社フェニックス

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 これら石鹸によって小麦アレルギーが誘発されたことを証明するには、グルパール19Sの検査試薬を皮膚に少量刺入して反応をみる検査(プリックテストと言います)をおこなう必要があります。(現在当院では実施していません) ただし、血液検査でもある程度推測することが可能ですから、疑いのある人はかかりつけ医に相談してみるべきでしょう。
 
(谷口恭)

参考:
はやりの病気第94回(2011年6月) 「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」
トップページ: アレルギーの検査
医療ニュース:
2011年5月21日 「「茶のしずく石鹸」が自主回収」
2010年10月20日 「小麦入り化粧品、特に”お茶石鹸”に注意」

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2013年7月1日 月曜日

2011年12月4日(日) ビールもワインと同じように心血管リスクが低下

 ビール党には朗報かもしれません。

 ワイン(特に赤ワイン)は適度に飲めば心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを減らすことがよく知られています(注1)。「最も健康にいいお酒はワイン」のように語られることが多いように思われますが、ビールにもワインと同様の効果があるとの研究結果が医学誌『European Journal of Epidemiology』2011年11月11日号(オンライン版)(注2)で報告され話題を呼んでいます。
 
 この研究はイタリアの研究者によっておこなわれています。2011年3月までに欧米諸国やオーストラリアでおこなわれたアルコールと心血管リスクに関する合計18の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。アルコールは、ビール、ワイン、蒸留酒(注3)に分けて検討されています。
 
 その結果、ワインは度を過ぎると心血管リスクが上昇しますが、適度であればリスクが低下していました。具体的には、1日あたり21グラム(グラスで1杯程度)の飲酒量で最もリスクが低下し、72グラム以上(グラス3~4杯以上)でリスク低下はなくなります。ビールでは、1日あたり43グラム(大瓶1本くらい)が最も心血管リスクが低下し、55グラム(大瓶1.3本くらい)でリスク低下がなくなります。
 
 要するに、少量から中等量であれば、ビールはワインと同じように心血管疾患のリスクが低下することが判ったということであり、ビールを含むお酒は少量なら身体にいいと言われることはこれまでにもあったけれども、今回のきちんとした研究でビールの効果が実証された、というわけです。
 
 しかし、蒸留酒ではそのような結果が出なかったようです。

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 ビール党には嬉しい研究結果に思われるかもしれませんが、私の周りのビール党や、太融寺町谷口医院に通院しているビール好きな人達の多くは大瓶1本ではすみません。なかには毎日2リットル以上を”日課”にしているという人もいます。そのような飲み方を続ければ心血管リスクを高めるということにはいくら注意してもしすぎることはないでしょう。また、一部には、少量のビールでも健康に有害であるとする研究結果があることも覚えておくべきでしょう。(下記医療ニュースも参照ください)
 
(谷口恭)
 
注1 フランス人は飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事(要するにあぶらっこい肉料理)をよく食べるのにもかかわらず、虚血性心疾患にかかりにくいことが以前から指摘されており(これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれています)、この原因が赤ワインにあるとされています。
 
注2 この論文のタイトルは、「Wine, beer or spirit drinking in relation to fatal and non-fatal cardiovascular events: a meta-analysis」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://www.springerlink.com/content/8pu6001584m35146/

注3:蒸留酒とは、穀物などを発酵させて作った醸造酒を蒸留させてアルコール濃度を高めたお酒のことでスピリッツとも呼ばれます。この研究では、ウイスキー、ジン、ラム、テキーラ、ウォッカ、ブランデーなどを指していると思われますが、分類としては焼酎(泡盛含む)も蒸留酒に含まれます。
 
参考:医療ニュース
2011年10月26日「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に
2011年9月10日 「適度な飲酒がアルツハイマーを予防」
2010年8月23日「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年5月21日「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年12月28日「ビール週7本で乳癌のリスク急増」
2011年4月18日「ビール中ジョッキ1杯で発ガンリスクが上昇・・・」

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2013年7月1日 月曜日

2011年12月5日(月) 白血病のデマにご用心

 最近、ネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等で、「白血病患者急増 医学界で高まる不安」というタイトルで、とんでもないデマが広がっているようです。以下に内容をそのまま引用します。
 
 各都道府県の国公立医師会病院の統計によると、今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明した。これを受けて、日本医師会会長原中勝征は、原発事故との因果関係は不明として、原因が判明次第発表するとした。
 
 白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。

 また、患者の約80%が東北・関東地方で、福島県が最も多く、次に茨城、栃木、東京の順に多かった。

 もちろんこのような事実は一切ありません。しかし、このデマを正しい情報と信じてしまっている人も少なくないようで、日本医師会はこの情報が誤りであることを正式に表明しなければならなくなりました(注)。
 
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 医師会は国公立ではありませんから、医療関係者であれば、「国公立医師会病院」という言葉を見た瞬間にガセネタであることが分かりますが、放射線被害に対する様々な噂があるなかで一般の人がこのような報道まがいのものを見ると信じてしまうかもしれません。
 
 このデマを流した人は軽い気持ちのイタズラでおこなったのでしょうが、結果として大勢の人たちが不安に苛まれ、被災地の人たちを傷つけることになっています。デマを流す罪は決して小さくありません。
 
(谷口恭)

注:日本医師会はホームページ上で見解を表明しています。下記のURLを参照ください。

http://www.med.or.jp/people/info/people_info/000614.html

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2013年7月1日 月曜日

2011年12月28日(水) 体重が減らなくても有酸素運動で長寿に

 ジョギングや水泳を定期的にしているのに体重が落ちない・・・、と悩んでいる人には朗報です。

 運動により体重が変化したかどうかにかかわらず有酸素運動(注1)を定期的におこなうことが長生きにつながる、という調査結果が、医学誌『Circulation』2011年12月5日号(オンライン版)に掲載されました(注2)。
 
 この研究は、NIH(米国国立衛生研究所)が中心となり実施されています。対象者は中年男性(平均44歳)14,345人で、調査期間は11.4年になります。大まかな結論を言えば、「有酸素運動を続けてエネルギー消費を維持できていれば死亡リスクが約30%低減する」ということになります。そしてこれは、体重が落ちなかった場合でも、です。
 
 つまり、死亡率に関係するのは体重やBMI(体重÷身長の2乗)ではなく、有酸素運動をどれだけおこなっているかであったというわけです。

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 運動をがんばっている患者さんに話を聞くと、「やってるんですけどね~。なかなか成果がでないんですよ・・・」と答える人がいますが、今回の研究結果はこのような人たちには嬉しいお知らせとなります。
 
 この研究結果が普遍的なものであるならば、たとえ減量ができていないとしても運動を続けることが長生きにつながるわけですから、我々は有酸素運動を「日々おこなう生活習慣のひとつ」として考えるべきなのかもしれません。
 
(谷口恭)

注1 ここでは「有酸素運動」としましたが、原文は「cardiorespiratory fitness」です。そのまま訳すと、「心肺機能のためのフィットネス」、くらいになると思いますので、「有酸素運動」として差し支えないと考えました。
 
注2 この論文のタイトルは、「Long-Term Effects of Changes in Cardiorespiratory Fitness
and Body Mass Index on All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality in Men」
で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://circ.ahajournals.org/content/124/23/2483.abstract?sid=343c4f14-5bbf-
46ee-b7dd-a8e432570622

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2013年6月29日 土曜日

2013年1月7日(月) やはり減量には脂肪を減らすのが有効

 ここ数年ブームになっている「糖質制限食」は、端的に言えば「糖や炭水化物の摂取を制限すれば減量できる」というものであり、もっと極端に「糖や炭水化物を抑えていれば脂肪は食べ放題」などと言われることもあります。
 
 しかし、糖質制限が実際にできるかどうかという問題がありますし(炭水化物の制限は容易ではないと感じている人が多い)、危険性を指摘する研究もあります(詳しくは下記コラムを参照ください)。
 
 スリムになるには脂肪摂取量を減らすだけでよい・・・

 このような研究結果が、医学誌『British Medical Journal』2012年12月6日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 この研究は英国イースト・アングリア大学(University of East Anglia)ノリッジ医学部(Norwich Medical School)のLee Hooper氏らによりおこなわれました。

 研究では、これまでに先進国で実施された合計33の調査が総合的に解析されています(メタ分析)。調査の全対象者は73,589人に上り、33の調査の内訳は、北アメリカが20、ヨーロッパが12、ニュージーランドが1つです。(日本の調査はありません)
 
 これら33の研究を総合的に解析した結果、脂肪を減らすことにより、約1.6kgの体重減少が得られ、腹囲も減少したとの結果がでたそうです。さらに血圧低下が認められ、血中コレステロール値も有意に下がっていたそうです。
 
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 今回の研究では詳しく言及されていませんが、一言で「脂肪」といってもいろんなものがあります。基本的なことを確認しておくと、健康上好ましくない脂肪(つまり、体重やウエストを増やし、血圧や血中の脂質レベルを上げる脂肪)は「飽和脂肪酸」と呼ばれるもので代表的なのは肉の脂です。逆に、不飽和脂肪酸、そのなかでも青い魚に含まれる脂肪は高脂血症の治療に使われるくらいですから減量を目指す人も積極的に摂取すべき脂肪です。
 
 この研究結果は、あらためて言われなくてもわかっているようなことであり、驚くべきようなものではなく、なぜ『British Medical Journal』ほどの一流医学誌(注2)で取り上げられたのか、と私は感じました。(きちんと検証したわけではなく私の印象に過ぎませんが)どうも『British Medical Journal』はアンチ糖質制限の論文が多く掲載されるような気がします・・・。
 
(谷口恭)

参考:メディカルエッセイ第114回(2012年7月) 「糖質制限食の行方」

注1:この論文のタイトルは、「Effect of reducing total fat intake on body weight:systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials and cohort studies」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 http://www.bmj.com/content/345/bmj.e7666

注2:ちなみに「5大医学誌」に数えられているのは、『British Medical Journal』の他、『JAMA (Journal of American Medical Association)』、『Annals of Internal Medicine』、『Lancet』、『New England Journal of Medicine』です。私は「JALの便(JALBN)」と覚えています。

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2013年6月29日 土曜日

2013年1月8日(火)コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下

 1日4杯以上のコーヒー摂取で、口腔ガン及び咽頭ガンでの死亡リスクが半減する・・・

 これは、医学誌『American Journal of Epidemiology』2012年12月9日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注1)。

 この研究は、米国ガン協会(American Cancer Society)のJanet S. Hildebrand氏らによっておこなわれました。同協会が全米の45歳以上の成人男女を対象として1982年に開始した「Cancer Prevention Study II」と命名された調査に参加した1,184,418人のうち、コーヒーおよび紅茶の摂取に関する情報が得られ、1982年の調査開始当時にガンを発症していなかった968,432人が対象とされています。26年間の調査期間中に合計868人が口腔ガン、または咽頭ガンで死亡しています。

 これらのガンによる死亡とコーヒー・紅茶摂取の関係を分析したところ、1日4杯以上のカフェイン入りコーヒーを飲む人は、これらのガンで死亡するリスクが49%減少することが判明したそうです。また、必ず4杯飲まなければならないわけではなく、コーヒー摂取が1杯増えるごとに死亡リスクの低下が認められるそうです。カフェイン抜きのコーヒーでも多少の低下は認められたそうですがその程度はわずかなようです。また、紅茶との間には関連性がなかったそうです。
 
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 口腔ガンも咽頭ガンも、最近ではHPV(ヒトパピローマウイルス)の関連がよく指摘されます。この研究からは、コーヒー摂取によりHPVの増殖を抑制できるのかとか、HPVが感染した細胞がガン化するのを防ぐ作用がコーヒーにあるのか、といったことは分かりません。また、この研究では、コーヒーでこれらのガンによる「死亡のリスクが減る」ということを言っているのであり、これらのガンに「かかりにくい」と言っているわけではありません。
 
 これらのガンの死亡リスクを減らすためにコーヒーをたくさん(1日4杯以上!)飲もうとするのは賢明ではないでしょう。まずはHPV感染を防ぐことを考えるべきかもしれません。といってもHPVの口腔内感染を防ぐにはどうすればいいのかというのがはっきりと分かっているわけではありません。(一部には危険な性交渉、特にオーラルセックスによるものが多いのではないか、と指摘されています)
 
注1:この論文のタイトルは、「Coffee, Tea, and Fatal Oral/Pharyngeal Cancer in
a Large Prospective US Cohort」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://aje.oxfordjournals.org/content/177/1/50.full?sid=2fc8e969-5e2f-4a41-87aa-c0980c76648f

参考:医療ニュース
2012年12月3日 「コーヒーも紅茶も生活習慣病に有効」
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」    
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

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2013年6月29日 土曜日

2013年1月30日(水) 腰痛の大半はストレスが原因

 腰痛の発症や慢性化には心理的なストレスが関与しており、画像検査などでも原因が特定できない腰痛が大半を占める…。

 これは昨年(2012年)、日本整形外科学会と日本腰痛学会が発表した診療ガイドラインの内容で、年末に一部のマスコミで報道されたことが原因なのか、患者さんから「私の腰痛もストレスなんですかね~」と言われることが増えてきました。
 
 腰痛の正式なガイドラインはこれまでなかったのですが、先に述べたふたつの学会が、2001年以降に発表された国内外の論文約4千件から厳選したおよそ200件を基にして策定したようです。
 
 ガイドラインでは腰痛を3つに分類しています。1つは、外傷や感染症、ガンなどが原因となっている腰痛、2つめは、麻痺やしびれ、筋力低下などを伴うタイプの腰痛、そして3つめが、原因をが特定できない腰痛で、これを「非特異的腰痛」と呼びます。
 
 そして3つめの非特異的腰痛は、職場での人間関係や仕事量、仕事上の不満、うつ状態など心理社会的要因が関与している、とされ、ストレスを軽減するためにものの考え方を変える認知行動療法などの精神医学療法が有効である、とまで述べられています。
 
 ガイドラインでは腰痛の検査についても触れられています。腰痛にはレントゲンやCT、MRIなどの画像検査をおこなうことがありますが、ガイドラインでは、すべての症例に画像検査をする必要はない、と述べられています。
 
 治療については、非特異的腰痛の場合、安静は必ずしも有効でなく、可能であれば普段の動きを維持し、慢性の腰痛であれば運動療法を積極的にすべき、といったことが言及されています。
 
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 たしかに、腰痛の患者さんにレントゲン撮影をしても異常が出ないことの方が圧倒的に多く、太融寺町谷口医院で言えば、腰痛を訴える患者さん10人がいたとすれば、すぐにレントゲン撮影をするのはそのうち1人くらいです。どのような場合に撮影をするかというと、上に述べられている2つのケース、すなわち感染症やガンの可能性を考えたときと、麻痺やしびれが伴っているときです。
 
 軽症から重症までひっくるめて統計をとれば、年齢にもよりますが、おそらく腰痛の大半は非特異的腰痛で、そのほとんどは画像撮影で異常が出ないでしょう。

 しかし、この原因を「ストレス」と言い切ったガイドラインに私は少し驚きました。私自身の印象でいえば、ストレスは腰痛の増悪因子になることはあっても、きっかけになるとはあまり考えていなかったからです。
 
 「背中や腰の筋肉や靭帯にかけられた負荷が積み重なって腰痛は起こります。だから腹筋と背筋を鍛えましょう」、非特異的腰痛の患者さんに、私はまずこのように話すことが多いのですが、これからは心理状態や労働環境の観点から話をすべきなのかもしれません。
 
(谷口恭)

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